第12話 人形姫、蹂躙するってよ
咲夜たちをはじめとする外に追い出された冒険者は自分たちが居たドーム、いや可愛らしいクマ人形の頭部を眺めていた。
【配信が一瞬途切れたと思ったら何の何!?】
【何が起こった!?】
【姫ちゃん、おらんけど!?】
【誰か説明しろ!】
「説明しろと言われても、ウチらもよう分からんのや」
「姫ちゃんが何とか展開とかをしたら、追い出されたって感じ」
【特級の術師じゃったか】
【クマさん…吸収…アリーナ……】
【魔力無し、人形のみ、商社有り】
【おいwww】
【売るなwww】
【吹いたじゃねえかwww】
【緊迫感/Zero】
配信を見ていた視聴者からの通報があったのか、ギルド職員たちがダンジョンに突入し、中にいた冒険者を外へ誘導していく。その間、イレギュラーモンスターの出現にモンスターも怯えているのか、一切エンカウントしないのは不幸中の幸いであった。
「君たちも早く避難しなさい」
「ウチらは姫花が戻ってくるまで待つで。今から逃げたところで、安全な場所まで逃げられへんしな」
「それに姫ちゃんがくたくたで動けなくなっているかもしれないもん」
「しかしだね……」
「ならば、儂が最後まで面倒を見る。冒険者の退館が終わり次第、職員も避難するように」
ギルドマスターの武蔵がやってきて、ギルド職員もこの場から逃がそうとする。外からでは全くと言っていいほど、変わらぬこの状況下、たった3人だけがダンジョンに取り残されるのであった。
一方、そのころ、クマさん人形の中では増援のレッドドラゴンが出せなくなった影響かワープホールが閉じていく中、呼び出された騎士が畏まづく。
「お久しぶりです、姫様」
「ほっほっほ、儂としては変装している姫様の方がべっぴんさんで良かったのじゃがな」
「どうやら獲物が1名増えたようですね」
「冗談じゃよ、アーチャー。生真面目すぎるとは思わんか、セイバー?」
「姫様の魅力が分からない者を排斥するのはやむを得ないかと」
「やめて。せめて冗談が通じるランサーやベルセルク連れてきてくれんかのう?」
「えっ、《《バーサーカー》》呼んでほしい? 良い覚悟ね」
「儂らを殺す気か!?」
「冗談はここまでにして、相手もしびれを切らしたようよ」
襲い掛かってくるボルケーノドラゴンを見るや否や、キャスターが目の前に透明な壁を作り出して突っ込んできたボルケーノドラゴンが激突し、何体かは墜落する。
「最近のモンスターはキレるのが早くて困るのう」
「ですが、この程度の数なら姫様のお手を煩わせる必要もありません。貫通付与、射出本数増加、ブリザードアロー!」
複数に分裂した冷気を纏った矢が外殻にある鱗やマグマの身体すら打ち抜き、堕ちていく。だが、墜落したところで所詮は矢。1発程度、急所を射抜かれた程度では死なないだけの生命力がボルケーノドラゴンにはあった。
だが、地に堕ちればこちらのものと言わんばかりに、セイバーが駆け抜け、その首を次から次へと斬り落とす。だが、体の中から噴出したマグマが仮初の頭部を作り出し、セイバーに噛みつこうとする。
「頭一つ斬り落とされてもまだ死なないなんて、まるで化生の類だね」
「ほっほっほ、セイバーよ、儂の手がいるのかのう? エンチャント・フリーズ」
「僕に拒否権ははないのかい? ありがたく受け取らせらもうけどね」
再度、ボルケーノドラゴンを斬ると断面が凍り付いたことでマグマによる再生ができずにドロップアイテムへと姿を変えていく。あの剣はマズイと地上戦を避け、矢が飛び交う上空から、隕石かと思うほどの巨大な炎弾が多数、術師であるアリスに向かって放たれる。
「これはちょいっと悪手ではないかのう。次元の渦よ、開け!ディメンションホール」
