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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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17 玄武の話合い(9)

 高祖は、手のひらに乗せた太極石を見つめ、しばし沈黙した。そして、話し始めた。


「三界の大戦を終わらせた後、私は凡人の女を娶った。

 凡人の一生は短い、その女が死ねば、転生した女を探し出し、また娶った。それを幾度となく、何回娶ったのか思い出せないほどだ。

 女は、前世の記憶を無くしたまま、私と夫婦となった。だが、私にとっては、生まれ変わり、姿形が変わろうと、だた一人の妻なのだ。」


 巽陰大公は、高祖の言いたいことがわかった。

「それが、リーユエンだと仰せなのですね」

 

 高祖は頷いた。

「私は、閉関が長引くうちに、妻に迎えるべき人の行方を見失った。

 ようやく突き止めたとき、白玄武の支配下にある大牙国、銀牙の一族の中で生き神として祀られていた。私は、白玄武の一族へ、凡人を、法力で支配するのはやめよ、と警告を送ったが無視された。

 その後、私は再び長い閉関に入った。次に目覚めた時には、白玄武の国は滅亡し、銀牙の一族も滅亡していた。そして、私は、妻に迎えるべき女の行方を完全に見失った。

 それは、そこにいるドルチェンが、このお方を中有に繋ぎ止めてしまったからだ」

 高祖の声は、低く、苦悩と後悔に満ちていた。

 

 しばし沈黙した後、高祖は、椅子から立ち上がり、皆を睥睨した。

 かつての東海大帝陛下は、凄まじい法力の圧を放射し、彼らへ宣告した。


「私は、このお方と再び巡り会えたとき、奇跡だと思った。

 天上の香気をまとうこのお方を、再び見出し、やっと妻に迎えることができたのだ。どうして、それを、そこにいる、外道な術で中有に繋ぎ止めた愚かな玄武に譲らねばならないのだ。そんな道理に合わないことを、私に強いる者は何者であろうとも、許さぬぞっ」


 巽陰大公と、後ろに控える玄武たちは、上からのし掛かってくる凄まじい法力の圧に必死で耐えた。あまりの圧力に皆、奥歯を噛み締め、ギリギリという音があたりに響いた。

 

 甲羅が圧迫され、押しつぶされそうな恐怖の中でさえ、どこか能天気なアガーナは、心の中で思った。

(アガーナの独白)

凄い、凄いわ、東海大帝陛下は、三界の戦を終結させた大英雄、やはりスケールの大きさが桁違い、情熱の方も半端ないわ。これほど、明妃のことを思っていらっしゃるなんて、なんて素敵なの。でも、猊下は、さっきから黙っていらっしゃるけれど、どうなさるおつもりなのかしら?まさか、もう、明妃のことを諦めたの〜!

 

 ウラナと香車ナイナイは、法力の圧に平伏したまま耐え続ける玄武たちを呆然と見守ることしかできなかった。高祖は、玄武だけに自分の法力をぶつけ、二人には、結界を施し、守ってくれていた。

 ナイナイは、結界越しに、冷静に状況を観察し続けた。腹案を持ってはいるのだが、今は、まだそれを示すには早計であると思い、いましばらく状況を見極めようと思った。


 法力の圧がさらに強まり、ミシミシと建物まで軋み始めた。高祖の白金色の髪は、昇竜のようにうねり、放電し、縦長に変じた双眸にも、白金色の縁が現れた。一万年の法力を蓄えた大玄武の真の姿が、法座主と行った法力比べなど、児戯に過ぎないのだと、暗に真実を告げた。


「どうした、ドルチェン、先ほどから、おまえは黙ったままではないか。長老にばかり喋らさず、おまえ自身も、何か言ったらどうなのだ」

 

 高祖から声をかけられたドルチェンは、突然、上半身を起こした。まるで、法力の圧など感じていない、軽やかとも言える動きだった。


(こ奴、私の法力が、こたえてはおらぬのか)


 ドルチェンは、静かな眼差しを高祖へまっすぐ向けた。


「わしが願うことは、リーユエンの心の安寧だ。わしの望みは、彼女が幸せであることだ。

 大帝陛下と、添い遂げることが彼女の本望であるのなら、わしには異存はない」

 

 高祖は、法力の放射を止めた。決着がついたと思ったのだ。

 ところが、突然、後ろの帷が開き、「お待ちくださいませ」と、リーユエンが姿を現した。

 

 巽陰大公は、体を起こし、リーユエンを見上げた。


(まずい、あの子、我慢しきれずに出てきてしまったのかい)

 

 高祖は、立ち上がり、リーユエンへ手を差し伸べた。けれどリーユエンは、その手を取らず、高祖の前に可能な限りの低さで平伏した。


「リーユエン、どうしたのだ?」

 

 高祖の声が、初めて動揺に揺らいた。


「お許しください、私は、もう、高祖様のお慈悲に御すがりするしかございません」


「・・・・・・私を、選ばぬと言うのだな」

 

 リーユエンは、白金色の長い髪を扇のように広げ、高祖の前に平伏し続けた。

「私に、選ぶことはできません」

 

 高祖は、椅子にどさりと腰掛け、額を手で抑えた。


「あなたの気持ちは、私にあるのか、あのドルチェンにあるのか、一体どちらにあるのだ?」


「私は、紋を入れられた凡人にすぎませぬ。思し召しを取捨選択などできようはずがございません」


「しかし、ドルチェンは、今、申したではないか。あなたも聞いたであろう。あなたが、私を選ぶなら、あ奴は身を引くのだ」

 

 リーユエンは突然、体を起こし、高祖を見上げた。


「猊下は、ええ格好しいの嘘つきです。そんな事をおっしゃっても、私が実際に高祖様を選んだら、また岩戸に篭って、何もかも放擲なさるに決まっています」

 

 巽陰大公以下、猊下以外の玄武は、リーユエン、何てことを言うのだ、と思った。実際にドルチェンなら、そうするに違いないと、皆、思ったからだ。

 

 リーユエンは、立ち上がると、ドルチェンの傍へ行き、その前に跪いた。


「猊下、そんな建前ばかりおっしゃらないで、本当の気持ちをお話しください。お話しくださらないのなら、私が申し上げますよ。よろしいのですね」


「・・・・・・」

 ドルチェンは、目を伏せ、黙り込んだままだった。


 数秒待ったリーユエンは、息を深く吸い込むや、一気に言った。


「リーユエン以外の配偶なんか要らない。リーユエンじゃなきゃ嫌だ。リーユエンが他の男と添い遂げるなら、もう何も要らない。岩戸で閉関して、死んでやる」

 

 リーユエンの言葉を聞くにつれ、ドルチェンの顔は紅らみ、ますますうつむいた。それは、その発言に、怒るのではなく、明らかに恥ずかしがっているのだ。

 一気に言い終えるや、リーユエンは、猊下に抱きついた。

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