12.初めての信者と犬耳さん
Side by デフラ――
俺の名前はデフラ。
小さい頃から喧嘩が強く、村の悪ガキをまとめる所謂ガキ大将だった。
そんな俺が14の時、退屈な村人生活に嫌気がさし、冒険者になるためにライラの街に行くのは当然の流れだった。兄弟同然に育ったクムトとタイランの2人を誘って3人で冒険者になった。
冒険者になってからも順調だった。戦うのは楽しい。しかも戦うことが金になるのだ。金さえあれば女も買える。力があれば女は言うことをきく。女好きの俺には最高の生き方だ。
10年ほどでCランク冒険者にまで登りつめる。だがここが俺たちの限界だったのだろう。Bランク依頼を何度受けてもクリアすることが出来なかった。
俺は荒れた。俺たちの限界がこんな低いわけがない! だがBランク依頼をクリア出来ない以上違約金が発生する、そのせいで借金まで出来た。失敗しすぎてギルドからもBランク依頼を禁止された。仕方なく生活のためにCやDランクの依頼を受け続けることになる。
目標のない退屈な日常だ。俺はこの頃から新人イジメを始めた。
俺がなくしてしまった、未来への希望を持った目を見るとイライラする。やりすぎたのだろう、いつの間にか新人イジメのデフラと有名になっていく。だがそんなことはどうでもいい。
今日もまた新人がギルドにやってきた。生意気なことに極上の女を連れてやがる。半殺し決定だ、無言で横っ面を殴った。
一発で決めるつもりだったのに新人には意識があるようだ。新人に馬鹿にされたまま終われるわけがない、全殺しする気で襲い掛かった瞬間、俺の意識が途切れた――
――気づいたときには何故か薄暗い細い裏道にいた。クムトとタイランもいる。
何故かわからないが、激しい不安感、恐怖感が渦巻き、足が震え、吐き気がひどい。一体どうしてこうなった。クムトとタイランも同じような感じだ。
タイランが「ハヤト様…」と呟く。その瞬間、俺の頭に天啓がひらめく。「ハヤト様を敬わなければ!」何故かそう思い、あの新人冒険者に祈り始める。すると不思議なことに症状が治まる。あまりの落差に心が多幸感に満たされていく。
「これが救い!」俺は心の底から救われた気がした。今までの人生への不満からも解放されたのだ。クムトもタイランも俺と同じように感じているようだ。
「俺たちを救ってくれたハヤト様に感謝を!」
俺たちはハヤト様に心の底から感謝しながら宿に戻ることにした。
――Side by デフラ End
俺たちが冒険者ギルドの中に入ると、ギルド内部は大量の冒険者で混雑していた。依頼書が張ってあるボード周辺とカウンター周辺に固まっている。どうやら朝が一番依頼受注する冒険者が多いようだ。
「まずは依頼見に行こうか、ランク上げるならFランク依頼を10回クリアだっだよね」
「うんうん、多分端っこのほうじゃない? 若い冒険者が集まってるあのあたりが低ランク依頼だと思うよ」
俺はユイが指差した方へ移動しようとした。その時昨日喧嘩を売ってきたゴリラ顔のハゲ冒険者デフルが、昨日の取り巻き2人を連れてこちらに向かってくる。
(おいおい、昨日の今日でまた喧嘩売りに来るのか? 血の気多すぎだろう、勘弁しろよ)
朝から嫌な奴にあってしまったことを嘆いていると、3人は目の前にやってくる。やはり俺に用事があるようだ。
「何の用だ? またぶっ飛ばされたいのか?」
「「「ハヤト様、おはようございます!!!」」」
「…………は?」
いつ殴りかかられても対処できるように気合をいれていたら、大声で挨拶するなり3人そろって跪く。意味がわからなかった。
周囲からもザワザワと注目を浴びている。
「何が起こってるんだ? あの跪いてるの…デフラだよな?」
「あ、ああ…。何者だ? あの兄ちゃん」
「あああああーー!! 昨日のかっこいいお兄さんだわ! デートしてー!!」
「お前あいつのこと知ってるの?」
「昨日言ったじゃん! デフラを速攻で沈めた新人よ。すっごいかっこよかったんだから!」
「いつものお前の妄想彼氏だと思ってたよ」
「妄想じゃないわ! 本物の私の彼氏(予定)よ!」
「お前…、自分の顔見てから言えよ。釣り合い取れてないぞ? 妄想も大概にしろよ…」
「本当に失礼ね! ぶっ飛ばすわよ!?」
(一体何が起こってるんだ!? 殴られて頭のネジが吹っ飛んだとか? でも取り巻き2人には何もしてないし、あー、わからん!)
