第4話
朔は、マオという存在を整理するため、改めて問いかけた。
朔「君は…マオは、どこから来たの?」
マオ「掃き溜めです。人間の負の感情の掃き溜めです。」
朔「うーん…その“負の感情”っていうのは、具体的にどんなもの?」
マオ「自分や他人に向けられた悪意、憎悪、欲望、妬み、嫉み……簡単に言えば、“業”ですね。」
朔「…業、か。なるほど。それが強い人間ほど、真っ黒になるのかな。」
マオ「はい。そうです。他人から向けられる憎悪や悪意が濃い人間もいれば、自分自身の欲が濃い人間もいます。」
朔「へぇ…なるほどね。面白いな。僕も、誰かに恨まれてるのかな。」
心底楽しそうに、朔は目を細める。
マオはその視線をまっすぐ受け止め、口を開いた。
マオ「朔の黒は、そのどちらでもありません。」
朔「…?」
不思議そうにする朔を指差し、マオは言い切る。
マオ「今、また“面白い”って言いました。朔。」
朔「ハハッ。面白いって言っちゃだめなの?」
朔は軽く笑う。
マオ「朔、信じてないです?」
朔「いや、マオのことは信じてるよ。ただ……僕が信じてるのは、マオが“存在している”ことと、人を跡形もなく消せるってことだけかな。」
その言葉に、マオは少しだけ首を傾げる。
マオ「あとは、何を信じてないです?」
朔「人の“存在”そのものが消えるってこと。」
マオ「おぉ、確かに。そうでした。」
マオは左手の平に、右の拳を軽く打ちつける。
朔「へぇ。そういう仕草、知ってるんだ。」
その動きに、朔は妙に感心したように言った。
マオ「はい。ぼくは人間をよく観察しています。この前消した人間は、朔の知らない人でした。朔が知らない人間を消しても、朔は“失った”と感じません。」
朔「……うん、そういうことだね。」
朔は言葉を頭の中で噛み砕き、静かに納得する。
マオ「ですから、明日の夜。実際にお見せします。」
朔「え……ほんとに? 明日の夜?」
思っていたよりも早い展開に、朔はわずかに戸惑う。
マオ「はい。善は急げ、です。…あれ、人間の時間だと、もう“今日”になりますか?」
指を折りながら、真剣な顔で時間を数えるマオ。
朔「…そうだね。マオの言う通りだ。」
朔は、マオに向かって小さく笑った。
マオ「では、もうすぐ朝なので眠ります。おやすみなさい。」
そう言うと、マオは唐突に床に丸くなり、そのまま静かに寝息を立て始めた。
朔「…え…寝るんだ…」
白が、黒を飲み込みそうな空。
朝が来る。




