第6話
夜道を、二人で歩いている。
朔はマオの斜め後ろを、一定の距離を保ったままついていく。
マオ「ここです。」
マオが立ち止まった先は、コンビニだった。
朔「…え、ここ…?」
マオ「はい。ここの中に、真っ黒な人間がいます。」
躊躇いなく自動ドアを開けるマオ。
朔も少し遅れて、店内に足を踏み入れた。
マオ「おぉ、あれです。あれは、真っ黒ですね。」
マオが指差したのは、レジに立つコンビニの店員だった。
朔「…あの人が…?」
どこからどう見ても、普通の店員だ。
三十代くらいの男性。
気怠そうに商品をスキャンし、無言でレジ袋に詰めていく。
愛想はないが、特別おかしな点もない。
よくいる、ただのコンビニ店員。
マオ「ぼくは、一度人間を殺めないと、消せません。」
朔「え、そうなの…?」
マオを見下ろしたまま、朔の動きが止まる。
マオ「はい。なので昨日も、殺めている途中でした。そしたら、朔が来ました。」
朔「あぁ…なるほどね…」
昨日、血まみれで倒れていた男の姿が脳裏をよぎる。
マオ「では、行ってきます。」
そう言って、マオはゆっくりとレジへ近づいた。
「……いらっしゃっせ〜……」
店員の気の抜けた声が響いた、その瞬間。
マオは迷いなく、手を伸ばし、店員の首を切り裂いた。
朔「……!!」
「……っ、が……ぁ……」
レジは一瞬で血に染まり、店内は騒然となる。
悲鳴。怒号。阿鼻叫喚。
「っ!!いやー!!逃げて!!」
「警察!!誰か警察!!」
マオは倒れた店員の息を確かめる。
マオ「…死にました。」
ちょいちょい、と手招きで朔を呼ぶ。
恐る恐る、朔は一歩ずつ近づき、床に転がる死体を覗き込む。
朔「……死んでる……」
マオ「これ、消します。」
昨夜と同じように、マオは勢いよくその身体に手を貫いた。
次の瞬間、死体は塵となり、跡形もなく消え去った。
マオ「消えました。」
マオはレジから離れ、朔の隣に立つ。
朔「……消えた……」
朔ははっとしたように、周囲を見回す。
ついさっきまでの混乱が嘘のように、
店内は完全に日常を取り戻していた。
軽快な店内音楽。
何事もなかったかのように買い物を続ける人々。
「すみませーん、レジお願いしまーす。」
客の声に応えるように、バックヤードから別の店員が出てきて、
慌ててレジを開け、会計を始める。
朔は、しばらくその光景を呆然と見つめていた。
「……ちょっと、すみません。」
買い物客の声に、朔は我に返り、軽く頭を下げてレジ前を離れる。
朔「……嘘だろ……」
目を見開き、口元を押さえたまま、店内を見渡す。
マオ「ぼくのこと、信じますか?」
朔「……信じるよ…マオ……君は…すごいよ……」
その言葉に、マオはにっこりと笑った。
マオ「よかったです。」
一拍置いて、マオは唐突に言う。
マオ「煙、したいです。」
朔「…え、えぇ、今? タバコ?」
マオ「はい。あれを見てたら、煙、したくなりました。」
マオはレジの後ろ、タバコの棚を指差す。
朔「…帰ろうか。」
二人はコンビニを出て、朔の家へ戻った。
キッチンで、二本のタバコの煙がゆらゆらと揺れる。
マオはそれを目で追っている。
マオ「……やっぱりこれ、面白いです。」
目を細めるマオを、
朔は何も言わず、ただ静かに眺めていた。




