第11話 人形姫、カチコミされたってよ
夏休み初日と言うこともあって、電車はコミコミの大賑わい……と言いたいところだが、普段はそれなりに人がいるはずの草津に向かう電車はガラガラである。しかも、来月頭までは山科~大津間を徐行運転するということもあって運行本数も減っている始末だ。
「知っていたけど、ほんま人がおらんなぁ」
「この間の神隠しダンジョンの影響だよね~」
「ここまで露骨に減るとさすがに可哀そうになるわ」
「ウチらだけでも、滋賀のダンジョンを盛り上げるとかええんちゃうか。有名になった恩もあるし」
「そうだね~彦根ダンジョンも琵琶湖ダンジョンも見どころのあるダンジョンって聞いたことあるし~人が多い方が楽しいよ」
「ダンジョンが楽しいって……百合、貴女大物に慣れるわ」
「姫ちゃんに褒められちゃった」
「褒め取るようには思えんけどなあ。まあ、姫花がコーチ役でウチら2人で攻略するっていうスタンスもどっかで限界が来るのはわかっとったし……4人で彦根と琵琶湖のダンジョン攻略ってのも悪くないわな」
「どちらのダンジョンを先に攻略するにしても、ミノタウロスを倒してからの話ね」
のんびりと話している内に草津駅に着く。夏休み期間ということもあり、たび丸と言う黄色い笠をかぶった少年のマスコットキャラクターのパネルがぽつんと置かれており、記念写真を撮れるようにしてあった。
「せっかくだし、一緒に写真撮ろう。ピース」
「ぴ、ぴーす?」
「姫花、なに硬くなっとるねん。仏頂面やのうて笑顔や。はい、ポーズ」
パシャリと撮った写真を早速SNSにあげる咲夜たち。やはり注目されているおかげであっというまに良いねがドンドンついてくる。少し前とは全く違う手ごたえを感じつつ、バスに乗り込むのであった。
「で、今日は何をするんや? また目隠しプレイか?」
「あれはきっかけ作りよ。まずは魔力のコントロールを意識しつつ、普段通りの戦闘をしてもらうわ」
ということで、早速飛び出してきた強個体のカラーウルフの群れたち。神隠しダンジョンでCランクのスノージャイアントを倒してきた腕前とやらを拝見するにはちょうどいい相手だ。
「遅いで!」
「余裕ありそうだから、私も攻撃に参加するね。ストーンバレット」
咲夜が群れから飛び出してきたブルーウルフを一刀両断。遅れてやってきたグレーウルフの噛みつきを盾ではじき返してひるませる。怯んだグレーウルフにとどめを刺す百合の石弾。彼女二人の戦闘の向上に姫花は思わず息を吞む。
「咲夜、盾使うの上手くなっているわ」
「そうやろ。剣だけやなくて盾に魔力通して殴ったら、結構ええ感じやねん。こういうのパリィっていうんやろ」
「そうかもしれないわね。百合、魔法に魔力が良く通っているわ」
「へへへ、咲夜ちゃんが剣や盾を強化できるなんて言うから、私も杖に魔力流すのを強くイメージしたの~」
自分が教えていない盾強化による耐久力とひるませ率の増加、杖に魔力が良く通ることによる石弾の攻撃力や精度の強化。神隠しダンジョンでの戦いは二人に魔力コントロールの重要性を身に染みるほどに教えてくれたようだ。
(セバスチャン、午後からのワーウルフ。もう少しレベルを上げてもらっても良いかしら)
(承知しました。では、単体能力をミノタウロスレベルにまで強化しておきます)
今の戦いを見る限り、いくらこちらでレベルを上げたところで草津ダンジョンでは力不足だろう。これは明日からも梅田ダンジョンに狩場を変えた方が良いかもしれないと嬉しい誤算に喜んでいた。
【所詮、EランはEランだよな】
【今回は強個体当たってないみたいだな】
【そうか? 動きは強個体っぽいけど?】
【お前の目が節穴だよwww】
二人の集中力も途切れることなく、カラーウルフの虐殺会場にしかなっておらず、コメントも盛り上がりに欠けている。少々早いが切り上げて、昼休憩の後、午後のワーウルフ戦に入った方が良さそうだと思い声を掛けようとしたとき、異様な魔力を感知する。
(姫様!)
