第20話 人形姫、女装させるってよ
それから数日後、【STARS】と璃琉、剣崎の5人が集まって、今後の活動について話していた。
「それにしても2人ともちゃんと元のパーティーと話してきたんやろうな。トラブルは嫌やで」
「最後に助力があったとはいえ、お二人がミノタウロスを倒した時点で万が一に備えておくのは当然ですわ」
「俺はパーティメンバーとあんまソリが合わなくなってな。近いうち、解散しようと思っていたんだ」
「えっ、確か中学からの友達やったんやろ?」
「ミノタウロス倒せたんだし、もう少しむずい所行かねえって言ったら、ミノタウロスで苦戦しているのにまだ行けるかって言われたんだ」
「別に変な話では無いと思いますわよ」
「実力つけてからってのは分かる話や」
「俺もそう思ったんだけど、いつまで経っても同じところで躓くし、いつも苦戦するし、強くなった実感が湧かねえんだよな。つーわけで、ちょうどいい機会だったから、こっちに完全移籍しようと思っている」
「別にええで。後は視聴者受けやな」
「姫ちゃん、何か良い方法思いついた?」
「思いついたわよ」
姫花が糸を使ってしゅるりしゅるりと作り始めている。それは女子の制服だった。
「……すげー嫌な予感がするんだけど、もしかして、いや、もしかしなくても、それを俺が着ろって言うつもりか?」
「着ろって言うつもりよ。正体を隠すには変装が一番って本に書いてあったわよ」
「姫ちゃんってミステリー好きだもんね」
「電車の中で何か読んどるなぁと思ったら、ミステリーなんかい」
「人の心を学ぶにはちょうど良さそうじゃない? って、話が脱線したわね。一度着てみなさい。きついところあったら、作り直してあげるから」
「ウチらは姫花の部屋に移動したるさかい、ごゆっくりやで~」
「って、おい!誰も女装するなんて言って……まったく!人の気も知らねえで」
剣崎が着替え始めて数分、そろそろかと思って咲夜たちが部屋の中に入るとそこには女装をした剣崎が恥ずかしそうにしていた。それを見た姫花を除く女子三人がプフッと思わず拭いてしまう。
「これはさすがに女の子には見えんわw」
「そうだね。これだと罰ゲームだよw」
「現実はそう甘くありませんわねw」
「どうするんだよ、これ!」
「ちょっと座りなさい。小物とメイクで色々誤魔化していくわ。まずはこのカツラで女の子らしい髪型にしつつ、この黒マスクを着けて顔の印象をマスク側に移しつつ、のどぼとけはスカーフで隠して……」
女子三人を背にした剣崎を姫花の手で調整用の小物を作りつつ、女の子らしくメイクアップしていく。そして、メイクを終えた剣崎が後ろを振り向いてみると、先ほどとは違い、噴き出すようなことはない。
「結構印象変わるやん。パッと見はバレへんで」
「日本橋に行ったらこういうコンカフェ店員かメイドさんいるよ」
「でも、いくら外見がセーフでも、しゃべったらバレますわよ」
「それなら、無口キャラで通……なんだこの声」
「このマスクとスカーフに変声機能もついているがついているの。万が一、モンスターの攻撃でどっちかを紛失しても、片方残っていれば問題無いわ。これならどうかしら、ドリル娘」
「璃琉ですわ。これなら問題無いと思いますが、戦闘服に着替えるときはどうしますの? まさか女子更衣室に入るわけにもいきませんし、その恰好で男子更衣室に入るのも……」
「なんでだよ、普通に男子更衣室で着替えて、ヅラとマスク、スカーフ着けたらいいだけの話だろ」
「ウチが男の子でこの恰好の子が着替えている途中で入ってきたら、驚くで」
「とりあえず鏡で自分の顔を見たら?」
剣崎が百合から手渡された手鏡で自分の顔を見る。そこにはメッシュの掛かった髪をツインテでまとめ上げて、目元はバッチリとメイクされた地雷系の女子が映し出されていた。
「これが……俺?」
「どう似合っているでしょう。ちょっと筋肉質なのもゆったりとしたサイズに長袖とスカート丈を長くしてあるから、誤魔化せているわ。クラスメートが見ても、誰も貴方が剣崎直人とは思わないわ」
