第4話 人形姫、配信に出るってよ
辺り一面に広がる荒野に降り立った百合たちは、さっそく撮影用のドローンを飛ばして配信を開始する。
「こんにちは~」
「夜空を彩る【STARS】の配信、始まるで~」
【夜空(昼)】
【ところで、後ろからのぞき込んでいる子が気になるんだが】
【ぴょんぴょん跳ねて可愛い】
【ん? あの子ってこの前の配信に映っていた……】
【16歳の子!】
【名前何だっけ?】
「こんな感じでコメントが来ると空中ディスプレイに表示されるんだ」
「探索の邪魔やったらディスプレイを消したり、ちょっと良いドローンなら読み上げ機能とかもついとるで」
「そうなの。知らなかったわ」
【おばあちゃんに機械の操作を教える孫かな】
【今時ドローンを知らない子とかいるんか?】
【この子とどういう関係?】
「この子、最新機器に疎いねん。ついさっきまで、スマホも持っていなかったくらいやで」
「それよりも自己紹介、自己紹介。みんな、気になっているよ~」
「前にしたじゃない」
「あの配信で新規のお客さんも増えたしな。きちんと挨拶しとき」
「有栖川 姫花、16歳よ」
「……それだけ?」
「他に話すことあるの?」
「ほら、こう。自分の趣味だとか、得意なこととか」
「そういうの思いつかんのなら、どういう職業なのかとかどういうスキルを使って戦っているんかでもええで。視聴者さん的にはそっちの方が気になるやろうからな」
「ああ、そういう感じ……私の場合、戦士だろうと魔術師だろうと何でもこなせるけど、一番は人形の使役ね」
「人形遣い的な職業なんて聞いたことあらへんけど?」
「いわゆるレアスキル的な?」
「そんなところよ。私の糸もそこからの派生ね。私のことは話したんだし、二人の戦いを見せてもらおうかしら」
「それもそうやな。あの寂れた寺院にようけモンスターでるからな」
「ここに出てくるモンスターってアンデッド系だからちょっと匂うのが嫌なんだよね」
てくてくと歩いていくと、地面が突如としてボコりと盛り上がり、ゴブリンゾンビがわらわらと地中から湧いてくる。それを見た百合がファイアーボールを放ち、ゴブリンゾンビの1体を燃やす。仲間をやられたのを見たゴブリンゾンビがこちらを敵と認識、こちらに襲い掛かろうと走ってくるのを咲夜が迎え撃つ。
「ゾンビなんて楽勝や!」
バッサバッサとゴブリンゾンビの胴体を切断。その姿はまさに無双ゲー。視聴者からは【群れても弱いしな】、【ゾンビになっても所詮はゴブリン】、【毒にだけは注意】と書かれている。
ある程度倒していくと、今度はこの寺院周辺のエリアボスであるオークゾンビが姿を現す。今度は咲夜が先制攻撃を仕掛け、オークゾンビを斬り付ける。それに激怒したかのように巨碗を振るうも、ぎりぎりまで引き付けて回避。咲夜が囮になっている間に魔力を込めたファイアーボールで応戦する百合。
「ウガガガガ……」
「あんさんの相手はこっちやで!」
百合にヘイトを向いたところを背後から切り付け、背中に大きな太刀傷を負わせる。ヘイトを奪った咲夜に攻撃を向いているとこに百合が溜めて攻撃……と繰り返していくうちに百合の稼いだヘイトが咲夜が一撃加えた程度では返せないものになったのか、咲夜の攻撃をものともせずに百合へと迫ってくる。
「プロテクション!」
百合の前に出てきた光の壁をオークゾンビが殴りつけている内に、咲夜が滅多切りをする。すでに瀕死の重傷だったのか、数度の斬撃を加わるとオークゾンビが倒れてアイテムをドロップする。
「これでラーメン1杯やな」
「ゾンビからのドロップ品も合わせたらチャーシューか餃子くらいはつけられるよ。頑張って周回しよう」
(一見すれば苦も無く倒しているように見えるけど、このままだと駄目ね)
ツーマンセルでやってきた弊害と言うべきか、咲夜が躱し切れなかったどうするのか、百合のプロテクションを打ち破るほどの攻撃を仕掛けて来たらどうするのか、そういった課題はある。だが、何よりもダメなのは、格下狩りに甘んじていることだ。
