⑱伝えられなかった想い
運命の日。
日曜日の24時がきた。
この日、紬は自分を殺すのだ。
生きる為に。明日の為に。
日曜日の23時50分。
耕介が熱を出した日のように
大粒の雨が降っていた。
「報告。しばらく雨の日が続くようです」
「お出かけの際は傘を忘れずに携帯してください」
「ああ」
「マスター。食材はいつもの通り、定期的に配送されます」
「いくつ料理も作り置きし冷凍保存をしてあります」
「ああ」
「洗剤やその他生活用品の保管場所は―――」
「紬」
「はい、マスター」
「なぜ今生の別れのように言うんだ」
「戻ってくるんだろう。ならそんな準備はいらない」
耕介の声は暗く、瞳は床の模様を数えるように視点を落としていた。
その意図を紬は察していたが
彼女の心配は自身よりも耕介が生活を維持できるかであった。
「……はい。しかし、万が一のことがあれば―――」
「そんなことはない!!」
耕介の声は荒々しかった。
だが時計の針は戻ることはなく、刻一刻とその時は迫る。
「明日もお前は私を起こし、そして朝飯をつくるんだ」
「いつも何がいいかと聞くじゃないか。なぜ聞かない」
「―――申し訳ございません。失念しておりました」
「マスター明日は何をお召し上がりになりたいですか?」
23時57分。
「なんでも―――いや、そう。パスタだ」
「いつものようにトマトをつぶしたもので―――」
「承知いたしました」
「その……マスター……」
23時58分。
「明日も、明後日も、お前はいるんだ」
「ゴミ出しもわすれるん……じゃ、ないぞ……」
「……はい、マスター」
「それから―――」
23時59分。
「マスター」
紬が耕介の言葉を遮り
手を握った。
「大好きです」
紬の手には雨粒のような滴が落ちてきていた。
嗚咽のような声を出していた耕介が見上げると
優しく微笑む紬の顔があった。
「紬……!私もお前のことが―――」
24時00分。
紬の瞳からは光が失われ
彼女の身体は崩れ落ちるように耕介に向かって倒れてきた。
「おい……おい!」
「再起動するんだろう?おい!!!」
耕介の呼びかけに彼女は答えない。
いつもの「はい。マスター」という返事は聞こえない。
蒼天を夢見た小鳥は
飛び立つことができなかった。




