第九章:夢の中で
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「ったく毎回毎回、遅刻してきやがって!!年上ならちゃんと時間守れ!!」
「ちょ!!守れも何も約束してないじゃないよ!!
してない約束なんて守りようがないわよ!それにあんた、ほんとーっっっにっ!
な・ま・い・きなの!!
その態度どうにかしなさいよね!?」
「うるせー、女なんかの指図なんて受けてたまるかボケっ!!」
「ああ!!言ったわねぇ?!」
「まぁまぁ…お二人とも…昨日とまったく同じやり取りしてますけど
それじゃ話が進まないですよ。」
「ああ、ポラリス、こんばんは。」
「こんばんは、アイリスさん。昨日の体験はいかがでしたか?」
「体験?あれって体験レッスンみたいなものだったの?
ふふ、ま、いいんじゃない?
星座を呼び出して捕まえて、図書館の天球儀に納める。
ただそれだけのことでしょ?」
「お前なぁ~…今日一日時間があったのになにやってたんだよ?!
少しは星座のこと勉強してきたんだろうな?
でないと俺、マジでキレるよ?」
「あー!!もう!!そんな時間ないわよ!!
こっちだってねぇ、忙しいの!わかる?!
あんたみたいに夏休み毎日遊び呆けてられるほど自由な人間じゃないのよ。
小学生はいいわねぇ~。宿題とかもぜんぜん少ないんでしょ?」
「っだと~!?
お前ホント、どうなっても知らねーからな?!
これは命がけなんだぞ?!
昨日はたまたま攻撃してこない星座だから良かったものの
なかには凶暴な星座もいて時には戦わなくちゃいけない事だってあるんだよ!
でなぁ、この夢幻空間で死んだたら現実世界でも死ぬってわけ!
わかったか?!くそばばぁ!!」
「ん、まぁーっっっっ!!!
ほっんとにぃーっ!!!!!
頭来た!!
ちょっと!ポラリス!!
私、こんなクソガキなんかと一緒に行動できないわ!!
単独で行動したいんだけど!!」
「ああ…困りましたねぇ…この濃霧の中ですし単独行動はなるべく危険なので
やめたほうがいいと思いますが…。」
「えー?だって私が来る前はこいつ、単独で星集めしてたんでしょ?」
「いえ、ほかにも仲間がいますよ。
ただ…今はちょっと…」
そう言ってポラリスは言葉をごにょごにょと濁らせた。
「どうせ仲間割れでもしたんでしょ?目に見えたことだわ!!」
「うっせー!俺は一人でなんでもできるんだよ!!
おい、ポラリス、お前どっちの見方なんだよ!」
「え?私ですか?私はあなたたちお二人の見方ですよ。」
「け!じゃ、俺一人で行くわ!じゃあな、クソババァ!」
「はいはい、どーぞどーぞ。ご勝手に!勝手に一人で行動して
そこらへんで野たれ死ぬのがいいところよ!どうなったって知らないから!!」
すると海はふん!と鼻をならし正門をくぐりぬけると走って行ってしまった。
「ああ…あの…アイリスさん、後を追わなくていいのですか?」
ポラリスはすっかり困惑しオロオロと首を左右に揺らしている。
「ふん!いいのよ!あんなくそ生意気なガキはほっといて!
さ、ポラリス、私を星座の石像のあるところに案内してちょうだい?
私が一人でさっさと仕事片付けてあげるから!」
「いやでも…しかし…」
「いいのいいの!さ、行きましょ?」
そう言ってポラリスを肩に乗せると海に続いて学園の正門を潜り抜けた。
-2-
「あの…アイリスさん…」
「何?」
「これをどうぞ…」
そう言ってポラリスは私の肩から羽ばたき
並木の脇にあったベンチの背もたれに立つと
ばさ!と両方の翼を広げて見せた。
突如ポラリスの体が光り、中から現れたのは、星図盤だった。
それを手にする。
良く見るとただの星図盤ではない。
星座の地図の下に学園の地図が書いてあるのだ。
それに…あら…
「ねぇ…これ星座じゃないわよね?」
「はい。石像のある位置を示しています。」
「ああ、なるほどね。」
ええと…ここから一番近い星座は、っと…。
「カラスかコップなんてどう?あら…でもこの星座の印、
ほかの白い色と違って金色ね?
