第8話 人形姫、居残り組の苦労を知らないってよ
姫花がダンジョン攻略に向かっている中、咲夜たちはズボズボと沈む雪の中を掻き分けながら進んでいた。
「こんな足回りやとまともに戦闘できへんで」
「姫ちゃんのお人形さんはぴょんぴょん飛び跳ねていたよ」
「軽いからな、人形やし」
「でも、姫ちゃんも雪の上走っていたよ。あっという間に居なくなっていたし」
「姫花は規格外やからって言うのは簡単やけど……もしかすると、ウチらでも雪の上を走れる方法が何かあるんか?」
「ヒントを出してくれているかな、姫ちゃん?」
「どうやろ? こっちから言わなかったら、見たらわかるやろっていうスタンスっぽいからなぁ~」
「「う~ん」」
『魔力のコントロールさえできればどんな状況でも、少々格上の相手でもなんとかなるわ』
姫花が去り際に残した言葉を思い出す二人。もしかすると、剣を強化したように雪を強化すれば崩れないのではないかと思い、足元に魔力を集中させて足を踏み入れるも、ずぼっと入ってしまう。
「アカン、ウチやと上手くいかん」
「じゃあ、今度は私が」
雪の塊に手をあてて、できるだけ広範囲に魔力を流し込んで、崩れないように補強する。咲夜が雪の上を歩いても、コンクリの上を歩いているかのように沈みはしない。
「これならまともに戦えるで」
「でも、これをやっていると援護できないかも」
「ヘイストとかプロテクションを張ってもらうよりかはこっちの方がずっとええで。雪の中に埋まっていたら攻撃当てられ放題やしな」
「それだといざってとき……」
「攻撃を受けないように頑張るから大丈夫や。それに、ウチらが戦って時間を稼いでいたら、その内、他の冒険者も手伝ってくれるやろ」
「そうだね。とにかくそれまで頑張ろう」
一旦、雪の上から降りて百合の魔力を温存しながら、雪の中を掻き進む。逆サイドについた二人が周囲を警戒していると、大きな人影がうっすらと見える。誰かが救助に来たのかと思ったのもつかの間、巨大な何かが投げつけられたのをとっさに百合のプロテクションが防ぐ。
「こっちに攻撃を仕掛けてくるってことは敵やな。百合、足場は頼んだで」
「うん、任せて」
咲夜が雪原の上を駆け抜け、スノージャイアントの群れに接近する。見たことのないモンスターではあるが、見た目はCランクのサイクロプスに似た巨人。恐らくそれくらいの実力は持ち得るであろう格上の相手。
「魔力のコントロールさえできたら格上でも勝てるんやろ」
スノージャイアントの拳を躱し、剣に魔力を集中させた咲夜がその右腕を斬り落とす。腕を斬り落とされてたじろぐスノージャイアントの右足を続けざまに斬り落とし、倒れこむ勢いをも利用してスノージャイアントの頭部を切断する。手ごたえを感じつつも、それに喜んでいる暇はない。2体目のスノージャイアントに斬りかかるも、今度は弾かれる。
(ちょっと集中力を欠いたらコレか!)