アリスの前に黒い渦が現れて、炎弾が飲み込まれていく。それをお返しとばかりに、ボルケーノドラゴンの背後から炎弾を吐き出していく。
「これじゃあ、私の出番は無いわね」
姫花の姿に戻り、のんびりと観戦することにした。アーチャーが上空の敵を打ち落とし、セイバーがとどめを刺す。キャスターが相手のワンチャンスを着実につぶす。どんでん返しすら無い実力差。もはや蹂躙としか言いようのない光景がそこに広がっているのであった。
(ちょっと本気出しすぎたかしら……つまんない)
ドームが出来て数十分後、クマさん人形に異変が起きる。上空から糸がほつれたかのようにドームが開帳されていくからだ。最悪のケースを考え、愛刀を抜いたギルドマスターが前に出る。
「老いぼれの儂でも逃げる時間くらいは稼ぐ。二人とも今すぐここから――」
「あら? ボルケーノドラゴンは全て倒したわよ。それとも私とやりあう気?」
【いやいや待て待て】
【ウッソだろwww】
【アニメ1本で倒せるような相手じゃないぞ】
【HAHAHA、これがジャパニーズアニメーションかい?】
【いいえ、現実です】
【リアル、リアルだよ!】
【驚いたな、今の日本は現実もアニメ化するんだ。いつ、アメリカで放映するんだい?】
【ナーウ!!】
【黒魔女:ちょっと!? ギルドに車を出してもらった私の立場は!?】
【黒魔女さんwww】
【プライベートジェットとか無いんかい】
【魔女らしく飛べよwww】
「姫花、無事やったんか!」
「無事よ、無事。元気があり余っているくらい……とは言いたいけど、久しぶりに奥の手を使ったから、さしもの私でも疲れるわ。午後の特訓は中止ね」
【するつもりだったんかい!】
【レッドドラゴン「僕だと疲れないんです?」】
【ドラゴン君、雑魚モンス扱いで草】
【君、普通のパーティーなら生死にかかわるからね。下手すれば全滅だよ】
【どうやって倒したの!?】
【クマさん吸収アリーナのこと教えて】
「なによ、クマさん吸収アリーナって……あれは結界魔法の――」
「こほん。詳しいことはギルドの会議室で話さんか。いつモンスターが出てくるかもわからん」
「(私たちで制御しているから、出てこないけど) ええ、分かったわ」
ということで場所を変えて、会議室のホワイトボードを使いながら、姫花が説明していく。
「あれは結界魔法と言って、魔法の中でも習得難易度と手間がかかる魔法の一つよ」
「アニメやとよく聞くけど、リアルでそんな魔法聞いたこと無いで」
【俺も知らん】
【Bランだけど知らない】
【黒魔女:知っているけど、あれはトラップ的な使い方が主でほいそれと使える代物じゃないわよ】
「視聴者の中には詳しい人もいるみたいね。結界魔法を使うには魔法陣の設置が必須になる」
ホワイトボードに丸い円を描き、赤い磁石を敵、青い磁石を自分と見立てて説明していく。円の中に赤い磁石を一つ置き、説明を続ける。
「円の中に敵が入ったときに、発動させると封じ込めることができる。だけど、こんな簡単な魔法陣だと封じ込められるのはEランクのモンスター数体程度。だから、複雑な模様を追加したり、弱点となる要石や時間制限を設けたり、発動者を結界内に入れる縛りを追加することで結界の強度を上げる」
今度は円の中に星形のマークを入れ、青い磁石も魔法陣の中にいれることで、赤い磁石をさらに3個置く。縛りを付けたことで封じ込められるモンスターが増えるということらしい。
「だから、実用できるレベルまで強度を上げようとすると手間暇がかかるから、黒魔女さんが言うように事前に設置しておいた魔法陣に囮役が誘導するのが主な使い方ね」
「でも、姫ちゃんはパッと使ったよね」
「いくら私でも、前準備無しで結界魔法を使うことは出来ないわ。あのときはレッドドラゴンと戯れている間に、足元から地中に向けて糸を垂らしていたのよ。万が一に備えてね」
