Ep.54 地上戦3
剣で心臓を貫かれる。
アルマに言い、体にかけておいた復活魔法が起動する。あと4回。
「………そういう事か!」
バレたか。まぁ良い。
ここまでこの魔人、アズが私に手加減し、殺さなかった理由。それは、私を早々に殺せば、何かしらの手段で周囲に通告され、全軍が船に引き返してくる事を避けたから、もしくは、迷宮に入っていた者が戻ってくることを警戒し、確認していたからだろう。
だが、どちらにせよ……だ。
私を囲む1万が殺されたのは、最悪ではあったが想定内だ。そして、その通告は出来ない。周りに糸が張り巡らされているというのもあるが、そもそも本部と全軍の通知は出来ない様にしていた。このルートを逆に辿られない為だ。それに、相手に作戦を知られる可能性も潰しておきたかった。
そして、迷宮の中にいるメンバーは、「必ず戻ってくる」。理由は、迷宮に入る人選の中に、私が把握していない者が居たからだ。10万人全てを把握している上に、ソイツが存在の隠匿魔法を使用していたため、必ず何かしらのアクシデントが起こり、一部又は全員が引き返してくるだろうと推測していた。
ただし、それは開戦数日後になるだろう、と。
そして、私がするのも時間稼ぎだ。それは………
私の狙いに気づいた魔人アズが、全力でこちらを攻めてくる。こちらは時間稼ぎに徹するのみ……いや、その必要はなさそうだな。
「封魔結界、出来ました!!」
「…うむ。」
ルミナスと、そのガキが連れていた魔人。既に服従魔法で固められていたので、一時的に封印を解除し、本来の力を出せる様にしてやった。
タイミングをみて封魔結界を張れ、と命令していたのだ。
封魔結界とは、種類によって効果はまちまちではあるが、強力なものならS+の魔人でさえも封じることが可能になる。そして、今回張らせたのはその最高威力のもの。
だが…
「ッチ……こんなもので…!」
魔人アズが、周囲に億を超える大量の糸を出す。そして、そのすべてに魔力を込め、飛ばした。私もそれを防ぎ切れず、さらに2回死ぬ。
その圧倒的な質量と威力で、ガキの魔人の張った封魔結界がバキバキとへし折られていく。
結界が完全に完成する前に壊し切ってしまおうという算段か。
「させるか」
再び魔人と剣を交えるが、先ほどとは違い、手加減はされていない。数回剣を受け止めたところで、私の剣が弾き飛ばされ、喉元を切られる。
あと1回。
隠しておいた予備の刀を取り出し、突きつけるが、周囲の糸が異様に鋭く、なかなか近づくことが出来ない。
封魔結界も、もう持たないだろう。
出来ることなら捕まえたかったが……仕方ない。
殺すか。
刀を大きく振り上げ、首元に向かって振り下ろした。
ガン、と刀が止められ、再度弾き飛ばされる。
そして、胴体を袈裟斬りにされた。
予備の命は尽きた。
だが……間に合ったようだ。
「シャルさん!!今です!」
「わかっ……た…でぇ…!」
その瞬間。魔力探知では到底認識出来ない、上空10キロの地点から、マッハ10万という凄まじい速さの蹴りが入れられる。それは、この世界の物理法則を無視するほどのエネルギー量を持ち、死んで生まれ変わる瞬間の私の肉体を除き、周囲数キロの物体全てを消し飛ばした。
……いや、この魔人は、耐えている。
が、原型をとどめていないほどに肉体が崩壊している。
「……今だ。封印しろ。」
「あっ、はい!」
シャルに遅れて降りてきたリノが、その物体に封印結界や対魔結界などを施す。
「うえ……ぐちゃぐちゃですね……」
「うっ……ゴハッ…ゲホッ………ハァ、ホンマに、えらい無茶させるなぁ、ヴィザールはんは。」
「黙れ。貴様も封印を手伝え。」
「無理やて……。どれだけ反射と肉体制御に魔力使ったと思ってんねん……。てか、マジでなんやねん上空10キロから蹴り入れろって。タイミングも狙わなあかんし…。」
………。
今回の作戦。
兵力を分散させ、魔物の別動隊に対処しつつ、あえて本部の兵力を減らしておく。そして、本部は迷宮の入り口近くに置く。
敵将が私を狙って攻めてくるなら、シャルの魔法発動まで私が耐えて、魔法が当たれば封印。当たらなければ、全軍を引き戻す。
私を狙わなければ、その程度の浅知恵ということ。作戦を練るほどでも無い。
そして、10万の兵力の内、アルマに3万、カミュに3万、谷に2万、本部に1万置いているわけだが……残りの1万は。
敵軍本部がある30万を背後から強襲し、進軍を乱して、2万でも抑えられるようにする用に置いていた。
もし仮に敵が慎重になり進軍を遅らせたならば、迷宮に入っていた者が戻ってくる。
つまり、よほど圧倒的な個人戦力が敵に無い限り、我々の勝利は初めから確定していた。問題は、封印を完全に行えるか、と言うことだが。封印出来れば、このまま各地への援軍に向かう。出来なければ、逃して撤退だ。
リノと私で魔力を通し封印しようとしているが………やはり、無理か。
バキバキ…と封印が引きちぎられていく。再生も止めることが出来ない。糸が腕を貫き、封印に綻びが出来た瞬間、魔人の体が糸になり、隙間から外に出た。
「あっ……マズいです!」
「……ッチ。」
逃したか。
まぁいい。これで魔物の軍は撤退するだろう。各敵将の首も取ったと報告が入ったし、もはや軍を成せるほどの魔人は居ない筈だ。
「あぁ〜逃げられちゃいました……けど、これで作戦は成功なんですよね?」
「………」
魔王は。
この展開を、予想していたはずだ。
まだ作戦があるのか、それとも、「あえて負けた」?
「……フン、まぁ良いか………」
私の知るところでは無い。




