第13話 復活の勇者パーティと、救世のランジェリー
カオリの懐には、ヒルダから支払われた莫大な前金が入っている。
素材に妥協はない。
ヴォルガに建設した工場からは、軍用規格の頑強な生地が届き始めており、それらは今、勇者パーティという過酷な環境に身を置く女性たちの『基布』として活用されていた。
【ケース1:女騎士レオナ】
最初に試着室に入ったのはレオナだった。
先ほどまでの威勢の良さはどこへやら、彼女はカーテンの陰でモジモジと動かずにいた。
「レオナ様? どうされました?」
「う、うるさい! 今……心の準備を……!」
衣擦れの音と共に、重い鎧が床に置かれる音がする。
数分後、ようやく観念したように彼女が姿を現した。
だが、その腕は自身の身体を隠すように強く抱きしめられ、顔は耳まで真っ赤だった。
「……み、見るな。こんな……傷だらけで、可愛げのない肌……男に見せるものじゃない……ッ」
彼女の肩や背中、そして胸の下のラインは、重い鎧とインナーの擦れ跡で赤くただれ、見るからに痛々しい状態だった。
誰よりも強さを求められた彼女が、人知れず抱えてきた代償だ。
「いいえ、これは貴女が戦ってきた勲章です。……ですが、これからはもう、傷つく必要はありません」
俺は新作『騎士の休息』を手に取り、彼女の前に跪いた。
「失礼します。少し、冷たいですよ」
「ひゃっ!? ち、近……っ!」
俺が生地を肌に滑らせると、レオナがビクリと肩を跳ねさせた。
アラクネの糸にポーションを染み込ませた、湿り気のある特殊生地は、毛細管現象により、汗を吸い上げ、即座にポーション成分と入れ替える。
それが炎症を起こして過敏になった肌に触れ、彼女は悲鳴に近い声を上げた。
「あ……んっ! つめた……っ! な、ななな何をする気だ貴様!」
「肌に密着させないと効果が出ませんので。……動かないでください」
俺は狼狽える彼女の背後に回り、インナーの中に両手を潜り込ませた。
職人の指先が、ただれたアンダーバストのラインを直接なぞる。
「ひぁっ!? ば……っ! そこ、直接……!? だ、だめだ! 男にそんなところ、触られたこと……っ!」
レオナがパニックになり、俺の手を振りほどこうともがく。
だが、俺は冷静に、しかし力強く彼女の身体を支えた。
「暴れないでください。……ここが一番痛むのではないですか?」
俺は指の腹で、硬化した筋肉の筋を捉えた。
魔法でもスキルでもない。
何千、何万という女性の身体を見て、触れてきた経験だけが教える「解」だ。
俺はそこを、絶妙な力加減で揉みほぐした。
「あ……ぅ……っ!?」
レオナの抵抗がピタリと止まる。
「くぅ……んくぅ……っ! 指が……熱い……! 痛いのに……気持ちいい……っ!?」
「力を抜いて。呼吸を止めると、筋肉が固まりますよ」
俺はさらに、脇の下のリンパ節へ指を滑らせた。
「ひぃっ! わ、脇はだめ……っ! そこ弱いの……っ! あ、ああっ!」
もはや騎士の威厳はない。
彼女はガクガクと膝を震わせ、俺の胸に凭れかかってきた。
熱を帯びた吐息が、俺の首筋にかかる。
「はぁ、はぁ……っ! おかしく……なる……っ。こんな……男の人に、こんなに優しくされたら……私……っ」
強気な女騎士が、真っ赤な顔で涙目になり、恥ずかしさと快感に翻弄されている。
俺は仕上げにストラップを直し、彼女を鏡の前に立たせた。
「目を開けて、鏡をご覧ください。……これが、本来の貴女です」
恐る恐る目を開けたレオナが、鏡の中で息を呑む。
そこに映っていたのは、淡いピンク色に包まれ、上気した顔で潤んだ瞳を向ける、あどけない少女のような姿だった。
【ケース2:魔導師マリナ】
次はマリナだ。
彼女は試着室のカーテンを少しだけ開け、疑わしそうな目で俺を睨みつけていた。
「ねえ、本当に……本当に凄いの? あたし、子供だましは嫌いよ。もし効果がなかったら、ファイアボールでこの店ごと黒焦げにするからね」
