第16話 人形姫、自作自演するってよ
1回目の梅田第2ダンジョンの探索を編集がてら見直している二人。そこに映っているのはリザードマンに援軍を呼ばれて窮地に陥ったり、ガーディアンと呼ばれるゴーレムに苦戦し、死にかけのミノタウロスに危うく殺されかけた百合の姿。無双できた第3ダンジョンと違って、雑魚モンスター1体1体がワーウルフ並みの強敵であった。
「こうみると、ウチら何回死んどるんやろうな」
「姫ちゃん頼りにしていたのがよくわかるよ~」
甘え。驕り。急成長した自分たちにそういった物が無かったかと言われると嘘になる。
「次の探索はこんな無様晒すわけにはいかないで」
「うん。収益化1発目の配信だもんね」
今日は7月29日。探索おわったら数日は休むようにと言われているから、最短で挑んでも8/1以降になる。とはいえ、この積みあがっている問題を解決しないことにはいつまでたっても配信はできない。
「リザードマンはウチらが舐めすぎたせいもあるから、そこは解決できる。速攻を心掛けるで。問題はミノタウロスよりガーディアンや」
「うん。ミノタウロスは私がアタッカーを務めたらいけそうだもんね」
ガーディアン戦を見直すと、咲夜の攻撃が固い装甲に弾かれ、百合の魔法攻撃も下級魔法を弾くほどの高い魔法耐性のせいで通用しない。攻撃は躱せても、守備力の高いモンスターをどうやって倒すか、ミノタウロス戦でも露呈した火力不足が咲夜を悩ませていた。
「アース系魔法を使えたら楽なんだけど……」
「それは禁止されとるからな。多分、これはウチへの課題や。これを解決したらミノタウロス戦も百合が支援に回れるから、作戦の幅も広がるし、ヘイトを奪われるウチが回避タンクするよりかは攻略がずっと安定するはずなんや」
「ってことは、これまでの姫ちゃんの言葉に攻略のヒントが隠されているかも?」
「言っとるんかな」
「とにかく姫ちゃんの言葉を思い出そう」
姫花の言っているアドバイスで一番口酸っぱく言っているのは魔力のコントロール。そして、魔力の変換だろう。となれば、そこに解決の糸口があるかもしれないと考えていく。
「う~ん、分からん。サラマンダーの力を借りれるなら、あの凄い剣でズバッと装甲を溶かせるんやけどなぁ……」
「それだよ!」
「なにがそれなん?」
「魔法はイメージって言っていたよね。だったら、あの剣をイメージしたらそれっぽいのができるんじゃない」
「精霊の力を借りないと無理やろ」
「でも、私、姫ちゃんの魔法戦をイメージして魔法を撃ったら、レッサーリッチを1撃で倒したんだよ。姫ちゃんの反応見るにノームさんの力を借りていたとしても想定外の威力だったんじゃないのかな。だから、自分の知る一番強い魔法をイメージしたら、それに近い剣で戦えるんじゃない?」
「でも、ウチ、魔法苦手やしなぁ……」
「もう……そういうイメージを持っているからダメなんじゃない? 苦手だから逃げずに自分はできる。やれるって思うのが肝心なんだよ」
「……そうか。そうかもな。よっしゃ、明日から練習付き合ってくれへん?」
「もちろん。友達でチームメイトだもん。一緒に頑張ろう」
「せやな。2回目で成功して姫花にギャフンって言わせるんや!」
「その意気だよ。そうと決まったら、この動画上げて宿題片付けよう」
「ずこー。宿題はええやろ」
「駄目だよ。夏休み最後の日に手伝ってーって言われても困るもん。宿題も探索も頑張らないと。でないと教えないよ」
「うう、言いだしっぺだけに何も言えへん……とほほ」
