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異世界ランジェリー・メーカー ~女性下着会社の社長と社員が転移したので、極上の下着で異世界の美女たちをコーディネートします~  作者: フシサバ


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第19話 混じり合う色と、二人の誓い

「皆さん、今回はお手柄でした。ある意味、世界を救う手助けをしたとも言えます。ミサキさん、おかげで魔王様との商談も、これ以上ないほど円滑に進みましたよ」


社長に名前を呼ばれて、私は我に返った。


「……あ、申し訳ありません、社長。身に余る光栄ですわ。皆様が無事に戻られたことが、私にとっては何よりの報酬です」


「どうしました? 考え事ですか?」


社長の穏やかな眼差しが、私の眼鏡の奥を覗き込む。

私は、あの王城の工房で見た光景を思い返していた。

虚空の蜘蛛糸という、物理法則をあざ笑うような素材。

その次元の揺らぎを魔力で押さえ込み、現世の『針路』へと繋ぎ止めてみせた魔導織手、ユーフェミア様の神業を。


「……いえ、少し。我々もこの世界のことわりに沿って、何かしらのスキルやジョブを身に着けた方がいいのではないかと思いまして。今の私では、社長が挑む『究極』の隣に立つには、あまりに無力だと痛感したのです」


私の言葉に、社長は優しく目を細め、ゆっくりと首を横に振られた。


「謙遜しなくてもいいですよ、ミサキさん。あなたの細やかな気配りや接客の技術は、すでに私にとってかけがえのないものです。ですが……『この世界の理に沿ったスキル』という視点は面白いですね。我々の技術をさらに引き上げるヒントがあるかもしれない。たしか、メインストリート沿いに職業ギルドの総本部があったはずです。一度、行ってみましょうか」


とはいえ、今すぐ全員で、というわけにはいかなかった。

魔王城から持ち帰った特殊素材の保管や、エリザへの納品報告書の作成など、社長にはまだ片付けるべき仕事が山積みだからだ。


「社長、もしよろしければ、私とユウさんで先に様子を見て参りますわ。登録に必要な手続きを確認しておけば、後で皆様をご案内する際もスムーズでしょう?」


「なるほど、それは非常に助かります。では、お二人の分と、後ほど私たちが伺う際の手続きについて、下調べをお願いしてもよろしいでしょうか?」


「はい、承知いたしました」


隣で無言のまま指先を動かしていたユウさんが、短く「……了解」と呟く。

私たちは社長に見送られ、王都のメインストリートを北へと歩き出した。


 ◇


王都ルミナステラの中心部。

そこに鎮座する『職業ギルド総本部』は、この世界のあらゆる「職」を司る心臓部だった。

白亜の石材で造られた巨大な円形の大聖堂のような佇まいだが、入り口の装飾には剣や杖だけでなく、槌や針、秤といった、人が生きていくために編み出してきたあらゆる道具の意匠が刻まれている。


重厚な扉を押し開けた先に広がる大ホールには、天を仰ぐ巨大な女神像が鎮座していた。

その神々しさに圧倒されつつも、私とユウさんは連れ立ってカウンターへと歩み寄った。


「いらっしゃいませ。本日は『ジョブ』の登録、あるいは適性の確認でしょうか」


対応したのは、理知的な雰囲気の女性職員だった。私は一礼し、穏やかに問いかけた。


「失礼いたします。こちらで正式なジョブを授かりたいと考えているのですが、どのような手順を踏めばよろしいのでしょうか?」


私の問いに、彼女は一瞬、時間が止まったかのような顔をした。


「……何から、とおっしゃいますと? 既にどの系統の適性があるかはご自身で把握されており、登録の儀式を希望される、ということではないのですか?」


「お恥ずかしい話ですが、その『系統』というものが何なのか、私たちはまだ存じ上げないのです。一からお教えいただけると助かりますわ」


私の答えに、彼女は目を丸くした。

この世界では、幼い子供ですら自分の魔力特性を学校教育などで学ぶのが当たり前のようだ。

しかし、彼女の視線が私の襟元にある「トリップ・トラップ」の紋章に留まった瞬間、得心がいったように表情を和らげた。


「……失礼いたしました。もしや、噂の『トリップ・トラップ』の方々でしょうか? 異界から来られたという……」


「ええ、仰る通りですわ。私たちはそちらの店で働いております」


「なるほど、道理で。情報が集まるこの場所では、皆様のことは既に有名ですよ。……申し遅れました、私はこの総本部の登録管理官を務めております、クラリスと申します。承知いたしました。では基本的なことからご説明しましょう。この世界の住人なら誰もが知る、魂の理についてを」


 ◇


クラリスさんはカウンターに、二枚の半透明な、曇りガラスのような魔導紙を置いた。

そして、背後の女神像を仰ぎながら、静かに語り始めた。


「あの神像は、唯一の守護女神ヴェルサリア様です。彼女は人に、五つの『系統』と三つの『紋』を授けました。この魔導紙に一定時間、手のひらを置いていただくと、そこに貴女方の魂が描く『手形』が浮き出ます。その色と紋様によって、適性が判別できるのです」


