11.練習場と冒険者活動開始日
練習場は地下1階にあり、1キロ四方ほどもあるように見える。天井や壁、床には不思議な模様が掘り込まれ、古代の遺跡内部と言われても信じてしまいそうな雰囲気がある。
「ここは……元々は遺跡だったんじゃないのか?」
俺は壁に向かって鑑定をかける。
【魔導シェルター】
太古に栄えたアーク帝国が作ったシェルター。魔導大戦末期に作られ、魔法無効、自動修復の効果がある
【耐久】52,987,238/52,987,238
【価値】3,370,237,877,230
「核シェルターみたいなものか?その上に冒険者ギルドを作って練習場として使ってるみたいだな」
「なんかすごそうなシェルターだよね。耐久も価値も凄い高い。この世界の人類が一度滅亡寸前までいって、技術が失伝されたとかなのかな? こんなもの作れる技術があったら、もっと文明が発展してなかったらおかしいもの」
「そうかもね、調査とかはいらないのかな?」
「調査しても作り方がわからないから、そのまま使ってるんじゃないのかな」
(なんで練習場でこんな歴史大発見みたいな話してるんだろ)
練習場では何人もの冒険者がそれぞれ距離を空けて訓練している。そこそこの人数がいるが練習場が広すぎるため、お互いに邪魔にはならなそうだ。
俺たちも人がいない場所に移動して訓練することにした。
(剣道を中学の授業でやったきりなんだよな)
俺は壁に向かい合い、剣道の構えを思い出しながら上段の構えをとり、思いっきり振り下ろした。
空気を切り裂くような感じがした後、一瞬遅れてブンッと言う風を切る音が鳴り、ソニックブームが起こったようで、壁に切れ目が入った。
(いきなり奥義みたいなことできてるんだけど!? これはスキルの効果か?)
鑑定するのを忘れていたスキル、剣術《極》を鑑定する。
【剣術《極》】
全ての流派の剣術を一度学んだだけで覚えることが可能になる。剣を使えば使うほど動きが最適化される。
(チートじゃん!? ステータスだけじゃなくスキルまでチートじゃん!?)
俺は気持ちを落ち着けるように今度は中段の構えをとる。壁は自動修復の効果がきいているようですでに塞がっている。
気合を入れて一歩を踏み出し、突きを放つ。圧縮された空気が壁に当たって壁が抉れた後、踏み出した時の音がダンッと鳴り、一瞬遅れてビュッと言う風を押し出すような音がする。
「ハヤト、すごいね! 風圧だけで壁壊すとか剣技の達人って感じがするよ。あはは」
「なんと言うか切るにしろ突くにしろ、音速を超えてるよね。人間離れしたことを自分がしていることに凄い違和感感じるよ」
「ハヤトがとったジョブはすでに人間辞めちゃった人が到達するようなジョブだからね。前提条件満たすのが大変なのに、それレベル1で取っちゃってるし」
「…………」
(考えないようにしてたけど、やっぱり俺はすでに人間やめかかってるわけね。どうせ神族目指すなら遅かれ早かれだし諦めよう)
「うん、ユイのお陰で吹っ切れたよ。自分を誤魔化すのはもうやめる」
「それならよかったよ!」
俺は無心で剣を振り続ける。どんどん動きが最適化されているようで、習ったわけでもないのに、どういう風に剣を振れば効率がいいのかが理解できる。
「そろそろ夕飯行かない?」
ユイに話しかけられてハッと気づく。剣を振ることしか考えることができなくなっていた。体は汗だくになっているのに息が上がっていないのが不思議だ、これは体力の数値が高いからだろう。
(頭の中まで弄られてないだろうな、いくらなんでも夢中になりすぎてる)
「そうだね、そうしよう。今何時?」
「もう20時過ぎてるよ、凄い集中してるから声かけなかったんだけど、さすがにそろそろ帰りたいかも」
「気づかなくてごめんな、帰ろう」
移動しながらステータスに変化があるか確認するため、自分に鑑定をかける。
【名前】ハヤト・ヤシロ
【称号】人外入門
【種族】人族
【職業】学生/冒険者
【ジョブ】剣神/武神/魔導神
【レベル】1
【スキル】
異世界言語、異世界文字、鑑定、アイテムボックス、ラーニング、幸運、レベル上昇時力、体力、魔力成長+100、剣術《極》、格闘術《極》
【魔法】
魔導術《極》
【その他】
剣装備時力+300、格闘時体力+300、杖装備時魔力+300
【ステータス】
HP(311/311)MP(305/305)
力8(+600)体力11(+300)魔力5(+300)素早さ9(+600)器用12運18(+300)
【装備】
鋼鉄の剣
異世界の上着
異世界の服
異世界のズボン
(体力が1ポイント、器用が2ポイント上がってるな。やっぱり体鍛えてもステータス増えるんだな)
俺たちが冒険者ギルドから出ると、外はほとんど真っ暗だった。
(日本はすごい明るかったんだなー。暗い夜道って言っても電灯くらいあったし)
「ユイ、暗いから手繋いでいこう。足元気をつけてな?」
「うん!」
ご機嫌になったユイと手を繋ぎながらゆっくりと帰路を歩く。
(ユイの手、柔らかくて気持ちいいな)
