第18話 人形姫、炎上するってよ
姫花が草津ダンジョンの2階層の探索を終えた翌日、ワイドショーで姫花のことが報道されていた。草津ダンジョンのイレギュラーモンスターをはじめとする三度の防衛と制圧。本来ならば、もっと早くに賞賛すべき内容のはずだが、出演者はそこに踏み込まず、むしろ、フリージャーナリスト臼井武夫の死の原因が彼女にあるのではないかと批難していた。
「見ての通り、彼女の攻撃に巻き込まれたことにより、彼の存在がモンスターにバレたわけですね」
「つまり、彼女の浅はかな行動が彼の死につながったと。そういうわけですか」
「はい。日本にはAランクの冒険者が100人もいますからね。彼らを中心とした複数のパーティーでダンジョンに挑んでいたら、今頃、臼井氏も生きていたと私は考えています」
「彼女の虚栄心が招いた結果というわけですね。これに対し冒険者ギルドはどのような声明を発表したのでしょうか」
『彼女の行動には何の落ち度もないと断言させていただきます。そもそも、臼井氏は我々の許可な――』
「はい、このように擁護するような声を上げていますが、私は間違いだと思います。彼女はまだ16歳と子供です。そんな彼女が国を代表するようなAランクの冒険者にするような声もありますが、ナンセンスです。認めるわけにはいけません」
「そうですね。ましてや、このような人を簡単に見捨てるような非情な人殺しをAランクにするのは憚られますね」
「ええ。ですから、ちゃんと罪を認めて、償った後に、社会の許しを得たのであれば、私は良いと思います」
「姫ちゃん、人殺しだって」
「姫花が非情やったら、今頃ウチらお墓の中やで」
笑い飛ばしながらテレビを消し、SNSを見ると【STARS】を援護する声とテレビの影響を受けて批難する連中でレスバが繰り広げられている。
「いや~、ウチらが炎上される側になるとはな。数か月前と比べたらすごく遠いところまで来たんやなって思うわ」
「うん。姫ちゃんが来るまではほそぼそとやっていただけだもんね。炎上なんて考えもしなかったよ」
「これはこれで面白いからええやんけど、この炎上騒ぎの中でウチらのミノ狩り挑戦してええんか?」
「変に謝罪したら余計に炎上するし、そもそも謝罪する余地も無いしね」
「そうそう、ほっときなさい。ぎゃーぎゃー言っているなら実力でねじ伏せるまでよ」
「といっても、炎上しとるのは姫花やしな~」
「姫花ちゃんが例えば梅田第1ダンジョンソロ踏破!とかしても、それだけの実力があったら助けられただろって言われるの目に見えているよね~」
「となると、どっかでダンジョンブレイクが起こって犠牲者無しでズバッと解決するくらいのインパクトが無いと無理そうよね」
「そもそもダンジョンブレイク起きとる時点で犠牲者出とるやろ」
「まあ、人の噂も七十五日。数か月もすれば忘れるわよ。こんなしょうもないこと忘れて、特訓でもして来たら。今度の2回目のダンジョンアタックは盆前の土曜日。残り1週間も無いわよ」
「せやな。ウチらが釈明動画作ってあーだこーだ言っても、炎上が収まるわけないし、考えるだけ無駄や。それなら、こっちを頑張らんとな」
「うん。イメージするのは最強の自分だよ」
二人が元気よく部屋から飛び出して、特訓場へと向かっていく。特にすることもない姫花はゴロリと横になって読みかけの小説を読むことにするのであった。
もうしばらく続くかと思われていた姫花の炎上問題はその数日後、アメリカのSランク、雷の貴公子とも呼ばれるマイケル・サンダースの配信動画で急転直下の展開を迎えることとなった。
姫花の配信終了直後、彼がやっていたのはDランクの魔物を48時間倒し続けるというもの。彼女の言う通り、レアドロップを狙って落とせるかの検証動画だそうだ。
動画はじめこそ、レアドロップの基準値である1~5%のドロップ率だったが、12時間超えたあたりで何かをつかんだような表情をした後、そのドロップ率は少しずつ上昇。24時間後にはおよそ10%とドロップ率の偏りとはいえず、動画終わりに限れば30%以上まで上昇していた。
「アメリカ最高峰の魔術師と自負している俺ですら、成功率は1/3ってところだ。練習を積めば50%を狙えるかもしれないが……これをアニメガールは100%で成功できるって? HAHAHA、ナイスジョークと言いたいところだが、例の動画を見る限りは本当のようだ」
姫花がごろごろとゴーストからレアドロップをしている様子と自分のレアドロップを落としているシーンを並べるが、明らかにマイケルの出方は少ない。その圧倒的な差にマイケルは思わず天を仰ぎ見るほどだ。
「いや、まいったね……この俺が同格以上と認めた魔術師は4人いる」
大きく手を広げ、指を折りながら数えていく。
1人目は同国にいる奇跡の聖女、マザー・アグネス
2人目はイギリスの時の支配者、スティーブン・クロック
3人目はオセアニアの潜水艦、ラッセル・マリンフィールド
4人目は東洋の黒魔女、黒木冥
いずれもSランクの中でも名高い魔術師の面々であった。そして、5本目の指が折られたことに視聴者たちがざわつく。
