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第八章:ハーブガーデン

-1-

「アイリスよ、久しぶりだな。」

ノックされ扉が開く。

「あらコキノス!お久しぶり。お元気でした?」


そういいながらカップをソーサーにおいて見せた。


「子供たちはどこに?」


「アノンたちに任せてるわ。もう本当みんなやんちゃで大変なの…!

それよりこのお茶、イネ=ノからもらったんだけどとてもおいしいのよ。

ほら、コキノスも飲んでみなさいよ。

アノーン!!」


そういいながら手をパンパンとたたいて見せた。


しばらくして

「はい!」とぼろぼろな姿のアノンが隣の部屋から小走りでやってきた。


すっかり子供たちにもみくちゃにされているようだ。


「あ!コキノス様!いらっしゃいませ。」

そう言ってアノンは礼儀正しくお辞儀をして見せた。


「やぁ、アノン。元気そうだね。子供たちも。」

「はい!とてもお元気です。お会いになられますか?」


「アノン、違うの、コキノスにこれと同じお茶を出してくれない?」


「は?!はい!ただいま!!」


そういうとアノンは今度はコキノスが入ってきた扉の前まで行くと

こちらを振り返りちょっとあわてながら一礼すると

扉を開けて廊下へと消えていった。


「そっちの仕事はどう?黄道星座全部取り仕切るって大変でしょ?」


「いや、たいしたことないよ。たまにそれぞれの宮殿を見て回るくらいだから。

ただねぇ…12星座もあるとそれぞれいろいろと大変なところもあるんだよ。」


「え?たとえば?」


「天秤座は完全に機能停止状態。女神が寝たきりなんだ。イネ=ノが一生懸命

何かやってるようだけど今のところあまり効果はないみたいだし。

蠍座は蠍座で守護神が富士の病。

ため息の嵐だよ。」


「あらぁ…そうなのぉ…それは大変ね。

みんな私たちみたいにのんびり暮らしてるわけじゃないのね?」



「ある程度落ち着いたら全守護神が終結して顔合わせをしたいんだけどねぇ…

この調子じゃあいつになることやらって感じだよ。」


「そう…」


「お待たせしました!」


そこへアノンがトレーに紅茶のティーセットを乗せてやってきた。


「おお…なんと美しい…」


「ね?宝石みたいでしょ?」


ガラスのティーポットの中には

カラフルな金平糖のようなものが浮いていて

きらきらと光っていた。


それをアノンが丁寧にカップに注ぎコキノスの前にどうぞお召し上がりください、と

一言付けて置いた。



「ほぉ…ではでは…」


そう言ってコキノスはカップに唇を付けて、お茶を啜った。


「どう?おいしいでしょ?」


「おお…これはこれは…花の香りか何かかな?」


「光花の種ですって。水にぬらすとこうやって七色に光る不思議な花なんだって

言ってたわ。

疲労回復の効果があるんですってよ?」


「ふむ。これは気に入ったぞ。さすがはイネ=ノ。

だがしかしなぁ…」


「あら、どうしたの?」


「僕たちよりもコレを飲むべきなのはイネ=ノ自身だと思うのだ。

あちこちの星座を飛び回ってかなり疲れているはず。

アイリスの面倒だってみたしね。

弟子が何人かいるようだけどやっぱりイネ=ノにかなう人材はそうなかなか

いないよ。

それに忙しすぎて自分の星の者たちにまで手が回っていないのが現状。

イネ=ノは神々の主治医であるからどうしてもそちらが優先されてしまう。

疲れてイネ=ノが体調を崩せば星の人間たちも病に侵されたり領土が荒れたり…。

だが、やはり神々の主治医はイネ=ノ。次々と舞い込んで来る仕事を

休むことは許されないだろう。

まさに悪循環なのだ。」


「そう…そんなにイネ=ノは忙しいのね?

そういえばあまり遊びに来ないし。

出産祝いで来た以来ゆっくりこちらでお茶、とかなかったわねぇ。

子供の検診もお弟子さんがやってくれるし。」


そういいながらお茶を一口すすった。


それに比べて私ったらなんてのんきな生活を送っているんでしょう…。

特にやることもなく…ただただゼウス様と時々お会いすることぐらいだわ…。


-2-


携帯のアラームで目を覚ました。


なんとなく頭がぼんやりとしている。


ゆっくりと体を起こすと愛理は小さくため息をついて見せた。


夢を見た。


そう…


夢幻空間の夢。


それから…コキノスとお茶をする夢。


二つの夢が混ざっていた。


そんなことってあるんだ…。


…ん?

ああ!そうそう!!

あのなっまいきな男の子!!


今度あったら本当とっちめてやるわ!!


