第14話 人形姫、魔法講座開くってよ
翌朝、梅田第3ダンジョンで配信する【STARS】の面々。配信を開始するや否や、「どっちが勝ったんだ?」、「さすがに黒魔女の圧勝だろ」、「配信しろよおおお」と昨日の模擬戦のことを聞かれるコメントであふれていた。
「探索を始める前にそっちから話そうか。勝ったのは――」
「私よ」
【って黒魔女!?】
【ご本人様登場!?】
【ずるーい】
【きゃー、黒魔女様】
【ジャパンが誇るダークウィッチが学生の動画で見られるとはとんだサプライズだぜ】
「彼女の名誉のために言っておくけど、最後の一手を間違えていたら敗北していたのは私だったということだけは伝えておくわ」
「2-2までは追い詰めたんだけどね。詰めが甘かったわ」
【なにそん】
【どれだけすごいの? 野球で教えて】
【甲子園で活躍した投手がメジャーリーガー相手に先発。9回裏まで完投したけど、最後打たれて敗北】
【やべえ】
【十分過ぎる戦果じゃねえか】
【むしろ控え投手に文句言うレベル】
「それくらい白熱した戦いやったで。あともう一つ、お知らせがあるんや」
「なんと、来月8/1より、【STARS】の収益化が決まりました。イエ~イ!」
「みんなの応援のおかげや。姫花もなんか言っとき」
「打ち合わせと違うじゃない。えっ~と、収益化しようと活動を変えるつもりは無いわ。目指せ、Sランクでしょう」
「せやで。収益化が目標やない。初志貫徹は大事や」
「うん。お金も大事だけど、目標はSランクだもんね」
【それ聞いて安心した】
【収益化決まった途端、安定に逃げる冒険者も多いからな】
【わかるマン】
【もっと攻めて欲しいのにもやもやするんだよな】
【収益化おめでとう】
一部は「結局金だろ」と批難するコメントはあったものの、今のご時世、冒険者の配信が収益化するのはそう珍しくはないことからも、概ね受け入れられているようではあった。ということで、新規の視聴者が大量に入ったこともあり、今の二人の実力を見てもらおうと、つい1か月前に戦ったこともあるゴブリンゾンビとオークゾンビと戦ってもらうことにした。
「あれ? 妙にオークが弱い気がするんやけど?」
「うん。私が攻撃に回らないと倒せなかったよね?」
ウルフ系のスピードに慣れた咲夜にゾンビの動きがとろすぎて止まっているように見える上に、タフであるはずのオークゾンビでさえ、レッドドラゴンと比べたら何もかもが劣る。あっさりとドロップアイテムになった姿を見て、手ごたえの無さすら感じる始末だ。
「これで分かったでしょう。格下と戦っても成長しない。レベルアップには同格以上の相手が必要だってこと」
「すんごい分かったわ」
「ってことは、ここで探索しているとあまり伸びないってこと?」
「といっても、魔法の練習をするには訓練場の的よりかは役立つでしょう。というわけで冥も聞きたがっていた魔法講座のはじまりはじまり~」
【冥って!?】
【黒魔女の下の名前じゃねえか!】
【名前で呼び合うくらいに仲良くなったの?】
【羨ましいですわ~!!】
「あっ、言っとくけど黒魔女さんのことを名前で呼んで良いのは姫花だけな。調子こいてウチも呼んでみたらげんこつ代りに雷がふってきたで」
【残当】
【当たり前ですわ~】
【さすがはSTARSのお笑い担当】
【体を張るのは大阪人の血を引いてますわ】
「雑談はそれまでにして、魔法について話すわ。昨日の模擬戦もだけど、私が杖無しで魔法を使っているのは知っているわよね」
「せやな。百合はああいうのはできるんか?」
「さすがに杖が無いと無理かな。黒魔女さんはどうなんですか?」
「私? 高ランクのダンジョンに潜るようになったら、杖をモンスターに破壊されることなんて一度や二度くらいあるわよ。だから、杖が無くとも魔法の行使ができるようにしないとね。ほら」
黒魔女が無詠唱でファイヤーボールを出して、視聴者たちに「おお~」と感嘆させる。それくらいには杖無しの魔法は珍しいものなのだ。
「でも、これをメインで戦おうなんて普通はしない。あくまでも使うのは緊急時よ」
「私としてはよほど強力な魔法でも使わない限りは、無い方がやりやすいのよね。個人的な感想はさておき、魔法を使うには魔力のコントロールと魔力の変換、この2つが重要になる。コントロールの大切さは二人ともわかっているわね」
