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クロト  作者: 白玉
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Ep.32 イルクーツク

美味すぎる…!筆舌に尽くしがたい。


食べることが好きなので、300年前も色んな豚肉を食べたが、このキング・ボアの肉は格が違う。


ルミナスが切り分けてくれた塊を、さらにナイフで細かくし、フライパンで焼く。塩と胡椒だけの味付けも凄く美味しいが、味噌を漬けてみたり、タレに漬けてみたりして、色んな味を楽しめる。希少部位も沢山食べる事が出来る。


なにせ、猪は小山ほどデカいのだ。たくさん食べられる魔法はまだ習得していないのが悔やまれる。


この大きさだと、ルミナスの鞄に入れて持っていく事が出来ないから、余った肉は凍結魔法で冷凍して列車にくくりつけるが、限界がある。


骨は豚骨ラーメンに出来るし、装備の素材にも使えるし…


「美味しぃぃぃ〜♡」

「あのデカい猪が、こんなに美味いとは…。大きい分肉の質が落ちると思ったが、良かったな」

「モグモグ…そうですね…。ああ、私戻ったら殺されてしまうな…。でも、手が止まらない!」

「無限に食べられそう」

「それは無理だ。」


しかし、持っていけない物は持っていけないので、頭と骨の大部分を除き、私とルミナスと魔人ちゃんの3人で、吐くほど食べたのだった。


翌朝。荷物をまとめて、肉を限界まで列車に乗せ、再び出発する。


高速かつノンストップなので、6日もあれば北京に着く想定らしい。アメリカからの軍は既に出発しているみたいで、私たちより少し早く北京に着く予定との事。出来れば早くワシントンD.C.に行きたいが、文句は言えない。


それに、北京からワシントンD.C.まで徒歩で行く予定だったのを、飛空艇で行けると言われれば、乗るしかないだろう。









それから数日間、やってきた魔人を倒したり、キング・ボアの肉を頬張ったり、魔導書を読んだり、トランプで遊んだり…

列車に浴槽を設置して、お風呂に入る事が出来たのが1番嬉しかった。


そして列車での旅4日目の朝、イルクーツクに辿り着いた。


イルクーツク、シベリアのパリと呼ばれるほど美しい街だったようで、今もその面影が残っている。


魔人ちゃん曰く、ここはモンゴルの国境にそこそこ近いので、一定レベルの魔人が常駐しているらしい。


出来ればスッと抜けたかったが、当然そう上手く行くはずもなく…


「……」


「……」


ルミナスと魔人が睨み合う。イルクーツクに入ってから、数分前にこの魔人が来て、ずっとこの調子だ。


「ねぇ…ルミナス。逃げるか、戦うかしないの?」

「そんな簡単じゃ無いんだよ…。ッチ。」

「そうかな…」


私の目には、建物と建物の間、空中からこちらを見下すその魔人が、かなり弱そうに見える。


正直、私でも全然勝てそうだ。見た目は小柄な少年、といった感じ。目付きは鋭いが、魔力量は大して多くないし、武器も直刀のような物しか持っていない。


「ルミナス?私が倒そうか?」

「バカ!待て、動くな!」

「でも、弱そうじゃん。警戒する事無いよ。だって、魔人ちゃんの気配察知にもルミナスの気配察知にも引っかからなかっ………………………!?」


「そうだ。私が気づかなかった。魔力量が少ないというのもあるが、気付かないほど少ない訳では無い。つまりは、あいつが声を掛けなければ、死んでいた、ってことだ…」


「………」



ヤバい。気配を消せるというのは、こういう遮蔽物が多い戦場においては、最強の能力だ。ルミナスでも気付けないとなると、勝ち目は薄い…


「女2人。今すぐここから出ていくなら、見逃してやる。だが、戦うつもりなら、楽な死に方は出来ないぞ。」

「………引かせて頂こう。」

「失せろ。」


そういうと、その少年は、ヒュン、と消えた。魔力の後も無い。追跡も出来ない…。



「なんて能力だ…。まぁいい。クロト、行くぞ。」

「う、うん。」


そうして、私たちはイルクーツクを出た。後ろから着いてきていないか、列車に潜り込んでいないか、入念に確かめたが、いなかった。


あの眼光。刺すような恐ろしさがあった。

なぜ見逃してくれたのかは分からないが、なんとか生き延びる事が出来た…。

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