もしかしてもう集めちゃった?」
「はい。ジェミニが。」
「え?ジェミニ?って?なに?」
「双子座の事です。」
「ああ…アイツね。一人で集めたの?」
「いえ違います。山羊座と一緒に集めました。」
「へぇ…山羊座ねぇ…。その山羊座さんは昨日はいなかったけれど
今日も来ないの?」
「…はい…おそらくは当分の間来ないかと…」
「なんで?」
「それは…山羊座さんにも山羊座さんなりの考えがあるようで…」
「ふぅ~ん…ま、いいわ。じゃあ…他の星座!
あ、このピンクの印は…乙女座…、かぁ…。
ねぇ、カラフルな印の点が円になって書いてあるけどこれは?」
「これが黄道12星座です。黄道星座は星集め対象外です。
何しろ実体が現実世界にも存在していますからね。」
「うん?なんか良くわからないけど、ま、いっか。よし!じゃあ…他には…っと。
あ、蛇…かぁ…うーん…ちょっと蛇は苦手…あら!こっちの蛇使い座っていうのはどう?
蛇はこの人がちゃんと扱ってくれるんでしょ?」
「いえ…そういうわけじゃ…」
「まぁ、いいわ!とっとと星集めするわよ!!
なんか楽しくなってきたわ!!北金倉方面ね。
帰り道じゃない。行きなれてるから楽勝楽勝。」
そういいながら足取り軽やかに歩き出す。
そういえば蛇使い座の石像、もしかしたら現実世界で見たことあるかもしれない。
いつだったかなぁ…
忘れちゃった!
でもいいや。
「ねぇ、ポラリス。質問なんだけどいいかしら?」
「はい、なんでしょう?」
「この星集めって目的は何なの?」
「それは…集めてみてからのお楽しみです。」
「えー!?じらさないで教えてよぉ~。」
「願いがかなうんですよ。」
「え?」
「星座を全部集めると集めた人の願いが叶うんです。」
「ええーっ!!そうなの!?願いが叶う…って
どんなことでもいいの?」
「はい。」
「じゃあたとえばの話だけど世界征服とかも?」
「はい。」
「ええー…そりゃすごい!!海君が必死になるわけだわ!!
それって先着順なの?」
「いえ、黄道星座の皆様平等に叶いますよ。」
「あら、そうなの?ふぅ~ん…ま、いっか。よし!じゃあ…ひとまず
私の力でひとつ集めてみますか!
あ!あれね!?」
林の中から石像の頭が飛び出しているのが遠くからでもわかる。
「あ、アイリスさん、星集めの前にひとつアドバイスが。」
「なに?」
「アイリスさんの腰にぶら下がっているその角笛は武器にもなれば癒しにもなります。
危機が迫ったときはその笛を吹いてください。」
「危機ぃ~?!なにそれ。ま、いいわ。」
そうこうしているうちに蛇使い座の像の前へとやってきた。
髪の長い優しそうな男の人が蛇を抱えている石像だ。
「ふぅん…蛇使い座ってどんな星座なの?」
「医者のシンボルです。」
「医者?…そう…」
医者といわれて真っ先に思い浮かべたのは、竹人君。
竹人君のお父さんはお医者様だ。
竹人君…。
「あ!ねぇ!!ポラリス!!ちょっと聞きたいことがあるんだけど!!」
「なんでしょう?」
「去年ね、春先に射川竹人君っていう男の子が学園内で行方不明になっちゃったの。
もしかしてこの夢幻空間の中にいるって事あったりしない?」
「いえ…それはないかと…この世界は太陽が沈んでから昇るまでの間にしか存在しない
特殊な空間です。そこに一日いることはできません。
現実世界に弾き飛ばされてしまいますから。」
「…そう…」
ちょっと残念だった。
神隠しじゃないけど、
もしもこの世界に紛れ込んでいたらって、一瞬思ったんだけど…。
どうやら違ったようだ…。
残念だ。
「さて…ええと…昨日海君が言ってたみたいに呼び出せばいいのね?」
「はい。」
「よぉ~し!では!!