切り抜き動画を上げたことを確認した二人は、早速、白紙が広がる咲夜のドリルを一緒に解いていくのであった。
一方、その頃の草津支部では暗い顔をしたギルドマスターたちが夜中にもかかわらず、緊急会議をしていた。議題は隠された2階層目とBランクパーティーの壊滅だ。
「壊されたドローンカメラの映像を見るに、リビングドールの戦闘中に何者かがカメラの死角から攻撃、破壊されたと思われる」
参加している者たちはあり得ないと思った。モンスターからすれば、攻撃もしてこない変なモノが浮いている。まずは目の前にいる殺意のある敵、人間を襲おうとするのが常識だ。だが、このダンジョンにいるモンスターは真っ先にカメラを狙ったという。
「そして、彼らの遺品からは明らかに攻撃を受けて破壊されたスマホがあった」
「スマホを?」
「カメラといい、カラスみたいに光るモノが好きなのかしら?」
「その可能性もあるが、儂はスマホの緊急脱出装置を使って逃げようと取り出した時に破壊されたのではないかと考えておる」
「ありませんよ。それだとまるでモンスターが我々人間の手口を把握しているようじゃないですか」
「考えすぎです。たまたま攻撃を受けて破壊されただけじゃないですか?」
「そうかもしれん。じゃが、そうでなかったとしたら、これ以上無い脅威がワシらの首元に迫っておる。ギルドの責任者として、たとえわずかな可能性だったとしても、それを見逃すわけにもいかん」
「……失礼を承知のうえでのご提案をしてもよろしいでしょうか」
「構わん。今は一つでも案が欲しい」
「ギルドマスターが懇意にしている有栖川 姫花さんをオブザーバーとして招くのはどうでしょうか? 私も配信を見ていますが、彼女の知見は専門家以上です。もし、知性のあるモンスターがいるのであれば、何かしらの対策案を出してくれるかもしれません」
「たかが女子高生一人に頭を下げるというのか。馬鹿馬鹿しい」
「いや、南君の言う通りだ。儂の頭一つ下げるだけで有望のある若者たちを護れるなら安い」
「そんなことをしたら我々の威厳が……」
「人が死んでおるのだぞ。威厳など無いわい。今日はもう遅い。明日にでも彼女と連絡を取り合い、都合の良い日を聞くとしよう」
元凶たるモンスターへの対処をいったん保留にしても、まだ壊滅したBランクパーティーへの補償問題、騒ぎを嗅ぎつけたメディアへの対応とやるべきことは数多く、夜中の会議はまだまだ続くのであった。
翌日、連絡を受けた姫花は二つ返事で草津支部へと足を運んでいた。ただ、普段とは違い、マスコミたちが押し寄せており、中には姫花に対してマイクを押し付け、ペチャペチャと喋っているが、まったく興味がないため、気にせず、ギルドマスターたち数名が待つ会議室へと入っていく。そこで聞かされたのは昨晩のBランクパーティー壊滅の件についてだ。
(当事者、というか下手人だから言われなくともよく知っているわよ)
ただ犯行時刻より少し前には大阪で配信しているという鉄壁のアリバイがある。ミステリーの犯人みたいにうかつな発言をしなければ、疑われることは無いだろうと思いながら、所感を述べていく。
「さすがにこんな途切れた映像記録と死体の写真だけじゃあ、これが何のモンスターなのかは分からないわ。せめて音声が欲しかったわね」
「さすがに儂らも、モンスターの正体が分かるとは思っておらん。問題は我々、人間の行動を学ぶモンスターが出たのかどうかじゃ」
(目の前にいるけど?)
