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過疎ダンジョンの人形姫、暇すぎて世界を救う配信者になるってよ  作者: ゼクスユイ


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14/21

第13話 人形姫、模擬戦するってよ

 ダンジョンブレイク未遂事件から翌日。2度のイレギュラーモンスターの発生を受けて草津第1ダンジョンは本格的な調査を受けるため、当面の間はギルドが許可した冒険者以外立ち入り禁止となった。


(おかげでダンジョンポイントが伸び悩みそうで嫌になるわ)


(しかもイレギュラーモンスターは他のダンジョンから送られてくるからイレギュラーだというのに、送り込まれたダンジョンを調べて何が得られるんですかねえ……)


(仕事をしたっていう達成感じゃない? よくわかんないけど。こっちはアサシンを彦根ダンジョンに送るわ)


(イレギュラーモンスターとして送ればすぐバレますが、正面から乗り込めばバレませんからね)


(イレギュラーモンスターを送ってまで、他のダンジョンを狙う理由なんてダンジョンポイントの横取りしかありえない。大量のポイントを貯めてまで、何を為そうとしているのか。その目的は分からないけど、とにかくことが大きく動くなら、アサシンが気づくはず)


 セバスチャンとの念話を終え、訓練場へと向かっていく。夏休み中だというのにギャラリーが多い。しかも、生徒たちだけでなく教員の姿もちらほら見える。コートの向こう側で対峙しているのは黒い三角帽子に黒いローブを着た女性の姿。同じ年ごろの女性が着ればコスプレにしか見えない格好だが、日本人離れした抜群のプロモーションとSランクとしての風格が自身が黒魔女だと言わしめている。


(へえ、手に持っているのは冥王龍の杖じゃない。よほど運が良くない限り、Sランクの冥王龍をそれなりに倒している証拠。こと魔法戦なら私でも負けるかもしれないわね)


 久しぶりに自分と同格以上の相手かもしれない相手に興奮する姫花ではあったが、顔には出さまいとすぐにクールな態度を取り繕う。


「少し遅かったかしら」


「いいえ、私もさっき来たところよ。自己紹介が遅れたわね。黒木 冥、皆からは黒魔女と呼ばれているSランクの冒険者よ」


「これはご丁寧に。私は有栖川 姫花。今はBランクだけど、Aランクに推薦してもらう予定よ」


「姫花、それまだ言ったらアカン奴やー!」


「まだ公に話したらダメって言われたでしょう」


「別に良いじゃない。これくらい」


「面白い後輩ね。で、恩師からも聞いたんだけど、本当に杖を使わないの?」


「普段、杖なんて持ち歩かないもの。こっちの方が実戦に近いわ」


「杖が無かったから、負けたなんて言わないわよね」


「杖が無いから、変に加減して負けたなんてダサイ言い訳はしないでよね」


「そういうことなら、加減しないわよ」


 マイクパフォーマンスじみた舌戦の後、二人の前にターゲットとなる人形が3体現れる。互いに魔法を駆使して、この3体の人形を破壊したほうが勝ち。あくまでも模擬戦であるため、術師を直接狙うのはNG。というのが、魔法戦の基本ルールである。


「フレイムスピア!」


「ダークネススピア!」


 開始のブザーと共に、炎と闇の槍同士がぶつかり、消失する。あいさつ代わりの中級呪文同士のぶつかり合いは互角。となれば、勝負は上級呪文をどれだけ正確に、速くぶつけられるかにかかる。


「二重呪文、マグマバレット」


「なら、こっちは三重呪文トリプルキャスト、アビススプラッシュ」


短縮詠唱ショートキャスト、アークプロテクション!」


 炎の弾丸をも飲み込む闇の弾幕だったが、突如現れた高位の光の壁に阻まれる。日本最高の魔術師たる黒魔女に女子高生が肉薄するという前代未聞の戦いっぷりに、ギャラリーも言葉を失うほどだ。


「上級呪文の短縮詠唱なんてよくやるわね」


「そっちこそ、三重呪文なんて私でもそうそうやらないわよ」


(四重呪文くらいやらないと隙すら作れなさそうだけど、そもそもそれをさせてくれる隙は無さそうよね)


(小手先の技術だけではケリがつかないわね。となれば溜めを作る時間が必要)


((となれば……))


