第5話
朝なので、と寝に入ったマオを眺めながら、朔はキッチンでタバコを吸っていた。
マオは朝日を浴び、規則正しい寝息を立てながら床で穏やかに眠っている。
丸くなったその姿は、どこか猫のようだった。
朔「…寝るんだなぁ…」
換気扇の下で煙を吸い、吐く。
視線はぼんやりと、眠るマオに向けられている。
朔「…何食べるんだろ…お米とかで大丈夫かなぁ…」
タバコの火を消し、慣れた手つきで米を研ぐ。
炊飯器の予約音を鳴らし、朔はそのままベッドに入った。
今日起きた出来事を、一つずつ確かめるように思い返す。
朔「…まぁ、いいか……面白そうだし。」
ちらりと視線だけマオに向け、朔は眠りに落ちた。
昼
朔はベッドから体を起こす。
視線の先の床には、まだマオが眠っていた。
朔「…え…夜まで起きないのかな……」
パーカーに袖を通し、ヘッドホンをつける。
朔は静かに外へ出た。
向かったのは、昨日マオと出会った場所だった。
確かに殺人が行われたはずの空き地には、血も痕跡も残っていない。
何事もなかったかのように、日常の景色に溶け込んでいる。
朔「…ほんとに、消えるんだな…」
空き地を眺めていると、通りすがりの老人が声をかけてきた。
「この場所ねぇ、昔はラーメン屋があったんだよ。小さい店でさ。」
朔「…はぁ。」
適当に相槌を打つ。
「店主が病気になってね、閉めちゃってさ。そのまま亡くなったよ。……ここを覚えてる人も、もう少ないだろうね。」
朔「…そうなんですね。…また、できるといいですね。」
その後もしばらく、ラーメン屋の話や店主のこと、老人自身の昔話が続いた。
「じゃあ兄ちゃん、がんばってな。」
朔「…はい、ありがとうございました。」
足早にその場を離れ、首にかけていたヘッドホンをつけ直す。
朔(……ラーメン屋なんか、あったんだな……)
かつて活気があった場所は更地になり、殺人が起き、
それどころか、人間が一人消えている。
朔「…土地も大変だな。」
適当なコンビニに寄り、コンビニスイーツとタバコを買って店を出た。
アパートのエントランスを抜け、三階の角部屋へ戻る。
ドアを開けると、まだ眠っているマオがいた。
朔「……まじか。」
空は青からオレンジへと色を変え始めている。
部屋着に着替え、朔はマオのそばにしゃがみ込んだ。
朔「……人間にしか、見えないんだけどなぁ……」
その声に反応して、マオが眩しそうに目を少しだけ開ける。
マオ「……まだ……明るいです……」
そう言って再び目を閉じ、寝息を立て始めた。
朔「えぇ…ほんとに?」
朔は、面白いものを見るように小さく笑う。
やがて空の色が完全に黒へ沈んだ頃、マオがゆっくりと起き上がった。
マオ「おはようございます。行きますか、朔。」
朔「おはよう、マオ。……行こうか。」