出でよ!!蛇使い座!!」
左手を石像のほうにぐ!と伸ばし叫んだ。
数秒の間をおいて石像がやわらかく光りを発し
遠い空のほうを見つめていた顔がこちらに向いた。
「あなたは?」
思わずびっくりして両手を口に当てた。
「あらやだ…しゃべれるのね…
あ、私愛理って言います。あの…蛇使い座さんですよね?」
「私の名前はリィーン。蛇使い座を守護するもの…。」
「リィーンさんね?あのね、えっと…
ちょっと、ポラリス!
あの星座の玉に変えるにはどうしたらいいの?」
小声で肩に乗っているポラリスに問う。
「星座が同意してくれればいいのですが…同意してくれない場合には
星座の本体に手で触れてタッチすればよいのです。」
「あっそ。なんだ、簡単じゃない。
蛇使い座のリィーンさん、私と握手していただけませんか?」
「握手?いいですよ。あなたは黄道星座守護神様なのですね?
その指輪でわかります。
そんなあなた様と握手など大変光栄です。」
そう言ってリィーンはひざを折り私に手を差し伸べたので
私は握手はせず、リィーンの手のひらをパチン!と音を立ててタッチしてみた。
するとどうだろう、
リィーンの体全体が青白く光り輝きあまりのまぶしさに目を細めると
次の瞬間には昨日みた髪の毛座と同じ星座の玉に変わっていて、
今、愛理の目の前をふわふわと浮かび漂っている。
「わぁお!!蛇使い座ゲットー!」
そう言って乱暴に玉を手にとってみせた、次の瞬間、
突如巨大な生物が天から飛び掛ってきたのだ
一瞬、それが何の生き物なのか認識できなかったが
すぐにその体の長さから蛇だと知る。
巨大な蛇。
巨大な蛇が今まさに愛理に飛びかかろうとしているのだ。
だがあまりに突然のことに愛理は身動きどころか
息もできず体が硬直した状態に陥ってしまった。
と、
愛理の視界左方向から何かが現れ
巨大な蛇に飛び掛り刀を振り落としたのだ。
蛇の頭が落とされ、ものすごい音と砂埃を立てて
地に落ちる。
「油断するな!」
そう言って私に背を向けてたった人物。
すごく背が高くて…
そして聞き覚えのある低音ボイス…。
まさか…、
「さ…桜倉先輩!?」
なんだろう…赤いアジアンチックなデザインと和のデザインを融合したような
不思議な衣装を身にまとい刀を手にしている。
桜倉先輩はちらりとこちらを振り向いたがまた蛇のほうへ向き進むと
倒れた蛇の頭を軽く手で触れた。
すると蛇の体全体が青白く光輝き
星座の玉が光の中から現れ出た。
それを手に取ると衣装の中にしまいこむ。
「ありがとうございます!!危ないところでした!!」
私が駆け寄ろうとすると桜倉先輩は手でそれを制した。
そして無言のまま霧の中に姿を消してしまったのだ。
「あ…ちょ…なんで?せっかく一緒に天球儀のところに行こうと思ったのに…
でも…良かった!
蛇座はなんとなく危ないって直感が働いたけどやっぱりそうだったのね?
私じゃ戦えなかったから本当、助かっちゃった!」
桜倉先輩には次に会ったときにでももう一度お礼を言おう。
うん。
-3-
「あれ?…ない」
天球儀の前にたたずみ私は必死でそれを探した。
今自分が天球儀に納めた蛇使い座のとなりにある蛇座のラインが白いままなのだ。
おっかしいなぁ…。桜倉先輩まだ蛇座を納めに来てないのかしら?
うーん…まいっか。もしかしたら別の星座を集めに行っているのかもしれない。
とりあえず、この蛇使い座の玉を納めちゃいましょう♪




