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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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14 波乱の帰還(2)

 ようやく、高祖の口付けから逃れたリーユエンは、目元を赤らめ伏目となって

「高祖さま、他の方々いる前で・・・これ以上はご勘弁を・・・」と、弱々しくささやいた。

 

 高祖は顔を下げ、リーユエンをのぞき込んだ。


「あなたは私の妻だ。誰が何と言おうと、それが真実なのだ。あなたが、玄武国の法座主との縁を切り難いと言うのなら、私が自ら出向き、その縁を断ち切り、あなたを蜃市へ連れて帰る」


「高祖さまのお心のままになさいませ。けれど、私は、法座主猊下のご決定にしか従いません」


「では、縁を切ることを法座主とやらが受け入れたら、私の妻として、この蜃市へ戻ってくるのだな」


 リーユエンは、頷いた。

「命の恩人でいらっしゃいますもの、当然です。全ての問題が片づき、猊下と私の縁が切れれば、高祖さまのお心に従いましょう」

 リーユエンの顔は真っ青だった。


 玄武国へ戻る前から、縁が切れたら高祖の妻になると断言したのを聞いたダルディンは、リーユエンは伯父に対して薄情すぎると思った。けれど、冷静に考え直すと、縁が切れれば、という条件付きなので、決して伯父を見捨てたわけではないのだと、思い直した。

 

 その時、高祖の懐から脱出したリーユエンが、頭を斜め上へ振り上げた。すると髪色が、みるみるうちに、漆黒から輝く白金色へと変わった。

 リーユエンはその髪色の変化を見て、満足げに言った。


「変形術を使えば、半日程度、元の姿に戻れますね。これなら、震陽大公の目を誤魔化せるでしょう」

 それから、胸元を見下ろし、高祖をチラッと見た。

「胸も小さくできたから、棒術の稽古のやり直しもしなくて済みそうだわ」

 

 高祖は、悲しげに眉尻を下げた。

「胸元を綺麗に整えてやったのに、それを喜ぶどころか元に戻そうとするなんて、あなたは、私の誠意を認めてもくれないのか」

 

 ミレイナも、ダルディンの横で頷いた。

「私だったら、喜んで踊り出すところだわ。大お祖父様のお嘆きはごもっともだわ」


 ダルディンは何も言わなかったが、心の中で、

(胸の形が綺麗なのは大切なことだが、あの棒術の稽古は凄まじかったから、もう一度やり直ししたくないのは、仕方ないだろう)と、思った。

 

 デミトリーは、胸をチラチラ見ながらも、賢明にも何も言わなかった。

 アスラは、また、大欠伸をして、床で惰眠を貪った。


 

 三日後、蜃市の城郭から街へ出た彼らは、海岸へ降りてきた。

 高祖は、袂から法螺貝を取り出し、それを吹き鳴らした。そして、海上へ呼びかけた。


「ハイシャーン、ハイシャーン、我の呼びかけへ応えよ。

 青玄武ミグレイと海龍ハイシャーンが交わした古の契約により、我の召喚へ応えよ」

 

 晴天だった空は、にわかにかき曇り、黒雲が空を覆い尽くし、稲妻が走り雷鳴が轟いた。横殴りの雨が、痛いほどの勢いで降り出し、黒い海面に波が荒れ狂い、海上には、いく筋もの竜巻が現れた。

 突如、海が大きく割れた。そこから、巨大な青い海龍が、蛇のように身をくねらせ、空へ登った。

 ついに現れた古龍ハイシャーンへ、高祖は白金の髪をなびかせ、翡翠がかった青い瞳を輝かせて、呼びかけた。


「久しぶりだな、ハイシャーン」

 

 上空から、三層の角二本の間に銀灰色の鬣を靡かせ、黄金の目を輝かす、青鱗の巨大龍、ハイシャーンも嬉しそうに応えた。


 「ミグレイ、私を呼び出したのは何年ぶりだ?

 相変わらずの色男ぶりだな。どうした?どこかへ殴り込みに行くのか?どこへ連れて行けばいい?」


「遠出をせねばならんのだ。北西の方角、昔、黒王子が国を築いた北荒へ行きたいのだ」


「ああ、北嶺の方だな。私もあの辺りは長らく行っておらん。懐かしいな、よし、連れて行ってやろう」


 ハイシャーンは、巨体を、海岸近くまで寄せてきた。彼らは、海龍へ騎乗し、玄武国を目指した。


 途中、氷雪の大地へ降り立ち、ヨークの亡骸を棺に収めた。それからさらに四昼夜かけて、大圏谷を越え、東嶺の山々を過ぎ、大密林とウマシンタ川を横断し、峡谷と荒地を過ぎ、中央大平原へ出た。


 リーユエンは、デミトリーへ、ここで降りるように言った。


「王太子殿下、狐狸国でおろしますから、金杖王国へお戻りください。

 ヨークの亡骸は後日必ずお届けにあがります。国王陛下と王后、ザリエル将軍へ謝意をお伝えください」


 玄武国まで当然ついて行くつもりになっていたデミトリーは、

「ええっ、どうして?ついて行ってはダメなのか」と、叫んだ。

 

 リーユエンは肩をすくめ、眉尻を下げた。


「今回の相手は、齢四千年越えの大玄武です。いくら高祖さまのご助力があるとはいえ、凡人のあなたが、万が一にも人質になったら、身動き取れなくなってしまいます。

 あなたは、金杖王国の王太子殿下で、私の大切なお方です。

 殿下には、金杖王国へ戻って待っていていただきたいのです」

 

 単純なデミトリーは、目を輝かせた。

「私は、大切なお方なんだな」

 

 リーユエンは微笑んで頷いた。

「ええ、そうですよ。ですから、お願いです。金杖王国で吉報をお待ちになっていてください。震陽大公との決着をつけるために、私が心置きなく動けるように、金杖王国へお戻りください」

 

(ミレイナの独白)

 リーユエンって、やっぱり凄いわ。あの甘いささやき声、蜜の香りが漂ってきそうな甘さだわ。

 大お祖父様の機嫌を損ねず、あの見るからに単細胞な黄金の髪の獅子王子まで手玉に取っちゃってるわ。あの獅子王子は気がついてないけれど、リーユエンの本音って、結局こういうことよね。


 おまえなんか付いてきたら、足手纏いで邪魔なんだよ。人質に取られたら困るだけだから、とっとと金杖王国へ帰りやがれっ・・・それを、ああいう風に情に絡めて説得すれば、気持ちよく引き下がってくれるわけよね。

 なるほど、男あしらいについて、今後は、リーユエンを師と仰ぐことにしましょう。

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