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第十四章:午後のお茶会を…

-1-


夢を見ていた。

そう、これは夢。


私はゼウス様の肩に寄りかかりうっとりとまどろんでいた。


「私、とても幸せです。」

そう小さく囁いていた。


冷たい夜を満点の星空が包んだ。


庭のベンチに二人座って夜空を静かに眺めていた。



「最近ゼウス様とてもお忙しそうで

なかなか会えなくて、私とても寂しかったです。」


「それはすまなかったね。


ほら、アイリスみてごらん。


あの三ツ星を。」


そう言ってゼウス様は空を指差して見せた。


「オリオン座さ。あやつのことでいろいろとあってね。

危うく蠍座守護神が消えてしまうところだった」


「え?蠍座?」


「まぁ、たいしたことない。ちょっとした喧嘩だよ。

子供同士のね。」


「そう…あの三ツ星とても綺麗ですけど

オリオンってどんな方なんですか?

今は星座守護神なのでしょう?」


「会ってみるかい?」


「え?会わせていただけるんですか?

それでしたら是非」


「わかった、オリオン、こちらへ来なさい」


叫ぶわけでもなくゼウス様がそうおっしゃると

私たちの目の前に光の柱が現れその中から

大きな人の影が現れた。


それは、とても

とても大きな男性だった。


体格ががっしりしていて筋肉質。


髪はさらさらで柔らかそうだが、

目つきがとても鋭い。


「お呼びでしょうか、ゼウス様。」


「牡牛座守護神アイリスがお前に会いたいといってね…

挨拶しなさい。」


「…はじめまして、アイリス殿。お目にかかれて、それなりに光栄です。」


「んまぁ!!」


思わず声を上げた。


「ちょ…なんて失礼なの!?“それなりに”ですって~!?」


ゼウス様が指をパチン!と鳴らすと

再びオリオンは光の柱に包まれ、あっというまに消えてしまった。


「な…ゼウス様!!

一体今のはなんだったんですか?!」


「あれがオリオンだよ。あんな性格なんでね、すぐに人の反感を買う。

だから命を落としたのだって自業自得なんだよ。」


「…そうですわ!!あんな無礼な守護神初めて!!」

私がぷんぷんと怒っているとゼウス様はまぁまぁ、と私をなだめながら

やさしく頭をなでてくれた。


「あんな男だがね、娘がほれてしまって大変だったのだよ。」


「娘?」

「アルテミスだよ。今度紹介しよう。月の守護神としていろいろと

やってはくれているんだけどね、オリオンが現れたせいで兄のアポロンが

激怒してひと悶着、ね…」


「そうだったんですか…」


“娘”と聞いて一瞬ムッとした。


私とゼウス様の間にいる3人の子供は全員男の子だ。


それを察したのか、ゼウス様は私の手をそっと握って見せた。


「ここは冷える。中に戻ろうか?」


-2-


なんだろう…なんか不愉快な夢だった。


ゼウス様と会えたのは良かったけど

あのオリオンとかいう失礼なやつ!!


ほっんと、腹が立つ。


そうそう、腹が立つといえばそういえば夢幻空間に最近行ってないから

海君と会っていない。


あいつ、どうしてるんだろう…。


バイオリンケースを手に持ち音楽室に入ろうとしたところで

呼び止められた。


振り向くとそこには入間先輩が立っていた。


軽く息を切らしている。


「あら、入間先輩おはようございます。どうしたんです?そんなにあわてて」


「緊急事態!今しか時間がないんだ。悪いけどちょっといい?」


「え?」


そう言われて連れてこられたのは満点星ホール。


「あの…先輩…朝練始まっちゃいますよ?」


「いや、それどころじゃないんだ…僕としたことが迂闊だった。

七瀬さんにどうしても協力してもらいたいことがあるんだ」


「ああ…もしかして竹人君のことですか?

知ってますよ。

竹人君本人が帰ってきたんでしょ?

昨日話しましたから、その件は大丈夫ですよ?」


「いや、違う。オリオンの方だよ。」


「え?…オリオン!?」


なんでその名前が今出るんだ?


今朝夢で見たばかりの人物の名前。


タイムリーだし腹ただしいしでイライラしてきている自分がいた。


「1年A組見てきたんでしょ?

気が付いた?」


「え?何がです?」


「オリオンがいるんだよ、そのクラスに。」


「ええ~!?オリオンがぁ!?

はぁ…ったく…なんでこうもぞろぞろと夢の中の人物がこの学園に

出てくるんですか?