さすがに正直に言うわけにはいかないので、あくまでも自分が知っている範囲でならと付け足すことで、嘘が見破られても「知らなかった」と逃げ道を作りながら、話していく。
「例えば食べば強くなる捕食スキル効果持ちのモンスター。普段は格下しか倒せないから、たくさん食べたとても強くなる上限がほぼ決まっているわ」
「それらは何種類か報告されてはおるな。特にキメラ系統にそのスキルを持つモンスターが多い」
「ただ、今回みたいにイレギュラーモンスターが湧いたとき、イレギュラーモンスターによって上位存在が死にかけ、もしくは新鮮な死体を捕食する場合がある。その場合、通常個体よりも強く、賢くなるのよ」
「今、調べたところ、海外の事例ではありますが、数例報告されています。ですが、今回のように人間の行動を把握して動くような事例はありません」
「あくまでも可能性の話だもの」
「結局、分からないってことじゃないか」
「山本君、次、私語を挟むようなら出て行ってもらうぞ!すまない、気を害してしまって」
「良いのよ。ここで話したところで、モンスターの正体なんてわかるわけないんだし。Bランクが壊滅している以上、こちらもそれ相応の準備してダンジョンに潜るしか方法は無いわ」
「……嫌なら断っても良い。我々、ギルドからの依頼として、ダンジョンの探索をお願いしたい」
「頭下げなくても構わないわよ。個人的にもお世話になっているし、【STARS】としても普段からこのダンジョンを利用させてもらっていたもの。その依頼を受けるわ。ただし、いくつか条件がある」
「何かね。我々としてはよほどのことがない限り、条件を飲む手筈は整えてある」
「①【STARS】の収益化が決まる8/1以降にダンジョン配信をする許可を出すこと。②高価な配信ドローンやカメラ、スマホが破壊されるリスクがある以上、複数台をそちらが用意すること。③マスコミ? だったかしら。うっとうしいから、できる限り近寄らせないこと。この3点を守れるなら、ダンジョンに潜む謎のモンスターを倒しても構わないわ」
「①に関しては許可しよう。②の配信機材はちょいと古いが、貸し出し用の機材を使うと良い。壊しても構わん……とは言いたくないが、腹に背は変えられん。③は……まあ、こちらも努力はするが、完全に排除は出来ん。不愉快な思いはさせてしまうかもしれん」
「③に関しては努力が見受けられるなら、構わないわ。さすがにダンジョンの中までは入ってこないでしょう」
「そうだと良いんじゃがのう……」
「いくつか事例がありますからね……マスコミの身勝手な行動によるトラブル」
「……仮に乱入して来たら、見捨てるから。後の対応はよろしくも付け足しておこうかしら」
「それは構わん。ダンジョンに入ったからには自己責任なのは国際的なルールじゃからな。批難される方がおかしかろう。もし、それでパッシングされるようなら儂からもそのメディアに対して批難し、ダンジョン庁にも問題ある行動として報告しよう」
「ああ、怖い。怖い。権力って怖いわね」
「こういう時にしか使えんのが玉に瑕じゃな。そうじゃ、ダンジョンアタックの時に【STARS】の二人も来るのじゃろ。配信前に新しいギルドカードを渡したいと伝えてはくれんかのう」
「それくらい構わないわよ。気合入れて、早朝から鍛えている咲夜たちに冷や水を掛けることになっちゃうけど、ギルド案件のこと伝えないとね」
「すまんのう」
帰るときも、マスコミがワーワーと喚いているが、何を言っているのかよく分からないし、聞く気もないので、そそくさと呼んでもらったタクシーに乗って草津駅まで向かうのであった。
マスコミの喧騒が無くなり、静かになった電車内で、姫花は窓の外を眺めるふりをしながらセバスチャンと念話をし始める。
(で、どうするんです? 2階層のダンジョン攻略)
(自作自演するに決まっているじゃない。人形の一部はセバスチャンに操作してもらうとして、私は元凶のボス用にキメラドールを作って、持ち帰っておいた冒険者の頭を食わせて強化するわ。それなりには強くなるでしょう)
(私が操作するのは構いませんが、多少強化したところでキメラドールの強さはC~Bランク。人間を食わせれば賢くはなりますが、Bランクパーティーを壊滅させるほど強くなるかと言われると)
(ついでに私の人形も何体食わせたら?)
(駄目では? 姫様は大丈夫でしょうけど、Aランクくらいに跳ね上がりません? 変異種だとか強化種だとかそういう風に呼ばれますよ)
(そっちの方が都合が良いじゃない。変異種が偶々いたから壊滅した。しばらくは警戒されるだろうけど、逆に言えば彦根ダンジョンからの介入も当面はしにくくなるということ)
(なるほど。その間に彦根の攻略に移ると)
(そういうこと。今朝方の訓練を遠くから見る限り、自分たちで答えにたどり着きそうだし、期待しているわ)
(あれだけ暇を持て余していた姫様が楽しそうで何よりです)
セバスチャンの念話を終えても、まだ茨木駅にはつかない。暇を持て余している姫花は図書室で借りてきた小説を読んで時間を潰すのであった。




