表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせ殺される悪女なので、一〇〇年ほど眠るつもりが『無理矢理』起こされて主人公たちに一生付きまとわれている件。  作者: あしなが


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/44

王太子殿下の本音について。





 瞼を開けられないまま、川の中で、身体が物凄い勢いで流れていく。


 激流にのまれながら、身体に大木や石やいろんな硬い物がぶつかる。脇腹に何かが刺さった気もする。


 それでもルスエルの身体を離さないように、私は光の帯を鞭のように水中で動かすと、適当に地上に向かって飛ばした。


 すると何かに帯がぐるぐると引っかかったので、そのまま腕に力を入れて、水面に向かって水を蹴った。


 瞬間、ざばっと水から身体が出る。腕の中にいるルスエルを離さないように、渾身の力を込めた。


 これだからやっぱり筋トレは必要なんだ。


 クッションのような透明の玉をいくつか作って、それに身体を弾ませるとそのまま川沿いに身体を飛ばす。


 しまった、また魔力の扱いが……!


 身体が思ったよりも勢いをつけて飛んでしまう。


「っ、ぅぐっ……っ!」


 背中ごと木にぶつかって、背骨にひびが入ったような音がした。身体が地面に擦れていく。皮膚が裂けていく感覚がしたけれど、そんなのどうでもよかった。


 急いで腕の中にいるルスエルを確認しようと身体を起こす。


「っ、ルスエル……!?」


 気を失っているのか、真っ青なまま目を閉じている。


「ルスエル? ルスエル! 聞こえる!?」


 肩を叩いて、意識を確認する。それでもびくともしない。


 落ち着け、落ち着け落ち着け、主人公なんだから、死ぬなんてことない。


 そうだよ。大丈夫、大丈夫だよ。


 そう思うのに、手が震え出す。それもこれも、あの妙な声のせいだ。


「ルスエル、ねえ、起きて? 目を覚まして……ほら! もう、大丈夫、川の中じゃないから!」


 しん、としている。胸も、口元もピクリとしない。


 青ざめていく顔。冷たくなっていく指先。


 ……川に落ちてから、何分が経った?


