13話
ヴーヴー
夜二十二時を回った頃、着信が鳴った。
画面に映る名前を見て、小さく息を吸う。
通話は久しぶりだ。
進藤先輩
毎日のようにメッセージを送り合える袴田くんの彼女と、相手の都合を気にして自分からはなかなか送れない自分とでは、恋人としての距離感がまるで違うのだろう。
鏡をちらりと見て前髪を整え、通話ボタンを押した。
「先輩、こんばんは!」
「お疲れー。今何してるー?」
「今ですか? 家なので何もしてないです。そろそろ寝ようかなと思ってました」
「あー、そうなの。ごめん」
声の向こうから、ざわざわと風の音が聞こえる。
「先輩は外ですか?」
「そ。バイト終わり。今日めっちゃ疲れた」
「大丈夫ですか?」
「これからテスト期間だから、あんまりシフト入ってなくてさ。久々に入ったから」
「えっ、じゃあ勉強しないと」
「あー、大丈夫大丈夫。テストって言っても、提出物だけで評価される科目もあるしさ。高校みたいな感じじゃないから」
「そういうものなんですね」
「そ。テストで何が出るかまったくわかんないのもあるけどな」
「ええっ、大丈夫ですか?」
「まあ、出席率だけはいいから大丈夫でしょ。それよりさ、お盆は帰省しようと思ってて。会える?」
帰省――。
付き合ってすぐに先輩は大学進学で遠くへ行ってしまった。
一人暮らしで、学費と家賃は出してもらえるものの、それ以外の生活費はバイトで賄わなければならない。そのため、ゴールデンウィークは帰省できなかった。
三月に何度か遊んだが、緊張しすぎて何を話したのかほとんど覚えていない。
ただ、いろいろやらかしてしまったことだけは鮮明に覚えている。
「もしかして、友達と約束とかしちゃった?」
「あ、いえ……」
その瞬間、ユウリとの約束が頭をよぎった。
「まだいつになるかわからないんですけど、友達にクラスの男子を紹介する約束があって、それくらいかな。でも、お盆は予定を入れません」
「男子? なにそれ、一緒に会うの?」
一瞬、先輩の声のトーンが落ちた。
言わなきゃ良かった。
そう思った頃には、もう遅かった。
「えっと……その」
静寂の中、風の音だけが聞こえている。
「……ごめん。なんか、すごい嫉妬深い感じで言っちゃった」
「……いえ、全然」
お互いの沈黙が、気まずさをさらに大きくしていく。
「あ、あのっ。私の友達、五十嵐ユウリっていう子なんですけど、男の子とほとんど話したことがなくて……。クラスにすごくいい子がいるから、友達として紹介するって話になっただけなんです。だから全然、心配するようなことはないっていうか……」
「その紹介する男子って誰?」
「えっと……坂村海っていう子なんですけど」
「海? 坂村海?」
「あ、そうです」
「まじか! それ俺も一緒に行きたい」
先輩の声は一気に弾んだ。
それとは裏腹に、私の気持ちは大きく沈んでいく。