家から漏れ出る灯りと微かな月明かりしかないため、見える範囲がとても狭い。家の窓もガラス窓ではなく木製の開閉可能な窓のため、漏れ出る灯りでは路地をほとんど照らさないようだ。
(もう満腹亭についちゃったか、手を離すのがちょっと惜しいな)
ユイも名残惜しそうに俺の手を見ながら、お互いにゆっくりと手を離す。
俺たちは満腹亭に到着した。夕飯時を少しずれているのか、1階の料理屋はやや空いている。
「夕飯食べたいんですけど」
「あんたたちかい、2名様ごあんなーい」
ウエイトレスの案内で席につく。
「今晩のメニューは何ですか?」
「コケッコーの胸肉の蒸し焼き、コケッコーの卵のスクランブルエッグ、野菜スープ、黒パンだ。1人前大銅貨1枚、パン追加は銅貨1枚だ」
「じゃ2人前お願いします。宿の方ですけど、風呂ってあります?」
「そんなもの高級宿じゃあるまいし、あるわけないじゃないか」
「そうですか。では体拭くものとか貸して貰えます?」
「ああ、裏にある井戸で勝手に水を汲んでくれ、布は食事持ってくるとき渡すよ」
「ありがとうございます」
(風呂がないのか、残念だ。大量の汗かいたから気持ち悪い)
ウエイトレスに大銅貨2枚支払うと、ウエイトレスは食事を取りに行った。
「ハヤト、清潔魔法してあげようか?」
「ああ、頼むよ」
ユイが何か呟くと、俺の体の不快感がなくなっていく。汗を吸って気持ち悪くなっていた服も綺麗になっている。
「布借りる意味なくなっちゃったな」
「そうだね。でも魔法で綺麗にできても、お風呂には入りたいよねー」
「うんうん。明日から高級宿に移動しようか」
「そうだね!」
ウエイトレスが食事を持ってくる。布も持ってきてくれたようだ。
「はいよ。布は使ったら明日忘れずに返してくれ」
「せっかく持ってきてくれたのにすいません、必要なくなってしまいまして…」
「なんだい、いらなくなったのかよ」
ウエイトレスは布を持っていった。早速実食である。
(今度のメニューはまともだな)
コケッコーはブロイラーで育てられた鶏よりずっと身が引き締まっていて味も濃縮されているような感じがする。卵もふわふわに調理されていて、とても美味しい。まずいのは噛むたびにゴリゴリ音がするパンと薄味の野菜スープである。
(日本のパン食べたいなー、天然酵母とかどうやって作ればいいんだっけ)
「ユイ、天然酵母の作り方知らない? ふわふわもちもちパン食べたいよね」
「食べたいけど私も知らないなー」
「確か果物の皮を発酵させれば出来る気がするんだけど、間違えてたらお腹壊しそうで怖いよね」
「うん、私だけなら一度地球に戻って調べられるけど、急いでもこの世界に戻ってくるのが数ヶ月後になっちゃうからダメだね」
「さすがにそれはイヤだな。余裕が出来たら色々作り方試してみよう」
「そだねー、毒見役見つけないとね!」
「……え?」
ユイは軽く戸惑いながら言葉を探しているように見える。
「えーっと、解毒魔法覚えないといけないって言うのを言い間違えたの」
「あーなるほどな。ユイも解毒魔法使えなかったのか。何でも使えると思ってたよ」
(優しいユイが無関係の人に毒見役させるなんて言うわけないよな)
「あはは、私だって出来ないこといっぱいあるよ! これから覚えていくつもりだよ」
俺たちは食事を終え、口直しにアイテムボックスからレンジを取り出し、1つずつ食べてから部屋に戻る。
俺はベッドに寝転がると、疲労の限界だったのかすぐに眠ってしまった。
朝目覚めるとすでにユイは起きており、俺の寝顔を見つめている。
(ユイは睫毛長いな、化粧もばっちり終わってる。俺寝すぎたか?)
「おはようユイ、今何時?」
「まだ6時だよー、寝癖ついてる、直してあげるね!」
寝ぼけ目で座っているとユイが寝癖を直してくれ、清潔魔法もかけられる。その間、俺はユイにされるがままだった。
「よし、完璧! ご飯食べに行こうよ」
「ああ、行こうか」
俺たちは1階に移動し、ウエイトレスに注文する。
今日のメニューは豚人の燻製肉、コケッコーの目玉焼き、生野菜サラダ、黒パンで、2人で大銅貨1枚だった。食後にアイテムボックス内最後の果物であるモモン2個を取り出し、1つずつ食べる。
「果物なくなっちゃったな。大量に買っておきたいね」
「うんうん。でもその前に冒険者ギルド行って依頼受けよう!」
「了解。どんな依頼があるんだろう? やっぱりGランクだと子鬼退治とかかな?」
「多分ねー、ランクを早く上げるために効率良さそうなの選ばないとね! 目指せ、SSSランク!」
「SSSランクって歴史上1人もいないって言われてなかったっけ?」
「誰もやったことがないくらい目立っちゃえば、余裕で神族になる条件満たせるよ!」
「誰もやったことがないってことは、それだけ難しいってことだと思うんだ」
「大丈夫、ハヤトなら余裕余裕!」
(根拠のない自信っぽいこと言われてもなー。とりあえず一歩一歩頑張ろう)
俺たちは冒険者ギルドを目指して移動したのだった。




