第7話 人形姫、交渉するってよ
期末テストを乗り越えた咲夜が自室で赤点スレスレのテストを舞い上げる中、姫花は彼女たちに今後の特訓について話すことにした。
「咲夜が魔力コントロールを覚えてくれたのは良かったけど、普段の授業を見る限り安定はしていない。7月下旬までは草津ダンジョンでワーウルフ狩りを続行し、魔力コントロールの安定化。その後、百合の特訓の為に梅田第3ダンジョンでリッチ狩り。夏休みが終わることには第2ダンジョンのミノタウロスを私の補助なしで討伐できる程度には鍛え上げるわ」
「ミノタウロスはCとBの境目のモンスターやで。ウルフの群れでひぃひぃ言っているウチらで倒せるんかいな」
「不可能なら話して無いわ。問題はその後、これより上の相手をしようとすると単純に手数が足りない(私の人形で手数を補ったら特訓の意味ないもの)」
「つまり、新メンバー募集しないとアカンってことやな」
「じゃあ、誰をパーティーに入れる? 小夜ちゃんなら頼んだら掛け持ちしてくれるかも」
「う~ん、確かにBランク以上のダンジョンはトラップが増えるからスカウト職は必要になるけど、今は戦闘要員。一番、めぼしいのは金髪ドリルと剣崎って子ね。あの二人が仲間になれば咲夜がタンク、剣崎がアタッカー、百合が後方支援、ドリル娘が後方火力として割り振りできる。しかも、その役割に特化しているわけじゃないから、魔力量や疲労次第で互いの役割をスイッチできて戦術に厚みが出る」
「せやけど、あの二人って有望株やからなぁ。今いるチーム抜けてウチらに協力してくれるとは思えへん」
「うん。この夏休み、プロのパーティーと一緒にダンジョンに潜るって言っていたし、協力してくれないと思う」
「そこは交渉次第ね。まずはドリル娘から話したいから、彼女の部屋を教えてくれないかしら」
咲夜が璃琉の部屋まで案内し、ノックをすると、姫花たちの顔を見た瞬間、嫌そうな顔をする。
「用件はなんですの?」
「単刀直入に言うわ。掛け持ちで良いから、私たち【STARS】のメンバーにならない?」
「……本気で言ってますの?」
「本気よ、本気。プロのパーティーに揉まれるって聞いたけど、今の貴女がそれをしても、大きな成長にはつながらないわ」
「はあ!? 何を言っていますの? 有栖川さんはともかく、ワーウルフをまぐれで倒したDランクのパーティーで得られる経験がBランクのパーティーの一員として得られる経験が上回るはずがありませんわ」
「つまり、この二人がBランク相当に強くなれば入っても構わないってことね」
「もちろん。Dランクのお二人がCランクの私よりも強くなるなら、頭を下げてでも入りますわ」
「言質はとったわ。この二人は夏休みが終わるころにはミノタウロスを余裕で狩れるくらいには強くなるもの。二学期が楽しみね」
「ですが、それだけでは私にメリットが無いですわね。どうです、ミノタウロスを倒せないなら、【STARS】を抜けて私のパーティー【花鳥風月】に入るというのは? 認めたくありませんが、私よりも才覚のある貴女がDランクのパーティーに埋もれたままというのは許しがたいので」
「良いわよ。二人が夏休み中にミノタウロスを倒せないなら、【STARS】を抜けて【花鳥風月】の一員に。倒したなら【STARS】の一員としても働いてもらう。これで良いわね」
「ええ、構いませんわ」
璃琉と別れた三人は剣崎と交渉すべく、男子寮へと向かう。女子が入ってくることが稀なのかこちらに向けてくる視線が若干不愉快に感じつつも、姫花は剣崎の部屋をノックする。
「なんだよ……今日はオフなのに」
「休んでいるところ、悪いわね」
「なんだ姫花か。よし、今日はお前から模擬戦を――」
「毎日、そればかりね。私は無駄なことはしない主義なの。今日、訪ねてきたのは――」
