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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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17 玄武の話合い(6)

 それを聞いた瞬間、ハビは口をあんぐり開けて固まった。

 しばらくして、ようやく動けるようになると、真っ青な顔でささやいた。


「本当ですか?どこから見ても、良家の若君にしか見えませんよ」

 

 ナイナイは、ハビをジロッと見た。


「玄武だからね、見た目通りとは限らないよ」

 そう言うとニヤッと笑った。

「第一位のお方は、あの若君を追い払おうとして必死なんだ。けれど法力比べをしても勝負がつかないらしい。強敵が現れたのさ」


 ハビはますます震え上がった。


「あのお方と法力比べをして負けないなんて、どれだけお強い方なんだ」


 ハビがそう言ったところへ、扉の向こうから妓女が声をかけた。


「午前中は、お人払いを命じられました。午後からは、射的をされたいそうです」

 

 ナイナイは、長煙管を口から離し、薬草の爽やかな香煙を吐き出した。


「おやまあ、いきなりそっちから始めるのかい。昨日から引き続きとは、ご苦労さまだね。

 昼餉をお持ちするときに、リーユエンには滋養湯をつけておやり」


 午前中は、三階でずっと二人きりで過ごしたあと、高祖とリーユエンは仲良く庭園へ降りてきた。


 南庭園の東屋近くに、五日の間に、屋根付きの射的場が急遽建造された。高祖とリーユエンは、十丈離れた的へ、交互に矢を射た。


 ハビは男の射的の腕前に驚いたが、リーユエンの腕前にも同じくらい驚かされた。

 胸元の開いた女物のヒラヒラした衣姿なのに、大弓を悠々と操り、ことごとく真ん中へ矢を命中させたのだ。


 二人が交互に矢を射るたびに、真ん中へ集中するので、矢が突き刺さる場所が真ん中になくなると、ハビは素早く次の的へ取り替えた。


 けれど、この射的は準備運動で、リーユエンの合図で、ハビは、生捕りにして籠に入れておいた三足鳥を放鳥した。

 

 二人は、それを次々に射落とした。三足鳥を一羽残らず射落とすと、若君は言った。

「その腕前、そなたの師匠は、なかなか優秀な男だな」

 もちろん高祖は、リーユエンに弓術を指導したのが誰かぐらい知っている。


 リーユエンは笑みを浮かべた。


「はい、私は、良き師匠に恵まれました」


「この三足鳥は後で食べるのか?」


「夕餉にお出しします。私は、燻製が好きですが、作るには二三日必要なので、今日は料理長が塩竈焼きを作ってくれるそうです」


「ほう、それは楽しみだな」


 このあと、二人は、東屋でお茶を飲んだ。


 リーユエンは琵琶を持ってこさせ、爪弾いた。

 高祖は、東屋の中の長椅子に寝そべり、リーユエンをうっとりと眺めた。


(高祖の独白)

 何千年もの昔、このお方とは、数限りない、夫婦の契りを交わし合ってきた。

 あまりに時が経ったことと、白玄武の国、そして大牙の国、銀牙の一族の中での、過酷な体験が、この方の転生をすっかり損なってしまった。

 おそらくは、そのために、私との前世の縁をすっかり忘れ去ってしまわれたのだろう。


 私は、この方をずっと愛してきた。これからも、この愛が枯れることは、決してないだろう。我が命尽きるまで、私はこの方を愛し続ける。

 けれど、私はあまりに長い年月を生き、溜まりに溜まった膨大な法力のために、数百年単位の休眠を必要とするようになった。

 昔のように、この方が転生するたびに我が妻に迎え、お護りすることができないのだ。

 

 その上、忌々しいことに、ドルチェンの常軌を逸した執着のために、この方は一千年もの年月、中有に囚われていた。この方の魂は大きく変質し、陰気に満ち満ちてしまった。

 私は、この先、このお方を、どのようにお護りするべきなのだろうか・・・・・・



 そのような事を、悩ましく考えていた高祖は、すっかり気持ちが昂ってしまった。

 

 いきなり立ち上がると、傍近くで控えるハビへ、「しばらく人払いせよ」と告げ、結界を張り巡らした。

 そして、リーユエンから琵琶を取り上げ、彼女を抱きしめ、口付けした。

 リーユエンは、目を潤ませ、密やかなため息を漏らした。


 高祖の希望を察し、ハビはすぐさまその場を離れ、しばらくは誰も庭へ出ないように指示した。

 

 夕暮れの薄闇の中、高祖はリーユエンを横抱きにし、楼へ戻ってきた。二人きりで入浴し、夜もずっと二人きりだった。

 

 様子を聞いた香車は、「リーユエンに、相当熱を上げていらっしゃるね。これは、明日の話し合いが楽しみだよ」と、ほくそ笑んだ。


 


 翌朝、惜春楼の前に、騎獣車が三台停車した。

 出迎えたハビは、大物の登場に、またもや腰を抜かしそうになった。

 

 最初の一台目から降り立ったのは、一昨日と同じ、壮年の商人と、長身痩躯の魔導士だった。その魔導士の被るフード越しに見えた人相は、ハビですらよく知る、正真正銘の大魔導士、ヨーダム太師であった。


 二台目からは、同じく商人風の若者が降り立った。


 そして、大型の三台目からは、大層厳しい姿の貴婦人と、そこまで厳しくはない、少し優しげな感じの貴婦人、それから、引っ詰め髪に、灰色がかった筒袖の衫と裙に、茶色がかった灰色の袍を羽織る、厳格な表情の女が降り立った

 

 ハビは案内に立ちながら、ヨーダム太師がついて来ているということは、あの人たちは、玄武なのだろうか、と考えた。


 広々とした玄関広間に、今日は、香車自らが出迎えに現れた。


「ようこそ、お越しくださいました」

 

 香車は、深々と揖礼した。


 引っ詰め髪の女が、生真面目な表情で、

「リーユエン様は、どちらに?」と、香車へ尋ねた。


 香車は、莞爾と笑った。

「三階の貴賓室で、旦那様とご一緒にお過ごしでいらっしゃいますよ」


 ハビはその瞬間、引っ詰め髪の女から凄まじい怒りが殺気となって吹き出すのを、確かに感じた。それは、もう肉眼でも見えるのじゃないかと思えるくらい、凄まじい怒気だった。それでも男衆のど根性で持って、ハビは、顔色ひとつ変えずに耐え抜いた。


(ヒイィィー、何ちゅう殺気だ。この女は、人外だが、玄武じゃないな。多分、大蛇だ。それも数百年どころか、一千年越えの妖大蛇だ。まったくリーユエンは凡人なのに、周りには人外ばかり集まってくるのは、どうしてなんだ?)

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