そう言って彼女は、『系統』と『紋様』の分類が記された解説板を見せながら続けた。


■ 五つの『系統』(色)

赤:強化(対象の性質を強める)

青:操作(対象を自在に動かす)

黄:調和(対象と馴染み、波長を合わせる)

白:治癒(対象を本来の姿に整える)

黒:破壊(対象の因果を書き換える)


■ 三つの『紋様』(指向性)

螺旋(渦):循環……魔力が内側に留まる。

波紋:放出……魔力が外へと広がる。

浸透(紋様なし):融合……魔力が対象物と一体化する。


「例えば、『赤い螺旋紋様』が浮かび上がれば、自身の身体能力を強化することに長けた、戦士や騎士といった前衛職に適性がある……ということになりますね」


「なるほど。つまり、基本的には五つの系統と三つの紋様の組み合わせで、15通りの適性があるということでしょうか」


私の要約に、彼女は「その通りです」と深く頷いた。


「大分類としては左様でございます。ですが、稀に複数の色が混ざり合う『混合色』や、複数の紋様が重なる『混合紋』が発現する方もいらっしゃいます。例えば、赤と青が混ざった紫であれば、操作対象を強化しながら操るような、より複雑なジョブへの道が開けます。また、発色の濃淡はそのまま魔力の総量を示しますわ」


彼女はさらに声を潜め、補足するように付け加えた。


「極めて稀ですが、これらの法則に一切則らない変則的な形質を見せる方や、特定の条件下――例えば感情の高ぶりや、魔道具などの触媒によって全く異なる色や紋様を発現される方もいらっしゃいますね」


「かなり、複雑なのですね……。まるで、一人ひとりの人生をそのまま映し出す鏡のようですわ」


 ◇


静寂が、私たちの間に落ちた。

差し出された魔導紙の冷たく、どこか頼りなげなその半透明の表面に、私は意を決して掌を重ねた。

隣ではユウさんも、ただ一点を見つめ、静かに手を置いた。


彼女の指先がわずかに震えている。

あの日、ユーフェミア様の神業を目の当たりにしてから、彼女は自分に何ができるのかを、ずっと自問し続けていたのだ。


数秒ののち、魔導紙の内側から「光」が溢れ出した。


まず変化を見せたのは、ユウさんの手元だった。

曇りガラスの奥底から、深い青色が染み出していく。

しかし、それは単一の色ではなかった。

中心部から、まるで心臓の鼓動に呼応するように、熱を孕んだ赤が脈動しながら混じり合っていく。


二つの色は鮮やかな「紫」へと昇華されることなく、互いの存在を主張しながら複雑に絡み合った。

そしてその魔力は、表面に螺旋も波紋も描くことなく、吸い込まれるようにガラスの深層へと『浸透』し、消えていった。


「…………」


ユウさんは、無言のままその手元を見つめていた。

紋様がない。

すなわち、自分は対象物に魔力を浸透させる『融合』の指向性を持っている。

彼女はその事実を、まるで新しい設計図を読み解くかのような、ひりつくような集中力で受け入れていた。


そして私の掌の下からも、変化が始まった。

曇りガラスを黄金の光板に変えるような、鮮烈な黄色が溢れ出したのだ。

その光は、静かな水面に投げ込まれた石が描く「波紋」のように、幾重にも重なりながら、魔導紙の端まで力強く広がっていく。


「……信じられない。これほどの、密度……」


クラリスさんが、椅子を鳴らして立ち上がった。

その瞳には、驚愕の色が浮かんでいた。


「お二人とも、魔力の密度が……色の濃さが尋常ではありません。これほど鮮明な発色は、長年ここに勤めていても滅多にお目にかかれるものではありませんわ」


彼女は眼鏡をかけ直し、食い入るように二人の魔導紙を観察しながら解説を続けた。


「ユウ様の適性は『青の操作』と『赤の強化』。それが反発することなく混ざり合い、かつ『融合(紋様なし)』として発現しています。これは……ご自身の精神を研ぎ澄ますことで、触れる対象物と深く同化し、極めて精密に制御することに長けた適性だと言えるでしょう」


ユウさんは、じっと自分の掌と魔導紙を見つめていた。


「……操作と、強化。……融合。……これなら、あの日見たものを形にできる」


短く、けれど確信に満ちた言葉。

彼女の脳裏には、おそらく今後の製作過程における具体的な活用方法が、いくつも浮かんでいるのだろう。


「そしてミサキ様の適性は『黄の調和』。それが『放出(波紋)』として現れています。周囲の環境や、あるいは複数の対象に対して、波長を合わせ、全体を調律するような活動において、驚異的な力を発揮されるはずです」


全体を調律する。

……それが今の私の仕事に、どう関わってくるのか。

具体的な答えはまだ出ない。

けれど、掌から伝わる黄金色の温かさは、どこか誇らしげに私の心を満たしていた。


「……ミサキさんも。黄色の、波紋……綺麗。……二人で、支える」


「はい。共に行きましょう。私たちのこの適性が、社長の歩む道を照らす『光』となることを信じて」


私たちは、まだ熱を帯びたままの魔導紙を手に、自らの可能性を正式に記録するべく、クラリスさんの案内でギルドの奥へと足を進めた。

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