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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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4 玄武枢密院(1)

 兌陰大公は、坎陽大公と対応を協議するつもりであった。

 ところが、どこから情報が漏れたのか、坎陽大公襲撃の一報が、他の大公の知るところとなり、枢密会議が召集された。

 枢密会議長を務める艮陽大公からは、兌・坎の両大公から事情を聞きたいと連絡があり、欠席することもできなくなった。


 枢密院は玄武国法座主直属の機関で、会員は、法座主とその秘書官長、それに玄武八大公で、会員の許可がなければ、たとえ宰相であろうとも会議には出席できない。


 その日、開かれた会議は、震陽大公からの要請によるもので、プドラン宮殿の最上層、法座主宮の奥深くにある会議室には、法座主ドルチェンは閉関中、乾陽大公は国外滞在中、巽陰大公は領地にて病気療養中のため欠席で、出席したのは六大公のみであった。

 

 震陽大公ソドレムは、顔の下半分は見事な白髯に覆い尽くされて、髯の長さは胸元を超えるほど、糸のように細い目はいつも笑っているようで、上品で穏やかな顔立ちの老玄武だ。


 一見したところ好々爺然としているが、玄武八家間の謀略暗闘には、必ずこの老玄武が関わっていると噂になるほど、策士として悪名高かった。


 彼は、巽陰大公カーリヤの次に位する長老で、法座主ドルチェンよりもさらに一世代上だった。


 先代法座主が後継者を指名しないまま崩御した時、次の法座主の最有力候補として取り沙汰されていたにもかかわらず、どのように立ち回ったのか、その任を逃れ、震家の領地で悠々自適に暮らしていた。

 その曲者である彼が、領地からわざわざ法座主宮まで出向いてきて、会議の招集を求めたのだ。


 枢密院の議長は、八大公の持ち回りで担当しており、今現在は、艮陽大公ディリダムが議長を務めていた。

 

 彼は、目を細め、機嫌の良さそうな震陽大公をチラッと見た。

(ソドレムの爺いは、いつも震家の領地に引きこもっているばかりで、最近、この爺いの顔を見たのは、新年に開かれた定例会と、去年の夏の終わり頃に開かれた離宮の茶会の二回だけなのだ。

 それをわざわざ自分から領地を出てきて、会議を招集させるなんて、全く嫌な予感しかしないな)

 

 乾、巽両大公以外の六大公が揃うと、議長の艮陽大公は、開会を宣言した。

 そして、議題を言わなければと思ったが、震陽大公からは何の説明を受けていないため、彼の顔を、またチラッと見た。


 すると震陽大公ソドレムは、柔和な笑みを顔に貼り付けたまま、

「わしが招集をお願いしたので、議題はわしほ方から説明しよう。

 

 実は、中央大平原の蒼馬国の国境で、狐狸国を出発した隊商の一団が襲撃された。

 その襲撃者が、複数の魔導士と玄武の兵からなっておったそうだ。そして、襲撃された隊商の中に、乾陽大公と明妃位を返上したリーユエンがおったそうだ」

 

 兌陰大公は、してやられたと思った。

 秘密裏に行動したはずなのに、震陽大公はいつの間に情報を掴んだのか?

 まさか、密偵が潜り込んでいたのだろうか?」

 彼女は、共犯者の坎陽大公の顔を見ないようにするのが精一杯で何も言えなかった。


 震陽大公は、目の動きがほとんどわからない細い目で、兌陰大公と坎陽大公の様子をじっくり観察しながら、続けた。

「どうやら、その中に毒使いがおったようで、リーユエンは、可哀想に、右側の顔にまで酷い怪我を負ったそうだ。全く、何ということか、猊下が閉関された途端に、このような事件が起ころうとは・・・」

と、大袈裟に嘆いた。

 

 坎陽大公ポロドムは、何食わぬ顔で言った。

「隊商の中に、乾陽大公とあの紋付の奴隷がいるとは妙ですな。

 そんなところであの二人は何をしておったのやら」


 襲撃の共犯である坎陽大公が動揺していないことがわかり、兌陰大公ブドゥルヤは、安堵した。震陽大公は、坎陽大公の方へ顔を向け、「リーユエンは、明妃位を返上したあと、金杖王国に滞在していたそうだ」と、話しかけ、「何があったのか、金杖王国を抜け出し、乾陽大公と合流したようだな」と語った。


すると、今度は艮陽大公のディリダムが、

「一体あの女は、金杖王国で何をしておったのだ?」と、不思議がった。


 震陽大公は肩をすくめ、「さあ、わしもそこまでは知らぬ。ただ、金杖王国内の噂によると、王太子のデミトリーと随分仲が良かったそうだ」と、さも意味ありげに言った。


 それを聞いた離陰大公ルーデラが柳眉を逆立て、「あの者は明妃位を返上したとはいえ、法座主猊下にお仕えする女だというのに、王太子と良い仲であったとは、一体どういう意味なのじゃ」と、詰問した。

 礼節を重んじる離陰大公が早速反応し食いついてきたことに、内心気を良くしながら、震陽大公はさらに煽り立てた。


「王太子は、去年行われた離宮の茶会でも、明妃ばかりを熱心に見ておったと噂になるほどだった。まあ、その事から考えれば、明妃位を返上し、玄武国での身分を失ったリーユエンが、王太子を頼って金杖王国へ滞在したのも、無理のないことかもしれないのう」


 離陰大公は耳に入れたくもない内容を聞かされ、身を震わせた。

「何というふしだらな女だ。あのような者をどうして猊下は取り立てて、ご寵愛なさるのか理解に苦しむ」

 

 リーユエンの印象がすっかり悪くなったことに満足しながら、

 震陽大公は、にこやかな表情のまま返した。

「離陰大公よ、あの者は、所詮凡人に過ぎないのだ。我ら玄武とは違うのだ。

 同じく凡人である金杖王国の王太子に引かれたとしても、責めるのは酷ではないだろうか?あの国で何か不始末を仕出かしていたとしても、その処断は猊下が下されるであろう」と、発言した。

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