訳分かりません!!」


「うん、ごめん。今は訳が分からなくてもいいよ。

ええと、七瀬さんは夢、どこまで見たの?」


「ちょうど昨晩オリオンとあった夢を見ましたよ。

本当に最悪です!!

すっごく失礼なやつでした!!」


「そうだろうね…でね、ええとどこから話せばいいのかな。

蠍座には会ったことある?」

「え?いえ…昨日ゼウス様からお話を少し聞いたくらいで会ったことはないです。」


「そう…あの、ね?

オリオンが蠍座に命を狙われてるんだ。

それを阻止したいんだ。どうか力を貸してくれないかな?」


「え?

命を狙われてるですって?


意味が分かりません。


あ…でもそういえば昨夜ゼウス様が…


オリオンのせいで蠍座が消えてしまうところだったって言っていたような…。


一体どういうことなんですか?」


「1年A組に観月紫苑っていう男の子がいるんだけど

その子が蠍座なんだ。

でね?

裏で糸を引いている人物がいるんだよ。

アポロン。この名前に聞き覚えは?」


「アポロン…あ…はい…その名前もやっぱり昨晩の夢で…

名前だけですけど…。」


「そう…。

そのアポロンがね、満点星にいるんだよ。

1年C組にね。

なんとしてでも悲劇の繰り返しを阻止しなくてはって思って。


それで七瀬さんにお願いがあるんだ。」


「はぁ…なんでしょう」


もう何がなんだかさっぱり分からなかったので適当に受け答える。


「あのね…」



-3-


1年A組にて。


A組の生徒に“日向明”という名前の人物を呼び出してもらった。


すると中から出てきたのは

昨日の夢に出てきたのとそっくりな大男!


ちょっとびっくりしたけど

気を取り直して挨拶してみせた。


「今日は、貴方が日向君ね?」


すると彼は即答する。


「あんた誰?」


んまぁ!!


中身変わってないじゃない!!


「あのねぇ…年上に対して何?その口の利き方!

私2年なんだけど?」


しかしひるむ様子は見せない。


「はぁ…すいません。で?なんの用っすか?」


「ほっんとに貴方って変わらないわね!ま、いいわ。

入間先輩から伝言預かってきたんだけど!」


「え?入間先輩?!」


やっと事を理解してくれたかとちょっとほっとして

自分の指輪をチラッと相手に見せてみる。


「あ……」


思い通りの反応があってうれしくなる。


「あんた…12星座守護神?」


思わずカァッ!となって

気が付いたら手が先に出ていた。


軽くジャンプして日向明の頭を軽くはたいた。


「だ~か~ら!!年上に対して“あんた”はないでしょって言ってんの!!

そんな言葉遣いでよく入試通ったわね!!」


すると日向明は目をまんまるくして驚いて見せた。


「七瀬先輩ってよびなさい。分かった?」


「はぁ…」


「で、本題に入るわよ。

入間先輩がね、彼と接触できたんですって。

とにかく蠍座とアルテミスには近づくなって言ってたわ。

放課後またゆっくり話そうって。

食堂で待ち合わせよ?

じゃ伝えたからね?」


言うだけいうと

ホッとひとつため息を付いて

きびすを返して2年生の教室へと小走りで向かった。


なんだろう…

私、

結局はまた“ここ”に戻ってきてしまったんじゃないかしら?


