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異世界ランジェリー・メーカー ~女性下着会社の社長と社員が転移したので、極上の下着で異世界の美女たちをコーディネートします~  作者: フシサバ


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第10話 異界の聖女と、白の奇跡

数日後。

工房の作業台には、一着の新作ランジェリーが完成していた。

『イノセント・ホワイト』。

最高級のシルク・コットンを何層にも重ね、透け感を完全に排除した純白の生地。

レースは極小のものを縁取りに使うのみ。

一見すると地味だが、その構造には俺の技術の粋が詰め込まれている。

背中のクロス構造が自然と肩を開かせ、バストを「寄せて上げる」のではなく、「あるべき高い位置で凛と保つ」設計。

着用者の姿勢を強制的に、しかし快適に「聖女」のそれへと矯正する一着だ。


「……完成しましたね。では、ミサキさん。フィッティングルームへ」


「は、はい……」


緊張でガチガチのミサキがカーテンの奥へと消える。

俺も当然のように立ち上がると、背後から社員たちの熱い視線が突き刺さった。


「社長……まさか、入るつもりですか?」


「いーなー。ミサキちゃんばっかりズルい」


「私の時も、あんな風にじっくり見てくれるんですか? 社長」


ユウのジト目、チサの羨望、そしてカオリの少し潤んだ瞳。

怒りと欲望が混在した視線が俺に刺さる。


「最終調整です。完璧な状態でプレゼンに臨まなければ、店が潰れますよ」


俺はもっともらしい理由を告げ、カーテンを開けて中に入った。


「ひゃうっ!? しゃ、社長!?」


下着姿に、プレゼン用の白いドレスを羽織りかけた状態のミサキが身を縮める。

俺は手早くブラジャーのホックを調整し、ストラップの位置を直した。


「ミサキさん、仕上げです。眼鏡を外してください」


「えっ? で、でも……それだと私、何も見えなくて……」


「構いません。日本人の特徴である、艶やかな黒髪と、深い黒曜石のような瞳……。眼鏡という『現代の仮面』を外せば、貴女は誰も見たことのない『異界の聖女』になるはずです」


俺は彼女の返事を待たず、そっと眼鏡を外し、まとめ髪のピンを抜いた。

さらり、と夜の闇を溶かしたような黒髪が肩に流れ落ちる。


(……やはり。視線を遮っていたフレームを外しただけで、これほどまでに印象が変わるとはな。深淵のような瞳に吸い込まれそうだ)


「……ふん。なるほど。世界とは、これほどまでに曖昧で、脆いものだったのですね」


ミサキの声が、低く、冷徹な響きを帯びた。

視界がぼやけたことで、彼女の「羞恥心」というブレーキが外れたのだ。

そこに立っているのは、誰の助けも借りず、ただ一人で世界を跪かせる「絶対的な聖女」の姿だった。


 ◇


聖教会・王都支部。その大聖堂には、ソフィア司教補佐をはじめ、ガレオン司教、そして多くの若いシスターや信徒たちが集まっていた。

彼らは俺たちを見るなり、嘲笑の色を隠そうともしなかった。


「おや、ソウイチロウ様。店を畳む準備ではなく、懺悔にいらしたのですか?」


ソフィアが優雅に扇を使いながら声をかける。

俺は彼女の前に進み出て、恭しく一礼した。


「いいえ。本日は、貴教会の教義を深く理解し、それを体現した『新しい衣服』が完成しましたので、奉納に参りました」


「新しい衣服? どうせまた、ふしだらな布切れでしょう?」


ソフィアが鼻を鳴らす。

周囲のシスターたちも、「汚らわしい」「神聖な場所なのに」とひそひそ話している。

俺は動じることなく、入り口の方を指し示した。


「論より証拠。……どうぞ、ご覧ください。遠き異邦より舞い降りた『聖女』の姿を」


重厚な扉がゆっくりと開き、光と共に一人の女性が歩み入ってきた。

一歩、また一歩。石畳を踏む音さえも心地よく響く。

ミサキが一歩踏み出すたびに、広大な大聖堂がしんと静まり返っていく。

 『イノセント・ホワイト』の構造が、彼女の胸骨を押し上げ、気高いラインを維持させる。


(……見てください。これが、貴方たちが『卑猥』と断じた布が生み出す、究極の『敬虔』だ)


