第2話 人形姫、後始末するってよ
盗賊人形が見つけた隠し通路を通って、ダンジョンコアが置かれている最深部の部屋へと入っていくと、部屋の中央に全長5,6mはありそうな青い宝石が鎮座してあった。
「この規模のダンジョンにしては大きいわね。さっそく使わせてもらうわ」
ダンジョンコアに触れて、その情報を読み取る。このダンジョンのボスモンスターがダンジョンコアの能力の大半をダンジョンの拡張ではなく、死に戻りに特化させているようだ。そのおかげでボスを倒せば勝手に初期位置に戻してくれる初心者ダンジョンの出来上がりというわけだ。
「そういう使い方もあるのね。感心はするけど、レッドドラゴンごときにやられたせいで、クールタイム中。おかげでこっちは労せず手に入れることができたわ。じゃあね」
クールタイム中のボスモンスターの情報を全て消して、自身の情報を流し込んでいくとダンジョンコアの色が赤色に染まっていく。
「支配完了。誰がレッドドラゴンを送り込んできたかは分からないけど、これでこのダンジョンは私の物。どっかの誰かさん、残念だったわね。この部屋に私のダンジョンとの出入り口を繋げて……これでよし。いつでも、こっちに来られるようになったわ」
後は、この隠し通路の存在に気付かれないように穏便に拡張するために今までこのダンジョンが溜めていたダンジョンポイントを使って、2階層目と時間稼ぎ用の罠と若干数のモンスターを入力すると、若干揺らぎが発生するも問題なくできたことに安堵する。
(私のダンジョンみたいに難しくするわけにもいかないし、中身は要検討ね)
とはいえ、しばらくは待たないとポイントは溜まらないだろうし、大幅な改装はしばらく先だろうと思いながら、できたばかりの2階層の様子を見つつ、ダンジョンの1階層から堂々と外に出ていこうとすると、右目に大きな傷跡を持つ強面の男性に呼び止められる。
「何かしら?」
「草津支部の支部長をやっている武蔵 権蔵と言う。有栖川 姫花で間違ってないかのう」
「ええ、そうよ。イレギュラーモンスターは倒してあげたし、一応、見回ったけど他にドラゴンはいなかったわ」
「そのことで話がある。儂について来てくれないか」
「しょうがないわね。でも、拘束しようと思うなら暴れさせてもらうわ」
「そのような真似はしないと約束しよう」
ダンジョンから出て支部長室に入って、豪華なソファーに座って話を聞く。
「事件の解決に尽力を出してくれたことに感謝する。もし、有栖川君が居なければ、この支部にドラゴンを止める術はなかった。ダンジョンブレイクが起こっていてもおかしくはない」
(目の前に絶賛ダンジョンブレイク中のモンスターがいるんだけどね)
「だが、無免許でダンジョンに入ったのは頂けんのう。できれば、親御さんと話をしたいのじゃが……」
「私に親はいないわ」
「ではご親戚の方にでも……」
「残念ながら血縁はもういないの。今のご時世だと珍しくないでしょう。淡路でのダンジョンブレイクでのダンジョン孤児とか」
「あのときの生き残りじゃったか……」
当時12万人いた島民と数万人の観光客が確認された生存者だけでわずか二桁になった未曽有の大災害。今は復興したとはいえ、戻ってきた住人はたったの二人。しかも、その内一人は数年前から音信不通の行方不明となっている。
因縁のある地の名前を思い出し、右目の傷跡が軽くうずくのを抑えて支部長は話し続ける。
「済まない、余計なことを聞いてしまったようじゃ。じゃが、当時小学校に入るかどうかくらいの君がどうやって過ごしたのか聞かせてもらっても?」
「ダンジョンに潜れば水や食料はあるわ。知識は……図書館にでも行けば無料で身に着けられるでしょう。生きるだけなら問題ないわ」