もう関わるのはよそうって一度は思ったけど

イネ=ノが現れたり竹人君が帰ってきたり…


不思議な出来事の連続で

星座関係者から目が離せない。


そしてしっかりと巻き込まれていく私…。


これから一体どうなっちゃうのかしら…。


-4-


放課後、食堂に行くとすでに入間先輩が待っていた。


まだ日向明は姿を現してはいない。


「来るかしら?」

「たぶんね。彼、相当不安に感じているはずだよ、今回の件。

むしろ飛んでくると思うよ。」

「そうだといいんだけど」


そんな話をしていると

ちょうど食堂に日向明が飛び込んできたところだった。


あら、予想通り。


お茶を飲みながら3人でゆっくりと話をする。


とにかく、蠍座とアルテミスには関わるなと釘をさす。


メアドも交換しとりあえず最低限のことは言えた、と

入間先輩は後になって私に話してくれた。


日向明を一人食堂に残したまま

二人して部活のため音楽室へと向かう。


その間、なんとなく入間先輩の表情をチラ見すると

なんとも険しい顔を作っていた。


どうしたんだろう…。


私にはよく分からない“事”が動いてる。

それだけは分かった。


次の日の朝練が終わり片付けをしていると

入間先輩と竹人君が準備室から出てくるところだった。


竹人君はいつもどおりだけど、

入間先輩が昨日以上に険しい顔をしている。


一体何があったのだろう。


聞いてみたいところでもあったが

私から首をつっこむ事でもないような気がしたので

そのときは何もせずにやり過ごした。


しかしその日の放課後、事態は急転することになる。


「愛理ちゃん、私日誌書かなくちゃいけないから先に部室行っててくれる?」


あやめだ。


「あら、そのぐらい待っててあげるわよ。」


「え?あ…じゃあちょっと待ってて!すぐ書くから。」


そういいながら長い髪をさらっと、揺らしてあやめは

日誌にこまごまとシャープペンの頭を動かして書き始めた。


なぁ~んか平和だなぁ…。


教室の窓からはこれでもかといわんばかりの

山吹色のまぶしい光が燦々と差し込み

秋の色でいっぱいだ。


「よし!終わったわ。」


あやめが日誌を持って立ち上がる。


「じゃ、行きましょ」


自分も一緒に立ち上がるとかばんを持った。


職員室に日誌を届け、

音楽室へ向かおうとしたとき、

前から男子生徒が二人歩いてきた。


一人と目が合う。


“アイリス”


「え?」


頭の中に声が直接入ってきた。


な、


なんだろう…。


不思議な感覚。


頭が…ぼぉっと…する…。


不思議な感覚。


眠い。


ふし、ぎ…な…かん…か、く…。



ふし…


「やめなさい!!」


女子の声が響いて

はっとする。


急に視界が鮮明に開けて

頭に酸素が一気に流れ込んできた。


「え?」


と…


気が付くと

誰かの体に馬乗りになって

私の手には…


カッターナイフぅ~!?


「きゃ!!」



ナイフを投げ捨てる。


「いや…ちょ…な…なでこんなこと…?!」


と同時に、

乗りかかっていた人物と目が合う。


この顔…、


オリオン!?


オリオンじゃない…。


するとオリオンは目を見開いたまま

またがった私のスカートの中をチラっと見た、ような気がした。


「ちょ!!どこみてんのよ!!エッチ!!バカー!!」


オリオンの頬をひっぱたたいた。

あわててオリオンの体の上から

逃げるようにして降りる。


するとオリオンはゆっくり体を起こした。


な…何が起こったの?!


ここ…外?!


いつの間に、私、学校の外に出たの?!


それに…


誰?


オリオンの他に

知らない男子生徒と、女子生徒…。


一体何があったというのだろう…。


と、女子生徒がオリオンに駆け寄ったかと思うと抱きついて

そのまま泣き出してしまった。


見てみるとオリオンの真っ白いズボンが真っ赤に染まっているではないか。


一体何があったのだろう…。


ただただその様子をポカーンと眺めるしか出来ない私。


ここは何処だろう…。


裏庭?


「紫苑君、大丈夫?」


庭の外から竹人君が走り寄ってきた。

その後から入間先輩もやってくる。


一体何が起こったのか訳が分からない。


「美月!その男から離れなさい!!


裏庭入り口のほうから声がしたので見ると

男子生徒が一人立っていた。


のだが…。


あら?!


オリオンに抱きついてる女子生徒と顔がそっくり!!


双子!?


「お兄ちゃん!!もうやめて!!お願い!!

これ以上こんな事しても誰も浮かばれないわ!!

みんなが傷つくだけじゃない!!

もう…これ以上過去を繰り返さないで…お願い…」


しかし妹の言葉を聞きいれていないようで

フン、と鼻で笑うと

「こんな場所じゃ力も思うように使えない。

場所を移動しようか?」

そう言って右手の平を広げ、

それを空に上げた、次の瞬間、

後ろから突如人影が現れ、

その手を掴んで、おろした。


「もういいでしょ。こんな茶番劇はばかげている。

そうは思わない?」


…羽鳥先輩…。


なんでこんなところに。


皆が羽鳥翼の登場に驚いていると

空気を読んだ入間が答える。


「僕が呼びました。」


「みんな怪我はない?」

羽鳥先輩だ。


「日向君が!!日向君の足が!!」


オリオンに抱きついていた女子生徒が泣きながら声を上げる。


「竹人君、ちょっといい?」

翼に呼ばれ竹人君がオリオンの足元にひざを付いて座った。


「この傷にその指輪でそっと触れてみてくれないかな?」


「え?」


思わず私も声を上げてしまった。


一体何をしようというのだろう?