「どうりでちょっと暑いとは思ったけど、これでダンジョンに入るわけじゃねえし……」
「入ってもらうわよ。その制服は私の糸で出来ているのよ。魔力を通せばどうなるか、配信をみていたら、わかるわよね」
「……マジかよ。ちょっと軽く魔力通したけど、下手な軽装用の装備よりずっと良いぞ。下手したら何百万とか行くんじゃね?」
「先行投資。こういう装備が作れますってなったら、イレギュラー騒動で閑古鳥の草津ダンジョンも賑わいを見せるでしょう(それにダンジョンポイントも溜まる)。こっちは恩を売れるから、ギルドに借りを作れる。貴方は強力な装備を手に入れられる。三方良しよ」
女装している気恥ずかしさを除けば、剣崎に不都合な点は一つもない。しかも、モチーフにしているのはこの学園の制服だから、学園から出入りしたところを一般人に見られても不審がる者はいない。
「分かったよ。女装してダンジョンに入ればいいんだろ」
「ウチらが剣崎って呼んだら正体即バレやし、ナオちゃん呼びやな」
「そうだね、ナオちゃん」
「似合っていますわよ、ナオちゃん。ぷふっ」
「てめえら……」
「ナオちゃんのことはひとまず置いといて、本題はここからどうするのかを話すわよ」
「そうだ。せっかく同じチームに入ったんだから、魔力のコントロールとかそういうの教えてもらわねえと」
「そうですわね。お二人をあれだけ強くした手腕をぜひとも体験したいですわ」
「もちろん、教えるわ……と言いたいけど、私、冥に誘われて明日から淡路に行かないといけないの。というわけで盆休みの間は咲夜と百合の二人に鍛えてもらいなさい」
「なんだよ、姫花から教えてもらえねえのかよ」
「田中さんから教えてもらうことなんてほとんどありませんわね」
「言っておくけど、今の二人は貴方たちより強いわよ」
「へえ~、おもしれーじゃん。さっそく訓練場に――」
「ちょい待ち。その恰好で校内をうろつくつもりなんか!」
「まずはメイク落とししないと……」
「……やべえ、下手したら女装趣味とか陰口叩かれるところだった」
(まあ、いずれはバレるとは思いますわよ)
そこはあえて口に出さないでおいた璃琉であった。きっとそっちの方が配信受けは良いだろうと同じ配信者として思ったからだ。
男姿に戻った剣崎達が訓練場に着き、咲夜と対峙する。夏休み前の模擬戦ではほぼ互角。停滞していたとはいえ、咲夜たちが何とかして倒したミノタウロスとは幾度も戦っている。咲夜が強くなっているのは分かるが、そこまで差は無いだろうと思いつつ、待ち構える。
「行くで!」
「……っ!?」
咲夜の剣戟が夏休み前よりも重く、鋭い。油断して力を抜いていたら、初撃で模擬刀を叩き落とされていただろう。だが、その一撃を受けた剣崎はスイッチを入れなおし、本気で咲夜と相対する。1年同士の模擬戦とは思えない激しい剣の応酬。だが、苦しい表情をしているのは剣崎の方だ。
「いつの間にこんなに強くなったんだよ……」
「そりゃあ、ミノタウロスを倒すためにイメトレやって来たからな。悪いけど、剣崎に負けるイメージは全くないで」
「そりゃあ、どうも!」
自分はミノタウロス以下かと感情を乗せた一撃を繰り出すも、しっかりと防がれる。こうなれば、勝てる方法は一つしか無いと、距離を取って構える。
「疾風斬り!」
自分の必殺技、疾風斬り。小さい頃から風魔法は得意で、中学になるころには、魔法剣が使えるようになっていた。疾風の如く駆け抜け、切り捨てる一撃はクラスメートだと姫花以外には破られたことは無い。文字通りの必殺技である。
「そう来るのはわかっとるんや!火炎斬り!」
相対しているのは風に対しては得意属性の咲夜の炎が、風を纏っている剣崎をカウンター気味に斬り付け、試合終了のブザーが鳴る。
それとほぼ同時刻、璃琉と百合の魔法戦でもその勝敗が決まりつつあった。姫花からアース系魔法の使用禁止を聞かされていたこともあり、決め手はないだろうと序盤から強気に攻め込んでいた璃琉だったが、冷静に相殺、いや、わずかに上回る百合の魔法に焦りを生んでしまう。
「ストーンランス!」
「っ、あの魔法は相殺しないと!アイスニードル!」
