第22話 黒革ボンテージの目覚めと、ムチ打つ新女王
ミサキの『絶対平穏の聖域』という名の精神的粛清によって、完全に自我を「無」に書き換えられかけたアイゼンガルド工場の作業員たち。
俺が命がけで彼女の顔面に眼鏡を叩きつけたことで嵐は去ったが、一度植え付けられた恐怖は絶大だった。
男たちは涙目で、それこそ呪われた機械のように凄まじい速度で魔導ミシンを回し続けている。
そんな喧騒を余所に、俺は工場の奥に併設されたフィッティングルームへと移動していた。
「……っ、うぅ……」
隣を歩くミサキは、手帳で顔を隠しながら、消え入りそうな声で呻いている。
(……フッ、可愛いものだ。すべてを真っ白に塗り潰そうとした傲慢な全能感の記憶がはっきりと残っているからこそ、今の彼女は耳たぶまで真っ赤に染まっている。羞恥心に悶える有能な秘書の姿というのも、これまた職人の目を愉しませてくれる極上の造形美だな)
内心の「おっさん」が至福の笑みを浮かべる中、俺は正面で直立不動になっている工場の若き新責任者、フリーダに向き直った。
「さて、フリーダさん。これからはあなたがこの工場を率いる代表です。まずはあなた自身が、その肉体を蝕む檻から解放されなければなりません」
俺の言葉に、フリーダはゴクリと喉を鳴らした。
技術顧問として同行した祖父ガストンが、職人の目でじっと見守る中、彼女は緊張に震える手で無骨な軍用防寒毛皮を脱ぎ捨てた。
現れたのは、幾重にも、それこそミイラのようにガチガチに巻き付けられた「軍用さらし」の姿だ。
「失礼します。……酷い圧迫だ」
彼女の背後に回り、その結び目を一本ずつ解いていく。最後の布がハラリと床に落ちた瞬間、長年の拘束から解放された「トップ90・Gカップ」の圧倒的な質量が、極寒の空気の中でフルリ、と見事な弾力を描いて弾けた。
「ひゃぅっ!? つ、冷たい……いえ、温かい……?」
俺の「神の手」が彼女の素肌へと触れた瞬間、フリーダの身体がビクンと跳ねた。
(素晴らしい……! 北の厳しい寒さと、祖父のなめし革技術を間近で見続けてきた影響だろう。彼女の肌は、白磁のようなキメ細かさの中に、まるで最高級カーフレザーのような『吸い付くような弾力と強靭な柔らかさ』を秘めている。これぞヴォルガが育んだ極上の肉質だ!)
解剖学に基づくマッサージを施し、無理な圧迫で歪んでいた肋骨のラインを整え、脇や背中に逃げていたお肉を、手のひら全体で包み込むようにバストへ定着させていく。
「あ、んんっ……っ! そんな……お爺ちゃん以外の男の人に、こんな……直接……っ。でも、不思議……胸の奥から、なんだか熱いものが、どんどん沸き上がって……っ♡」
フリーダは顔を真っ赤にして熱い吐息を漏らし、俺の手のひらに身を委ねる。
ガストンは「なんと破廉恥な……いや、しかしフリーダの姿勢が劇的に……」と、その肉体構造の美しき変化に圧倒されていた。
彼女の「強靭で柔らかい肌」と、ガストンの「なめし革」。
その二つを融合させるため、俺はあらかじめユウとチサに指示を出して作らせていた、ある試作品を取り出した。
ガストンがなめした、驚くほど薄く強靭な魔獣の黒革をアウターの表地に使用し、裏地にはユウがミスリル糸で補強した極薄の伸縮繊維を融合させた一着――。
防寒性を極限まで高めつつ、筋肉の可動域を広げるための力学構造を突き詰めた結果、それは図らずも、妖艶なる「ボンテージ・コルセット・ランジェリー」の形状を成していた。
艶やかな黒革のバインダーが彼女のウエストを限界まで絞り込み、Gカップのバストをこれでもかと上向きに強調する。
さらにガーターベルトと、首元を飾るチョーカーが、彼女の凛々しさを引き立てていた。
試着を終え、全身黒革のボンテージ姿になったフリーダが、鏡の前に立つ。
「これが……私……?」
その瞬間、彼女の内側で何かが変化し始めた。