「さぁ…」


羽鳥先輩に促されて竹人君は自分の左手小指の指輪の石を

そっとオリオンの足の傷にあてて見せた。


するとどうだろう。


石がふわりと光りだしたかと思うと

足の傷も同時に光りだした次の瞬間、あっという間に傷がなくなってしまったのだ。


「え?!」


その場にいた全員が声を上げる。


傷がすっかり治っている。


ただ、ズボンには血痕と破れた痕だけが生々しく残っていた。


「さすがにズボンは直せないけど、とりあえずこれで治療完了、だね?」

そう言って羽鳥先輩はオリオンを優しく見つめて見せた。

するとそれに頷くオリオン。


「じゃあ、

ひじり君、もうこれで終わりにしよう。

いいね?」


「………」


「美月ちゃん、どうしてこんな事になったのかみんなに説明してあげられる?」

羽鳥先輩だ。


するとオリオンの隣に座っていた美月はとたんに顔を赤くすると黙ってうつむいて見せた。」

一体何に照れているのかさっぱり分からない。


「僕がします」


そう言って手を上げたのは先ほど“聖”と呼ばれた双子の兄だった。


その後彼から語られたのは

私の想像をはるかに超えた出来事だった。

そして、私は一切その件を知らなかった。


知らなかったのは私だけ?


オリオンは当事者だからもちろん認知しているだろうが

入間先輩や竹人君はどうなんだろう?


今この場で説明が必要なのは誰のため?


とにかく話を聞いていると、


まず知ったのは、オリオンにくっついていた女子生徒の名前が

美月という名ということ。


その美月が実はアルテミスで

アルテミスは人間のオリオンに恋をしたということ。


聖が蠍座を刺客として送りオリオンを殺した後も

アルテミスはオリオンのことが忘れられず。


オリオンが転生しこの満点星の学生として生活し始めたのを見て

アルテミスも人間、美月としてこちらにもぐりこみ生活したこと。


そんな内容だった。


けれど、正直付いていけなかった。


何がなんだかさっぱり。


訳が分からない。


聖が一通り喋り終わると冷たい沈黙が生まれた。


その沈黙を破ったのはオリオンだった。


「ただの焼きもちかよ!!

そんなんで俺殺されなくちゃいけねーわけ?!」


「その態度だよ!!その態度が気に食わない!!」


とうとうオリオンと聖二人で口げんかを始めてしまった。


私たちはただただ二人の様子を黙って見るしかなかった。


正直困惑していた。


一体なんなんだ?と。


二人の喧嘩を羽鳥先輩が止めた。


そして訳が分からない私たち向けに先輩が

ちゃんと話をするから日曜日に先輩の家に遊びに来ないか?と提案したので

私たちはただただだまって頷いた。


-5-


応船駅のエキナカでお土産用のお菓子を購入したあと

横須賀線に乗って金倉へと向かった。


今日も変わらず良いお天気だ。


最近お天気続きで気持ちが良い。

基本的には、だ。


あとは“星座関係者”の話。


今日は竹人君も来てくれることになっている。


それが正直一番の安心感をえるものであった。


知り合いがいる。


それだけでも少しはマシだ。


やがて電車が金倉駅に到着すると

大勢の観光客の波に流されながら改札口へと向かった。


待ち合わせ場所には竹人君と昨日あった紫苑とかいう小柄な男の子がすでに来ていた。


ほっと、ため息をひとつ付いて竹人君の方をポンとたたいて見せた。


「愛理ちゃん」


竹人君が優しく微笑んでくれた。


ああ…そうそう、これよこれ!


やっぱり“愛理ちゃん”って呼んでもらわなくちゃ!!


少しすると日向明と入間先輩もやってきた。


これで待ち合わせの人たちが全員揃ったことになる。


あとは、いざ羽鳥家へ!!


満員のバスに乗り込みながらいろいろと考えていた。


一体私たちこれからどうなるのかしら?


竹人君と二人でゆっくり話しがしたい。


そう思っていた。


と、バスが大きく右折したとき体のバランスをくずし

思わず倒れそうになったところに

大きな手が伸びてきた。


「大丈夫?」


日向明だ。


私の腕を掴む。


「あ…ありがとう…」


そういいながらさり気にその腕から手を離した。


何よこいつ、ただたんに生意気なやつかと思ってたけど

意外といいところあるじゃない。


やがて目的の停留所に付くと、

観光客たちにまぎれてバスを降りた。


結構降りる人たちいるのね。


何があるのかしら?


