15 処断の嵐(5)
法座主府宮殿内の枢密院会議室に、震陽大公ソドレム、兌陰大公ブドゥルヤの抜けた六大公が、枢密院会議に出席するために集まった。
会議室の中央には円形の大テーブルがあり、そこには、笑みを浮かべて上機嫌な巽陰大公カーリヤ、その隣には、乾陽大公ダルディン、そして議長の艮陽大公ディリダム、自分の悪事も露見するのではないかと密かに恐る坎陽大公ポロドム、そして、仏頂面の離陰大公ルーデラ、ダルディンが無事に帰還したことを密かに喜ぶ坤陰大公アガーナが席についていた。
大テーブルから少し離れた高台に、玉座のような巨大な太師椅子が運び込まれ、左側にはドルチェン法座主、右側の椅子には、東海蜃市から来た東海大帝が腰掛けていた。
この二人の玄武の後ろには、影にようにひっそりと控える長身痩躯の魔導士が二人、一人は魔導士の最高峰、ヨーダム太師、あと一人は、太師の直弟子、明妃位を返上し、無位の魔導士であるリーユエンの姿があった。
カーリヤ以外の大公たちは、会議室の中に渦巻く重苦しい法力に頭を下げ、ひたすらその圧が消え去るのを待ち続けていた。
法力の発生源は二人の大玄武、東海大帝と法座主である。
大帝と法座主は、リーユエンを巡り、直接体で戦いこそしないが、法力で相手をねじ伏せようと、会議の直前になっても決着のつかない勝負を続けていた。
二人は、法力を発し、それは雲龍の如く、互いに相手をねじ伏せようと凄まじい圧を放射した。
齢四千年を越える大玄武であるカーリヤは、東海大帝も、ドルチェンも大人気のない、まるで、産卵場を争う、亀同士の争いみたいにみっともないと、密かに呆れ返っていた。
(高祖の独白)
おかしい、この法座主とやら、本当に三千齢を越えていないのか・・・信じられない。この法力の圧は、五千年以上なければ絶対出せないはずだ。一体どれだけの法力を溜め込んでいるのだ。
それに、この重厚で清廉な法力は、やはり黒皇子そのものとしか思えない。
あいつは、昔、息子たちの中でも、正論でもって、私を真っ向から論破する、嫌な奴だった。
このドルチェンという玄武は、黒皇子にあまりに似すぎて、気味が悪い。わが妻に執着するあまり、黒皇子は、人外にはある得ないはずの、転生を果たしたのだろうか・・・
坤陰大公アガーナは、カーリヤへそっと念話を送った。
「カーリヤ、猊下と大帝陛下は先ほどからずっと法力で力比べをなさっておいでだけれど、どうしてあんな事をなさっているの?お二人は、仲が悪いのかしら?」
「ふふっ、アガーナ、歳をいくつとろうとも、女を巡る争いなら決着の付け方は、同じだということさ」
「女?、女って、まさか明妃が関係しているの?」
「ほら、猊下と大帝の後ろ、黒いローブ姿の魔導士が二人いるだろう。あの一人はリーユエンなんだよ」
「えっ?リーユエンって、明妃のことだよね。いつ戻ってきたの?金杖王国へ逃げ出して、あそこの王太子の女になったんじゃなかったの?」
「・・・・・違うよ、王太子と付き合ったのだ確かだが、女にはなっていないよ。馴れ馴れしい態度にキレて、張り飛ばしたそうだよ」
「へえ、明妃もやるじゃないの。それで、どうして大帝と猊下がガンを飛ばしまくることになったの?」
「また、後で教えてあげるよ。うちにお茶を飲みにおいで、ここでは、込み入った話は無理だからね」
いつまで経っても消えない法力の圧力に、もうどうとでもなれと投げやりな気持ちで、艮陽大公は「枢密院会議を開会する」と、いきなり宣言した。
猊下のそばの床には、疲れ切った老犬のように蹲り、自身の出番を待つレムジンの姿があった。
ドルチェンは、大帝と凄まじい法力比べを行いながら、なおその一方で、レムジンを法力の圧力で抑え続けたのだ。リーユエンに協力し、震陽大公を打ち負かすために役に立ったレムジンだが、震家の紋をリーユエンの体へ焼き付けたために、ドルチェンは、この玄武を簡単には許すまじと思っていたのだ。
議長は、玄武軍の警邏部隊隊長を入室させ、震陽大公、兌陰大公、両大公の屋敷で行われた捜索状況を報告させた。
今まで噂では囁かれたが、決して表沙汰になる事がなかった、震陽大公の謀略の数々を裏付ける秘密文書の内容、そして、兌陰大公の屋敷で見つかった秘密文書とドルーアの毒物研究所の調合資料、これについては魔導士学院で毒物の専門家が分析中である旨、報告があり、現在解明ずみの毒物についてのみ、報告が読み上げられた。
両大公家の秘密文書に記された卑劣極まりない謀略の数々、効能を聞いただけで戦慄を禁じ得ない毒物の数々、それを延々と聴き続けた大公たちは、皆、うんざりした。
その後、ドルーアの行った乾陽大公襲撃事件の報告、震陽大公の指示のもと行われた執拗な蟲術の襲撃(これは観念したレムジンが全容を詳しく証言した)、そして、禁術である尸蟲術を使った証拠として、ヨークの遺骸が会議室へ運び込まれ、皆が検分した。
運び込まれヨークの遺骸の異様な姿に、六大公の間に声にならないどよめきが起こった。
リーユエンは、ヨークの遺骸を目にして、顔が真っ青になり、目を固く閉した。リーユエンの動揺に、太師は気がつき密かに「大丈夫か」と声をかけた。リーユエンは無言で頷いたが、フードを引き被り、顔を完全に隠した。
警邏部隊隊長の報告は続いた。
「そこにいるレムジンの証言によると、尸蟲の卵は、この陰護衛以外にも、玄武国を訪れた他国の有力者や観光客の何人かに、使役蜂を使い産みつけさせたということだ」