人々が目にしたのは、肉体の誇示ではない。

自分自身を厳格に律し、神への礼節を「姿勢」で体現した、生ける芸術品だった。

ソフィアの持つ扇が、カチカチと震えて音を立てていた。


「な……っ!?」


ソフィアが目を見開き、言葉を失う。

ガレオン司教も口を半開きにして立ち尽くしている。

ただ綺麗なだけではない。

「何者か分からない」「自分たちとは違う」という畏怖が、場を支配していた。


ミサキは祭壇の前まで進むと、俺の事前の指導通り、流れるような動作で跪き、祈りを捧げた。

その所作のあまりの完成度に、誰もが息を呑んだ。


「いかがでしょうか。これこそが、我が社の新作『イノセント・ホワイト』。女性の慎みを守り、祈りを捧げるための姿勢を補助し、神への敬虔さを形にするための衣服です」


俺の説明に、ソフィアが震える声で反論を試みる。


「こ、言葉を飾っても無駄ですわ! 身はどうせ……」


「中身もご覧に入れますか? ですが、それはご自身の目でお確かめください。そこにあるのは、肌を隠し、肉体を清める白き布だけです」


反論の余地はない。

どこからどう見ても、彼女たちが理想とする――いや、理想を遥かに超えた「聖なる存在」そのものだからだ。

沈黙が流れる中、最初に声を上げたのは、上層部ではなく、後ろに控えていた若いシスターたちだった。


「……あの方、異世界から来られたって噂の……」


誰かの呟きが、静寂を破った。


「なんて神秘的なの……。まるで、古の聖女様が絵画から出てきたみたい」


「黒い髪にあんな白い服が似合うなんて……」


「私……あんな風になりたい……」


ざわめきは瞬く間に広がった。

彼女たちは、教義によって「美しくあること」を禁じられ、抑圧されてきた女性たちだ。

だが、目の前に「教義に違反しない(露出しない)美しさ」という抜け道が現れ、しかもそれを体現しているのが、ミステリアスな異国の女性だったことで、憧れは信仰に近い熱狂へと変わった。


