第19話 人形姫、褒めるってよ
炎上騒動中に告知していたこともあって、普段よりも多くの人が【STARS】の配信が始まるのを待ち望んでおり、開始時刻になった瞬間、海外勢からのスパチャが飛んでくる始末だ。
【$300 前回、使えなかった分だ】
【¥1000 円以外でもスパチャができるようになったのね】
【€250 ポンドが使えないのは困りものだけどな】
【$300 アニメガールのお弟子さんのお手並み拝見といこうか】
「何度も言うけど、弟子やのうてチームメイトや」
「今は円、ドル、ユーロの3つの通貨しか使えないから注意してね」
「探索始める前に……今朝方、Aランクのギルドカードを発行してもらったわ」
【うおおお、これが!】
【¥1000 おめでとう】
【¥10000 祝ってやるよ】
【¥20000 焼肉代】
【発行速くない!?】
【普段からこれくらいのペースでやれよ】
【$300 SHIT!これじゃあ、アニメガールを引き抜きできないじゃないか】
【↑もしかして、この匿名、マイケル・サンダースか?】
【気軽に高額スパチャしているだけでそう断言するのは……】
【ただの金持ちアメリカ人じゃね?】
【有名人がこんなところにいるわけねえだろ】
【黒魔女さん……】
【に、日本人だし……】
【あの人、さすがに生配信は見れてないけど、切り抜き動画は元気に拡散しているぞ】
「あら、そうなの? 今度、冥に会ったら礼を言わないとね」
コメントを見る限り、ちょっと心配していた炎上の影響は無し。探索前の軽いストレッチを終えた咲夜たちは元気よく梅田第2ダンジョン、迷宮の中へと入っていく。二人の前を走るのはお馴染みのクノイチ人形。罠のある位置を懐にあるペイント玉を投げてマーキング。うっかり踏まないように進んでいく。
「そこの角を進むと、リザードマンが3体いるわ。まだ気づかれてないようね」
「百合、事前に打ち合わせた通りいくで……」
「チェーンバインド!」
リザードマンを即座に捕縛し、咲夜が速攻で1体を沈めっる。残されたリザードマンが乱暴に剣を振るうも、しっかりと盾でガード。お返しにと振るわれた刃によって倒れる。身動きが取れなくなったリザードマンにもきっちりととどめを刺し、3体のリザードマンがドロップアイテムになったことを確認した後、ふうと少し肩の力を抜く。
「上手く行ったけど、毎回こんなのやっていたら疲れるで」
「クノイチちゃん、遠回りになっても良いから敵が少なそうな道を調べてくれない?」
「キュイ」
【かわいい】
【俺たちのパーティーに欲しい】
【通報しますわよ~】
【そういう目で見てねえから】
順調にダンジョンを進んでいく二人だったが、とある分かれ道でクノイチの足が止まる。
「右の道を選んだらリザードマンの群れ。数は7~8体。確実に増援も呼ばれる実質モンスターハウス。左の道にはガーディアンが1体。視聴者さんたちはどっちを選ぶのかしら?」
【リザードマン1択じゃね】
【ガーディアンは守備力だけならBランクに匹敵するからな。できる限り避けるのがベター】
【でも、モンハウにいく勇気ねえわ】
【前回はダメージ与えられず、姫花ちゃんに倒してもらったわけだしな】
【ワンチャン賭けて右だろ】
【右!】
【ガーディアンは避けたいから右】
「圧倒的に右が多そうね。さてと、答えは――」
「「せ~の……左!」」
【ファッ!?】
【前回、ボコられたの忘れている!?】
【たかが1週間やそこらで火力なんか上がらねえだろ】
【だが、姫花なら】
【おい、やめろ】
【無敵の返しやめません?】
左の道を迷わず進んでいくと、鎧を着込んだ鋼鉄のゴーレムが現れる。ただでさえ動きが遅いゴーレムが重装甲になっているのだから、攻撃を当てたり、避けたりすることは簡単。ただ、倒すのに手こずったり、逃げたりしたとしても、徘徊しているリザードマンと鉢合わせた瞬間、互いの弱点を補う最悪の展開となり、それが原因で命を落とす冒険者も少なくない。