「もちろん!」
「中々切れへんなら切っ先に集中させたり、盾を強化したり……めっちゃ意識するようになったわ」
「じゃあ、次のステップである魔力の変換について話すわね」
というと、姫花が片手で魔力の塊、魔力弾を作り始める。
「これは魔力を集めただけの弾よ。この魔力の塊を変換することで、火の弾に変えたり、水の弾に変えるわけよ」
【シームレスに変わってて草】
【魔術師のワイ、タブレットの前で同じことをしようとして失敗】
【ワイ君wwww】
【凹むなよwww】
「この変換に重要なのは術者のイメージよ」
「イメージ? どういうことや?」
「例えば、ファイアーボールと聞いたら火の玉を想像するけど、水の玉は想像しないでしょう?」
「あたりまえやろ、ファイアーボールなんやから」
「私たちの詠唱も同じ。ファイアーボールという言葉、言霊の力を得て、術者の中で、このコントロールされた魔力はファイアーボールであると変換され、出力される。逆に言うのであれば、魔力を完ぺきに制御できる範囲で確固たるイメージがあれば言葉を発せずとも魔法を行使できる。これが無詠唱魔法ね」
「ああ、分かるわ。無詠唱で使えるようになったのって、『上位の魔法を使っているんだから下位の魔法は楽に使えて当然』、『杖無しでも使えるんだから詠唱無くても行けるはずだ』とか、そういう変な自信が湧いたときなのよね」
「それだけその魔法を使うのに確固たるイメージが付いたっていう証拠よ。さすがに今の百合に無詠唱を使えとは言わないけど、イメージするというのは重要よ。例えば、今、私の人形が抑えているゴブリンゾンビの群れだけど、ストーンバレットにどんなイメージを乗せたら、あの大軍を楽に倒せそうと思う?」
「う~ん、昨日、姫ちゃんがやってみたように一度に出せる弾を増やしたり、貫通効果を付与できたらいいんだけど……」
「追加詠唱ね。それを教えるのはまだ時期早々だけど、例えば、より弾を速く、より貫けるイメージをしっかりと持ったうえで、魔力を込めて魔法を使ってみなさい」
「うん。分かった……ストーンバレット!」
ゴブリンゾンビの群れに向けてストーンバレットを放つと、さっきまでよりかは若干スピードアップした石弾がゴブリンゾンビたちを貫きながら倒していく。
「なんか強くなった気もするけど……実際問題、黒魔女さん的にはどうなん?」
「そうね。追加詠唱の効果が速度2倍、貫通力2倍になる代わりに魔力消費1.5倍になるとすれば、さっきのは同じ魔力消費で速度1.3倍、貫通力1.3倍なるってところかしら」
【一応、効果はあるって感じか】
【たんに魔力を込めたからパワーアップしただけじゃあ……】
【そのあたりはどうなんだろう?】
「単純な強化だと精度面の調整、石弾の強度の強化とかにも魔力が回されるから、同じ魔力消費なら1.1倍になる。つまり、イメージの効果は間違いなくあると私が保証するわよ」
「冥のお墨付きをもらったところで、百合にはもう一つやってもらうことがあるわ」
「もう一つ?」
「アース系魔法、つまり、ノームの力を使いこなす訓練よ」
「おお!」
「ずるーい。ウチもサラマンダーの力を借りれるようにしてや」
「咲夜は次の機会よ。今回は百合の番だから辛抱なさい」
「うう、ケチ」
「咲夜ちゃん、ごめんね。それで、その訓練ってどうやるの?」
「ここのボス、レッサーリッチと戦う時のみ、アース系魔法だけを使う。ヘイストもヒールもプロテクションも使用不可。今の百合にとって中級魔法の魔力消費は大きいから使える魔法の回数は限られている。つまり――」
「どの魔法をどのタイミングで使うのか、術者の見極めが肝心ってことね」
「そう。今の咲夜たちなら、普通に戦えばレッサーリッチに後れを取ることは無いけど、次に戦うミノタウロスは魔法の使いどころを間違えれば、仲間の死にもつながる。今のうちに戦況を見渡す目を鍛えるのも重要よ。そして、下級魔法を自在に使いこなし、アース系魔法すら使いどころを見極めて使えるようになれば、ノームも認めるはずよ」
「うん、分かった。頑張るよ」
「よっしゃー!レッサーリッチのいる地下墓標、カタコンペエリアへ出発や!」
気合を入れ直した咲夜が元気よく歩き、それに続いて百合たちもカタコンペへと向かっていくのであった。