「どんだけ用心深いねん」
「備えあれば憂いなしって奴よ。というわけで結界魔法内で戦うことで、イレギュラーモンスターの増加を防ぎつつ、ワープホールが閉じるまでの時間を稼ぐ。あとはなんとかかんとかして倒したってわけ」
【なんとかかんとかの部分が重要だろ】
【教えろよ】
【姫花ちゃんの良いところ見てみた~い】
「さすがにそこは秘密よ。いくらお人よしでも、手の内を全て見せるつもりは一切無いわ」
【それはしゃーない】
【一家相伝みたいな魔法もあるとか無いとか】
【そもそも俺たちの知らないこと大分伝えているしな】
【黒魔女:ところで、明日暇?】
「咲夜に夏休みの宿題を教える必要もあるから、どのみち休養日儲けながらダンジョン攻略するつもりだったし、暇と言えば暇ね」
「ほんま助かっとるから、足向けて寝れへんわ」
【黒魔女:せっかく九州から大阪まで行くから、噂で聞いた姫花ちゃんの実力を見たいと思って】
「ああ、模擬戦か何かしたいってこと? 私も先生から貴女のことを聞いて興味あったから丁度良い機会だわ」
【黒魔女:ルールは魔法戦で良いかしら?】
「魔法戦? 確か、肉弾戦なしで魔法だけで戦う形式だったかしら」
【黒魔女:そう。そっちのほうが互いの魔法について造詣を深められるでしょう?】
「良いわよ。その勝負受けて立つわ」
【黒魔女vs大型新人の夢の対決ってマ?】
【配信は……配信は無いんですか!?】
【配信しろおおおお!】
【気になって夜しか寝れねえ】
「こほん。これ以上の雑談は後でやってもらえるかのう」
「それもそうやな。姫花、新しい情報は無いよな」
「いくらでもあるけど」
「あったら困るちゅうねん!どうせ企業秘密的な何かで伝えられへんやろ!」
「それもそうね。私が教えた結界魔法もさわりの部分だし」
「ほんま、知っとること本気で教えたら学会の人たちがカエルみたいにひっくり返るんちゃうか。つーわけで、今日の配信はここまでや」
「チャンネル登録・高評価、お願いします」
配信を切って、ドローンがスタンバイモードになったのを確認してから、ギルドマスターが最後にもう一つの話をしてくる。
「さて、この話はまだ公に話すわけにはいかんからのう。今回のイレギュラーモンスター騒動の功労者として君たちには報酬金を振り込む他、進藤君、田中君の二人をCランクに昇格、有栖川君にはAランクへの推薦を行うつもりじゃ」
「ウチらCランクやて」
「クラストップタイ!イエーイ!」
「私は推薦なのね」
「儂の一存で決められるのはBランクまで。Aランクには地域の、この場合だと関西のギルドマスターの過半数の賛成が必要じゃからのう。未成年であることを理由に反対するものがいたとしても、ダンジョンブレイクを防いだ功績を考えれば、十分に推し切れると儂は考えておる」
「……ところで、ランクが上がると何が良いの?」
「いろいろあるけど、運転免許証のゴールドカードみたいにギルド公認店で割引してくれるのが大きいで。装備品はゲームと違って消耗品やからなぁ……出費が減るのは助かるで」
「それだけじゃないよ。Aランク以上になったら公共交通機関が半額になったり、Sランクだと無料になったり……ギルドカード片手に推し活やり放題」
「そう思っとるん百合だけやろ。まあ、こんな感じで箔が付くのと色んなサービス受けられるんや」
「なるほどね。いろんなダンジョンに行ってみたいし、Aランクへの昇格、楽しみにしているわ」
ギルドからもこれ以上の話は無いということで、予想外の襲来で昼を過ぎた三人は遅めの昼食をとるため、近くのショッピングモールへと向かったのだが、ダンジョンブレイク騒ぎで誰も人が居なく、駅に戻ろうにも交通機関も麻痺。しばらくは冷暖房の利いた明るい廃墟で雑談配信をする羽目になるのであった。