(イメージをするのは最強の自分……)
サラマンダーの力を借りていた時の自分ならガーディアンに苦戦することは無い。だからこそ、斬れるイメージがある。
「行くで!火炎斬り!」
剣にも纏わせていた魔力が炎に変わり、ガーディアンの厚い鎧を溶かしながら斬っていく。
「次は私の番、ストーンスピア!」
細長い石の槍が鎧の切り口から覗くゴーレムの装甲に突き刺さっていく。
「シールドバッシュや!」
突き刺さった槍に向けて盾を叩きつけて、釘打ち機のようにゴーレムに撃ち込んでいく。これ以上、攻撃されるまいと大剣で咲夜に斬りかかろとしたガーディアンだったが、チェーンバインドで剣をぐるぐる巻きにされてしまう。
「魔法耐性あるのは鎧だけ。だからこうして剣を封じ込めれば――」
「隙だらけのがら空きや!」
破損した鎧に剣を突き立て、内部から炎を一気に噴出させる。体外と石槍でえぐられている内部から焼かれたガーディアンはアイテムドロップへと変換されるのであった。
【嘘やろ!?】
【前回、全く歯が立たなかったじゃん】
【$300 HAHAHA、アニメガールの弟子、いや仲間もサプライズがうまいね。これでCランクは何の冗談だい?】
【ペロ……これは海外勢から引き抜きを考えられていますわよ】
【姫花式ブートキャンプの成果ですわね】
「今回、私は口出ししていないわ。今まで得た経験をもとに、自力でたどり着いた答えが今の戦闘よ」
【嘘だろ!?】
【いやいや、姫花ちゃんが配信外で色々と教えていた方が納得するって】
【少し前までD欄だったんだぞ】
「いつまで昔の話をしているのよ。今まで、同格以上の相手と戦ってきたからこそ、急成長できたのよ」
ガーディアンを倒したことで、一気に勢いがついた二人をリザードマンごときが止めることは出来ない。破竹の勢いそのままにボス部屋へとたどり着く。
「思ったよりはよ着いたな。このままいけば楽――」
「駄目だよ。油断したら」
「わかっとるって。イメージするのは最強の自分……やろ」
「そうそう油断している自分なんて最強じゃないからね」
気合を入れ直した二人がボス部屋に入ると、巨体のミノタウロスが自慢の大斧を見せつけるかのように振り回す。
「行くよ、咲夜ちゃん。ヘイスト」
「今日はミノタウロスの焼き肉や!」
速力を強化した咲夜がミノタウロスの斧攻撃を掻い潜り、まずはあいさつ代わりの火炎斬りを浴びさせる。周囲に肉の焼けた良い匂いを漂わせるも、一太刀程度では効いているようには見えない。
「さすがに火炎斬り程度で倒せそうな相手とはちゃうか……百合」
「分かった。アレをやるんでしょう。時間稼ぎは私に任せて。大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて、相対する者を拘束せよ、アースバインド!」
召喚された複数の鎖がミノタウロスを雁字搦めに拘束していく。時間にして数秒、絶対に持たせると強いイメージを持った鎖はミノタウロスの力でも容易に引きちぎれるものではない。
その稼いだ時間、咲夜は静かに目を瞑り、自分の剣に魔力を集中させて、あのときの炎の剣を強く思い出す。特訓中、今の自分にはあの剣を扱えるイメージは最後まで湧かなかった。
「マグマブレードは無理でも、あれよりも弱い剣なら少しは扱えるイメージは湧くで!フレイムブレード!」
それは中級の魔法剣。フレイムブレードを発動させることに成功した咲夜は拘束が外れかかっているミノタウロスの右腕に斬りかかる。斬られた断面から炎が刃のように噴出し、周囲の細胞を壊死させていく。
ぶらりと下がった右腕では大斧を持つことができない。となれば、ミノタウロスが残された攻撃方法は自慢の角を用いた突進攻撃だけだ。目の前にいる自身を殺しうる刃をもつ咲夜に向けて、突進を仕掛けるも、絶えずかけているヘイストのかかった咲夜をとらえきることは出来ない。だが、スタミナ勝負に持ち込めば、有利なのはミノタウロスだ。
