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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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15 処断の嵐(4)

「かしこまりました」

 リーユエンは、師父へ応えると、続けて尋ねた。

「ドルーアは見つかったのでしょうか?」

 

 太師は首を振った。


「まだだ。たが、兌家への立ち入り調査で、秘密研究所の所在がわかり、玄武守備部隊が踏み込んだ。毒薬の調合資料は押収できたそうだ。遅効性の毒薬の調合資料が大量に見つかり、今、魔導士学院の薬草学の専門教授が資料を分析中だ」

 

 太師は、そこでお茶を飲むと、リーユエンへ尋ねた。

「先代の乾陽大公ダルゴン殿が亡くなられる直前の症状と、あなたが浴びた毒薬の症状が酷似していると聞いたのだが、どのような症状が現れたのだ?」


「皮膚に毒を浴びたので、すぐさま爛れた場所を切除したのですが、浸透が早く、体内に取り込まれてしまいました。その後、焼けつくような痛みが体の中に生じ、咳が止まらず、呼吸がずっと苦しい状態が続きました」

 そこで、一旦言葉を切り、付け加えた。

「魔導術を使ったり、法力を通されると、症状が悪化したように感じました。最後は、歩くのも難しい状態でした」

 

 ニエザは、聞いているだけで、自分の内臓までおかしくなった気がしてきて、よく、そんな状態を耐え切ったなと感心した。

 

 太師は、炯々と光を放つ灰色の目をリーユエンへ向けた。


「今日の枢密院会議で、それを証言してくれ」

 

 リーユエンは珍しく躊躇った。

「証言はできますが、体の中に、もう内傷は何も残ってはおりません。証拠にはならないでしょう」


 太師は、驚愕した。

「内傷が何も残っていない・・・そんな馬鹿な、法力を通して治療しても、完治には、しばらくはかかるはずだ。まだ、残っているだろう?」

 

 リーユエンは高祖を見上げた、高祖が黙って頷いたので、また太師へ視線を向けて説明した。


「私は、瀕死の状態でした。それを、高祖様が法術で蘇生して下さったのです、このお方は、私の命の恩人なのです」


 高祖が引き取り、後を続けた。

「換骨変易法で体の全てを造り変えたのだ。そのため、内傷は全て消えている。法術を使う前にどのような状態であったのかは、私が証言してやっても良いぞ」


 太師は腕組みし、しばし黙考した。


「是非、証言をお願い致します。先代の乾陽大公が亡くなられた時の状態と、リーユエンの内傷の状態を比較すれば、毒殺の証拠となるでしょう」


「ドルーアを早く捕まえていただきたいです。彼女が使う毒薬は本当に悪辣です。二度と毒が使えないようにしなければ・・・」

 実際に毒薬を浴びたリーユエンの言葉には重みがあった。


「まったくその通りだ。法座主府も事態を重く受け止めて、玄武守護兵を出動させている。捕縛は時間の問題だろう」


「乾陽大公殿下は、お父様が毒殺されたとわかり、衝撃を受けられたのではありませんか」


「殿下もショックを受けられたようだが、猊下の方が衝撃は大きかったようだ。

 病死とばかり思って、毒殺されたと見抜けなかったことを大層悔やんでおられる」

 

 リーユエンは視線を伏せて、太師の発言について、考え込んだ。

 乾陽大公の父親の死因が、毒によるもので、下手人がドルーアであることが明らかになれば、殿下は父親の仇を討つことができる。けれど死因を見抜けなかった猊下は、後悔の念を強く感じておられると聞いて、気の毒に思い、複雑な気持ちだった。

 

 黙り込んだリーユエンへ、高祖が声をかけた。

「ほとんど食べていないな。まだ、気分が優れないのか?」


「いえ、あまり空腹ではありませんから」と、リーユエンは言い、「ごちそうさま」と、食器が載せた盆を流しへ持っていき片付けてしまった。

 

 太師がリーユエンへ、「九時から会議が開かれる。そろそろ出発しよう」と声をかけた。


 高祖も立ち上がった。「では、私もその枢密院会議とやらに出席しよう」


 太師は、高祖へ揖礼した。

「是非お願いします。猊下も、大帝陛下のご臨席を、待ち望んでいらっしゃいます」


 リーユエンは広窓のそばに立ち、空模様を確認していた。

 そこへ高祖が近寄り、いきなり彼女を横抱きにした。

 不意に反転した視界に、高祖の顔を見て「高祖様?」と、リーユエンは不思議そうに聞いた。


 高祖は彼女を抱き上げたまま、静かに見下ろした。

「甲羅割りは荒技だ。それにあの玄武の爺いの法力は、ドブ水のようの汚れ切っていた。

 身を清めることに力を使え、今日は私が連れて行ってやろう」


(ニエザの独白)

 はあーっ(長いため息) 

 やっと三人ともいなくなった。やれやれ・・・

 

 リーユエンが玄武の甲羅を、しかも巽陰大公に次ぐ長老格の震陽大公の甲羅をかち割ったなんて、いまだに信じられないよ。

 それに、東海大帝だよ・・・あの様子じゃあ、リーユエンの今彼ってことなの?

 リーユエンは、玄武に好かれやすい体質なのか?しかも大物ばっかり引っ掛けている。

 あの子は、まったく私の理解の範疇も超えているよ。

 

 瀕死の状態から、換骨変易法で蘇生させったって、どういうこと?

 リーユエンって、本当に凡人なのか?本当は、人外なのじゃないのか?


 まっ、いいか・・・出発前に私にお土産だと、東海蜃市で手に入れた、珍しい薬草や魔石をくれたんだ。

 リーユエンは優しい、いい子だ。

 リーユエンがどれほど大物の彼氏を釣り上げてきても、私が兄弟子って立場は不動なんだよ。その事がすごく誇らしいよ。


 でも、猊下はどうするんだろう。猊下は、どれほど相手が大物だろうと、リーユエンを誰かに渡すなんて、絶対しないだろう。本当に、これからどうなるんだろう・・・

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