表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年妃(改訂版)  作者: nanoky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/38

6 ミレイナ王女 (2)

「違う、違うっ、この方は伯父上の妻だぞ、手を出したりするものか」

 強く否定しながらも、激しい動揺を抑えきれない。実際には、もう関係を持ってしまったのだ、今さら否定しても説得力が無さすぎた。

 

 オマは、ふんっと鼻を大きく鳴らした。

「誤魔化したって無駄、無駄、私の目は節穴じゃないんだよ。

 あんたらが、実際はどういう関係だろうと、どうでもいいことだけれど、リーユエンは誰が見たって、今は具合が悪そうにしか見えないよ。隊商を離れて、これ以上具合が悪くなったらどうするつもりだい?」

 オマは、リーユエンの真っ青な顔に視線を走らせ、気遣った。

 

 ヨークの手綱を握る手に、自分の手を伸ばし、背後からリーユエンは、

「オマのそばへ行って」と頼んだ。


 ヨークは騎獣を操り、ダルディンの隣へつけた。


 彼の後ろからリーユエンがオマへ話しかけた。


「オマ、心配してくれてありがとう。

でも、私たちは、ここらは別行動を取る。もっと東の果てまで行くから」


 オマは、騎獣の上、ヨークの後ろにいるリーユエンを見上げた。

「あんた、そんな顔色で騎獣に乗りっぱなしで移動なんかしたら、しまいに倒れてしまうよ。止めときなっ」


「オマ、ここでお別れだ。あとは、カリウラの指示に従ってくれ」

 リーユエンは明確に言い渡し、「出発だ」と、指示を出した。


 ヨークは騎獣の横腹を軽く蹴り、走らせた。

 ダルディンもその後へ続いた。


 オマは、包みを「受け取って」と叫びながら、ダルディンへ投げつけた。

 ダルディンは反射的に包みを受け止めた。

「それ、食べ物だよ。持ってお行き」


 顔だけ振り返ったダルディンは「ありがとう」と礼を叫んだ。


 小さな豆粒のような姿まで遠ざかった彼らを、オマは見送った。

「まさか、老師が女で、駆け落ちするほど情熱的だったなんて、本当にわからないもんだねえ」

 冷静で厳しい表情の老師が、実は、道ならぬ恋に生きる、情熱を秘めた女なのだと、オマの妄想は広がるばかりだった。

 


 三人は北東へ進み、隊商が目指すウマシンタ川のさらに上流を目指した。

 

 数日の間、襲撃に遭遇せず、平穏な旅が続いた。


 彼らは、ウマシンタ川の上流へ出た。

 険しい崖を降り、蛇紋岩の露出した岩でできた川底を、急流に足を取られないよう、騎獣を慎重に進め、ようやく渡河できた。


 対岸に到着した時は、日没が迫り、あたりは薄闇に包まれようとしていた。

 

 ダルディンは、もう今夜は進むのをやめ、野営しようと決めた。

 岸から少し高台になった場所で「今夜はここで野営しよう」と二人へ声をかけた。


 そして、騎獣から支柱に巻きつけて運んできた天幕を下ろし、組み立てた。

 それから枯れ枝を拾い集め、焚き火にした。

 

 ヨークもリーユエンと、騎獣から降りると天幕を設営し、枯れ枝を集めた。


 ダルディンは、焚き火が燃えてくると、リーユエンへ

「焚き火へ当たりなさい」と、声をかけた。


 リーユエンはフードを目深に被ったまま、焚き火のそばにうずくまった。


 その間にヨークは焚き火の周りの立木にハンモックを吊るした。


「ゴホッ、ゴホッ」

 蹲るリーユエンが咳き込んだ。


 ダルディンとヨークは、視線を交わした。

 この数日、リーユエンは咳き込み、胸を抑えることが度々あった。


 大型の八卦陣を操り消耗が激しかったとはいえ、法力を流し込んだのだから、もう回復しても良さそうなものなのに、リーユエンの内傷の回復は捗々(はかばか)しくないのが、ダルディンは気掛かりだった。

(まさか、最初の襲撃を受けたとき顔に受けた毒が体に入りこみ、残っているのか?

 それにあの咳と胸を抑える様子、俺の父が亡くなる前に見せた様子とそっくりなのが気になる)


 二百年余前、ダルディンの父は病に倒れた。

 法力による治療でも回復せず、医師も原因を突き止めることができなかった。

 数ヶ月の間、咳と胸痛が続き、やがて深刻な内傷が生じ、体内がボロボロになり血を吐いて死んでしまった。


 リーユエンの様子が、その時の父の様子と重なって見えてならない。

 嫌な予感がしてならなかった。

(リーユエンの咳や胸の不快感が、もし毒によるものなら、父上も毒殺されたということなのか?)

 

 ダルディンは瞑目し、膨れ上がる疑念を振り払った。

 今はそんな疑念に囚われている場合ではなかった。リーユエンを回復させる方法を考えるのが、優先だった。

 

 突然、リーユエンが立ち上がり、川岸へ降りて行った。

 

 ダルディンは、「リーユエン、どうした?」と声をかけたが、彼女は無言だった。

 様子を見ていると、石ころだらけの川岸で、下を向いて何かを探し始めて、しばらくウロウロ歩き回り、最後に身をかがめ、何かを拾い上げた。


 ダルディンも気になり、岸へ降りていった。

 リーユエンへ近寄り、のぞきこむと、彼女は、人の顔くらいの大きさの平たい石のようなものを抱え込んでいた。


 薄闇の中、ダルディンはリーユエンへ声をかけた。

「それは、何だ?」


 リーユエンは、自分が拾い上げたものをじっと見つめ

「亀だと思う」と言い、それから「あれ?この亀、甲羅が欠けている」と続けた。


「亀なのか?」

ダルディンも覗き込んだ。確かに、それは亀の甲羅だった。

「確かに亀の甲羅に見えるな。

 それより、早く戻って焚き火に当たりなさい。夜は冷え込むから、体を冷やすと咳が出て苦しいだろう」

 ダルディンはリーユエンへ戻るよう促した。


 彼女は、素直に頷き、亀の甲羅を持ったまま、焚き火に当たりに行った。

 

 リーユエンが焚き火のそばで落ち着くと、ダルディンはその隣に腰掛け、甲羅をのぞき込んだ。


「石ころだらけの岸で、よくそんな小さな甲羅を見つけたな」


 リーユエンは甲羅を撫で付けながら言った。

「キュー、キューと、鳴き声が聞こえたのです」


「エッ、生きているのか?」

 死んだ後の甲羅だとばかり思っていたダルディンは、もう一度甲羅をじっくり観察した。

 頭を出し入れする場所をよく見ると、引っ込めた頭の先が見えた。


「冬眠でもしているのか?」


 リーユエンは頭を横へ振った。

「さっきまで鳴いていたんです。冬眠ではありませんよ。きっと怖がって出てこないだけですよ」


 自分の膝の上に甲羅を乗せると、不気味なうすら笑いを浮かべた。

「亀さーん、出てこない気なの?出こないのなら、このまま焚き火にくべて、丸焼きにして食べちゃおうかしら」と、言い出した。


 ダルディンは背筋がゾッとした。まるで、自分の甲羅を焼かれるような気がした。

思わず、リーユエンから身を遠ざけてた。


「きゃっ、痛っ」

 リーユエンが短い悲鳴をあげた。

 彼女の右手の人差し指に、首を思い切り伸ばした亀が噛み付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