「百合、プランBや!」
「分かった!大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて拘束せよ、アースバインド!」
百合が壁に向けてアースバインドを放つと、それを見越した咲夜がジャンプする。だが、突進中のミノタウロスはジャンプできずにピンと張られた鎖に引っかかり、ずっこける。
「これで終わりや!」
がら空きになった首元にフレイムブレードを突き刺し、返り血をも蒸発させるほどの噴出する炎で致命傷を与えていく。死に際、ミノタウロスが最後の力を振り絞って立ち上がろうとしたとき、鎖で腕を地面に縫い付けられてしまう。
「まだアースバインドをとっさに出せないけど、チェーンバインドならできる」
いくら魔力を込めたとしても、ミノタウロスの怪力の前では1秒持つかすら怪しい。だが、右腕は使用できず、倒れこんだこの状況下なら1秒程度は持つ。そして、その1秒の遅れは攻撃態勢にすらとれていないミノタウロスにとって、最後のあがきすら許さないものとなり、倒れこんで、ドロップアイテムに変わるのであった。
それと同時に流れるスパチャの量に三人は驚きを隠せなかった。
【¥1000 うおおおおおおお!】
【¥10000 マジでやりやがった!】
【¥500 たった二人でミノタウロス討伐とかやべえ!】
【$300 ナイスファイト】
【$300 サクヤ、ユリ、君たちの名前は覚えておこう】
「今回と前と合わせたら、100万くらい超えたんちゃうか」
「さすがにそこまでは無いと思うけど……」
「このアメリカ人、20万円以上はスパチャしているから、100万どころか200万、300万あってもおかしくは無いわよ」
「今日は探索に集中していたせいで、コメント読んでへんけど、1日の上限スパチャ解放されとるって……それ、相当な金持ちやないと無理な話やで」
【$300 ようやくアニメガールが俺のことを認知してくれたようだ】
【アメリカニキ、息するように高額スパチャしていて草】
【一番、脳焼かれているのこのアメリカニキだろ】
【€250 負けませんよ】
【イギリスニキ!】
【張り合うな、張り合うな】
「それにしても二人ともよくやったわ。正直なところ、私の口出し無しでここまでやれるとは思っていなかったわ。これで、二人とも一人前の冒険者ね」
「姫ちゃんから褒められちゃった」
「ウチら凄いやろ。ギャフンって言わせるために頑張って来たんやで」
「それなら言ってあげないとね……ぎゃふん」
「心籠ってないやんけ」
「本気のギャフンを聞かせて欲しいなら私に勝つくらい強くなりなさい。Sランクになるんでしょう?」
「せやな。Sランクになるくらい強くなったら、姫花にぎゃふんって言わせることができるかもしれへんな」
「絶対、Sランクになろう!」
【$300 Sランクの道はそう甘くはないぜ】
【日本のSランクはまだ2人しかいない】
【だが、姫花なら】
【だが、姫花なら(定型)】
【姫花構文、定期】
【SNSで姫花構文流行り始めていて草】
【怯みと零度でどうにかなるパオジ〇ンのNNにひめかってつけるんじゃないですの!】
姫花ならやってくれるんじゃないかと思わせるくらいの実績はあった。そして、ミノタウロスを無事に倒したことで、【STARS】の面々はこれからのことを伝える。
「配信を見てもらった皆に重大なお知らせがあります」
「これから先のダンジョン、二人だけでは手数不足になりがちということもあって、二人ほどお手伝いに来てもらう予定よ」
「今は助っ人扱いやけど、そのまま新規メンバーになるかは本人次第や」
「誰が来るかは、盆明けの配信をお楽しみに~」
配信が終わり、【STARS】の面々は打ち上げに行くのだが、すれ違う通行人数名にパシャリ、パシャリと写真を撮られるのを見て、咲夜と百合はすっかり有名人になったことを噛み締めるのであった。