「……何で跪いてるの?」
「ハヤト様を敬愛するのが私どもの救いですから」
(マジ意味わからん。何がどうなったらこうなるのか。むしろ今の状況から俺が救われたいわ!)
救いを求めてユイの方を見ると、ユイは笑いをこらえながら目立たないように人ごみに移動していた。
(ユイー!! 一人で逃げたなー! マジでどうしよう)
「周囲の視線が痛いから立ってくれない?」
「「「はっ」」」
男たちは俺の指示通り立ち上がったが、俺を熱い目で見つめてくる。
(言うことは聞いてくれるようだな、でも男に見つけられるとか誰得なのよ)
「おいおい、デフラたち…、目覚めちゃったんじゃね?」
「目覚めたって何に?」
「オッスオッスの世界よ」
「オッスオッス…、ホモォの世界か!」
「てことはあの兄ちゃんとデフラたちはアアアアアアアアッーの関係ってことか?」
「マジか、引くわー」
「勝手なこと言ってると顎かち割るぞ!? お前らも人に迷惑かけるんじゃねえ! 解散しろ!」
「「「はっ」」」
ホモ扱いされるのはさすがに許せず、俺の怒りが爆発した。本気の怒気をホモ扱いしている男たちに向けると一瞬場が静かになる。デフラたちも指示に従い解散した。
「こ、こええー。ただものじゃねーよ」
「あいつ…、できるな…!」
「デフラたちが忠犬みたいになってるぞ。どうやったらそんなことできるのよ?」
「やっぱりステキ、抱かれたいわ! グフッ」
「お、おい、誰にやられた!? 誰か回復魔法してくれ!」
「ただの気絶だ。放っておけば回復するよ」
(もう帰りたい。昨日の仕返しにこんなことしたって言うなら成功してるよ)
俺はいまだにザワついている周囲を無視して依頼書の前に移動しようとすると、人垣が割れるように俺の進路ができる。
(こういう目立ち方でも目的に沿ってるのかな? よくわからないな)
Fランク依頼が張り出されているボードを見つけたので、効率のいい依頼を探すことにする。ユイがいつの間にか隣にいた。
「ハヤト、初めての信者獲得おめでとう!」
「……ありがとう。こんなうれしくない祝福は初めてだよ」
「あはは、すっごい目立ってたね!」
「ユイ1人で逃げるんだもんなぁ、ちょっとひどいよ」
「ハヤトだけが注目されたほうが、私たちの目的叶えるのに都合がいいからね。それは我慢してもらうしかないよ」
「そう言いながら笑ってたじゃん」
「そりゃ笑うよ、あはは」
「仕方ないって思うけど、何か納得できない…」
「過ぎたことは忘れて依頼を見よう!」
「そうだね」
Fランク依頼ボードを確認する。
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【種別】常時、後受け可
【依頼ランク】Fランク
【依頼内容】
子鬼討伐×3
(討伐確認は魔石3つをギルドに提出)
【依頼人】ギルド
【期限】無期限
【報酬】銅貨3
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【種別】常時、後受け可
【依頼ランク】Fランク
【依頼内容】
狼討伐×3
(討伐確認は魔石3つをギルドに提出)
【依頼人】ギルド
【期限】無期限
【報酬】銅貨9
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【種別】常時、後受け可
【依頼ランク】Fランク
【依頼内容】
風船鼠討伐×1
(討伐確認は魔石1つをギルドに提出)
【依頼人】ギルド
【期限】無期限
【報酬】大銅貨1
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「どれもギルド発行の常時依頼ですごく安い。後受け可ってことは依頼受けずに魔石集めて提出すれば依頼クリアになるってことかな?」
「多分そうだねー、早速討伐行こうか。私の千里眼でモンスター見つけてあげるよ」
