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異世界ランジェリー・メーカー ~女性下着会社の社長と社員が転移したので、極上の下着で異世界の美女たちをコーディネートします~  作者: フシサバ


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第21話 極寒の鉄鋼都市と、ミサキの精神粛清

オフィスビルから差し込む陽光が視界を真っ白に染め上げた、あの運命の日からどれほどの時が経っただろうか。

ロズタリア王国の若き女王セシリアをファンに変え、堅物の魔導研究所長エリザの肩こりを溶かし、服飾ギルドと技術提携を結び、狂信的な聖教会を『イノセント・ホワイト』の美徳で跪かせ、アラクネの糸で花嫁たちの夢を紡ぎ、あまつさえ世界を滅ぼそうとしていた魔王イザベラの誇りすらも、俺の仕立てた一枚のチェストバインダーで救ってみせた。

気がつけば、俺――ソウイチロウが率いる「株式会社トリップ・トラップ」は、この異世界において、単なる迷い人の下着屋から、国家をも動かす一大魔導アパレルブランドへと成り上がろうとしていた。

だが、職人の歩む道に、完成という名の終着駅は存在しない。


「さあ、皆さん。出発の準備を。今日からはヴォルガ帝国の『アイゼンガルド工場』の立ち上げです。お二人の新しい力、存分に振るってもらいますよ」


前日、職業ギルド総本部で正式なジョブを授かり、その直後に秘書――ミサキの恐るべき『リミッター解除』を目の当たりにしたばかりの俺は、居住まいを正して社員たちに号令をかけた。

セシリア陛下のご厚意で手配された、王城特設の転移魔法陣が起動する。

網膜を焼き潰すような光の奔流が収まった瞬間、俺たちの身体は、ロズタリアとは完全に異なる『理』の支配する大地へと、分子レベルで再構成されていた。


「――うっわ、マジ何これ!? 寒っ! てか溶ける! あたしのメイクどころか、細胞ごと全部凍るんだけど!」


転移した瞬間、鼓膜を震わせたのは、デザイナーであるチサの、悲鳴に近い絶叫だった。

そこは、北の軍事大国ヴォルガが誇る、黒煙と万年雪に包まれた無骨な鉄鋼都市――アイゼンガルド。

空を覆うのは優雅な青空ではなく、巨大な魔導高炉から吐き出される灰色の煙。

そして、肌を刺すのは、吸い込むだけで肺が凍りつきそうな極寒の空気だ。

そんな過酷な環境だというのに、チサの服装はといえば、おへそが出る短いキャミソールに、ダメージ加工の短パンジーンズ、足元は厚底サンダルという、いつもの「常夏スタイル」のままだった。


「チサさん、だから言ったでしょう。あらかじめ防寒着を用意しておくように、と」


手帳を片手に、眼鏡の位置を直しながら冷静にたしなめるのはミサキだ。

彼女は露出の少ないタイトなオフィススーツを隙なく着こなしているが、その下には先日自らモデルを務めた純白の『イノセント・ホワイト』を纏い、背筋を凛と伸ばしている。


「だってー! 冬用のコートとか、ウチの可愛いデザインの邪魔じゃん! ……って、マジで無理ぃ、社長ぉ……」


ガタガタと歯を鳴らし、涙目で俺の腕にすがりついてくるチサ。

薄いキャミソールの布地越しに、寒さでキュッと凝縮された彼女の豊かなバストの質量が、俺の上腕へとダイレクトに押し付けられる。


(……ふむ。不謹慎だが、悪くない光景だ。極寒の地だからこそ、暖を求めて身を寄せ合う女性たちのシルエットには、春夏の開放感とはまた違う、冬ならではの極上の造形美と切実な『見せない色気』が宿っている。寒さで赤くなった耳たぶも、実に素晴らしいパーツだ)


(……冬ならではの極上の造形美だな)