「ギルド管理外のダンジョンがあるというのは耳が痛い話じゃが、それはひとまず置いといてじゃな。有栖川君、ギルドカードを発行するついでに育成学校に通う気は無いかのう?」
「理由を聞かせても?」
「今のままだと、イレギュラーモンスターを討伐した君を立場上、通報しないといけなくなる。そんな恥知らずなことをすれば、メディアに面白おかしく書かれるのは目に見えておる。それなら、ギルドカードは紛失中だったということにして今回は特例として目をつぶったことにした方が批難はされるだろうが、まだ都合が良い」
「ギルドカード発行の件は分かるけど、育成学校に通う理由にはならないわ」
「有望な冒険者になる見込みがある者にはギルドの支援制度がある。ただ、この制度を受けるには未成年者なら育成学校への通学が必要になる。じゃが、ダンジョンブレイクで失われたであろう君の戸籍もこの制度を受ければ、儂らが保証できる。どうじゃ、悪くないとは思わんが?」
「(いくらイレギュラーモンスターを倒したとはいえ、妙に手厚くて気持ち悪いけど、戸籍が手に入るのは悪くないわね) 分かったわ、その件飲むわ」
「冒険者を引退した身とはいえ、あのダンジョンブレイク事件の責は全て儂にある……今まで辛い目に会わせて申し訳なかった」
「謝る必要は無いわ。こちらとしては合法的にダンジョンに入ることができるだけでも十分よ」
深々と頭を下げていた支部長が頭を上げて、互いに手を取り合う。その後は倒したレッドドラゴンの特徴を聞かれたので軽く答えた後、転入手続きがあるということもあって3日後、再度来るように約束を取り交わし、草津第1ダンジョンの建屋から出るのであった。
自分のダンジョンに戻ったアリスはセバスチャンに今日の出来事を全て話していた。
「というわけで、草津第1ダンジョンは無事私のものになったわ」
「問題はその後ですね。姫様、地上で暮らすつもりで?」
「私たちモンスターが人間の振りをして暮らすって面白そうじゃない。擬態中は動き鈍いけど」
「身体中に糸を巻き付けていますからね。着ぐるみを着ているようなものですよ」
「さすがにあんな低性能じゃないけどね。学生として過ごす3年間くらい退屈しのぎにはちょうど良さそうよ。それに――」
「それに?」
「 今の私の目標は流行りのダンジョンを作ること。ダンジョンを作る上で人間の嗜好を調べるっていうのも必要じゃない?」
「なるほど、確かに」
「3年も待てばあのダンジョンもある程度ポイント溜まるだろうし、一気に改装よ」
「とはいえ、改装前に完全攻略されても困りますからね。ある程度は広げる必要はあるかと」
「それはそうね。でも、広げたらまた無くなる……困ったものね。破壊されないように私が徘徊ボスとして徘徊しておこうかしら」
(それをやったら一気に不人気になるのでは?)
誰も倒せない徘徊ボスがいるダンジョンを誰が好き好んで挑戦するだろうかと思ったが、アリスのやる気を削がないためにも言葉をぐっとこらえるセバスチャンであった。そんなとき、アリスがセバスチャンの胸元に触れると、胸のが少し熱くなる。
「姫様、これは一体?」
「管理者権限の一部を貸しただけよ」
「はああああああ!?」
「貴方も驚くことがあるのね。製造者である私ですら知らなかったわ」
「驚くのは当然でしょう。なぜ、一介のモンスターである私に――」
「これから私は短い間とはいえ、人間社会で暮らすのよ。その間、私不在のダンジョン運営は誰がするつもり? 一番適切なのは執事のセバスチャン、貴方だけよ。それともなに? 他の人形に任せたら、どうなると思う?」
「た、たしかに……でも、ライダーに渡せば、物珍しさで来る可能性も……」
「とにかく!セバスチャン、後はお願いね」
「仰せのままに」
3日間の猶予でアリスが行っていた業務の引継ぎをしていく中、当の本人は早く時間が経たないかと待ち遠しそうにするのであった。




