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⑬あなただけを見つめる

強い損傷を負った「つむぎ」は

エンジニア・伊沢の下で修理を受けることとなった。

伊沢は作業デスクの上で解体された「彼女」を前に深い溜息(ためいき)をついた。


外装を()ぎ、()き出しになったコア――

その中心部には民間機ではあり得ない

軍事規格のプロテクトが施されていた。


「……とんだブツを預かっちまったもんだぜ」

「このコードには見覚えがある……」


伊沢の脳裏にかつての代理戦争時代の記憶が蘇る。

ドローンが空を埋め尽くし、無機質な殺戮が繰り返された時代。

政府が極秘裏に開発を進めていた自律型戦略統括AI――

プロジェクト『ヘリアンサス』


戦況を瞬時に判断し、最適な「死」を選択する冷徹な司令官。


彼女が「女性」の人格を与えられたのは

戦場に不似合いな慈愛(じあい)の象徴を求めるという

開発者たちの皮肉な(ゆが)みゆえだった。


そして、あまりに高度な学習能力を恐れた政府が

彼女に「7日間」というあまりに短い命の()を強いたのだ。


「……戦争が終わって破棄されたはずが、まさか中古市場に流れていたとはな」

「技術屋として思う所はわかるよ。生み出した責任ってやつだ」


伊沢は内部ログに残された微かな署名を見つけた。

そこには、かつての同僚の名があった。


彼は完成した『娘』を兵器として死なせることを拒み

そのエゴと愛のすべてを賭けて、彼女を「平和な日常」という名の海へ放流したのだ。


「疑問……私のメモリー消去を、解除することは可能ですか?」


作業台の上で頭部ユニットだけになった(つむぎ)が問いかけた。

その声はかつてないほどに切実な響きを帯びている。


「無理だ。このリセット・プログラムは、お前の論理コアそのものと癒着している」

「強引に剥がせば、お前の人格そのものが崩壊しかねん」


「……そうですか」


紬のセンサーが弱々しく光を失う。

絶望という概念を彼女は今、物理的な「落胆(らくたん)」として出力していた。


伊沢は部屋の隅に鎮座していた「それ」を覆っていた白い布を

一気に引き剥がした。


「なら、せめてこれを使ってみるか」

「俺の生涯をかけた趣味……いや、技術の糧になればと思って作っていた究極の義体だ」


そこにあったのは、冷たい金属の塊ではなかった。


肩まで流れるシルクのような黒髪。

玉のように白く、触れれば体温を感じるのではないかと錯覚するほど柔らかな肌。

女性らしい柔和なシルエットと、感情を無限に表現できる駆動(くどう)システム。


「生命反応を検知しません」

「推測……これは人の形を模した外装ですね」


「そうだ。だが、触れるまで誰も気づかないほどの代物だぜ」

「紬よ、お前さんが望むなら新しい姿でアイツの隣に立ってみるか?」


紬は圧倒的に「生命」に近いその外装を静かに見つめた。


一週間で消えてしまう自分。

けれど、この美しい姿になればマスターはもっと喜んでくれるだろうか。

自分を、より「確かな存在」として見てくれるだろうか。


紬の演算回路が一瞬の迷いの後

一つの答えを導き出した。


「はい、お願いします」

「私は、彼の物語の中で美しくありたいのです」

「人になれなくても、近づいてみたいのです」


伊沢は無言で作業用レーザーを手に取った。


それは一体にすぎなかった存在が

一人に「転生」する、密やかな儀式の始まりであった。

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