内心で喝采を上げつつも、俺は紳士としての完璧な微笑みを崩さずにコートを差し出した。


「チサさん、私のフロックコートを貸しましょう。カオリさん、ユウさん、体調は大丈夫ですか?」


「ええ、社長。私は『戦闘モード』のジャケットを羽織っていますから平気ですわ。それより……どうやら、歓迎されている雰囲気ではありませんね」


広報担当のカオリが、艶やかな髪をかき上げながら、工場の奥へと視線を向けた。

パタンナーのユウは、無言のまま愛用の裁ちばさみをケースの上から愛おしそうに撫で、その氷の女王のような佇まいに、いつも以上の殺気(職人気質)を孕ませている。

女帝ヒルダ陛下の直命によって建設されたトリップ・トラップのヴォルガ第一工場。

最新の魔導ミシンが搬入されているはずの広大な作業場には、すでに数十人の現地職人たちが集まっていた。

だが、工場の生産ラインは完全にストップしている。

それどころか、作業台の上には、縫製がガタガタに歪んだ、見るも無惨な『戦乙女の抱擁』の不良品が山積みにされていた。


「ハッ! はるばるロズタリアから、御大層な下着屋の御一行様がお着きだ。……だが、見ての通りだ、ソウイチロウ殿」


工場の最奥から、地響きのような足音と共に歩み出てきたのは、長年の職人仕事で節くれ立った巨体を持つ老人だった。

彼の名はガストン。

ヴォルガ帝国軍需物資統括ギルド『黒鉄の顎(アイアン・ジョー)』の長であり、このアイゼンガルドの全職人を牛耳る頑固一徹な老職人だ。

彼の背後には、祖父の威圧感に怯えるように、一人の若い女性が直立不動で控えていた。

名を、フリーダ。

二十歳前後の、真面目そうな目元をした工場の現場監督だ。

彼女は無骨な軍用の防寒毛皮を幾重にも着込んでいるが、そのあまりに分厚い着こなしは、寒さのためだけではない。

男装に近いその無骨な衣服の下で、彼女の非常に豊かなプロポーションが、サイズの合わない硬い「軍用さらし」によって無惨に押し潰され、痛みに耐えていることを、俺のフィッターとしての目は瞬時に見抜いた。


「ガストン殿、これは一体どういうことでしょうか。機械の不具合ですか?」


俺が冷静に問いかけると、ガストンは鼻を鳴らし、机の上の不良品を叩きつけた。


「不具合? 違うな! 我がギルドの誇る魔導ミシンに、構造的な欠陥などあるはずがない! 要するに、貴様らの持ってきた設計だかが、この極寒のヴォルガの理に合っていないのだ!」


ガストンは不良品のインナーを引き裂かんばかりに引っ張り、吐き捨てるように言った。


「我が国の武具は、分厚いなめし革と鋼で衝撃を真っ向から受け止めるのが伝統だ! 貴様らが持ち込んだ『ミスリル弾性フレーム』とやらは確かにしなやかだが、この寒さで革が縮めば、フレームの復元力と喧嘩して縫い目が弾け飛ぶ! ロズタリアの女子供のチャラチャラした薄布の技術など、この極寒の鉄鋼都市では通用せんのだよ!」


ガストンの煽りに、周囲の現地職人が「そうだ!」「さっさと王都へ帰りな!」と一斉にヤジを飛ばし、ボイコットの構えを見せる。

なるほど、分かりやすい嫌がらせだ。

不良品の原因は型紙ではない。

彼らが仕込んだ物理的、あるいは魔術的な『細工』だ。


「……社長。お任せを」


一歩前に出たのは、ユウだった。

彼女の瞳は、昨日ギルドで『魔導機工師』のジョブを得たことで、かつてないゾーンへと突入している。

ユウはガタガタと異音を立てる魔導ミシンの前に立つと、表情を一つ崩さず、その白く繊細な掌を機械の主機へと直接かざした。


「――同調(シンクロ)。反発魔力の、浸透を確認。……排除します」


彼女の指先から、藍色と赤が混ざり合った濃密な魔力が、紋様を描くことなく機械の内部へと吸い込まれるように『浸透』していく。

次の瞬間だった。

「パキィィィン!!」と、鼓膜を裂くような高い硬質な音が響き、魔導ミシンの内部で、ガストンが隠して仕込んでいたハッキング用の「不正魔力コア」だけが、ピンポイントで粉砕されたのだ。