現れたのは3体のレッドドラゴン。1体であの大騒ぎしていたにもかかわらず、それが3体同時に現れたことにより、視聴者たちのコメントも一瞬、時が止まったかのようにピタリと止まる。
(生配信中にカチコミを仕掛けてくるなんて良い度胸しているじゃない。イレギュラーがどこから送られてきたか逆タンの準備)
(それは構いませんが、もう一度送られてこないと逆タンを用意しても意味がありませんよ)
(レッドドラゴン1体を瞬殺したのに、今度はたった3体なんてふざけているわ。これは本命を送る前の露払いの部隊と見た)
待機させていた人形2体に加えて、さらに2体追加し、両脇のレッドドラゴンと交戦させ、真ん中のレッドドラゴンだけがフリーとなる。
「2体は私の人形が引き受けてくれるから、残り1体はリベンジマッチといきましょう。強さ的には雪山でのスノーゴーレムより弱い。今の貴女たちなら勝負できるわ」
「よし、やったるで!」
「うん、頑張ろう」
【いや、無理だろ】
【逃げるが勝ちっていうじゃん!】
【姫花ちゃんがいるから大丈夫では?】
【同じ相手なら余裕やろ】
【大丈夫だろうけどさあ……結構その子、放置しがちなんよ】
【鬼教官だぞ】
【自称:人の心の無いモンスターやぞ】
「あら、ひどい言われようね。事実だけど。私が動くのは致命的なミスを犯してから。それまでは自由に戦わせるわ」
咲夜が先陣を切り、百合が後方からヘイストといった支援を掛ける黄金パターン展開。前は奇襲されてそれどころではなかったが、今回は違う。姫花がいるという安心感のおかげで、恐怖やトラウマで手や体が震えるようなことはない。
「まずは前の借りや!」
前回のお返しと言わんばかりにレッドドラゴンの腹部を斬り付けるも、かすり傷程度。気にせず自慢のクローでこちらのはらわたをえぐろうとする。前は盾ごと壊されてしまった攻撃だが、今度は魔力で強化された盾でしっかりと受け止める。
「くっ……やっぱはじき返すのまだ無謀やったか」
「咲夜ちゃんが抑えている内に……大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて、相対する者を拘束せよ、アースバインド!」
地面から生えた複数の鎖がレッドドラゴンをがっちりと拘束する。これならと、咲夜は魔力を切っ先だけに集中させ、レッドドラゴンに突き刺していく。
「よっしゃー!手ごたえありや!」
【Dランクがレッドドラゴンと渡り合えているぞ】
【ありえねえ】
【普通は死ぬんじゃが……】
【姫花式ブートキャンプ、1か月でこの成果】
【いまから入会できますか】
【過去の動画見直せば無料やぞ】
【金払っても良いレベルやろ】
【姫花クラスの冒険者が近くにいないと危険だから、良い子は真似しないようにね】
【何度か命の危機にあっているからな】
ベルセルクの戦い方を真似して、背中から何か所も刺し傷を付けられたレッドドラゴンは空へ逃げるために、懸命にもがいて、鎖を千切ろうとする。
「百合、もう一度かけなおしたほうが良いわ。今度は地面に縫い付けるイメージで」
「分かった。大地の精霊ノームよ、我が杖に宿りて、相対する者を拘束せよ、アースバインド!」
鎖がはじけ飛んで、ようやく身動きが取れると思ったところに再度巻きつけられるレッドドラゴン。しかも、手足だけでなく頭部も巻かれており、頭が垂れる形となる。背中にまたがった咲夜が首に剣を突き刺し、致命傷を与えるも、最後のあがきで百合に向かって炎弾を吐く。
「みっともない真似はしない。アクアプロテクション」