体勢を崩してしまったところに襲い掛かるスノージャイアントの拳。とっさに盾を掲げるも、この巨体からのパンチを防ぎれるとは到底思えない。
(せや、剣を強化したときみたいに盾を強化すれば……)
剣に集めていた魔力を盾に移動させて、スノージャイアントの拳を受ける。咲夜の身体が吹き飛ばされるも、盾は無事。左腕が固いものにぶつけたかのようにじんじんとしびれるも骨が折れた感じはしない。
(なんとかなるもんやな……仕切りなおして集中や集中)
大きく深呼吸して、再度スノージャイアントたちに切り込んでいく咲夜。今度はスパッと巨人の腕、足、頭が順に斬り落とされていく。残ったスノージャイアントが逃げようとしたので、追撃をしようと思うも、足が雪の中に捕らわれてしまう。
「これ以上、広げるのは無理!」
「まあ、しゃーないな」
追い払えただけマシかと思っていると、後ろから手裏剣が投げられて、撤退するスノージャイアントの背中にグサッと突き刺さり、アイテムを落としながら消滅していく。
「クノイチちゃん、来るの遅いで。何しとったんや?」
「キュイ、キュイ」
「人形やから喋れへんのに聞いたウチが馬鹿やった。身振り手振りで何を伝えたいんや? 何か動かすんか?」
「ブンブン」
「違うみたいだね。う~ん、逃げろかな」
「キュキュイ」
「そうみたいやな。ってか、クノイチちゃんが逃げを宣告している相当ヤバい状況ちゃうんか!」
「あっちに他の人形たちもいるよ」
急いで飛び跳ねて手を振っている女戦士人形に向かって走っていく。足場は女魔術師人形が固めてくれているらしく、百合のサポートが無くとも普通に走れている。そんなとき、ゴゴゴゴと雪山に似合わぬ轟音が鳴り響く。
「「な、雪崩!!?」」
こちらに向かってくる雪崩。姫花が雪崩の向きを変えようとしたところにビッグフットの攻撃で中断してしまったこともあって、電車に直撃するかは微妙なところ。中にいる乗客を助けたい気持ちはあるが、今から戻ったところで巻き込まれるだけである。無事を祈りながらも人形たちと合流したところで、雪崩が通り過ぎるの待つ。
「姫ちゃんが向かった方から来たよね、この雪崩……」
「巻き込まれてないやろうな……」
雪崩が通り過ぎた後の惨状に二人は思わず目をそらしたくなる。自分たちがつい先ほどまでいた電車の半分が雪の中に埋もれてしまっている。
「確か、名探偵の映画で雪崩に遭ったら15分以内に救助しないと死ぬって聞いたで」
「15分!? いくら姫ちゃんでも、あと15分でボスモンスターを倒すのは無理だって!」
「とにかく早く助けへんと」
咲夜たちよりも少しばかし早く動く人形たち。女戦士が辺りを警戒している中、探知能力に秀でたクノイチが生存者がいるエリアを忍者刀でぐるりとマーキング。女魔術師がマーキングエリア内を炎で少しずつ溶かしていく。
咲夜たちも負けじと雪を溶かしていくが、生存者を助けさせんと言わんばかりにスノーゴーレムの群れが追い打ちでやってくる。
「こんなときに……百合、足場は頼んだで」
「魔術師ちゃん、足場は私がやっておくから、私の分まで雪を溶かして」
こくりと頷いた女魔術師がさらに炎の範囲を広げて雪を溶かしていくが、外に飛び出た要救助者がいるかもしれないということもあって火力を抑えていることもあり、一向に埋もれた電車がでてこない。
「邪魔はさせへんで!」
スノーゴーレムの腕を勢い良く切り落とすも、周りの雪を吸収し、あっという間に腕が元通りになる。女戦士も身軽さを生かしてスノーゴーレムを切り刻んではいるが、驚異的な再生力の前にじわじわと後退せざるを得ない。
「魔術師ちゃんの力を借りたらええのやけど……」
救助を取るか目の前の脅威を取り除くかの2択。一撃で葬れるなら大したロスにはならないが、問題は何発も攻撃を与えないと倒せない可能性があるということ。今は1分1秒でも早く雪をどかさないといけない状況下で、まともな戦闘をしてしまえば、おそらく乗客は助からない。
(だからと言って、ウチらがやられたら助かる者も助からへん。となればとる道は一つしか無いやんけ!)
「魔術師ちゃん、あいつらを焼き払ってくれへんか!」
女魔術師が作業を中断し、フレイムトルネードでスノーゴーレムの一体を溶かすも、それが精いっぱいらしくぺたんと座り込む。女魔術師の代わりにマーキングを終えたクノイチが火遁の術で周りの溶かすも、魔術師より範囲は明らかに狭い。
(あかん、さっきから雪を解かすので魔法を使いっぱなしやったから魔力が足りてないんや。1体倒したところで、焼け石に水や)
まだ目の前には6体のスノーゴーレムが健在である。女戦士が奮闘している内に、息を整えて再度集中し、スノーゴーレムの足を切って少しでも時間を稼いでいく。だが、その間にも自分たちの魔力も要救助者の命のタイムリミットも刻々と減っていく。
(このままやと、救助どころかウチらも……)
(ああ、じれってえな!オイラが力を貸してやるよ!)
突如聞こえた謎の声に咲夜が辺りを見渡すも誰もいない。いよいよ、死の間際の幻聴でも聞こえたのかと思っていると再度謎の声が聞こえる。
(まだ姿を見せるほどには認めてねえが、名前だけは教えてやる。オイラはサラマンダー。火の精霊だ)
(火の精霊やて!?)