「クリエイト、アビスゴーレム!」「クリエイト、マグマゴーレム!」


 両者の思惑が一致し、同時に召喚された闇と炎の上級ゴーレムが互いに押し合いを始める中――


「誘導付与、マグマスピア!貫通付与、ボルテックスアロー!遅延詠唱ディレイ、マグマバレット。二重呪文、ボルテックスサンダー!(無詠唱 フレイムアロー、ライトニングアロー) 短縮詠唱、ガイアニードル!遅延詠唱、マグマバレット」


「アビススピア!クワ。短縮詠唱、タイダルウェーブ!トロ。誘導強化、アビスアロー!キャ。詠唱強化、アビススプラッシュ!スト。ブリザードスピア!」


 一見すれば、中級魔法混じりながらも手数で押そうとする姫花に対して、質を強化して突破を伺う黒魔女。2人の呪文がゴーレムを巻き込みながら、空中・地上でぶつかり合う。


「これで一気に決める。アビススパイラルアロー!」

「それは私の台詞よ、三重呪文、マグマバレット!解放、マグマバレット!」


 螺旋を描きながら発射された闇の矢と炎の弾幕が視界を埋め尽くすほどに発射され、この呪文のぶつかり合いの勝者がそのまま試合の勝敗を分けると思わせるほどの轟音が鳴り響く。ぶつかり合いの余波で巻き上げられた土煙で二人の姿を見失うほどだ。


「ど、どっちが勝ったんや!?」


 土煙が晴れていくと、黒魔女側の人形が1体破壊されたのに対し、姫花側の人形が2体破壊され、後が無くなる。この魔法合戦の勝者はわずかながら黒魔女に軍配が上がったようだが、まだ試合の決着がつかないほどには拮抗している。


「まさか追加詠唱アペンドキャストの分割詠唱なんて離れ技をしてくるなんてやるわね」


「そっちこそ、無詠唱はともかく、すべての魔法に追加詠唱をするなんて思わないわよ。本当に16歳なのか疑わしくなるわ」


「実は鯖読んでいて160歳なの……とか言ったら信じてくれる?」


「実力を見たら、そっちの方が真実味あるわよ」


「じゃあ、160歳分の研鑽を見せないとね。 貫通強化、二重呪文、ボルテックススパイラルアロー!短縮詠唱、弾数強化、マグマスパイラルバレット!(無詠唱、ライトニングアロー)」


「(貫通効果を術に組み込んだうえでの二重追加詠唱!? ) 三重呪文、アビスランス!短縮詠唱、タイダルスプラッシュ!(無詠唱、ダークネスウォール)……間に合わない!」


 雷の矢を闇の槍で撃ち落としても、雷光の矢と共に螺旋を描きながら迫りくる炎の弾丸は水の弾幕と闇の障壁を貫き、人形を破壊されてしまう。これで頭数は同じ1vs1。お互いに後がない状況にまで追い込まれていく中、互いに無詠唱の中級呪文が訓練場を覆いつくしていく。


「今度は無言で魔法を撃っとるで!? 何をしとるんや?」


「先生、分かりやすく教えてください」


「う~む、どうやら互いに最後の一手に全てを掛けるために魔力を練っておる。それを妨害しようと無詠唱呪文の打ち合いをしておるようじゃな。しかも、二人とも魔力の込め方を変えることで威力や速度に緩急をつけておる。対応一つ間違えれば、敗北は免れんじゃろ」


「器用すぎひん!? 右手で方程式解きながら、左手でポテチつまんでノートに名前書くくらいの難易度あるやろ!」


「咲夜ちゃん、それだと死んじゃうよ!」


「ほっほっほ、あの二人に関してはそれくらいの妨害があっても魔力の流れに淀みがない。まあ、子猫がかるくじゃれついてくるくらいの感覚じゃろ」


「「あれが!?」」


 目の前に繰り広げられている魔法合戦の間にゴブリンが割って入ってきたら、たちまち消滅しそうな激しい攻防。それが猫のじゃれつく程度とは思えないほどの弾幕合戦、しびれを切らしたのは姫花だ。


「弾数強化、三重呪文、マグマスパイラルバレット!」


「短縮詠唱、四重呪文、タイダルアビススプラッシュ!」


 それに負けじと黒魔女も魔法を放つ。炎の弾丸と水の力を得た闇の弾幕。追加詠唱で弾数を増やしたことで、四重呪文の差をある程度埋めたとはいえ、属性の相性差までは埋めることは出来ない。すなわち――


