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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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5 震家の襲撃(3)

 坤と乾の八卦陣から構成した『(ディ)(ティァン)(タイ)』の陣を展開させ、隊商を落石から守り抜いた直後、リーユエンは突然体の変調に襲われた。

 激しい眩暈と、胸から腹のあたりにかけて焼けつく痛みが生じ、手綱を握る手から力が失われ、騎獣の背から落ちてしまった。


 彼女の異変に気づいたダルディンが、方向転換して駆けつけてきた。


 リーユエンは自力で立ちあがろうとしたが、体が震え力が入らなかった。


 騎獣から降りたダルディンが駆け寄ると、「八卦陣を一人でいくつも展開発動させるなんて無茶をしすぎだ」と言いながら、彼女を抱え起こした。


「大丈夫・・・疲れただけだから」その声が掠れていると思いながら、ダルディンは彼女の手を握った。


 リーユエンは、目を見開き、手を離そうとした。

「法力を使わないで・・・」


「内傷が起きている、すぐ治すぞ」

 ダルディンは、手をしっかり握り直し、躊躇う事なく法力を流し込んだ。


「法力を消耗しないで・・・・」

 言葉は途切れ、リーユエンの頭がガクッと下がった。気を失ったのだ。


 カリウラも駆けつけてきた。

「リーユエンは大丈夫ですか?」


 ダルディンは彼女を抱き抱えたままカリウラを見上げた。

「法力を流したから、しばらくすれば回復するよ。一人で巨大な八卦陣を立て続けに展開発動させたために、力を消耗したのだろう。しばらく休ませた方がいい」


 カリウラは周囲を見回した。

「この隊商は、ただ穀物と岩塩しか運んでいないのに、これほどしつこく大掛かりに狙われるなんて、ただの野盗の仕業とは思えません。

 全く災難ですよ。こんな大規模に攻撃されたら、何人魔導士がいたって対処できませんや、まだ、妖を退治する方がマシです」


 カリウラの言う事を聞くうちに、ダルディンも、その通りだと思った。

 単に隊商の積荷を狙うにしては、やり方が組織的すぎると思った。


 そして、やはりリーユエンが言っていた通りで、大公家のどれかが、自分と彼女を標的と定め、攻撃を仕掛けて来たのだろうと推測した。

(大伯母上からも、同じ忠告は受けていたんだ。狙う理由はどうあれ、明妃を守り通さねば、伯父上に合わせる顔がない。何としてでも、リーユエンを玄武国へ無事に連れて戻らなければ・・・)

 


 一方、崖の上のレムジンは、(明妃が騎獣から落ちた。ふふっ、流石に八卦陣をあのサイズで連発すれば、魔力も尽きるだろうよ。やはり、生捕りにするには、攻撃を繰り返すのが効果劇だな。ただ、乾陽大公の法力が厄介だ)などと考えながら、遠眼鏡で監視を続けた。

 

 レムジンは、副統領格の手下へ振り返り

「日が暮れて、奴らが篝火を使い始めたら、毒蛾を放て」と、命じた。


 その後、隊商は、峡谷を通り抜け、再び荒地へ出た。

 そして、日が暮れ、野営準備が始まった。


 天幕が設営され、篝火の明かりが周囲を照らし出した。


 レムジンの配下は、篝火がついたのを確認すると、毒蛾を千匹放った。

 赤茶、黒、白が、渦を巻くような地色に、羽の両端には毒々しい目玉模様のある毒蛾が、篝火を目指して一斉に飛び立った。


 毒蛾の羽から撒き散らされる鱗粉は猛毒で、吸い込めば喉が火傷し、目に入れば目潰し弾を喰らったような痛みと涙に苦しむのだ。さらに鱗粉が皮膚に触れれば、火傷したような水疱ができ、痛みと痒みに苦しめられるのだ。


 闇に紛れ、毒蛾は誰も気が付かないうちに隊商の中を飛び回り始めた。


 やがて、野営地のそこかしこで、悲鳴が上がった。


「目が痛い、涙が止まらない」


「皮膚が痛いし、かゆいっ」


「喉が、喉が焼ける」


 阿鼻叫喚の叫びに気がつき、意識の戻ったリーユエンは、まだふらつく体で天幕の外へ出た。そして、天幕に羽を広げて留まる毒蛾に気がついた。


 すぐさま、離と震『火雷噬嗑』で火精を召喚し、毒蛾を焼き払った。


 ところが、八卦陣を発動させた直後、またしても胸から腹のあたりに焼けつくような痛みを感じ、激しく咳き込んだ。そのまま、蹌踉めきながら、天幕へ戻り閉じこもった。


 「リーユエン、大丈夫か?」

 アスラが姿を現し、彼女を気遣った。


 リーユエンは、アスラへ頷くと、指示した。

「外で見張ってくれ、誰も中へ入れるな」さらに付け足し、

「乾陽大公もだ。絶対中へ入れるな」と、厳命した。

 言い終えるや、また、激しく咳き込んだ。


 ダルディンは、リーユエンの体を回復させようと、大量の法力を惜しみなく注ぎ込んだ。それにも関わらず、回復の兆しはなかった。八卦陣を展開発動させるや、またもや内傷が起きていた。


(おかしい、八卦陣を連続出動させても、体に影響なんて出ないはずなのに、どうしてまた内傷が起きた?法力も吸収できているし、私の体内の核には異常がないのに・・・まさか、抉り出したのに、毒が残っていたのか・・・)

 

 リーユエンは結跏趺坐し、経絡の中へ(ルン)を取り込み、先ほどもらったダルディンの法力を練り合わせた。


 外から怒鳴り声が聞こえた。

「アスラっ、そこをどけっ」

 乾陽大公の声だった。それからカリウラの声も聞こえた。

「リーユエン、大丈夫かっ、返事してくれ」


 最後にアスラが絶叫した。

「主っ、もう限界だ。乾陽大公の奴、目が縦長になって、俺を本気で引き裂こうとするんだ。助けてぇぇっ」

 

 あまりのうるささに、調息が乱れてしまい、リーユエンは仕方なく中断して、天幕の垂幕を上げ、険しい顔を出した。

「うるさいっ、静かにしてくれ」声は、力なく、掠れていた。

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