抑圧されていたGカップの質量、そして黒革による強烈なまでの締め付け。
肉体の解放と同時に、彼女の奥底に眠っていた「何か」が、内なる欲求と高揚感となって、ふつふつと沸き立ち始めたのだ。
フリーダの目からおどおどとした地味な現場監督の影が消え、代わりに妖艶で、支配的な輝きが宿る。
「……ふん。悪くない着心地ね。身体の芯から、力が湧き上がってくるわ……」
彼女はゆらりと歩き出すと、フィッティングルームの片隅に置かれていた、資材搬入用の馬車に使う「レザーのムチ」を無造作にひったくった。
「フリーダさん……?」
俺の制止も聞かず、彼女はキャットウォークのような堂々たる足取りで、そのままの姿で作業場へと進み出てしまったのだ。
「おい、そこのだらけきった家畜ども!!」
「ピシィィィン!!」鋭い革の破裂音が工場内に響き渡り、作業台が大きく弾けた。
「手が止まっているわよ! 誰の許可を得て息をしているのかしら!? 死ぬ気でミシンを回しなさい!!」
そこには、黒革のボンテージを身に纏い、ムチを鋭く振り下ろすフリーダの姿があった。
「「「なっ……!?」」」
その急激な変貌ぶりに、俺も、チサも、カオリも、全員が完全に唖然として立ち尽くした。
あの真面目で大人しかったフリーダが、まさか下着一枚でムチを振り回すドSな女王様に覚醒するとは、職人である俺の計算をも超えている。
ガストンに至っては、口を半開きにして開いた口が塞がらない。
しかし、本当に異常だったのは、現地ヴォルガの作業員たちの反応だった。
「ひ、ひぃっ! フリーダ様ぁ!」
最初は、ミサキの恐怖の余韻もあって、男たちは悲鳴を上げてビビり散らしていた。
だが、フリーダのその圧倒的な美しさと、黒革に包まれたGカップの質量、そして容赦のない罵声とムチの風切り音を浴び続けるうちに――男たちの脳内のドーパミンが限界を突破し始めたのだ。
「ま、待てよ……なんか、悪くないな……」
「フリーダ様のムチが……! うおおおお、もっと! もっと罵ってください!!」
「手が止まったら、また打ってくれるんですか!? うおおおおお!!」
男たちはだんだん、恐怖ではなく、その支配を自ら求めて狂喜乱舞し始めた。
かつてない高揚感に包まれた作業員たちは、一糸乱れぬ超高速で魔導ミシンを回し、通常の3倍に達する爆発的な生産性を実現していく。
ドンッ!!
その時、工場の重厚な扉を蹴破って、一人の女性が近衛兵を引き連れて堂々と入ってきた。
銀色の長髪に、氷河のように冷徹な蒼い瞳。
ヴォルガ帝国の頂点に立つ「氷の女帝」、ヒルダ陛下その人である。
工場の稼働状況を聞きつけて視察に訪れたらしい陛下は、黒革のボンテージ姿で作業員をムチ打ちながらこき使うフリーダと、それを嬉々として受け入れる男たちの姿を見て、一瞬だけ驚きに目を見開いた。
だが、次の瞬間には、腹を抱えて大笑いし始めたのだ。
「素晴らしい! 男どもを恐怖と快楽で支配し、これほどの生産性を叩き出すとは! さすがは我が軍事国家ヴォルガの女性だ、実に誇らしいぞ!」
女帝は大絶賛し、フリーダの肩を叩いて称えた。
「フリーダが……俺のなめし革をそんな風に使いこなし、陛下に褒められるとは……! これぞ我が一族の至高の技術!」
ガストンも、なぜか涙を流して大感動している。
(……完璧だ。完璧……なのだろうか? 生産効率は当初の予定を遥かに超えているし、納期が縮まるのは職人としてありがたい。だが、女性の肉体を解放した結果、工場が一つ、健全な奴隷工場へと調律されてしまった。……まあ、誰もが幸せそうだから良しとしよう)
俺は、完全に独自の進化を遂げたアイゼンガルド工場の熱気の中で、紳士の顔で静かにコーヒーを啜るのだった。
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