(そうだ。さすがに人間を見捨てるわけにはいかねえしな。今回だけは3年前のアイツと同じく力を貸してやるよ。オイラの詠唱に続けよ!)
「火の精霊サラマンダーよ、我が剣に宿りて、敵を焼き払え!マグマブレード!」
グツグツと煮えたぎる溶岩を推し固めたような剣に早変わりしたことに感嘆しつつも、早速そのマグマブレードの試し切りと言わんばかりにスノーゴーレムの胴体を斬ると、切断面から天を突くような巨大な火柱が吹き出て、再生させるどころか一気に溶かしてしまう。
(魔力をごっつい使われたけど、軽く斬っただけで一発とか強すぎひん!?)
(これくらい朝飯前だぜ。さっさとやっつけちまおうぜ)
確かにサラマンダーの言う通り、5体のスノーゴーレムが残っている。ビビるほどの火力ではあるが、今のこの状況では頼もしい。マグマブレードを握って、1体、2体と次から次へとスノーゴーレムを葬り去っていく。瞬く間に目の前の脅威を片付けた咲夜はサラマンダーに雪をどうにかできないか尋ねてみる。
(雪くらいその剣を突き刺せば溶かせるぜ)
(そんなんでできるんか?)
(おう。だけど、雪だけ溶かすイメージはしとけよ。うっかり人間を蒸発なんてしたら精霊王様に怒られちまうからな)
(そういうのは先に言えや)
サラマンダーとの念話にツッコミを入れながらも、足元の雪にマグマブレードを突き刺すと、みるみるうちに周りの雪が解けていき、埋もれていた電車がその姿を現していく。
「ふう……なんとかなったわ」
ただ雪を解かすのに相当な魔力を使ったのかマグマブレードは元の剣に戻り、サラマンダーに話しかけても返事はない。感謝の一つでも入れようかと思ったが、それは次に会ったときにしようと心のうちにとめて、電車内に取り残された人たちの様子を見る。
「雪崩を巻き込まれたせいで気を失っとるみたいやけど、脈はあるし、息もしとる。命に別状はなさそうやな」
「これ咲夜ちゃんがやったの?」
「せや。サラマンダーっていう火の精霊のおかげや。今はどっかに行ったみたいやけどな」
「きっとノームさんみたいにお試し期間中なんだよ、きっと」
「せやったら、認められるくらいには強くならんとな」
なんとか一難が過ぎたと思って気を緩んでいた二人だったが、クノイチが二人の上着を引っ張って上を指さす。そこには1つの黒い影がぐんぐんと迫ってくる。
「次はなんや!?」
ドラゴンライダー・ビッグフットがサラマンダーの力を失った咲夜たちの前に降り立つ。スノーゴーレムやスノージャイアントよりも一回り以上大きな巨人とドラゴン種。明らかにAランク以上はあるであろう相手に咲夜は剣を強く握りしめる。
「咲夜ちゃん……」
「ここで退いたら誰がここにいる人たちを護るねん。姫花の人形もおるんや、時間だけでも稼げば、きっと――」
「敵前逃亡はおいたが過ぎるだろ」
「今度はなんや!」
飛来する氷柱の上から飛び降りてきた大男、ベルセルクがドラゴンと咲夜たちの間に割って入る。
「嬢ちゃんたち、運が良いな。バーサーカーの俺だったら今頃ミンチにしていたぞ」
「なんやアンタは!?」
「俺は狂戦士ベルセルク。姫様に仕えしバーサーカーだ。嬢ちゃんたちから姫様の匂いがするし、何より姫様の人形が守っている。ってことは、嬢ちゃんたちは姫様の関係者なんだろ。馬鹿な俺でもわかるぜ」
「姫様って姫花のことか?」
「それなら関係者じゃなくて友達だよ」
「友達? マジ? お嬢ちゃんたちが? はっはー、これは良い土産話ができた。ランサーが聞いたら笑い転げるんじゃないか。安心しろ、《《今は》》お前たちの味方だ。おっと、これ以上喋っている暇はなさそうだ」
威嚇するかのようにビッグフットとフロストドラゴンが吠えるが、ニタリと笑ったベルセルクが数分も経たないうちに悲鳴へと変えてしまう。その圧倒的な暴力の前に咲夜たちはただぽかーんと口を開けるしかなかったのであった。