「――へえ、夏休み中にミノタウロスを倒すねえ。俺たちのパーティーでもミノタウロスにたどり着くまで一苦労なんだぜ。そう簡単にはできねえよ」
「できるわ」
「言うねえ。よし、もし、ミノタウロスを倒せるくらい強くなるなら、掛け持ちだろうと専属だろうと入ってやるよ。ただ……」
「ただ? 何か不安でも?」
「ただ、女の子だけのパーティーに男一人混じるのってあまり視聴者受けしないんじゃね? こういうの何って言うんだっけ? バイコーン?」
「それを言うならユニコーンやな。バイコーンやとカップリング厨とかになるやろ」
「そういう厄介ファンはいないと思うけど……」
「この前のワーウルフ戦で一気に伸びたじゃん。あれでユニコーンも増えただろ。そんなときに俺なんて入ったら、一気に炎上しねえかってな」
「そのあたりの対処は夏休みの間に考えておくわ」
「それなら良いぜ。じゃあ、俺も負けねえように訓練場でちょっくら汗でもかいてくるかな。お前たちもどうだ?」
「あいにく、これから草津ダンジョンで特訓なの」
「そうか。今度会うときは負けねえからな」
「月曜になったら会うでしょうが……ったく」
鍵をかけるのも忘れてドタドタと駆け出していく剣崎をあきれながら見送った三人は草津ダンジョンへと向かうため、電車に乗り込んでいくのであった。
「それにしても京都~大津間のトンネルって長すぎひん。電波のつながり悪いし」
「ああ、分かる~ソシャゲやっていると、切れて困るんだよね。周回途中だったのにって」
「長いって言っても高々数分の話じゃない」
「体感10分あるで」
「うんうん」
そんな他愛もない世間話をしながら山科のトンネルを抜けた瞬間、線路が突如として途切れ、電車が横転する。姫花がとっさに作ったクッションで百合と咲夜の二人を守るも、他の乗客は壁や床に叩きつけられ、中には頭から血を流している者もいる。
「一体、何が起こったんや!?」
「ちっ、想像以上に悪いことが起こっているわね」
姫花が舌打ちしてしまうほどの事態とは何だろうかと咲夜が割れた窓の外を見ると、そこは一面の銀世界。猛吹雪が吹き溢れる雪山が広がっていた。
「今は夏やで。なんで吹雪いとるねん!?」
「ダンジョンよ」
姫花が割れた窓から飛び出し、外から周りを見渡すも、外に繋がるゲートは見当たらない。完全閉鎖型、いわゆる神隠しダンジョンだ。状況を理解した姫花はすぐさま防寒着を作り、咲夜と百合に投げ渡す。
「二人ともこの上着を着て、ここの防衛に当たりなさい」
「姫花はどうするんや?」
「乗客全員分の防寒着を作っていたらそれ相応の時間がかかる。救助のあてもなく、数時間もすれば凍死確定の状況下でそれをやるのは下策。だったら私が一時間以内にダンジョンを攻略するわ」
「RTAソロ攻略でもするつもりかいな」
「そうだよ。私たちも――」
「一時間もこの場所がモンスターに襲われないという保証はあるの?」
「それは……」
「大丈夫よ、魔力のコントロールさえできればどんな状況でも、少々格上の相手でもなんとかなるわ。それに、私の人形も自動操縦とはいえ、何体か残してあげるから」
女戦士人形、女魔術師人形、クノイチ人形の3体が現れて、辺りを警戒し始める。自分たちも負けじと人形たちとは逆サイドの守りにつこうと走っていく。電車内では乗客たちの混乱の声が鳴り響いているが、1分1秒が惜しい今、諫めている時間はない。
(まったく……人間達を殺すために生み出されたモンスターである私が人間を守ることになるなんてとんだ皮肉ね)
新雪で足を取られやすくなっているこの状況。手早く移動するためにも、足元に魔力を集中。それを薄く伸ばして雨蜘蛛のように広げていくことで沈みにくくする。足を取られないなら、雪道だろうと普通の足場と変わらない。一気に駆け出して、高い魔力を感じる場所へと急行する。