急に頭がかぁっと熱くなると

勢い良くベッドから飛び起きて見せた。


-3-


蝉時雨。


今日もあっついなぁー…。


レッスンかばんを右手に持ち、七瀬愛理は白いアスファルトの道を歩いていた。


今日は合格もらえるといいんだけど…。


かばんの中にはピアノの教本。


徒歩10分ほどで射川家につく。


本当はもっと前にレッスンが行われるはずだったが

私が追試を受ける羽目になったので

先生に頼んでレッスンを先延ばししてもらったのだ。


左手に携帯を持ち何度もランプが点滅していないか確認する。


今日はどうやら大丈夫そうね。


たまにあるのよね。


急にレッスンがお休みになること。


特に最近はちょっと多かったかな?


というのも…


もともと竹人君のおかあさん、かすみ先生はピアノ教室なんて開いてなかった。


そのつもりも本人はなかったと言っている。


かすみ先生はもともとはプロのピアニスト。


国際的に有名なショパンコンクール入賞者でもある。


そんな超がつくほどの凄腕のピアノストだったが

結婚して竹人君、明人君が生まれると活動を一時休止、という形をとった。


育児に専念したいとのことだったが明人君が生まれつき体が弱く

正直ピアノどころではなかったそうだ。


そんな中どういう理由かは知らないが天妙寺秋桜がかすみ先生にレッスンの指導を受けることになったのだ。


竹人君からその話をチラッと聞いて私、カァッ!っとなって

思わず射川家に乗り込んだわけ。


で、私にもレッスンを受けさせてください!って懇願したの。


そしたらかすみ先生びっくりしてたけど

条件付でOKをもらえたの。


条件。

それは、


明人君の体調が悪いときはレッスンはお休みになる、ってこと。


喘息持ちで心臓もあまり丈夫じゃない明人君。


よく発作を起こして救急外来のお世話になったりしてて

かすみ先生も付き添わなくちゃいけないから

そういうときはレッスンはお休み。


それと、先日明人君少しの間だけ入院してた。


その間もレッスンはお休み。


こんな状況で申し訳ないわねって逆に先生に謝られちゃったけど

後々考えると申し訳ないのは私のほう。


先生、明人君の看病で忙しいのに

私なんかのことを気にかけてくれて…本当に申し訳ないって思ってしまう。


特に竹人君が失踪してから、本当どんな顔をして先生にあったらいいかすごく迷ったんだ。


先生、しばらくはレッスンをお休みするって言ってたけど

途中からまたいつもどおりレッスン始めますって言ってきてくれて…。


正直もう二度とレッスン再開はありえないかもと思っていたから

とても意外で驚いたっけ。


けれど…いざレッスンに行ったら…

竹人君失踪以来、毎日階段の一段目に座って玄関のドアをぼんやり見ている明人君がいて…。


それも日に日に弱っていくのが良くわかったから胸が痛んだ。


先日演奏会に引っ張り出したのもちょっとまずかったかなって今になって反省してるけど

今日はどうだろう?


少しは元気になっててくれたら嬉しいのだが…



そんな願いをこめて

射川家のインターホンを鳴らした。


「はーい、どうぞ」


かすみ先生の弾むような明るい声がスピーカーから聞こえたので

それを確認してから門を開けポーチへと入った。


庭にはたくさんの花が咲いている。


カモミールにラベンダー、アメジストセージ…。


ハーブ系が特に多い。


ハーブガーデンと言ったところだろうか?


とても手入れのされた綺麗な庭だ。


玄関のドアを開けると

すぐ正面に階段が見えた。


そこにはやはりいつもどおり明人君が階段一段目に腰を下ろして座っていた。


「明人君、こんにちは!」


なるべく元気な明るい声で毎回明人君に挨拶するようにしている。


すると明人君は

いつも聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声で

「こんにちは」と一言挨拶を返してくれるのだ。


が…。


今日はその異変に気づき、私は思わず息を飲んだ。


明人君の左手首に包帯がしてある。


一瞬ためらったが思い切って聞いてみた。


「明人君?その腕どうしたの?」

「切った」

明人君は即答した。


言葉に詰まる。


どういう意味だろう。


たとえばハサミか何かがたまたま手首に当たって切れてしまったのか、

それとも自ら傷を付けたのか…?


“切ったってどいういう事?”


と質問したかったがやめておいた。


あまり明人君を刺激しないほうが良い。


それに、この前会ったよりも断然つかれきった表情を浮かべ

目にはクマができている。



ああ…かわいそうに…。


竹人君さえいてくれたら…。


そう、

竹人君。



竹人君さえいてくれたら


明人君も、


そして、私も救われるのに…。


竹人君…、


会いたい。


会いたいよぉ…。


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