強気な言葉とは裏腹に、その手は新作『小悪魔の誘惑』をギュッと握りしめている。
期待と諦めが入り混じった、複雑な乙女心だ。
「お任せを。私の手にかかれば、『無い』ものを『在る』ようにできます。……さあ、中へ」
彼女が渋々とブラジャーを装着する。
カップの下には、人肌に温めた特製『スライムゲル』が内蔵されている。
「……ん。なんか、ぬるっとしてて変な感じ。それに、やっぱりスカスカじゃないのよ!」
マリナが不満げに声を上げる。
当然だ。
ただ着けただけでは、彼女のささやかな胸はカップに収まりきらず、隙間ができてしまう。
「失礼。ここからは私の技術が必要です。……少し、強引にいきますよ」
俺は彼女の背後に回り、有無を言わさず脇の下に手を回した。
「えっ、ちょっ……なに!?」
俺の手が、彼女の薄い背中や脇腹にある、わずかな脂肪(お肉)をガシッと掴んだ。
痩せ型の彼女には、集めるべき肉も少ない。
だが、職人の目は見逃さない。
肋骨の間に埋もれたわずかな柔らかさを、根こそぎ掻き集めるのだ。
「んぎゃっ! い、痛っ……そこ、お肉なんてないわよ!」
「あります。貴女の身体は柔らかい。正しく導けば、全て胸になります」
俺は掴んだお肉を、グイグイと、まるで粘土を捏ねるようにカップ内へと流し込む。
素肌と素肌の摩擦。
そしてスライムゲルの、吸い付くようなヌリュッとした感触が、彼女の未成熟な胸を包み込む。
「あ、あぁっ……! そんな……捏ねないでぇ……っ! ヌルヌルして……変な感じするぅ……っ!」
異物感と、男の手による直接的な接触。
マリナの身体がビクンと跳ねる。
「いい感触です。スライムと貴女の肌が一体化していますよ。……逃がしません」
俺はさらに深く、カップの中に手を突っ込んだ。
下からバストをガッシリと持ち上げ、親指でデリケートな乳腺周りを刺激しながら、集めた肉を定着させる。
「ひぃっ! 中! 手、入ってる!乳首さわっ……あぁんっ!」
マリナがへなへなと崩れ落ちそうになるのを、片腕で支える。
顔を真っ赤にして、涙目で俺を睨むが、その瞳は潤んでいる。
「ひどい……こんな、いじくり回して……! あたし、お嫁にいけな……」
「見てください、マリナ様。魔法の完成です」
俺が手を離し、鏡を指差す。
彼女がおずおずと視線を上げると――そこには信じられない光景があった。
黒と紫のレースの間に、深くて柔らかそうな「谷間」が生まれていたのだ。
スライムゲルの体積と、集められた自身のお肉が融合し、見事な曲線を描いている。
「えっ……嘘……? ある……あたしにも、谷間が……!」
マリナは鏡に張り付き、信じられないものを見る目で自分の胸を凝視した。
「動いてみてください。スライムが動きに追従し、フルフルと揺れますよ」
言われるままに、彼女が小さくジャンプする。
ぷるん、と。これまで微動だにしなかった胸元が、魅力的な質量を持って揺れた。
「うそ……重量魔法も使ってないのに……物理法則だけで揺れてる……!」
「ええ。スライムゲルが貴女の魔力に反応し、理想の肉体密度をシミュレートしているのです。もはやこれは、貴女の肉体の一部と言っても過言ではありません」
マリナは鏡の前で自分の胸を鷲掴みにし、恍惚の表情を浮かべた。
その顔は、賢明な魔導師のそれではない。
念願の「女の武器」を手に入れた、一人の女の子の顔だった。
【ケース3:聖女エリーディアの場合】
最後はエリーディアだ。
彼女は試着室の椅子に力なく座り込み、虚ろな目で天井を見上げていた。
「……店主様。もう、煮るなり焼くなり好きにしてください。抵抗する気力もありません……」
聖女としての威厳は欠片もない。
ただの疲れ切った一人の女性がそこにいた。
「では、お言葉に甘えて。……貴女を天国へご案内します」
俺は『聖女の慈愛』を手に取り、彼女の身体に通した。
純白に金糸を織り込んだ生地は、彼女の肌に吸い付くように馴染む。
