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また、君の名前を呼ぶ  作者: 天城 真空
第Ⅱ部《忘れられた人々》

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第十六話 二度目

次の日、机の上にある銀色の留め具を眺めながら、昨日のセレスの言葉を思い出していた。


『同じことをした時、同じことが起きるのか』


もう一度、向こうから何かを戻す。

大家に忘れられたのは一瞬だったが、次も同じとは限らない。


それでも、確かめなければルナを戻す方法には近づけない。


「……やるしかないか」


銀色の留め具をポケットに入れ、部屋を出た。



学院の授業が終わるまで、特に変わったことはなかった。

俺を忘れている奴はいないし、書庫の貸出記録にも名前は残っている。


学院を出て、いつもの場所へ向かった。


「ルナ」


何度か名前を呼んだが返事はない。

日が傾き始めた頃、ようやく水滴の落ちる音がした。


ぽつん。


目の前の空間が白く揺れ、細い亀裂が現れる。


「カイ」


銀色の髪が見えた。


「セレスは?」

「いる」


ルナの後ろから、淡い金色の髪が現れる。


「ちゃんと来たのね」

「来いって言ったのはそっちだろ」

「言うことを聞く人だとは思わなかった」

「俺を何だと思ってるんだ」

「今のところ、面倒な人」

「会って二日目だぞ」

「十分だったわ」


ルナが小さく息を吐いた。


「仲良くなるの早いね」

「なってない」

「そう?」


セレスだけが楽しそうだった。


俺は銀色の留め具を見せる。


「それで、何を戻す?」


ルナが周囲を見回し、小さな白い欠片を拾った。


「これは?」

「昨日の物と大きさも近いし、それでいいんじゃない?」


セレスがそう言うと、ルナは欠片を亀裂の近くへ置いた。

だが、何も起きない。


「昨日、それが移る直前に何を考えていたの?」


セレスに聞かれ、昨日のことを思い出す。


「……向こうから、こっちへって」

「同じようにやってみたら?」

「そんなので変わるのか?」

「知らないわ」

「知らないのかよ」

「だから試すんでしょう?」


言い返せない。


亀裂の向こうにある白い欠片を見る。


今は、これだけでいい。


向こうから、こっちへ。


ぽつん、と水の音がした。


白い欠片が動いた。


「カイ、そのまま」


セレスの声から笑いが消える。

欠片が地面を滑り、亀裂に触れた。


カラン。


足元を見る。

さっきまで向こう側にあった白い欠片が落ちていた。


「……来た」

「うん。見てた」


ルナが少し笑う。


二度目。

偶然じゃない。


俺はすぐに周囲を見るが、誰もいなかった。


「何か変わった?」

「今のところは何も」


セレスが首を傾げる。


「本当に?」

「どういう意味だよ」

「昨日だって、自分では気づかなかったでしょう?」


確かにそうだ。

大家に声をかけられなければ、忘れられたことには気づかなかった。


「……確認してみる」

「その方がいいわ」


亀裂が細くなり始める。


「カイ」

「無茶はしない」

「私、まだ何も言ってない」

「言おうとしただろ」

「……うん」


セレスが小さく笑った。


「本当に信用されていないのね」

「うるさい」


亀裂が閉じる。

手の中には、二つ目の物が残っていた。

向こうにある物を、こちらへ戻すことはできる。

少なくとも、それだけは偶然じゃなかった。



部屋へ戻る前に、大家を探した。


「こんばんは」

「ああ、おかえり」


俺を見ても戸惑わない。


「……俺のこと、分かります?」

「何だ急に。カイ君だろ」


覚えている。


念のため学院へ戻り、貸出記録と出席記録も確認した。

どちらにも俺の名前は残っている。


何も起きていないのか。

それとも、昨日のこと自体が偶然だったのか。


部屋へ戻ると、大家に呼び止められた。


「カイ君。そうだ、さっき学院の人が来てたぞ」

「学院から?」

「ああ。何か届け物を持ってきてたんだが……」


大家が首を傾げる。


「俺にですか?」

「いや、それがな。誰に渡す物だったのか、思い出せないんだ」

「その人は?」

「帰ったよ。渡す相手が分からないって言ってな」


一瞬、言葉が出なかった。


大家は俺を覚えている。

俺の名前も消えていない。


それなのに、また何かがおかしくなった。


ポケットの中で、白い欠片を握る。


昨日とは違う。


何かが起きている。

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