「便利なスキルだよなー、俺も取れないかな?」
「んー、無理だと思うよ。神族の生まれつき持ってるスキルだから。神族に進化後なら取れると思うけど」
「なるほど、索敵はユイにまかせる!」
「了解ー。じゃ移動開始ー!」
俺たちは冒険者ギルドから出て広場に向かう。雑多な匂いがあわさって相変わらず匂いがひどい。朝市が立っているようで、昨日よりも店の数も人通りも多かった。
(悪臭にいくらか慣れたからなのか、昨日よりは我慢できそうだ)
「広場周辺が一番臭いな」
「また消臭魔法する?」
「いや、ここで生活するならこの匂いにもなれないといけないから我慢するよ」
「了解ー! どうしても辛かったら言ってね?」
「うん、ありがとう」
「果物買うんだったよね?」
「銀貨1枚分くらい適当に大量に仕入れちゃおう。昼食代わりに串焼きかパンあたりも買っておいたほうがいいかな」
「そだねー、あ、昨日果物買った店あったよ」
「犬耳さんのところか、行ってみよう!」
「今日は犬耳触っちゃダメだからね?」
「は、はい」
ユイに釘を刺されながら犬耳さんの果物屋へ近づくと、犬耳さんもこちらに気づいたようだ。
(やっぱりいい犬耳だなー、あのもっふもふを思う存分撫でまわしたい)
「昨日のお兄さんだにゃ。また買いにきてくれたのかにゃ?」
「はい。今日も素晴らしい犬耳ですね! 毎日でも撫でまわしたいくらいです!」
「お兄さん…、いきなりプロポーズするなんてプレイボーイだにゃ…。お兄さん格好いいし、お友達からでいいならはじめたいにゃ。お名前教えてくれるかにゃ?」
「………え?」
(何でプロポーズしたことになってるんだ!? 犬耳褒めたからか?)
犬耳さんの顔が少し赤くなってモジモジし始める。30代女性に見えるのにウブな反応だ。腿が痛い、ユイに右腿をつねられてる…。
「お姉さん、ハヤトはプロポーズじゃなくてただ単に犬耳を褒めただけですよ。犬耳を褒めるとプロポーズになるんですか?」
「にゃ? そうだったのにゃ…。少し残念にゃ。これで皆に行き遅れって言われずにすむかと思ったのににゃ…」
「す、すいません。勘違いさせちゃったみたいで…」
「知らなかったのなら仕方ないにゃ。犬人族に毎日犬耳を撫でたいって言うのはプロポーズの言葉にゃ」
「そうだったんですね。今後は気をつけます。教えてくれてありがとうございました」
(すごい悪いことしちゃったな。この世界の常識がわからないのがきつい)
「お詫びと言うほどのことではありませんが、銀貨1枚分果物ください」
「お兄さん太っ腹にゃ! でも持ち運びはどうするのかにゃ?」
(目の前でアイテムボックス使うのは微妙か。どうしようかな)
何か持ち運びに使えそうな物がないか辺りを見る。果物を運ぶのに使っているのだろう、木製のリアカーの上に酒樽の上蓋を外したような物が何個か置いてある。俺は酒樽を指差す。
「そこの入れ物も売ってくれませんか?」
「にゃ? 売り物じゃないから値段に困るにゃ。大銅貨1枚くらいでいいかにゃ?」
「ええ、言い値で構いませんよ、じゃ残り大銅貨9枚分色んな果物混ぜてその中にいれてください」
「わかったにゃ!」
犬耳さんに銀貨1枚支払い、酒樽に入りきらなかった果物は上着を利用し、袋のようにして持ち帰る事にする。
「まいどありにゃ! またきてにゃ!」
周囲から見えない位置まで移動し、アイテムボックスに果物をしまう。
「アイテムボックスを隠すのが面倒だね」
「そだねー、ばらしちゃってもいいけど、面倒ごとに巻き込まれそうだよね。悪人ホイホイになりそう」
「たしかにね。リアカー買っておいて、周囲の目を気にする時だけリアカー使うのがいいかな」
「そだねー、後で買いに行こう」
俺たちは広場で適当に豚人やコケッコーの串焼きと黒パンを買い、街の入り口に向かうのだった。




