1 乾陽大公ダルディン(1)
リーユエンは、三日後、狐狸国のミンズィの商会へ現れた。
フードを脱いだ彼女を一目見たミンズィは、目を見開きしばらく呆然とした。
「老師、髪はどうしたの、あんなに長くて綺麗だったのに・・・」
「邪魔だから切った。カリウラ、いる?」
ミンズィは、頷いた。
「今、倉庫にいるから、呼んでくるよ」
「それから、私の口座からお金を下ろしたい」
「了解、叔父さんも呼んでくるから、待っていて」
ミンズィは、大慌てで、倉庫で棚卸し中のハオズィとカリウラへ声をかけた。
「老師が、今店に見えられてます」
「老師?老師ってリーユエンか?」
カリウラが、凶悪な面でミンズィへ確認した。
倉庫から店先へ現れたカリウラは、リーユエンを見るなりものすごい勢いで近寄り、両肩をガシッと掴んだ。
「どうしたんだっ、その髪、誰が切ったんだっ」
「邪魔だから、自分で切った」
(どうして、みんな、髪を切ったぐらいで、大騒ぎするんだ?)
カリウラは、目玉を剥き、大口を開けた。
「ああっ?自分で切った?そんな事したら、ウラナがめちゃくちゃ怒るだろ?」
数回会っただけだが、リーユエンに仕える侍女頭ウラナのことを、カリウラは心底怖がっていた。
「大丈夫だよ。切った髪はウラナのところへ置いてきたから」
「はあ?置いてきたって、猊下は、法座主猊下はどうするんだ。髪の毛伸びるまで、離宮に閉じ込められるぞ」
カリウラは、あの猊下なら、そのぐらいのことは平気でやりかねないと、本気で心配していた。
ところがリーユエンは力無くうなだれ、「猊下は、もう私のことに関心ないんだよ。もう、何をしたって反応なさらない。他の男と寝たって、放置されっぱなしだ。きっと、私のことなんかもうどうでもいいんだ」と、つまらなそうに言ったのだ。
カリウラは、自衛反応で気が遠くなり、リーユエンの言ったことの後半は聞いてなかった。立ったまま気絶していた。
リーユエンが来店したとミンズィから知らされ、慌てて店頭に出てきたハオズィは、彼女の言ったことを聞いて、(大変なことになった。金杖王国で一体何があったんだ。リーユエン様は、玄武国から追放されてしまわれたのだろうか)と、気を揉んだ。
しかし、気をもみながらも、本当に玄武国から追放されたのなら、もう誰に遠慮することもなく、狐狸国の商業振興局の顧問にお迎えして辣腕を奮って頂こうと密かに決心した。
とりあえず、老師のお望み通り、資金を用意して、暫くの間、狐狸国内に身を落ち着けて頂こうと思った。
一方、リーユエンが出奔した後、ウラナとシュリナは、金杖王国に留まる理由もなくなり後宮を出た。
ウラナは、その直前、瞑想を行い、玄武国の巽陰大公カーリヤへ、リーユエンが金杖王国を出奔したことを知らせた。
知らせを受けたカーリヤが、その事を乾陽大公ダルディンへ知らせた。
「リーユエンは、金杖王国を出て行ったそうだ。ウラナの話だと、デミトリーを張り飛ばして、気絶させ逃げ出したそうだ。それに、髪をバッサリ切って行ったそうだよ」
「髪を切った・・・一体、何を考えているんだ」
あの見事な髪をバッサリ切り落とすなんて、リーユエンの正気を、ダルディンは疑った。
「ダルディン、リーユエンを探し出して、一緒に付いていてやりなさい。猊下は最近、心ここにあらずのご様子で、おそらくリーユエンに、一切接触していないご様子なのだ。このままでは、リーユエンは本当に逃げ出してしまいかねないからね。お前がしっかり付いて守ってやっておくれ」
カーリヤがダルディンへそんな指示を出したのも、ダルディンが玄武国への帰路へつかず、いまだに狐狸国内に潜入を続けていたからだ。
あんな強い子を一体何から守ろうと言うのかと疑問に思いながらも、ダルディンはリーユエンの行方を探すことにした。
治療のため、すでに自身の法力を何度か送り込んでいたダルディンは、猊下のように玄武国のような遥か遠方から彼女を探し出すことはできなかったけれど、ごく近い距離からなら感知し、探し出すことができた。
ダルディンは、リーユエンなら狐狸国に必ず立ち寄るに違いないと予想し、根気強く法力の反応がないか探り続けた。そして、ついに法力の反応を見つけた。




