10 犯人は誰だ
消えた首飾りは、ヒューバートの執務室の引き出しの中から見つかった。
消えた指輪は、家令ジェフリーの私室の引き出しの中から見つかった。
マーガレットとギレムは、ヒューバートとジェフリー、そしてフレディを侯爵の執務室に呼んだ。
ついでに、ヒューバートがチェンバレン家から連れてきた官僚のアシュトンと、ギレムが連れてきた官僚のローレンスが同席した。
七人が一堂に会した場で、マーガレットは内心冷や汗をかく。
(首飾りと指輪が別々の場所から出てくるなんて、どういうことなのよ~!)
マーガレットはおそるおそる、ヒューバートとジェフリーの顔色を窺ってみた。
普段鉄面皮のヒューバートに、家令歴10年以上のジェフリー。
二人とも、無表情である。
(あっ、無理)
マーガレットは、自他ともに認める、人を見る目がない女である。
この二人の表情の裏を読み取ることなど、彼女にできようものか。
いや、できない。
既に心が折れつつあるマーガレットを横目に、顔色を変えない二人を見たギレムは、ため息をついた後、本題を切り出した。
「それで、お前達は首飾りと指輪を盗んだのか?」
「盗んでいませんよ」
「盗んでいませんね」
「まあそう言うだろうな。それにしてもヒューバート。お前、マーガレットに指輪を贈っていたのか」
「先日、ここにいる家令と執事の目の前で贈りましたね」
「……。目的はいわずもがな、か。まあ正直、金に困っていない上に、指輪を贈ったお前が首飾りを盗む理由が思い当たらない」
「そうでしょうね」
「では今度は、お前に話を聞こうか、ジェフリー」
ギレムが、ヒューバートからジェフリーに視線を移すと、ジェフリーは済ました顔で答える。
「私にも身に覚えがないことでございます」
「ふむ。逆に、自分の部屋に指輪があった理由は思いつくか?」
「さあ、皆目」
「ヒューバートの部屋に首飾りがあった理由は?」
「そちらも特に思い当たりません」
「ふむ」
少し考えるようにして黙ったギレムは、ゆっくりと口を開いた。
「実は、首飾りにはヒューバートの指紋が付いていない。首飾りにも指輪にも、ジェフリーの指紋はついていない」
「……でも、ついている指紋が、ある?」
「そうだ。指紋がぬぐい取られていない。両方に残っている指紋は君のものだ、マーガレット」
「わ、私じゃありませんよ!?」
「まあそうだろうな。君に事を起こす理由はないだろう」
肩をすくめるギレムに、マーガレットはため息をつく。
「可能性として高いのは、最初から手袋をしている人物による衝動的な犯行か、計画的に手袋を用意して実行した者の犯行というところだろうな」
家令ジェフリーと執事フレディのしている白手袋に視線を走らせるギレムに、家令ジェフリーは平然としており、執事フレディはぎょっと目を剝く。
「わ、私じゃありませんよ、ギレム様!」
「まあそう言うだろうとも」
「言うだけではなく! ……マーガレット様、私じゃありませんよ!」
必死に言い募るフレディに、ヒューバートとジェフリーは平然としている。
マーガレットとフレディが、こんなにも慌てふためいているというのに。
なぜ、一番怪しい二人が平気そうな顔を?
世の中は不条理である。
マーガレットがこの世の不条理にめまいを感じていると、世にも怪しき後見人が口を開いた。
「ギレム様も、回りくどいことをされますね」
「どういうことだ、ヒューバート」
「既に証拠を掴んでいるのでは? 茶番は止めたらいかがです」
「……はあ、そういうことでございますか」
今度は、世にも怪しき家令が口を開く。
「ヒューバート様は、ギレム様と組んでまで、私を排除なさろうとされていると」
「え!?」
仰天して声を上げたのはマーガレットで、目を剝いているのは執事のフレディで、ギレムとヒューバートは白けた顔でジェフリーを見ている。
「ヒューバート様は、屋敷の予算の件で、私と対立なさっておいででした。私が居ないほうが、都合のいいことがあるのでしょう」
「都合のいいことって?」
「例えば……私室に隠している物と、ご関係があるのでは」
ハッとするマーガレットとフレディに、家令ジェフリーは頷く。
そう、ヒューバートは怪しい。
この二十五歳の住み込み後見人は、使用人達がこぞって言い募る程度には、怪しい。
特に、掃除も使用人に任せず、入室を許さないその私室に、財宝が隠されているだの、銃器や麻薬が隠されているだの、使用人達は好き勝手に妄想を膨らませている。
そしてそれは、おおよそマーガレットの耳に入っている。
ここで彼女の脳裏に浮かぶのは、侯爵閣下の予算をもぎ取り、暗黒帝王のように高笑いをしながら去っていった黒髪男の後ろ姿である。
マーガレットとフレディが青ざめた顔でヒューバートを見ると、ヒューバートは意外にも表情を崩し、呆気に取られた顔をした。
あまりに驚きすぎて固まっている彼に、ヒューバートが連れてきたチェンバレン家の官僚アシュトンは、ため息をつく。
「ヒューバート様はご自分の怪しさに無自覚すぎです」
「なんのことだ」
「今まさに、信頼してもらうべき被後見人を怯えさせていることをご認識ください」
「!?」
目を丸くしてマーガレットを見るヒューバートに、マーガレットはサッと目をそらした。
そんなショックを受けたような顔でこちらを見ないでほしい。
マーガレットは悪くないはずだ。
ただ、ちょっとその、ヒューバートが怪しすぎるのが、多分、悪いと思う!
無自覚に皆に怖がられていたヒューバートさんがようやく自覚を。
果たして、彼の私室の秘密は守られるのだろうか。








