15 同じバカなら
少し太陽が傾き始めた午後五時半の住宅街をだらだらと、未だに日差しの強い元気な夏の太陽に照らされながら歩く。
昼間は暑すぎて一声も上げなかったセミが、この時間になってじわじわと鳴き始めている辺り、今年の夏は色々規格外なのかもしれない。
そんなバカなことを考えつつ、今は世間は夏休みだと言うのにも関わらず今日も今日とて夏期講習に参加してきた帰りだ。特に身になったのか、なっていないのか怪しいが、とりあえず可能な限り公式だとか英単語だとかを頭の中に詰め込んできた。
行き帰りの焼き尽くすような暑さだけ何とかなってくれれば、冷房の利いた学校に好きなだけ居座れるのは有り難いことなんだがな。
隣には、聞いてもいないのに今日もどこかで遊んで来たと報告してくるP5がいて。
いい加減、コイツが隙間に挟まっていたり、上から降ってきたりするのに慣れかけている自分がいるのが若干嫌だ。さっきも自販機の上でひっくり返っているのを見ても、今日も変なところに居るなとしか思わなくなってきたし。
「お前、普段何してんの?」
「んー? カロンたちと遊んだりバイデントで街壊したり?」
「それ以外は?」
「エージとリホと遊ぶ!」
ご機嫌なようで何より。P5は顔の部分がロウソクになっていて口しかないので、表情はわからないが、代わりとばかりに頭に灯った火がしゅぽしゅぽと元気に弾んでいる。
コイツにとっては、街を壊すのも、俺らに絡んでくるのも同じようなものなのかもな。
「お前から見たら月島は遊び相手か」
「ツキ?」
「あー、ハイハイ。梨穂だよ、梨穂。なんだっけ、魔法少女の黄色の時もそうなのか?」
「リホ! そうだよーよく遊んでくれる! この前もねー」
あれこれと出てくる知らない話は恐らくP5がバイデントと共に行動していた時の話だろう。P5曰く、月島は魔法少女の時は杖でキラキラしたのを放ってくるらしい。アイツ、ビーム出せるのか。
それはともかくとして、P5がバイデントと行動しているのは、やっぱり月島が言っていたように、イノセントジュエルってのを探しているのか。
「どうしても、イノセントジュエルが必要なのか?」
「うん! クライドが欲しがっててね、イノセントジュエルがあるとプルートの奴らが助かるんだって」
クライドが、欲しがっている。だから探している、か。随分と、そのクライドって奴のことが大好きなようで。
でもまぁ、街を壊すことがP5の目的でないのなら、何かしらで、気を反らしたりもできるのか?
「もし見つからなかったらどうする?」
「えー、困るー」
「困るのか?」
「うん。だって褒めてもらえない」
月島は、イノセントジュエルは奇跡を起こすほどの力があるらしい、と言っていた。あくまで伝聞で本当のところはわからないとも。
俺としてはそんな都合のいい奇跡があるか、疑わしいと思うのだが、そういうことを考えもしない辺り、P5自身はそのイノセントジュエルとやらの奇跡には興味がないのかもしれない。
「どうして褒められたいんだ?」
「褒められると嬉しくない?」
「それは、まぁそうだが」
直情的というか、単に考え方が幼いだけなのかもしれないが、コイツの行動理由は、非常にシンプルなようだ。
「イノセントジュエルを見付けてクライドに褒めてもらうんだー」
「その、クライドって奴に褒められたくて探すのか?」
「うん! クライドはねー、いつもよくやったって褒めてくれるんだよー」
仲間について話すP5は、頭の火からぱちぱちと火の粉を散らしている。
褒めてもらいたくて、街を壊す、か。その街に住んでいる俺たちにとってはたまったものではないのだが。多分、そんなこと言ったって理解されないんだろうなぁ。
「カロンも面白いし、ニクスも色々教えてくれるんだよー」
P5は、根っからの悪い奴ではない。ただ、善悪がわかっていないだけ。だから親しい奴に褒められたいという、子供みたいな理由で街を壊している。
街を壊すことで、誰かが傷付き悲しむのを知らないだけだろう。
イノセントジュエルがあるとプルートの奴らが助かる、か。P5が言うクライドって奴にも何かしらの事情があるようだが、先に事情も何もかも無視して街を襲い出したのはそっちだしなぁ。
その辺りの事情も、月島は知っているんだろうか。知っていて、その上でわかり合いたいと言っているのなら、とんでもない夢想家で理想主義な女だと思う。
……、まぁ。アイツは本気でそう信じたい甘い女なんだろうが。
「お前は……いや、やっぱいい」
「うん? 変なエージ」
P5がケタケタと笑う。
どうすれば、こいつに街を壊すのをやめさせられるか。
そんなことを考えたところで、俺は頻繁に街を壊しに来るバイデントと戦う力なんてないし、それこそこいつらの仲間であるクライドとやらに会う機会もきっとないだろう。
だからこそ、ほんの少しだけ、気持ちが逸る。
自分でもバカだとは思っている。やらなきゃいけないことなんて、山ほどあるくせに。でもどうやら、俺も月島と同じで信じることを諦めたくないらしい。
西の空が少しだけ赤く染まっている。
俺より頭一つ分、背の高いP5が、ガキみたいに隣で笑っていた。
繋ぎとめる方法を、興味を反らす方法を、俺は知っている。
なら、俺は。