「遠くからでもわかるこの魔力量……Aランクでも上位クラスでもおかしくはないわね」
電車がぐんぐんと小さくなる中、姫花の前に現れたのはスノージャイアントと呼ばれる青白い一つ目の巨人の群れ。彼らがおいしそうな餌につられているかのように電車のある方角へと向かってきている。
「Cランクとはいえ、今の二人にこれだけの数を捌ける余裕はない。やるしか無いわね。フレイムウィップ」
炎を纏わせた糸をムチのようにしならせて、スノージャイアントたちを溶かしながら切り刻んでいく。すれ違いざまに放たれた一瞬の攻撃でバタバタと倒れるスノージャイアントたち。ドロップアイテムを回収している暇はない。
さらに山道を登っていくと洞窟が見えてくる。あの洞窟から流れ出てくる魔力がより強大に感じる。
「このダンジョン……一体、何人の、いえ何万人以上の人間を飲み込んできたのかしら?」
ここまで育ったダンジョンは関東でもそうおうお目にかからない。しかも神隠しダンジョンとなればなおさらである。さらに、このべたつくような不愉快な魔力はまるで3年前の……感傷に浸りそうになったところを引き締めて中に入ろうとしたとき、上空から氷柱が降り注ぎ、姫花がそれらをひょいひょいと躱していく。さらに上空から飛来してくる2つの黒い影が地面にドスンと響き、雪崩を起こしてくる。その向かう先は当然、動かない電車だ。
「間に合わせる!」
姫花がネットを張って、雪崩をキャッチ。その進行方法を無理やり変えようと力をこめる。だが、そのせいで足を止めている姫花に5,6mはあるであろう巨人の拳が彼女の顔面にクリーンヒットし、大きく吹き飛ばす。
「なに、最近のビッグフットはドラゴンライダーに転職でもしたわけ? それなら騎兵隊らしく女の子の扱いを考えなさいよ」
ビッグフットの一撃で姫花の顔が割れ、中からアリスの顔が出てくる。そして、舞い降りる二頭のフロストドラゴン。どちらもAランク、こと雪山においてはSランクにも匹敵すると言われている最上級クラスのモンスターだ。
「さすがにこの4体を私一人で相手にするのはちょっとばかし骨が折れそうね。時間も無いし……見せてあげるわ、私の最高傑作の人形、その一体をね。出番よ、ベルセルク!」
魔法陣から出てきたのは2メートルはあるであろう大男。手には巨大な大剣を持っており、信じているのは己の筋肉と言わんばかりに盾や鎧といった身を守るモノはなく、腰布以外何も着けていない。
「俺を呼ぶとは姫様もヤキが回ったか?」
「こういう大物退治は貴方の出番でしょう、ベルセルク」
「へへ、巨人にドラゴン、ずいぶんと景気が良い相手じゃねえか。せいぜい楽しませてくれよなあ!」
ベルセルクが大剣をもってビッグフットに飛び掛かり、その分厚い毛皮ごと両断していく。ビッグフットを一撃で葬ったベルセルクを脅威と感じたフロストドラゴンは攻撃の届かない上空から安全に氷柱落としでベルセルクを狙い撃とうとする。
「わざわざ足場を用意してくれるなんて親切なドラゴンだなぁ、おい!」
あろうことか小型の魔法陣から射出された氷柱の上に飛び乗り、義経の八艘飛びよろしくフロストドラゴンに差し迫ってくる。最も近い氷柱で大きく跳躍したベルセルクはフロストドラゴンの背中にまたがり、大剣でめった刺しにしていく。
「はっはー!ドラゴンって言うのはなぁ!背中にいりゃあ怖かねえんだぜ!」
力尽きて堕ちていく仲間を見たフロストドラゴンが遠吠えを上げると予備戦力として用意していた5体のドラゴンライダー・ビッグフットを呼び出していく。
「お仲間の登場か、ずいぶんと楽しくなってきたじゃねえか!」
邪魔だと言わんばかりに残されたビッグフットを瞬殺したベルセルクを見ながら、顔を復元した姫花はボスモンスターがいるであろう洞窟の中へと入っていくのであった。