「あの服を着れば、私もあんなに高潔な姿になれるのかしら?」


「ソフィア様! あれは『聖具』ではないでしょうか!?」


「神に仕える身として、あのような清らかな姿を目指すべきです!」


若いシスターたちが、目を輝かせてソフィアやガレオンに詰め寄り始めた。

それは暴動に近い熱狂だった。

ガレオン司教が杖を振り回すが、乙女たちの熱気は収まらない。

もはや、上層部の権威だけで抑え込める状態ではなかった。


ソフィアは唇を噛み締め、祭壇で祈り続けるミサキ――その横顔は、一切の媚びがなく、ただ神々しい――を見つめた。

そして、深いため息をつくと、俺に向き直った。


「……認めますわ。貴方様の商品は、確かに……女性の『信仰心』を高める効果があるようですわね」


「ご理解いただけて光栄です。では、営業停止の解除を?」


「……ええ。直ちに」


ソフィアの宣言と共に、大聖堂はシスターたちの歓声に包まれた。

俺が一礼して立ち去ろうとした時、ソフィアがすれ違いざまに、俺の袖をギュッと掴んだ。

その指は白くなるほど力が込められている。


「……ソウイチロウ様。少し、よろしいかしら」


「はい?」


「こ、公式な検査のためです!……あくまで公務として、別室へ」


 ◇


通されたのは、大聖堂の奥にある豪奢な応接室だった。

人払いを済ませたソフィアは、もじもじと指を絡ませながら切り出した。


「その……私のサイズに合うものを……一着、用意なさい。……最近、祈りの捧げすぎで肩が凝りますの。あくまで、健康のためですわよ?」


彼女の耳は、法衣の白さに負けないくらい真っ赤に染まっている。

遠回しだが、要するに「私も欲しい」ということだ。


「承知いたしました。では、正確な採寸をさせていただきます」


「さ、採寸? ここで?」


「ええ。貴女様の身体に完璧にフィットさせるためには、必須の工程ですので」


俺はメジャーを取り出し、一歩近づいた。

ソフィアは躊躇いながらも、震える手で分厚い法衣を脱ぎ捨てた。

現れたのは、質素な綿の肌着に包まれた、しかし驚くほど豊満な肢体だった。

聖職者としての節制と、溢れ出る女性としての肉感。

そのアンバランスさが、妙に扇情的だ。


「し、失礼なことはしないでくださいましね……?」


「神に誓って。……ですが、この『淀み』は看過できません」


俺の手が、分厚い法衣の下で押し込められていたソフィアの熱い肌に触れる。

 

 ビクンッ……!


「あ……っ、ん……! そこ、は……教えでは、触れては……っ」


「教義は魂を救えても、この肩こりは救えませんよ。ソフィア様。……さあ、吐息と一緒に、溜まった毒を吐き出しなさい」


俺の指先が、彼女の豊かな肉の重みを下から支え、解放していく。

ソフィアは俺の腕にすがりつき、法衣を乱したまま、一人の「雌」として蕩けた声を漏らした。


「ど、どうして……。ただ測られているだけなのに……こんなに身体が熱く……」


「身体が解放されたがっているのですよ。ソフィア様」


俺は耳元で囁きながら、彼女の胸元のボリュームを手で包み込むように測定した。


「……あぅ……っ! だめ、ですわ……声が……出ちゃい、ます……」


彼女は俺の腕にすがりつき、潤んだ瞳で見上げながら、熱い吐息を漏らした。

教会の権威など、そこにはなかった。

ただ、一人の女性としての「欲」があるだけだ。


「……素晴らしい素材です。貴女様には、最高の『聖具』をご用意できるでしょう」


「は、早く……早く持ってきてくださいまし……。私、もう……我慢できませんわ……」


 ◇


こうして、聖教会のお墨付き(というより、シスターたちの熱烈な支持)を得た『イノセント・ホワイト』は、教会関係者のみならず、清楚さを求める貴族の令嬢たちの間で爆発的なヒットとなる。


店に戻り、眼鏡をかけ直したミサキは、いつもの奥手な秘書に戻っていた。

だが、その表情はどこか晴れやかだ。


「……社長。あの、ありがとうございました。少しだけ……自分に自信が持てました」


「それは良かった。ですが、ミサキさん」


「はい?」


俺は背後を指差した。

そこには、羨ましそうに頬を膨らませるチサ、無言で「次は私」と目で訴えるユウ、そして黒い笑顔のカオリが待ち構えていた。


「「「社長? ミサキちゃんだけズルくないですか? 私たちも採寸してくださいよ」」」


「あー……私はここで失礼しますっ!」


ミサキが脱兎のごとく逃げ出し、俺は三人の美女に囲まれた。


(……やれやれ。神よ、このモテすぎる子羊をお救いください)


俺は贅沢な悲鳴を上げながら、逃げるミサキの背中を見送った。

聖教会の支持を得た今、王都の流行は盤石だ。

だが、俺の職人魂はまだ満足していない。


(ミサキさんの『白』をさらに輝かせるには、今のシルク・コットンでは足りない。……新たな素材で次なる革命を起こせるはずだ)


新たな市場――「一生に一度の輝き」をプロデュースする計画が、俺の脳内で形になり始めていた。

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