氷の針が石槍を相殺しようとするも、貫通力の高い槍は氷の針すら打ち砕き、2体目の人形を破壊されてしまう。対して、百合の人形は3体フルセットで残っている。
「(これだけあれば、1体くらい失っても大丈夫。集中してイメージ……)」
「攻撃が止んだ? でも、今なら、アイススプラッシュ!」
「ストーンランス!」
数少ない反撃のチャンスだと思った璃琉は3体纏めて葬るため、氷の散弾を放つも巨大な石槍が中央の人形を守るように突撃してくる。慌てて、プロテクションを張っても、紙のように破ってくるソレを破壊する手段がない璃琉は最後の人形も破壊されてしまうのであった。
特訓場を後にして、咲夜の部屋で打ち合わせをし始める【STARS】の面々。特訓場で完膚なきまでに敗北した二人には朝方に見受けられた少しばかりの驕りは消え失せていた。
「二人とも強かったでしょう」
「完敗でしたわ」
「ああ、俺たちなんかよりずっと強くなっていた。改めて言うよ、色々と教えてくれねえか?」
「別にええで、それにウチらはチームメイトなんやから」
「そうだよ、助け合うのは普通だよね」
「……それにしても、私には一つ分からないことがありますの」
「何かしら?」
「魔力のコントロールやイメージがお二人を強くしたのは分かりましたわ。でも、そういった技術が廃れていったのか分からないんですの」
「だよな。イメージだけで強くなるなら、皆やっているよな。手軽だし」
「仮説ではあるけど、昔より便利になったせいね」
「便利になったことは悪くないやろ」
「私がやっている方法ってダンジョン黎明期の装備もまともに揃えられない頃に使われていた技術なの。ただ、装備が店頭販売できるようになって、誰しもが装備を手に入れられる。多少雑に魔力をコントロールしても魔法が撃てるようになった。スマホでできること・できないことの情報共有が瞬時にできるようになって固定観念が生まれ、それ以上をやろうとする想像力は失われた。結果としてめんどくさくて、人を選ぶ古臭い技術は昔の技術として忘れ去られてしまったわけね」
「確かにパソコンが普及してからは漢字が書けなくなったということは聞くことありますわね」
「でも、そんな古い技術よう知っとるわ。黎明期ってことはおじいちゃん、おばあちゃん世代やろ。下手すらひいおじいちゃん世代かもしれん」
「どこで教えてもらったの?」
「独学よ。それよりも、私が居ない間、きっちりと訓練しなさい。それが終わったら、月末までは梅田第2ダンジョンでパーティー組んでの攻略、その後は彦根ダンジョンの攻略よ」
「彦根ダンジョンか……確かトラップが山盛りで攻略難易度はAランク並みって聞いているぜ」
「私もプロの方と同行させてもらいましたが、危うい場面がいくつかありましたわ」
「トラップはこちらで見破ってあげるから、安心しなさい」
「梅田第2ダンジョンもわざと踏まん限りは引っかからなかったわな」
「うん。クノイチちゃんのスカウト能力にはいつも助けてもらっているからね。きっと大丈夫だよ」
「順調に行けばさほど苦戦しないはずよ。さてと、梅田第2ダンジョンの攻略時、咲夜はフレイムソードの使用禁止、百合はアース系魔法の使用禁止で攻略すること」
「ミノタウロス倒すのに一番重要な奴封じられたやん」
「ってことは、倒せるかどうかは俺たちにかかっているわけか」
「責任重大ですわね」
「どうしても厳しそうなら口出しするけど、まずはパーティー内で相談しながら進みなさい」
中級魔法を封じておけば、ミノタウロス戦はどうあがいても長期戦になる。長期戦になれば思わぬ事故や怪我が生じる。そういうときこそパーティー内の団結力、臨機応変に戦える能力が重要になることは、相対するモンスターだからこそ良く知っていた。
(すこしつついたくらいで連携が崩壊するなら、たとえ個が強くても怖くないもの)
姫花は目を瞑り、想像する。成長した彼女たちが自分の前に立ちはだかり、アリスとしての自分と相対する未来を。その思い描いた未来がうすぼんやりでも見えつつあることを。