(強くなるには同格以上の相手が必要……この程度で満足していくなら良いけど、ちょっと惜しいわね)
スキルを使わずに相手の攻撃を見切れるほどの天性の反射神経、2周目に入っても魔力切れを感じさせないほどの魔力量……経験やスキルは鍛えれば得られることができても、これらの生まれ持った才能は何よりも得難い。まさにダイヤの原石であった。
「ところで貴女たちは強くなりたいの?」
「あたりまえやろ」
「心は常に『目指せ、Sランク!』だよ」
(言い方的には現実に若干押し潰されている感じね……青い果実がこのまま腐っていくよりかは熟して狩り取る方が楽しみは増えるわ)
彼女たちが自分と渡り合える姿はまだ想像できないが、ただ指をくわえて眺めるよりかは可能性はあるだろう。頭の中でゆっくりと彼女たちを鍛える方法を考えている内に2周目が終わったようだが、大声を出せるあたり彼女たちはまだまだ元気そうだ。
「次でラストや」
「待って。貴女たちにおんぶにだっこってのも性に合わないから、自分で稼ぐわ」
「それならドラゴン、倒したお手並み拝見としゃれこもうか。あのとき死にかけていたからようわかっとらんのや」
「私も咲夜ちゃんのヒールで手一杯だったから、あまり……」
【おっ、真打登場か】
【そうでなくちゃ】
周りから期待されている中、呼び出したのは女剣士と女魔術師の2体。デフォルメされたお人形らしく愛嬌のある顔をしている。湧いてきたゴブリンゾンビの群れに女戦士は飛び込み、ゾンビを楽々一刀両断。一方で、女魔術師も負けじと応戦していく。
【この戦い方、STARSの戦い方に似てね?】
【俺も思った】
【でも、ヒヤッとする場面は無いよな】
女戦士が敵に囲まれていても女魔術師が後方の敵を倒したり、地面から生える鎖で拘束したりと攻撃だけでなくしっかりとサポートしているのが見れる。ある程度倒したところで、オークゾンビ戦。女戦士が前に出るのは同じだが、女魔術師は様子を伺っているかのように攻撃には参加しない。
【魔力切れか?】
【複数操っていたら有り得るか】
(ノーミスでやっても良いけど、あの子たちの為にはならないわね)
視聴者の困惑をよそに、姫花はわざと操作を誤り、オークゾンビに隙を与える。そこに飛び込むオークのパンチ。だが、女魔術師が待っていましたと言わんばかりにプロテクションを張り、守る。その間に体勢を立て直した女戦士がオークゾンビの背後に回り込んで、攻撃を仕掛ける。
「ウチらのラストアタックと光景は似ているけど……」
「状況が全く違う」
当然のことながら、オークゾンビのヘイトを稼いでいなかった女魔術師はオークゾンビから十分に距離は離れている。死にかけのオークゾンビが最後っ屁に女魔術師に向かうが、バインドを仕掛けるだけの余裕はある。手足を拘束されたオークゾンビが鎖を引きちぎろうとするも、女戦士の一閃により絶命する。
「貴女たちの連携がどれだけ拙いものだったか分かった? 後衛は魔法で攻撃するだけが仕事じゃない。時には状況を見極めるために休むのも一手。前衛へのミスをカバーしたり、隙を作って攻撃のサポートをするのも大切よ」
「でも、そう上手いこと……」
「そこはおいおい覚えていきましょう。なるんでしょう、Sランクに」
「う、うん!」
「せや!頑張ってSランク昇格や」
「そのためにも、強敵と戦わないとね。草津第1ダンジョンにそういう敵はいるのかしら」
「せやな……あそこの敵はすばしっこいから攻撃当てづらいねん」
「私も……姫花ちゃんのお人形みたいに鎖を召喚するアレが使えたら楽なんだけど」
「あんなの、誰でもできるわよ。ちょうどゴブリンゾンビが出てきたから試してみる?」
「やる!」
咲夜が前に出てゴブリンゾンビと戯れている中、百合の杖に手を触れながら一緒に魔力を注ぎ込む。
「私の言葉を復唱してみて」「うん」
「大地の精霊ノームよ」「大地の精霊ノームよ」