「っ、ああ、もう!」


 私がヒロインだったら、治癒能力を使えるのに。


 私が悪役なんかじゃなかったら、運命なんて変えようとしなかったのに。


 ルスエルたちの行く末を、これほど捻じれさせることは、


 なかったかもしれないのに。


「っ、わたしのせいだ……」


 唇を噛み締める。いや、だめだ。


 悲観している場合じゃない。


 魔法が使えないなら、まともに処置すればいい。ただそれだけの話だ。


 今一度、ルスエルの呼吸を確認して、気道を確保する。


 胸の中央を手のひらの付け根で圧迫する。


 お願い、お願いだから、目を覚まして、と願いながら続けていく。


 鼻をつまみ、その口を覆って、空気を送る。


「っ」


 それを何度か繰り返している内に、ルスエルの眉がぴくっと動いた。


「っ、げほっ、げほっ……!」

「っ、ルスエル!? 聞こえる!?」

「る、な、せんせ……っ?」


 声が聞こえた瞬間、その肩を抱き締めると「あ、の……」と困惑した声が聞こえた。


「っ、よかった……ルスエル……」

「……せ、んせ……?」


 顔を合わせると、「な、んで」と不安な目でこちらを見ていた。


「なんでじゃないですよ! もう、心臓が止まると思ったんですから……っ」

「ご、ごめんなさ……っ」

「反省してるなら、もう謝らないでください!」


 びくっとしたルスエルが瞼を伏せる。ああ、攻めるつもりも、驚かせるつもりもなかったのに。


 謝ろうとしたら、ルスエルが「はい……」と小さな声で頷いた。


 その消え入りそうな返事を聞いて、ぐっと、唇を噛み締める。


 そうして肩を軽く抱き締め、「心配したんですから……っ」と告げれば、ルスエルは戸惑うように「ご、ごめん、なさ……」と言いかけたあと。


「あ、ありがとうございます、ルーナ……せんせい」


 私の身体を抱き締め返しながら、そう言い直していた。


 一気に安堵する。ああ、よかった、よかった、助かったんだ……。


 涙が出そうになったので、首を振るようにしてルスエルから離れる。そして「すみません、取り乱してしまって……」と私は言葉を続けた。


「ところで、ルスエル様はどうしてあんな危険な場所にいたんですか」

「え、そ、れは……」


 口籠るルスエルに「怒りませんから、何をしていたか教えてくれませんか……?」と付け足す。すると、ルスエルはおずおずと続けた。


「げ、月灯花を、みせてくれるって、いわれて……」

「月灯花? どうして……」


 訊ね返すと、ルスエルはさらに申し訳ない顔をして「そ、の」と。


「お兄様に……お見せ、したくて……」

「ソルフィナ……様に?」


 この兄弟は……いや、兄弟だから、考えることが似ているのかもしれないけれど。


「……はあ」


 最悪だ、と思い、溜め息を吐いた瞬間ルスエルが「っ、ご、ごめ……」と謝罪しようとしたので、私は「あ、違います」とすぐに首を振った。


「謝らないでください。むしろ……」


 気づけなかった。ソルフィナがあれほど見せたがっていたなら、ルスエルが見たがっていたと簡単にわかるはずなのに。どうして思いつきもしなかったのだろう。


「すみません。私が先に、お伝えしてればよかったです」


 不思議そうにするルスエルに、私は言葉を続けた。


「詳しくは言えませんが、ルスエル様は今年、月灯花をソルフィナ様と見られるはずです」

「え……」

「だから、危険な真似をしようとしないで、ルスエル様は待っているだけでいいんですよ」

「……それは、嫌だ」


 涙交じりに伝える。


「待ってるだけは、もう……」

「……」

「いつも、兄様だけが……苦しい思いをしてるから」


 悔しそうに告げる。そうして、彼は「兄様は……」と続けた。


「俺よりも優秀で、俺よりも……なんでも、できるのに……」


 鼻をすすり、悲し気な声が聞こえる。


「なのに、いつも……いつも、おれよりっ、後回しにされて……! っ、兄様の努力が何も、なにも、なかったことにされる」


 気づいていないわけがない。なんなら、目の当たりにしてきたはずだ。血筋の重さも、自身とソルフィナが、周囲にとって対等な存在ではないことを。


 世間では存在を消された本物の王太子。


 対して自分は、王室に作られし理想の王太子だ。


 ルスエルにとって、我慢しがたいことだっただろう。


 目の前で、正当な評価もされず、存在を消されていく兄がいるということは。


 残酷な話だが、現在ルスエルが王位継承権第一位に相応しいかどうかを、見定められているところだ。そのため、ソルフィナは、いわば補欠候補として生かされている。


 ルスエルが頭角を現せば現すほど、ソルフィナの存在が消されていく。


 その内、影武者にでも使って、殺害すら考える。この物語に置いての王室はそのようなものだ。


 現段階で目立った虐待がないだけマシだが、その内、ソルフィナは本格的に命の危機に瀕する。そして、それを助けるのがヒロインで、心を閉ざしていたソルフィナは次第に彼女に惹かれていくのだ。


 所詮、ヒロインと心を通わせる設定に過ぎないのに、こうして渦中に置かれると胸糞すぎる。


「だから、兄様は、おれのことが、本当は嫌いなんだ……」

「え……?」

「だって、そうだろ? 俺さえいなければ、兄様が、あんな惨めな思いをすることもなかった……おれさえいなければ! 兄さまは、皆に認められる……っ!」


 どんな気持ちで、そんなことを言うのだろう。


 苦しい思いや葛藤があったことはわかる。だけど……。


「だって、おれは、あとから生まれたのに、ただ、血筋がいいってだけで……っ」

「……ルスエル様」


 震えている肩にそっと手を置く。その目が、ゆっくりと私を見上げた。


「もういいです。自身を傷つける言葉はやめてください。周囲がそう思っていようが思っていまいが、あなたの心を、あなた自身が傷つけてどうするんですか」

「……だ、だけどっ」

「悲しくて、苦しいなら、わざわざ言葉にしなくたっていいんです」


 まだ子どもなのに。自分の気持ちを殺して、他人を優先する。


 ルスエルも、ソルフィナも、ユルも。


 大人びなくっていい。


 大人になれば、嫌でも大人にならなければならない時がある。


 苦しくても、悲しくても、大人だからと言って、心を奮い立たせないといけない時が必ずくる。


 だけどそれは今じゃない。そんなことをする必要はまだない。


「主人公だからって……」


 水に濡れた、ルスエルの額を手に平で撫でる。


「王族だからってなんですか」


 そうして、頬に指を移動させると、ルスエルはくすぐったそうな顔をした。


「いいですか、ルスエル様。自分の心は、自分で大切にしてあげないと」

「……」

「他の人よりも何よりも、あなた自身が、あなたを労わってあげないと」


「じゃないと」と、その目元を優しく拭ってあげる。


「こうやって泣いてしまいますよ」

「っ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルスエルが助かってよかった。命懸けでルスエルのことを助けてくれて、さらに心まで救ってくれるルーナのことを好きにならないわけないよなぁ。ルスエルとソルフィナの関係はすぐに解決できないけど、本人達がちゃん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