9話
そういうことか……
項垂れる袴田くんを見ながら、昼休みに感じた違和感の正体がわかり、スッキリした気持ちになる。
彼が学年十位以内の秀才だというのは、一年の頃から周知の事実だった。
当時は理系も文系も分かれていなかったため、掲示板に順位が張り出されることはなかったが、個人に返却されるテスト結果には必ず学年順位が記載されている。
誰かから漏れ伝わるのだろう。
だけど、昼休みに見た掲示板に袴田昌磨の名前はなかった。
理系に進級したことで科目が大きく変わり、順位を落としてしまったのか……それとも……。
顔を上げた袴田くんは、もう青ざめてはいなかった。代わりに、彼のポケットからは数秒おきに振動音が規則正しく鳴り響いていた。
「ごめん、ちょっと返信します」
スマートフォンをポケットから取り出すと、数秒間、おそらくメッセージに目を通したのだろう。
そのあと一瞬だけ何かを打ち込み、画面を伏せてテーブルに置いた。
「五十嵐さんがなんでそんなことを言ってきたのかはわかった。
だけどこれは僕の問題なので、放っておいてほしい。
二学期はこういうことのないようにするから」
先ほどまでの動揺はもうなかった。
そもそも学級委員とはいえ、ユウリに彼の素行を咎める権利などない。それなのに、とても誠実な回答に思えた。
そして同時に、テーブルに置かれたスマホがまだ震えていることから、ひとつの答えにたどり着く。
「もしかして、彼女から?」
そう言葉を発すると、袴田くんは大きく目を見開き、耳まで真っ赤になっていく。
(うわ……当たりかー)
やっぱり彼女がいたか。
ユウリはすっかり本来の目的を忘れているが、こちらはそうではない。
彼女がいるなら候補から外れる。
「彼女いるんだ。どんな子?」
「いや、その……」
照れ具合が絶妙に可愛く思える。
「ユウリ、もう責め立てないであげてよ。
彼女からの連絡に仕方なく返事してただけだよ」
「それで、校則を破り、勉学に集中できなくなったということか……愚かだな」
ため息をつき、明らかな軽蔑の眼差しを向けるユウリの視線を、慌てて手のひらで遮った。
「ご、ごめんね、袴田くん!
この子、悪気はないんだけど、どうも空気を読めないタイプなの」
(そもそも完全になんで袴田くんを観察してたか忘れてるだろ!
彼氏候補を探したいのであって、クラスの風紀の乱れなんてどうでもいいのに!)
ユウリに「もう何も言うな」という視線を送ってみたが、「何を言っているのかわからない」とでも言いたげな視線を返される。
「僕だってわかってる!!」
突然の大声に、何人かの通行人が彼を見た。
私もユウリも袴田くんを見る。
彼はゆっくりとスマートフォンを裏返した。
ヴ、ヴ、ヴ……
ロック画面には、いくつもの通知メッセージが並んでいた。