「我が杖に宿りて」「我が杖に宿りて」
「相対する者を拘束せよ」「相対する者を拘束せよ」
「ガイアバインド!」「ガイアバインド!」
地響きと共に地面から幾重ものの鎖が飛び出してきて、ゴブリンゾンビたちを拘束していく。もうこうなれば、ただの的でしかない。咲夜が事務処理かの如く、ゴブリンゾンビを斬り落としていく中、コメント欄は混乱の中にあった。
【ファッ!?】
【なんやあれ!?】
【ペーペーが使って良い魔法じゃねえ!】
【1年の1学期も終わってないんだろ!?】
【2年の魔法科のワイ、自信を無くす】
【ガイア系の魔法は地属性の上級クラスの魔法のはず】
【上級魔法は3年の魔法科の選択授業で習うけど、習得できるかは本人の才能と努力次第】
【つまり天才か】
【天才じゃったか……】
「魔法の制御が難しいなら精霊の力を借りたら良いじゃない、簡単でしょう」
【そういうのって精霊魔法とかそういう類なのでは?】
【注:精霊魔法というカテゴリーはありません】
【ゲームとか漫画とかでしか聞いたことのないやつー】
【パンが無いならケーキを食べれば良いじゃないくらいには暴論よ】
【マジでそれ!】
「でも、結構魔力を持っていかれて……何発も打てないよ」
「それ相応の代償は当然あるわよ。最後はガイアバインドじゃなくアースバインドにすると、拘束力は落ちるけど魔力消費を抑えられるわ」
「ほんと?」
「試してみる? オークゾンビもでてきたところだし」
「うん。大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて、相対する者を拘束せよ、アースバインド!」
複数の鎖が出るも、さっきよりかは明らかに少ない。だが、拘束力は衰えていないのか、手足をぐるぐるに巻かれたオークゾンビが身動き取れずにいた。
【アース系は地属性の中級魔法。育成学校だと魔法科の2年で習う】
【1年で習うのはチェーンバインドで1本の鎖で拘束する魔法な】
【魔法科2年のワイ、低みの見物】
【wwwwww】
【自信持てよwww】
【ワイの不得意科目なんや】
コメント欄が騒いでいる中、咲夜の斬撃がクリーンヒットし、オークゾンビが倒れる。
「今度はウチにも、そういう凄い魔法教えて~なあ~」
「う~ん、相性の良さそうな精霊はいるけど……まだ見定めている段階よ」
「なんでや~百合だけず~る~い」
「あの子は素養があればとりあえず手伝ってはくれるから」
「とりあえず? ってことは今のあたしって、お試し期間14日間無料みたいな状態?」
「よくわからないけど、そういうことよ。お眼鏡に合うなら本契約してくるかもね」
【そもそも本当に精霊っているの?】
【わからん。何もわからん】
【今までは幽霊はいるのとかサンタさんはいるのと同じレベルの質問だった】
【姫花ちゃんのいうことが正しいなら、マジでいそう】
【適当に言っているだけかもしれん】
【その可能性はある】
「精霊の存在を疑っている時点で精霊が力を貸すことは無いわ。残念ね」
【疑ってごめん。俺、精霊の存在信じる】
【ずるいぞ、俺も信じる!】
【私も!】
【ワイも!】
【拙者も!】
【某も!】
【我も!】
【余も!】
コメント欄で熱い手のひらドリル大回転が見受けられたが、精霊が力を貸すかどうかは精霊次第だ。ただ、百合の魔力が底をついた関係でこれ以上の戦闘はできないので、配信を切ってスマホの機能でダンジョンから脱出する。
「本当に戻れたわね」
「せやろ。あとは自動マッピングアプリとかアイテムボックス機能とかも便利やで」
「ダンジョンの話はこの辺にして、遅くなったし、一緒にご飯食べに行こう」
「せやな。ちょいと歩くけど、茶屋町に美味しいラーメン屋があるねん。食べに行こうや」
「へえ~そうなの。せっかくだから行かせてもらうわ」
ドロップ品の買い取りカウンターの査定も終わり、臨時収入も得て懐が温かくなった三人は仲良く夜の梅田の街へと溶け込んでいくのであった。




