森戸で迎える七年目
「ところで、あなたはどうなの?」
トモに突っ込まれて、
「え? だからぼくは傭兵を」
「ドミのことよ。これって傭兵を続けるかどうか、だけでなくて、『此処に』移住したいかどうかも話し合ってるのよね?」
「うん、そうだね」
「だから、ドミのこと、どうするの、あなたは?」
「ドミの家の面倒を看たい気持ちは変わらないよ」
やっぱり、ね。
ちゃんとしてあげたい。
好きだし。
「まあ、あなたはその場合でもドミの家に住めば良いのよね」
なので、今後も春から夏にかけてはサカヌキ村へ戻るし、サカヌキ村で納税する。
ただ、それに仲間皆を付き合わせるのには、ちょっと遠慮があるのだが、
「うん、ぼくに付き合わせる必要は無いんだ。ぼくだけ別の傭兵仲間を探してという手もあるからね」
「いいよ、仲間だろ。それにおれたちもあの家にはとても思い入れがあるし、小部落の人々との付き合いも続けたいし、やっぱりあっちも手入れしたい」
マサの言葉に胸が温かくなる。
エコが立ち上がり、さも当然と言わんばかりに
「あたしも尾いて行くよ~。そろそろお茶淹れるね~」
「トヨが傭兵を続けるうちは、あたしも尾いていくわ」
「そうか、有難い」
有難いけど、このメンツだと、無茶な一攫千金に挑む真似は出来ないんだよなぁ。
まぁ、まだ当面は地道に行きますか……。
『道具』も作って、自前で色々作りたいし、ね……かなり大変そうだけど……。
ということで、二か所拠点生活をすることに、決まった。
秋の終わり、雪が積もる頃には森戸に出て来て、ラクマカに出て依頼を請けたりして、春、雪が融ける頃にはサカヌキ村に戻って薬草を摘んだりする感じで。
森戸の方が手入れは楽だし、税はないし、気楽だし、森の猛獣はあまりぼくたちは気にしなくて良いし。
まあぼくたちが里に居る時に猛獣が現れたら、里人の仲間として駆除の手伝いに呼ばれるけれども。
あと、森戸ならサカヌキ村と違って、山脈の南側の魔境の魔物の呪縛からも解放されるし。
本当は森戸だけに拠点を置いて暮らす方が楽なんだ。
でも、それだとドミやお爺さんマキさんケイコちゃんと会えない。
それと、そろそろまた一年、季節が巡って来た。
「墓参りもしたいよ」
まあ、サカヌキ村に据えた墓標は仮のものだから、
「こちらにも建てても良いでしょう?」
「ああ、そうだ、そうするか」
それに気づいたので、仮の墓標をとりあえず炙った丸太に刻んで、寝所の木の下に建てた。
『滅びしマハリク村の民に安らかなる眠りを』
という、同じ文言が刻んである。
木だからすぐに彫れた。
今年は森戸で記念日を済ませた。
これで、六年間生き延びた。
七年目が始まる。
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それからまた暫くして。
マサ以外の四人の骨鎧と、修繕用材料も揃った。
それと、犬の革を継ぎ接ぎして、マサ以外の四人分のマントも作った。
マント留めのブローチも作りたかったが、余裕が無かったので紐をつけるに留める。
マサは山賊ボスから奪った擦り切れたのを持ってるから、それを補修してやった。
愈々、また依頼を請けにラクマカへ出る。
やはりシズには寄らない。
できるだけ渡海の労苦は避けられるものなら避けたい。
当日早朝、ヤッさん家に挨拶に行った。
「じゃ~、行ってきま~す♪」
「仕事柄、危険は多いだろうから、気をつけてね」
「ええ、しっかり見張ってるわ」
「帰りには寄るんでしょう?」
「うん。必ず寄っていくよ、約束する」
筏の点検と修繕は昨日までに済ませてある。
荷物を載せて固定すると、立木に巻いていた縄を解いて、櫂を握って筏を操り、速度を抑えながら小川を下りだした。
背後から、見送りに来てくれた若夫婦の「行ってらっしゃい」という声が響いて来る。
それへ手を振り返し、狭い湾へ出て行った。
すぐに危険な岩礁が待ち受けている。
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早春の湾を北上して、ラクマカの街の入口の辺り、いつもの場所へ着岸した。
天気の良い日で波も潮も穏やかだったので、エコもトモも疲労が少ない。
トヨマサぼくはかなり漕いだので疲れていたが、片づけや手続きを分担して済ませて、一先ず官舎近くの林の中の空き地、いつも休んでる場所に陣取って、焚火を熾した。
今晩はまた此処で野営だ。
依頼は、タイミングが良かったのか、都合よいのを二つ請けることができた。
「カツトの村に手紙を届けて貰う。期限はあと24日。報酬はスタッグ銀貨で40枚。薬屋のイシハラ」
「ネフワアの村まで護衛を頼みたい。期限はあと12日。報酬はスタッグ銀貨で30枚。ネフワア村のヤムジッダ」
報酬は安い。
公的依頼ではなく、民間からの依頼の仲介だから。
『薬屋のイシハラ』さんは頻繁に依頼を出してくれている方だが、請けるのは初めてだ。
今後もお世話になるかもしれないから、きっちりとやり遂げたい。
……飛脚さんの仕事を取っちゃった感じで、少しもやもやしているが。
メガネの小母さんにも言われたんだ。
「あら~、貴方たち、退治依頼は請けないの?」
「一党五人のうち、二人が女の子ですからね、できるだけ危険に自ら突っ込むのは自重しているんです」
「まあ、気持ちは分るけれど、装備も良くなってきたみたいじゃない?」
「鎧だけ良くなっても、履物は変わってませんし、まだ鍛え方も足りないので……」
えへへ、とヘッドギアを脱いだ後ろ頭をぼりぼり掻いて、マスク越しに笑う。
「若いんだし、傭兵稼業は危険を冒してナンボなんだから、頑張りなさいね?」
「そのうちもう少しメンツを揃えたら、やろうと思います」
「特に軽量の配達は一匹狼の走り屋さんがするものなんだから、沢山引き連れてやる仕事じゃありません」
人差し指を立てて、口を尖らせて注意してくる。
「はい」
「期待してるんだから、次は請けなさいよ」
お小言を喰らったが、兎に角、依頼人さんの所へ行かないといけないので、面談情報を教えてもらって、会いに行って、手続きを済ませて、まだ少しだけ夕暮れまでに時間が残っていたので、市場を冷やかした。