背中のクロス構造が、猫背気味に丸まっていた彼女の背筋を、強制的に、しかし優しく引き上げた。
「……あ。勝手に、背中が伸びる……?」
「ここからです。失礼」
俺は彼女の背後に回り、磁気鉱石が埋め込まれた脊柱起立筋のラインに、両手の親指をゆっくりと、深く押し込んだ。
「あ゛っ!!♡」
聖女らしからぬ、野太い快声が狭い個室に響いた。
「こ、ここ……! そこです……! 鉄板が入っているみたいに、ずっと痛かった場所……!」
「ええ、岩のように凝り固まっていますね。これでは祈りも届きません」
俺は容赦なく指を沈める。
微弱な電流を帯びた鉱石と、俺の職人としての指圧が反応し、彼女の深層筋肉を内側から焼き溶かすような熱が広がる。
「あ、あ、あ……っ! 熱い……! 背中が、溶けちゃう……っ! 神様ぁ……っ!」
「神に祈る必要はありません。今は私に身を委ねてください」
俺はさらに、彼女の華奢な首筋から肩にかけて、溜まりに溜まった老廃物を流すように撫で上げた。
ゴリゴリと音を立てていた筋肉が、熱を持ったバターのように溶けていく。
そのあまりの気持ちよさに、エリーディアは白目を剥きかけている。
聖女の仮面などとうに剥がれ落ち、彼女は涎を垂らしながら、『ひぐっ、んあっ、あひぃっ♡』と、言葉にならない矯声を上げ続けている。
「ほぁぁ……っ♡すごい……抜けるぅ……っ! 悪いものが、全部出ていくぅ……っ!」
彼女の身体がガクガクと痙攣し、俺の腕の中で脱力する。
全身の血行が劇的に良くなり、蒼白だった彼女の肌が、見る見るうちに桃色に染まっていく。
「血が巡り始めましたね。……鏡を見てください」
俺が耳元で囁くと、彼女はトロンとした瞳で鏡を見た。
そこに映るのは、疲労困憊の聖女ではない。
上気した頬と潤んだ瞳、そして艶めかしい表情を浮かべた、色気溢れる美女だった。
「はぁ、はぁ……っ♡ 身体が……ポカポカする……。これなら……いくらでも祈れそうです……」
彼女は俺の手にすがりつき、懇願するように見上げてきた。
「ううん、祈りなんてどうでもいい……。お願い、店主様……。もっと、もっといじめて……。固いところ、全部溶かして……♡」
完全に理性が飛んでいる。
俺は満足げに頷き、最後の仕上げとして、彼女の耳元で囁いた。
「今日は特別ですよ。……さあ、たっぷりと癒やして差し上げましょう」
◇
最後のエリーディアへの施術を終え、俺は試着室から出てきた。
額に浮かんだ汗をハンカチで拭い、カウンターで待つアレンに声をかける。
「お待たせしました、アレン様。全ての『調整』が完了しました」
一時間にも及ぶ施術の間、試着室から漏れ聞こえる艶っぽい声を聞かされ続けていたアレンは、顔を真っ赤にして挙動不審になっていた。
「あ、ああ……。な、なんか凄い声が聞こえてたけど……本当に大丈夫なのか?」
「ええ。毒素を排出する際の、デトックス効果によるものです。……さあ、皆様。準備はよろしいですか?」
俺が手を叩くと、三つの試着室のカーテンが順番に開かれた。
中から出てきた三人の美女たちは、ランジェリーの上からいつもの装備やローブを身に着け直している。
だが、その変化は一目瞭然だった。
肌艶が良く、どこか潤んだ瞳。
そして全身から発散される、満ち足りたフェロモン。
三人は顔を見合わせ、アレンに向かって、これまで見せたことのない妖艶な笑みを向けた。
「アレン。私、もう痛くないぞ。……今夜の宿では、鎧を脱いだ私を……じっくり見てくれるか?」
「ちょっとアレン! 見てよこれ! あたし、もう子供じゃないからね! ……触ってみる?」
「アレン様……ふふ、身体が熱いです。……溢れる回復魔法を、貴方にも分けて差し上げますわ……♡」
先ほどまでの険悪な空気など微塵もない。
あるのは、勇者を喰ってしまいそうなほどの肉食系のオーラだ。
アレンは顔を真っ赤にし、震える手で口元を覆い、男泣きした。
「よ、よかった……! 本当によかった……!!」
