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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【イエロー編】時計ウサギと昼の月
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11 無責任に笑い飛ばせたら


 普段から意識していないだけかと思っていたんだが、実際にバイデントが出ていても街の中に防災のサイレンはならないらしい。

 恐らく、一つ向こうの筋。住宅の向こうにちらちらと黒い影が見える。然程大きくはない個体なのかもしれないが、それでも時折建物の上に、振り上げられた鋭い爪が見え隠れしている。

 その爪を避けるように、魔法少女が軽やかに屋根の上を飛んだ。


 ニュースやSNSの動画で見ていたが、実際に、月島たちが戦っている姿を見たのは初めてだ。一人が簡単な避難誘導をして、また果敢にバイデントに立ち向かっていく。

 この街の住人もすっかり慣れているのか、さっさと退避を始めている。まぁ、俺もここに居ても仕方がないので、早々に迂回して帰るか。


 ちらりと、最後にもう一度だけ日常とはかけ離れた光景を振り返る。

 ビームのようなものを出したり。あるいは飛んだり跳ねたりとしながら魔法少女がバイデントと戦っている。何だったか、魔法少女にも名称があるみたいな言い方をしていたが正直覚えていない。


 バイデントの背後には、どういう原理か、人が一人、恐らく子供ぐらいの背丈の奴が宙に浮いていて、あれがP5じゃなくてよかった。なんて、無責任なことを考えた。

 いい加減帰るかと、踵を返そうとしたとき、黄色い服を着た魔法少女が不意にこちらを向いた。一瞬、目が合った気がした。

 ああ。そういえば月島が、自分は黄色だと言っていたな。





「昨日、大丈夫だったか?」

「昨日ですか?」


 俺の問いかけに不思議そうに首を傾げた後、月島は思い出したように「ああ」と納得したように破顔した。

 これは、あれか? この普段のほほんとした奴の日常には、昨日のようなバイデントとの闘いが当たり前に組み込まれていて一瞬思い至らなかった、とかそういうやつか?


「大丈夫でしたよ。住人の皆さんもすぐに避難を開始してくれましたし、危ないこともそうなかったですし」

「ふーん」

「最近は連携も上手くいくようになって、被害も抑えられるようになってきたんです」


 照れたように話す月島は、背後を通りすぎる他の女子生徒と何ら変わらない。人の往来がある渡り廊下で濁すでもなく魔法少女としての活動を話せる辺り、かなり肝は座っていそうだが。いや、決定的なことは言っていないからセーフ、なのか?

 授業の合間の中休み。移動教室の帰りに遭遇して、ほんの少しの間立ち話をする。別館への生徒の行き来はそこまで多くはないものの、楽しげに通りすぎていく生徒を背に、ぼんやりと垂直に続いている校舎を眺めた。


「よかったなって、言っていいのか? それ」

「ふふ、気に入りませんか?」

「……」

「正直ですねぇ」


 眉を寄せて睨みつければ、どういう心理なのか、嬉しそうに月島は笑った。


「確かに。私は何もわからないまま、プリズムトリニティの一人としてバイデントたちと戦っています」


 街を守りたいとか、誰かが傷付くのが嫌とか。そういう気持ちはあると、以前月島は言っていた。

 でもだからといって、何もわからないまま戦わされるのは違うだろ。


「だったらなんで」

「この間、英時君が言っていたじゃないですか。P5が怪物と一緒にいるのが嫌だったって」


 俺が? そう言われて、初めてバイデントと遭遇した時のことを思い出す。確かに、あの後月島にそんなような話をしたような気がする。

 だが、それがどうしたというのか。


「それを聞いて思ったんですよ。私もP5と仲良くなりたいって。お互いに理解し合えれば、傷付け合わずに済むんじゃないかって」


 困ったように月島が笑う。そう、思ってしまったのだと、くり返しながら。

 アレは、ただの感情の話だ。何を喚こうがさしたる影響を及ぼせない一般人が、無責任に放った言葉だ。

 それをコイツは。


「んなの、理想論だろ」

「はい、そうですよ。でも、そういうのを信じたいなって思っちゃったんですよ」


 大らかなのか、懐が広いのか。やっぱりただの甘い女ともいうだけのかもしれない。

 息を浅く吸って、何もかも。それこそもやもやも、苛つきも、余計な感情も、全部全部、肺の中の息と一緒に吐き出してしまう。


「できると思うのか? そんなこと」

「わかりません。でも、P5を信じたいとも思っています」

「もし信じられなくなったら?」

「その時は英時君が相談にのってください」


 さすがに楽観的過ぎないか? まぁ、相談ぐらいなら、乗ってやらなくもないが。

 それはそれとして、お前本当にもうちょっと考えて行動しろよ。考えた上でノーガード戦法で行くっていうのなら、……いや、やっぱダメだろ。


 にこにこと笑う月島を他所に、聞きなれたチャイムが鳴る。

 いつの間にかすっかり渡り廊下には人がいない。月島はこのまま別館に向かうのだろうが、俺はさすがに知らないとまずいか?


「きっと大丈夫ですよ。英時君といる時のP5は悪いことはしていませんから」


 好き放題言いやがって。俺だって無責任なこと言っているが、さすがに個人に責任を覆いかぶせるようなことは言っていないはずだぞ。

 くすくすと笑いながらこちらに背を向けた月島に、もう一度ため息を吐いて、教室までの廊下を一気に駆け抜けた。

 ……さすがに授業には数分遅れたので、教科担当には小言を言われた。ついてない。


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