バスを降りてあたりをきょろきょろと見回す。


するとお寺の看板がいくつかあって

みなそちらに歩いていく。


私たちは観月紫苑を先頭に歩き出す。


途中“浄国寺”というお寺の脇を通り過ぎた。


そこにも観光客がたくさん群がっている。


たしかここって竹寺で有名ってガイドブックに書いてあったわ。


今度機会があったら私も行ってみよう。

そんなことを考えながら

皆に続く。


そしてやがて見えてきたのは


大きな洋館。


「ここだよ」


紫苑がこちらを振り向いて言った。


大きな門をくぐり庭に入り込んだところで

「やぁ」と羽鳥翼が中から出てきた。


「ようこそ、さぁ、上がって」


促され皆ぞろぞろと玄関の中へと入っていく。

それに続いて応接間に入ったところで思わずため息がこぼれた。


「わぁ…ひろーい!!」


細かい装飾が施された上品な応接セットに

きらきらとあめ色に光る茶色いグランドピアノ、

それに暖炉もある。

あとはお城とかにありそうな、

10人以上は余裕で座れそうな長居ダイニングテーブル。

庭が眺め渡せるサロンまであって、

そのサロンのガラス窓のむこうには広大な敷地の庭が広がっていた。


ただただため息しか出てこなかった。


明治時代にでもタイムスリップしてしまったのだろうか?

それとも西洋のお屋敷に瞬間移動してしまったのだろうか?


そうとしか思えないほどここは現実離れしていた。


「すげ…」


入間先輩もつぶやく。


「ソファ…と思ったんだけど今日は人数が多いから

こっちでいいかな?」


そういわれてダイニングテーブルのほうに座るように促される。


そこで竹人君が羽鳥先輩に手持ちのお菓子を差し出したので

ほかの皆も次々と自分が持ってきたお菓子を出して見せた。


「ああ…これはこれは…。みんな気を使わなくていいのに…。

じゃあ折角だからみんなで頂こうか?」


すると台所の方から背の高い男性がシルバーのトレーを持って現れた。

トレーには上品なティーカップとティーポットが乗っている。


「紹介するよ、僕の親戚の栂池翔つがいけかけるさん。

小説家の仕事をしているんだ。」


「はじめまして、栂池翔です。よろしく」


日本人…よね?

肌の色が真っ白で

長い髪を後ろで束ねている。

なかなかのイケメンだ。


「あ、みんな!

翔さん、推理小説家なんだよ。

紫苑、お前小説読むだろ?翔さんの作品知ってるなじゃない?」


日向明が楽しそうに言った。


ふぅ~ん…推理小説ねぇ…。


ん?


「え…ちょ…待って!?

栂池翔?!栂池翔って言った?!」


「そうだよ」

日向がニヤニヤしながら笑う。


「ちょ!!大変!!本物?!

本物の栂池翔さんなんですか?!」


「本人だよ。」


今度は栂池翔さんが答える。


「ちょ!!みんな!!知らないの?!栂池翔よ!!栂池翔!!

この前シリウス賞受賞したじゃない!!テレビに出てたわよ!?

うっそー!!凄い!!

まさかここで本人と会えるなんて!!」


もう興奮が収まらない。


あとでサインもらわなくっちゃ!!


私たちがキャイキャイはしゃいでいる間に

羽鳥先輩と栂池翔さんはみんなが持ってきたお菓子の袋を開ける作業を始めた。


「お皿を持ってきましょう」


そう言って栂池さんは

それぞれのティーカップに紅茶を注いで

台所の奥に一旦姿を消したがすぐに戻ってきた。


と、

その後ろから小さな女の子が付いてきて皆その子に注目する。


年は4,5歳くらいだろうか?

腰まで届く長い髪、それから白く細いリボンを後ろにつけていて

瞳は大きくとても愛らしい顔をしている。


フリルやタックがたくさん付いたドレスのせいだろうか?

まるでアンティークドールのような雰囲気をかもし出していた。



「琴ちゃん、おいで?」

羽鳥先輩に呼ばれ、ぱたぱたと小さなスリッパの音を立てて

彼の脇に引っ付く。


「紹介するよ、琴ちゃん。琴ちゃん?こちらは僕のお友達だよ?