感動の再結成だ。俺はアレンの感動に水を差さないよう、そっと彼女たちに近づき、小声で告げた。
「今回ご提供したランジェリーですが、基本的な着用方法は先ほどお教えした通りです。ご自身で着ていただいても、十分な効果を発揮するよう設計してあります。ですが……やはりご自身の手だけでは、細部のポジショニングや、その日の体調に合わせた微調整に限界があります。お困りの際はいつでもご来店ください」
「あ……」
三人の頬が、一斉に朱に染まる。それはつまり、「あの至福の施術をまた受けることができる」という意味だ。
「もちろん、アフターサービスですので代金は結構ですよ」
そう付け加えると、彼女たちも「また触ってもらえる」という悪魔的な誘惑に思わずにやける。
「……絶対に来る。なにがなんでも、クエストをねじ込んで来るわ」
「あたしのスライム……また捏ねてくれるのよね? 違和感なんてなくても来るわ」
「ふふ……二週間……いえ、三日と空けずに参りますわ。次はもっと、奥までほぐしてくださいまし……♡」
彼女たちは熱っぽい視線で俺を見つめ、無言の約束を交わした。
一息置いて、カオリが一枚の羊皮紙をアレンに差し出した。
「勇者様。こちら、今回のオーダーメイド・ランジェリー三着分、および『高度な』フィッティング技術料を含めた請求書になります」
「ああ、構わん! 金で平和が買えるなら安いも……ぶふっ!?」
金額を見たアレンの目が飛び出た。
そこには、一軒家が二つ買えるほどの数字が並んでいたからだ。
だが、彼は振り返り、機嫌よく、そして妖艶に談笑する三人の美女を見て――覚悟を決めたように涙を拭った。
「……払おう。勇者の名にかけて」
◇
こうして、最強ハーレムパーティが再結成された。
店を出ていく彼女たちの足取りは軽い。
彼女たちが魔王を倒す日も、そう遠くはないだろう。
「ありがとうございましたー! またのご来店お待ちしてまーす!」
チサが元気に手を振る。
ミサキは金貨の詰まった袋の重みを感じながら、満足げにしている。
「さて……これで一件落着ですね」
「ええ。勇者一行の広告塔としての効果も絶大でしょう」
カオリが微笑む。だが、ふとユウが在庫棚を見て呟いた。
「……社長。アラクネの糸、今回の件でほとんど使い切ってしまいました。それに、スライムゲルも残りわずかです」
「おや、それは困りましたね。また素材探しの旅が必要ですか」
そんな穏やかな会話をしていた、数日後のことだった。
バンッ!!
とてつもない勢いで、店の扉が開かれた。
飛び込んできたのは――先日よりもさらに頬がこけ、足元がフラフラになった勇者アレンだった。
「て、店主ぅぅぅぅッ!!」
「おや、アレン様。どうされました?商品の不具合でも?」
俺が駆け寄ると、アレンはカウンターにすがりつき、涙ながらに訴えた。
「逆だ! 商品が凄すぎたんだよ! あいつら、自信を取り戻したのはいいんだが……毎晩毎晩、『アレン、私の身体を見て』『私で試して』って部屋に来るんだよ!三人交代で! 朝まで!!」
「……それはそれは、うらやましい限りで。男としては本望なのではございませんか?」
「限度があるだろ! 俺はもう空っぽだ! 膝が笑って剣も握れない!」
アレンはガリガリになった腕を突き出し、悲痛な叫びを上げた。
「頼む、店主! 今度は俺の番だ! 俺の精力を回復させるパンツか、あるいは鉄壁の貞操帯を……! 金なら払う! 俺の問題を取り除いてくれぇぇぇッ!!」
切実すぎる勇者の願い。
だが、俺は申し訳無さそうに眉を下げ、静かに首を横に振った。
「大変申し上げにくいのですが、アレン様」
「な、なんだ!?」
「当店は『女性用ランジェリー専門店』です。……男性用の下着は、取り扱っておりません」
「そんなぁぁぁぁぁぁッ!!」
勇者の絶叫が、王都の空に虚しく響き渡った。
世界の平和は守られたが、勇者の安眠が守られる日は、当分来そうになかった。