「アニメガールは5人目だ。まさかダンジョン後進国のジャパンから2人も出てくるなんて思わなかったぜ。そんな彼女が居ないはずのジャーナリストを巻き込んだとかいうふざけた理由でAランクの昇格すら危ぶまれるってのは本当か?」
撮影しているマネージャーからその通りですと返事が来る。その答えを聞いたマイケルが突如として高笑いする。
「HAHAHA、コイツは最高だ。つまり、彼女はBランクのままってことだろ。だったら、俺たちが【STARS】ごと引き抜いても良いってことだよな」
「国際条約で他国の引き抜き勧誘に制限がかかるのはAランク以上なので問題ありません」
「つまり、そんなふざけた理由で昇格を断るような国、見捨ててこっちに来ないか、アニメガールとその弟子たち。なんなら、家族ごと来ても構わない。生活の保障はしよう。それだけの価値はあると俺とアメリカ政府は見ている。悪くない提案だとは思うがね」
と配信が終わる。この配信を受けて、草津支部を中心に関西のギルドが動き始め、若いから・炎上している今は好機ではないと二の足を踏んでいた者たちでさえ、彼女たちが引き抜かれたらどれだけの国益をみすみす手放す羽目になるかは想像に容易い。
「今、育成学校に問い合わせたところ、アメリカから留学の案内が送られてきたらしい。つまり、向こうは本気と言うことだ。今のところ、彼女たちに留学する意思はないが、スキャンダルもどきで昇格を見送った場合、今後より一層引き抜き合戦は強くなるだろう?」
「合戦と言いますと、1校だけではないと?」
「そうだ。パンフレットまで送ったのはアメリカの1校だけだが、電話だけならイギリス、フランス、中国、オーストラリア……他にも探りを入れ始めている」
「もはや関西だけの話ではないということじゃな」
「うむ。いつもは動きのとろいダンジョン庁からも早期に解決しろと圧を掛けてくるあたり、向こうさんの本気度は違う」
「目的は姫ちゃんの知識でしょうなあ」
「儂らでも把握しきれていないことを知っとるからのう」
「それに今の状況なら、不遇な対応させられていた彼女を好待遇で引き取ったという美談にもなる。これほど美味しいものはないだろう。彼女のAランク昇格に反対する者は?」
しんと静まり返る会議室。この状況下で反対しようと思うのであれば、それはもはや売国奴と後ろ指をさされても仕方がないのだ。全会一致の可決で姫花のAランク昇格が決まるのだった。
その日の昼の番組の最中、姫花のAランク昇格の速報テロップが流れ、夕方には大々的に報道されていた。その翌日、姫花を糾弾していたワイドショーでもこのことが報道されるのだが……
「未成年のAランクは日本初という快挙を成し遂げた姫花ちゃんですが、ダンジョン専門家の出間川さんはどうお考えでしょうか」
「ええ。まず、未成年のAランクは我々日本人の感覚から早すぎるのではないかと思われますが、ダンジョン先進国であるアメリカだと彼女と同年代のAランクは珍しくありませんからね。ようやく我が国でも出たかと感慨深い気持ちになります」
「よく言うわ。少し前に同じ口で何を言っていたか言ってみ」
「昨日の夜のニュースで臼井さんのことが報道されてから、バタリと批判止んだよね~」
警察の発表によると、亡くなった臼井氏の自宅から立ち入り禁止が為されているはずの遺跡やダンジョンの写真どころか、盗掘品と思われる品々が発見され、闇オークションへの関与の疑いすら掛けられている。
と言っても、被疑者死亡のため、書類送検される程度。罪には問われないが、この報道を機に彼を擁護する声は止み、むしろレアスキルの悪用とジャーナリストの立場を利用した遺跡・ダンジョン荒らしを退治したことに称賛の声が上がっているほどだ。
「あんなことをしている人間が清廉潔白なはずが無いでしょう。叩けばほこりが出るとは思っていたけど、透明化とかいう強力なスキルをこんなつまらないことに使うなんて何を考えていたんだか」
「姫ちゃんがその透明化を持っていたら、どうしていたの?」
「透明化中はモンスターに気付かれないんだから、斥候役としては超優秀。しかも持っている物も透明化になっているってことは、武器を透明化させて相手にリーチを悟らせないようにすることだってできる。カメラのフラッシュ音や光もなかったことから、もしかすると銃を持てば無音の見えない弾丸なんてできたかもしれないわ。軽く考えただけでもBランクは堅いでしょうね」
「レアスキルの名に恥じぬ性能やな」
「私たち、普通のスキルすら無いもんね~」
「今は無い物ねだりしてもしょうがないでしょう。それよりも、明日のダンジョンアタックは大丈夫なの?」
「正直成功率はあんま芳しくは無いんやけど、あっと言わせるくらいには頑張るで」
「駄目だよ、そういう予防線張っちゃうのが咲夜ちゃんの悪いところだよ。イメージするのは最強の自分、はい」
「せやな……イメージするのは最強のウチや!やったるで!」
「そうだよ、その意気!」
(悪癖も治りそうだし、これは本当にひょっとするかもね)
しばらく二人の特訓は見ていないものの、成長した二人を見るのが待ち遠しくなるくらいには姫花は早く時間がすぎないかと思うのであった。