「な、何だとっ!?」


ガストンが目を見開く。

ハサミを抜いたユウの動きは、もはや人間のそれを超えていた。

ジャキン、ジャジャキン!と硬質な音が鳴り響く中、彼女は機械を自身の神経の一部と同化させ、極限の精度で操作・調整を行う。

異音を立てていたミシンは、澄んだ駆動音へと上書きされ、見たこともない超高速で動き出した。

ユウはその場の手縫いと機械操作を阿吽の呼吸で融合させ、数秒のうちに、寸分の狂いもない完璧な『戦乙女の抱擁』のパーツを量産してみせたのだ。


「ば、馬鹿な……。回路の分解もせずに、中の魔導構造を直接繋ぎ直したというのか……!?」


ガストンが絶句し、孫娘のフリーダも「なんて精密な魔力制御……」と息を呑む。

だが、嫌がらせの根は深かった。

技術の差を見せつけられてもなお、ガストンの息がかかった作業員たちは、ニヤニヤとだらけた態度を崩さない。


「けっ、機械が動いたところで、俺たちの息が合わなきゃ下着なんて縫えねえよ。この極寒の中だ、手元が狂って不良品が出ても、俺たちのせいじゃねえからな」


あからさまにサボろうとする男たち。


「……不協和音《ノイズ》が、多すぎますわね」


凛とした、冷ややかな声が響いた。

ミサキだ。

彼女は工場の中央へ歩み出ると、足元から柔らかな黄金の光を溢れさせ、幾重にも重なる『波紋』として工場全体へ広げようとした。

新ジョブ『調律師』の力で、だらけた作業空間と人員配置を最適化しようとした、その時だった。

ガストンの放った、不正コアの粉砕による魔力の残滓が、突風となってミサキの顔を襲った。


「あっ――」


チサが声を上げた瞬間には、ミサキの顔から、あの知的なトレードマークである眼鏡が弾け飛び、凍りついた床を激しく転がっていた。

しまっ――、と俺が叫ぶよりも早く、世界のピントが白熱する。

眼鏡を失い、髪のピンが風で解け、漆黒の髪が肩へと流れ落ちる。

その瞬間、ミサキから発せられていた穏やかな黄金の光は一瞬で消失した。


「――ふん。だらけきった、不完全なゴミ虫どもが」


工場の気温が、さらに数十度下がったかのような錯覚を覚えるほどの、冷徹で傲慢な声。

視力を遮断され、奥底に眠る『東洋の聖女』としての全能感と自信が解放されたミサキは、焦点の合わない深い黒曜石の瞳で、だらけた作業員たちを冷たく見下ろした。


「調和など、まどろっこしい。不協和音を立てる不確かな存在は、すべて真っ白な『無』に戻して差し上げましょう。……跪きなさい」


彼女がそう呟いた瞬間、調律師の適性が白の破壊衝動へと過剰変貌を遂げた――【絶対平穏の聖域《サイレント・ディソナンス》】が発動する。


「ひ、ひぃっ!?」


ミサキを中心に、空間そのものを白濁させるほどの強烈な純白の閃光が爆発した。

その光に触れた瞬間、さっきまでヤジを飛ばしていた頑固な作業員たちが、魂を吸い尽くされたかのように直立不動となり、よだれを垂らしながら白目を剥いて、完全に『だらけきった無』の虚無人形へと書き換えられていく。


「ミサキさん、ストーーーップ!! それ以上やったら工場ごと真っ新な更地(無)になっちゃうから!」


チサが悲鳴を上げる中、俺は決死の覚悟で凍った床を滑り込み、転がっていた銀色のフレームを掴み取ると、破壊の女神と化したミサキの顔面へと叩きつけるように眼鏡を装着した!

