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千年妃(改訂版)  作者: nanoky


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3 噛みつきドルーア(8)

 魔導士たちを見回しながら、ドルーアは眉をきつくしかめた。

「忌々しい奴め」と、毒づきながら、両手を垂直に上げると、そのまま九十度前へ倒した。


 黒い面布で両目以外を全て覆い隠し、背中に太刀を背負い、黒い筒袖に肘から下は鋲付きの手甲姿の兌家の戦闘員数十人が、野営地へ一斉に襲撃をかけた。いち早くその動きを察知したアスラが迎え撃ち、一人の首筋へ牙をたてた。


 けれど、他の戦闘員はそのまま野営地へ入り込み、すっかり落ち着きをなくして外を彷徨く荷運び人へ、背中から太刀を引き抜き、切りつけた。


 そこへ巨大な青龍刀を手にカリウラが駆けつけ、一度に三人を太刀で薙ぎ払い、あともう人を足で蹴飛ばし、ついでにもう一人へ頭突きをかました。


 ヨークも地面から現れ、一人の足を掴んで引き倒し、もう一人と、もう一人と、次々に引き倒した。


 ダルディンも駆けつけ、法力を放って戦闘員を一気に五人吹き飛ばした。


「見つけたっ、乾陽大公だっ」

 ついに標的を見つけたドルーアは、自ら調合した毒薬入りの小瓶を、懐から取り出し、右手に握り、木から飛び降り、ダルディン目指して闇の中を走り出した。


 一方、リーユエンは八卦陣を操作しながら、魔導士の数が多すぎると疑念を持った。

 盗賊なら、これほどの人数の魔導士がいるとは思えない、いずれかの大公家の差し金に違いないと思った。それに、反撃するや、魔導士が攻撃をやめ、すぐに撤退したのも不審に感じた。


(これだけの人数の魔導士が、一斉に同じ動きをするなんて、誰かが指揮しているのか・・・まさか陽動作戦なのか?真の狙いは隊商ではなく、乾陽大公を誘い出す事なのか)

 

 相手の狙いに気がつき、すぐさまダルディンの姿を探した。


 ダルディンは、彼女から数十丈離れた場所で、太刀を振り回す黒装束の盗賊数人を、法力で一気に吹き飛ばしていた。その姿とともに、視界の隅に、ダルディンの背後へ迫る黒い人影をとらえた。


「大公殿下、気をつけてっ」


 駆け出しながら、リーユエンは、ダルディンへ叫んだ。けれど刀を打ち交わす音や、叫び声に紛れ、声が届かなかった。


 人影は、右手を振りかぶり、ダルディンへ小瓶を投げつけようとした。

 

 リーユエンは「艮陣発動っ」と叫びながら、急停止して膝をつき、両手のひらを一気に地面は叩きつけた。

 人影とダルディンの間に、一気に数十丈の高さの土壁が隆起した。リーユエンは再び、疾走した。

 

 毒薬を瓶ごと投げつけようとしたドルーアは、土壁に阻まれた。

「チッ、邪魔な」と呟き、小瓶を持ったまま左手に法力を集中させ、それを一気に土壁はぶつけ、粉砕した。


 法力の破壊音に驚き振り返ったダルディン目掛けて、ドルーアは再び腕を振り上げ、小瓶を投げつけた。


 その瞬間、リーユエンが両者の間に滑り込み、自身のマント型の外套を広げ、ダルディンを覆った。


 宙を飛んだ小瓶はリーユエンの右側の頬近くに当たった。

 その瓶をリーユエンは素手で掴み、人影目掛けて投げ返した。


 「ギャーッ」

 ドルーアは絶叫した。瓶に半分残っていた毒薬が粉となって舞い上がり、自分の顔に触れたのだ。

 焼けつく痛みに、片手で顔を多いながら、法力を発動させ、その場から逃げ出した。


「リーユエンッ」

ダルディンは叫び、彼女へ駆け寄った。


 小瓶の中身半分を浴びた彼女の右頬の上部分がみるみる焼け爛れた。

 

 美しかった右側の頬が焼け爛れていくのに動揺したダルディンは、法力を送り込んで治そうと、リーユエンの手を握りかけた。ところが、その手は払い除けられた。

「いけません。あなたは今夜、法力を使いすぎです。薬で治しますから」と、きっぱり拒絶し、薬袋から薬を取り出すと、右手に中身を開け、それを右側の顔に大量に塗りつけた。

 痛みに顔を歪めながらも気丈にも「大丈夫、・・・少し浴びただけです。全量ではありませんから」と説明したが、その顔色は真っ青だった。


「背後に接近されていたのに、気が付かなかった。私の方があなたを守らなければならないのに、怪我をさせてしまった。すまない」

 ダルディンは沈痛な面持ちで謝った。

「あの気配は、おそらくドルーアだ。彼女の調合した毒なら解毒しておかないと面倒だぞ。やはり法力を通そう」


 しかし、リーユエンはダルディンから後退った。

「これからの旅の道程は長いのです。法力を今から枯渇させるようなことはなさらないでください」


 ダルディンは反論した。

「ドルーアの毒に、普通の解毒剤は効かないぞ。法力を入れずにどうやって、解毒するつもりだ?」


 リーユエンは、ベルトからナイフを引き抜き、

「これで、毒に触れた箇所を焼き切ります」と、言い出した。


 ダルディンは、恐れ慄いた。

「そんな馬鹿な真似はやめてくれっ、毒にやられた部分は焼き切れるだろうが、肉を抉ったら、元通りにはできない。傷が一生残るんだぞ」


 しかし、リーユエンは冷めた目でダルディンを見た。

「毒ならなおのこと早く処置しないと、体へ浸透してしまいます。さっさと抉り出してください」


 右頬の焼け爛れた部分はデナリウス金貨ほどの大きさだった。それを見ながらダルディンは目を見開き

「俺が、やるのか・・・」と震える声で言った。

 そんな事をするくらいなら、たとえ枯渇してしまおうとも、法力を通す方がマシだと思った。


 しかし、ダルディンの懊悩などお構いなしに、リーユエンはナイフを押し付けてきた。

「自分の顔から肉を正確に抉り出せませんから、どうそ抉り出してください。今なら、少し抉っただけで済みますから、さっさと処置なさってください」


 ダルディンは仕方なく、自分の懐へ彼女の頭に手を当て鋏み込んで固定すると、頬の焼け爛れた部分を一気に抉り取った。その瞬間、リーユエンは激痛に体を強張らせた。

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