みんなにご挨拶できるかな?」


すると琴ちゃんと呼ばれた女の子は恥ずかしそうにほっぺをピンク色にさせて見せるとやっと聞き取れるくらいの小さな声で「こんにちは」と挨拶してみせた。


羽鳥先輩は琴ちゃんの頭を優しくなでると

琴ちゃんを抱きかかえると隣の椅子に座らせてあげた。


その椅子だけチャイルドチェアーになっている。


「さぁ、紅茶が冷めないうちにどうぞ?」

翼がそう言って皆を促したので

ぽつぽつと頂きますというつぶやきがこぼれて

みなカップに口を付けて紅茶を啜った。


そしてお菓子を頬張る。


紅茶とお菓子はこの洋館の雰囲気にとても似合っていると思う。


取り留めのない話に花が咲く。


意外だったのは日向明がピアノを弾いていたということだ。


ええ~?!オリオンがピアノ?!

ぜ~んぜん似合わない!

って言おうとしたけど黙っておいた。



少しして話がちょうど良く途切れると

羽鳥先輩が軽く咳払いをして言った


「さて…そろそろ本題に入ろうか。」


和やかだった雰囲気が一気に静まり返る。


そこで羽鳥翼の口から語られたのは

また突拍子もないような話だった。


こんな小さな女の子、琴ちゃんと

羽鳥翼は実は婚約者同士。


琴ちゃんは銀河系守護神とかやらで

銀河系を守護する者。


そして、羽鳥翼はアンドロメダ銀河系守護神…。


ある日、地球に立ち寄った際にトラブルが起きて

二人は子供の姿に。


そして琴ちゃんはある日を境に成長と記憶が止まってしまったという。


その琴ちゃんの成長と記憶を取り戻すために

私たち12星座守護神の力が必要なんだという訳なのだ。


「そうだったのか…」


納得したように竹人君が言葉を漏らす。


「頼む…どうか、銀河系を救うために僕に協力してくれないだろうか?」


そう言って椅子から立ち上がると羽鳥先輩は深々と頭を下げて見せた。


「や…やめて下さい、羽鳥先輩!!」


思わず声を上げる。


頭を下げる羽鳥先輩の絵なんて見たくない。


羽鳥先輩にはもっと堂々としていてほしい。


ミステリアスで、でも私なんかより全然大人で

いつも私たちの先を平然とした顔で歩いていてほしい。


私より上の存在の、その人の頭を下げる姿なんて

私の中ではあってはならないことだ。


「私たちに出来ることならなんでもします!!」


「そうだよ!!乗りかかった船なんだし僕だって協力するよ!!

射川もだよね?」

紫苑だ。


すると竹人君は即答しなかった。


少し悩んだ表情を作った後やっと口を開く。


「あの…僕も出来る限り協力はします…

けれど、ひとつ聞きたいのですが…

12星座守護神以外も何かしなくてはいけないのでしょうか?」


「え?いや…とくにないと思うけど?

…ああ…弟さんの事を心配しているんだね?

大丈夫、弟さんの力を借りることはたぶんないと思うから。」


何の話だろう?

なんでここで明人君の話が出てくるのか私には分からなかった。


「正直僕も色々と振り回されて疲れてしまっているところでもあるのですが

僕はいいです。

でも、どうか弟だけは巻き込まないでほしいんです。」


「分かった、約束するよ。君の弟さんは僕らのこの件には巻き込まない。

ただ指輪をしてしまっているのと記憶が覚醒してしまっているのは

今となっては取り消すことが出来ない。

けれど、全部片付けば弟さんのだけでなく僕らの指輪も

この力や向こうの世界の記憶もすべて

消えるはずだからどうかそこは安心してほしい。」


え?


明人君が…指輪…?


記憶?



どういうこと?!


明人君も何かしらの星座守護神って言うことなんだろうか?!


だとしたら…


なんと言う事だろう。


明人君はただでさえ竹人君失踪時に深い傷を負っているのに

それに付け加えて星座関係の話に巻き込まれてしまっているということなんだろうか?


「約束する」


羽鳥翼は強い笑みを作って見せた。


その言葉に安堵する竹人君…。


そりゃそうだ…。


これ以上明人君に負荷をかけたら…


明人君が本当に大変なことになってしまう。


最悪の場合…。



思わずうつむくと

スカートのすそをキュっと握って見せた。


「ついでにいうと僕はペガスス座守護神だよ。

改めて宜しくね。」


栂池さんだ。


「え?!」


一同が声に出して驚く。


「他にもまだまだたくさんの星座守護神がいるから

彼らにはまた日を改めて紹介するよ。」


そう言って羽鳥先輩は満足げに微笑んでみせた。


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