「まさか溜めの長い四重呪文に短縮詠唱を使って、三重呪文と同等の早さで使ってくるとはね。どうやら見くびっていたのは私の方だったみたいわ」


「何言っているんだか。もし、安パイ取って同じ三重呪文だったらいくら相性差で勝っていたとしても、追加詠唱の差で私の負けよ。だけど、今回は賭けに勝った私の勝ちね」


 敗北を認めた姫花の人形が割れ、黒魔女の勝利を告げるブザーが鳴り響くのであった。


(あー、負けた。完全に負けた。私が負けたの何十年ぶりよ)


(私が知る限り、姫様が負けたのは初めてですが)


(私が近くのダンジョンにちょっかい掛けに行っていた時期だから、セバスチャンを作る前の話になるもの)


(製作時間を考えると30年以上前ということですか……それにしても、スキルを封じていたとはいえ、まさか姫様を打ち負かす人間がいるとは)


(あれだけ追い詰めても冥王龍を倒せるような奥の手はまだ見せてないわ。だから人間は面白いのよ。惜しむべきは彼女のピークはあと数年程度ってところ。ほんとそこが人間の嫌なところね)


 とはいえ、一面だけでも自分と同格以上の相手が出たのは心の底から喜んでいた。咲夜たちにも言ったが、成長するには同格以上の相手が必要。つまり、彼女が居れば『完成した(パーフェクト)』と思っていた自分の実力をさらなる高みへと昇らせることができるのだ。


「次に戦う機会あったら、今度は負けないわよ」


「そうならないように、私も研鑽積まないとね。日本トップの魔術師の看板はそう簡単には渡さないわよ」


「そうでなくちゃ。やすやすと渡されたら私が挑む理由がなくなっちゃうもの」


「口は達者ね。ところで、疲れているところ悪いけど、校内案内してくれない? 久しぶりに来たから、見たくって。先生良いですよね」


「転校したとはいえ、ここはもう一つの母校でもある。それくらいは構わんよ。あとは有栖川君次第じゃな」


「別に大丈夫よ。案内した程度で、明日の探索に支障がでるわけじゃないし。行きましょう」


 夏休み期間中なため、地元に帰っている生徒も多い上に、先ほどまで訓練場に集まっていたこともあり、いつもよりガラガラになっている校内を見て回る二人。

 姫花にとっては普通に見える光景も、黒魔女にとっては「なつかしー」、「ここキレイになっている」、「こんなに狭かったっけ?」、「机もっと大きくなかった?」と記憶にある齟齬を楽しんでいるようだ。

 そして、屋上に登った二人がフェンス越しから街の様子を眺めていると、黒魔女がぽつりとつぶやく。


「ここから見える景色、10年前とあんまり変わってないわね」


「10年前っていうと……」


「……実家がね、淡路で土産物を売っていたの。人気店ってほどじゃないけど、ガイド本の片隅に小さく書かれていた記事を切り取って大事にしていたのは覚えている。この学校を卒業したら地元に戻って淡路ダンジョンで稼ぐんだーとか思っていたっけ」


「でも、ダンジョンブレイクが起こった」


「あれは私が2年の時、5月12日午前11時12分。忘れることは無いわ。淡路ダンジョンブレイクが起こった後、当時の冒険者が多数投入され、三日三晩の攻防の戦の末、地上の制圧に成功したけど、私のパパとママも店の手伝いをしていたお兄ちゃんも……今も行方不明よ」


「行方不明? 確かこの国だと7年経てば――」


「お役人と同じで書類上はもう死んでるって言いたいんでしょう。淡路ダンジョンは攻略されてもう存在しない。生存の望みはもうない。それはわかっているのよ。でも、もしかすると野良ダンジョンに紛れ込んでいて、助けを求めているかもしれない。そう思いこんで、おじいちゃんとおばあちゃんのいる熊本に行った後も、九州の育成学校に通って冒険者になったの」


「聞くのは野暮だけど、その後はどうなったの?」


「……結局、野良ダンジョンなんて見つからなかった。その後は、おじいちゃんたちに恩を返すために九州に拠点を構えて、生まれ育った淡路には盆に帰る程度。今じゃあ、もうママたちの声も思い出せないくらには色あせている冷たい女よ」


 黒魔女の話を聞いて、カバーストーリーになっている淡路の被災者という立場で慰めるほうが良いのだろうかと考える。ただ、本当の被災者の遺族を目の当たりにして、それは余りにも悪辣すぎると思い、彼女にはすこしばかりの真実を話すことにした。


「……ダンジョンブレイクは過疎なダンジョンで稀にあるか、何かしらの意図が無いと起こりえない。淡路ダンジョンブレイクは明らかに後者よ。ただ、その理由は私たちでも分かっていない」