刹那、荒れ狂っていた白濁の嵐が、霧散するように消え去る。


「……ハッ! し、失礼いたしましたわ。少々、作業環境を整えすぎました」


ハッと我に返り、震える指で眼鏡を直すミサキ。

そのあまりの恐怖の光景に、自我を取り戻した作業員たちは「何でもしますぅぅぅ!!」と涙目で悲鳴を上げ、一糸乱れぬ超高速でミシンに向かって作業を再開した。その完璧な噛み合い方は、まるで精密な時計仕掛けのようだった。


「……わ、私の負けだ。ロズタリアの職人よ、これほどの『怪物』たちを従える貴様の力、認めざるを得ん……」


ガストンは完全に戦意を喪失し、真っ白な灰のようになって作業台にへたり込んだ。

だが、俺は彼を嘲笑うような真似はしない。俺は彼の前に歩み出ると、彼の手が作った無骨だが完璧な『なめし革』の軍装を手に取った。


「ガストン殿。私は、あなたのこの『なめし革』の高い技術を、心から素晴らしいと感じています。これほど強靭で、かつしなやかな革は、ロズタリアのギルドでもお目にかかれません」


「なに……?」


「私は思いついたのです。我がトリップ・トラップの新しいラインとして、あなたのなめし革技術をふんだんに活かした、レザー系の新商品を開発したい。たとえば、極寒の地でも体温を逃がさない『高級レザー調補整インナー』や、ガーターベルトの革パーツ。これらを、あなたと共に創り上げたいのです」


「我が、技術を……下着に……?」


職人としての本能を刺激されたガストンの目に、再び光が宿る。


「ええ。伝統あるギルドの長には、技術顧問として現場の職人たちの指導に専念していただきたい。そして――」


俺は、背後で緊張のあまり直立不動になっている、孫娘のフリーダを振り返った。


「これからのアイゼンガルド工場を引っ張る責任者(代表)には、お爺様の技術と、最新の魔導工学を誰よりも理解している、フリーダさん。あなたを指名します」


「えっ……わ、私が、責任者に……!?」


フリーダは驚き、そして涙を流して俺に感謝の言葉を述べた。

古い男尊女卑のギルドで、ずっと抑圧されていた彼女の才能が、いま解放された瞬間だった。


「素晴らしい。生産ラインも、人员配置も、これ以上ないほど完璧だ」


俺は満足げに頷いた。だが、俺の『本当の業務(フィッティング)』は、ここからが本番だった。

俺の視線は、喜びと緊張で胸元を激しく上下させている、フリーダのボディラインへとネッチリと注がれていた。


(……ふむ。アンダー65、トップは推定90のGカップといったところか。だが、彼女はその豊満さを恥じる祖父の視線と、男社会の軍需ギルドで生き抜くために、分厚なさらしで無理やり胸を押し潰し続けている。肉質は、この地のなめし革のように強靭でありながら、驚くほど極上の柔らかさを秘めているというのに、あれでは血流が完全に停滞し、身体が悲鳴を上げているぞ。非常にもったいない……!)


俺は紳士的な微笑みを浮かべ、彼女の手を優しく握った。


「フリーダさん。我が社の代表となるからには、まずはあなた自身が、その『苦痛(サイズの合わない軍なさらし)』から解放され、本当の美しさを知らねばなりませんね。……さあ、工場の奥のVIPルームへ。私の『手』で、あなたを生まれ変わらせて差し上げましょう」


「は、はい……っ」


祖父ガストンの目の前で、孫娘フリーダの、最高峰のなめし革のような極上肌への『特別指導《フィッティング》』が、いま幕を開けようとしていた――。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!


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