突如地面から湧いてきた水の壁に阻まれたレッドドラゴンのあがきは、誰も倒すことすらできずに終え、同時に本体もドロップアイテムへと変貌するのであった。二人のリベンジ戦を無事に終えたことを見届け、仕込みも終えた姫花は、残る2体もあっさりと処理するのであった。
「これでウチらもドラゴンキラーや」
「うん。でも、最後死ぬかと思ったよ~」
「油断大敵ね。相手がドロップアイテムになるまで油断しないこと」
「わかっとるって。でも、今は勝利の余韻に浸らせてえな」
視聴者が祝福のコメントを送っている中、何かに気づいた姫花は上空のとある一点を睨め付ける。
「姫花、なんか飛んでいるんか?」
「う~ん、ドラゴンとかいなさそうだけど?」
【ドラゴンがその辺飛んでいたらAランクのダンジョンwww】
【まあ、倒したばっかだから警戒しているだけじゃね】
【兜の緒を締めよっていうしな】
「どうやら本隊のご到着よ」
空が割れ、上空に真っ黒な穴が生じる。そこから送り込まれてきたのは、カゲロウで辺りの景色を歪ませるほどの高熱、マグマの身体で出来たボルケーノドラゴンの《《群れ》》。生息するダンジョンですら、1体しか出てこないはずのドラゴンの出現に視聴者たちは持っていたスマホやジュースを落としてしまう。
(セバスチャン、逆タンは?)
(成功しました。送り込んだのは彦根ダンジョンです)
夏休み明けに行くダンジョンが決まったと思っていると、パニックになった咲夜に大きく揺さぶられる。
「姫花がいくら強くてもこれは無理や!はよ逃げるで!」
【これは咲夜の言う通り!】
【ちびった】
【ダンジョンブレイク秒読みやろ!】
【秒あるかな? 秒もつかな?】
【この配信を日本中に拡散しろ!】
【これって日本で対処できる?】
【勇者さんや黒魔女さんならいけるって】
【あの二人でも群れに遭遇するのは初では?】
【ちなみに勇者は北海道の釧路、黒魔女は北九州にいるで……あかん】
【関西終了のお知らせ】
「今、ざっと確認できるだけで50体ほど。まずはあの穴を塞がないと、増え続けるだけね」
「どうやって塞ぐちゅうねん。いくら姫花の糸でも空を縫い付けるなんて出来へんやろ」
「そういうのやってみたいわね。でも、残念。今回は仕込んでおいたこちらを使うわ。私相手に先発隊なんて悠長なことをしたのが敗因よ。結界魔法『傀儡領域』――展開」
地中に埋め込まれた糸で出来た魔法陣が光り輝き、地上にもうっすらと漏れる。その魔法陣から吐き出された糸がワープホールを飲み込むほどの巨大なドームを形成していく。
「この結界内では私が許可しない限り、あらゆる通信・連絡手段をとることができない。つまり、これ以上の増援を呼ぶことは不可能。そして、この結界内で糸に絡みつかれた存在は私の傀儡と化す」
ドームの内壁から敵味方に問わず糸が吐き出され、咲夜たちもその例外ではない。ただ、ボルケーノドラゴンはマグマで出来た体に糸が燃やされ、絡みつくことは無い。結局、絡みついたのはドームの中にいた冒険者だけだ。絡みついた糸が体内に浸透するかのようにスッと消えると、冒険者の身体の自由が利かなくなる。
「なんや体が勝手に……」
「このままいったら壁にぶつるって!」
「安心して。外に出たら、傀儡化の効果は無くなるから」
ドームの壁にぶつかる瞬間、ぱかりと開き、中にいた冒険者全員が外に出される。これで安心して、本気を出せると姫花はアリスの姿に戻る。
「来たれ、私の最高傑作、セイバー、アーチャー、キャスター!」
あどけなさを残す金髪碧眼の西洋騎士、知的そうな眼鏡を掛けた弓兵の青年、トネリコの杖を持つ老魔術師の3体がアリスの前に並び立つのであった。