「えっ?」


 この話をしたらどうせ同情する、慰めの言葉を掛けてくると思っていた黒魔女は意表を突かれる。それはあの頃の自分が「なぜ」「どうしてこんなことに」という疑問。しかも、姫花の言い回しなら人為的に起こされたと言っているようなもの。大人になって災害だからと心の中まで塗りたくっていた黒魔女のメッキが剥がれ、自分の素顔が出始める。


「そして、3年前、私たちは淡路ダンジョンブレイクを引き起こしたモンスターと同じ能力を持つ自称魔王の男と出会い、大事件を解決するために殺した」



『この力は7年前、ダンジョンブレイクを引き起こしたモンスターと同じモンスターを統べる能力。私はあの時の被災者でありながらも、あの圧倒的な力に恋焦がれたのだ。そして、手に入れた。まさに魔王と呼ぶのにふさわしい能力をな!』



「3年前の大きな事件と言うとつくばの……まさか、名も無き英雄って」


「ノーコメント……って言いたいけど、ご想像の通りよ。ただ私たちが表沙汰にできないことをやらかしていることもあるけど、あれは人為的に起こされた事件。公表なんてできないわ」


「待って。あれって偶発的に起こった出来事じゃないの!?」


「あれはあの男が仕組んだ出来事よ。魔王の力を見せつけるために、24万人を犠牲にして関東全域でダンジョンブレイクを引き起こすつもりだった」


「関東ダンジョンブレイク!? 初めて聞いたんだけど!?」


 もし、そんなことが起きようならば、日本が終わる。いや未遂に終わったとしても、日本の信用はがた落ちし、海外の企業は日本から撤退するまで有り得るレベルだ。現に、草津ダンジョンブレイク未遂事件で日本の株が一時期急落したのはいい例だろう。首都圏と比べれば僻地のダンジョンブレイクを異例の早さで未遂に抑えてもコレなのだから、公表した場合のダメージは計り知れない。


(いえ、それどころか、一般人がダンジョンブレイクを引き起こしたとなれば、世界から日本人はテロリスト扱いよ。下手すれば日本と言う国が消滅する可能性だって…こんなの公表できるはずがない!)


「で、問題はこの後。つい、先日、私が解決した神隠しダンジョンで『魔王』から力を得たと言うモンスターと出会った。格上のモンスターを操っていたし、嘘じゃなかった」


「!? そんなことメディア、いえギルドからも――」


「言えるわけないでしょう。3年前の事件は人為的に起こった事件で表沙汰にできない上に、引き起こした犯人は確実に死んでいる。これは間違いない。だけど、そこに魔王の力を持つ黒幕が居たとなれば話は変わってくる。まだ3年前の事件は終わっていなかった」


「……それどころか、その魔王の力を継いだ黒幕がいる限り淡路ダンジョンブレイクもまだ終わっていないってことね。最悪」


「厳密には仇じゃないかもしれないけど、仇と同じ力を討てる最高のチャンスでもあるわよ」


「さすがにダンジョンブレイクを喜ぶようなことをしたら自害するわよ。それが復讐のチャンスだったとしてもね」


「貴女が復讐に駆られた者じゃないことくらいわかっているから、話せたのよ」


「……1つ聞かせて。姫花ちゃんは何者なの?」


「私は有栖川 姫花。16歳。ただの女子高生よ」


「(ただの女子高生はそんなこと知らないと思う)無理に言うことは無いけど、いつか本当のことを教えて」


「貴女がおばあちゃんになって孫に囲まれるようなら話すかもしれないわね」


「うひゃあ、それは大変だ。私に見合う相手から探さないと」


「良い時間になったし、案内はこれくらいかしら。明日の探索は百合の特訓回になるし、ゆっくり休んで魔力の回復に努めないとね」


「ちょっと悪いことしちゃ……百合ちゃんってことは魔法回?」


「ええ、魔法講座になるわね。それがどうしたの?」


「……私も出ても良い? 余計なことはしないから」


「構わないけど、貴女ほどの実力者なら学ぶことなんてないわよ」


「でも、杖無しであれだけの魔法を扱えるのは、ちょっと気になるし。あと、私のことは貴女とか黒魔女とかじゃなくて、冥って呼んで。秘密を共有した仲なんだから」


「分かったわよ、冥」


 久しぶりに名前を呼んでもらって、こそばゆく感じつつも、うれしく思った冥は笑顔を浮かべながら、階段を下っていくのであった。

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