07 出来損ないの時計
今日も今日とてよくわからない変な奴らに絡まれている。
P5を自由に走らせるにはもってこいの公園の、屋根付きの休憩所のベンチに陣取って息を吐く。暖かな春の日差しに晒されながら一口、コンビニで買った紙パックのジュースを飲んだ。
なんで俺、こいつらとピクニックもどきをしているんだろう。
いつもの通り月島とP5に絡まれて公園に来たまではいい。そこからどうして渡されるがままに、月島が家庭科の授業で作ったらしいカップケーキを食べているんだろうか。
いや、ダメではないんだが。ちょっと平和過ぎねぇ? 一応、こいつら敵対しているバイデントの仲間と魔法少女なんだろ?
「リホ! これオイシイ!」
にこにこと喜んでいるP5の横でチョコチップの乗ったカップケーキをかじる。まぁ、美味い。
混ぜて型に入れて焼くだけという、おおよそ小学生でもできる工程の調理実習だが、月島が高校に入学してすぐのことを鑑みると、らしい内容なのかもしれない。
「オイシイ! エージ!」
「はいはい。美味い、美味い」
「ウマイ!」
「あらあら。溢していますよ」
ぽろぽろと溢すP5に月島がポケットティッシュを渡す。
ばかりとデカい口を開けて食べるかと思いきや、ちまちまとついばむように食べるP5に妙な感心をする。
美味そうに食うなぁ。食べながら時折、左右からカップケーキを眺めている。よっぽど気に入ったのか。
貰った分を食べきって、手に付いた油分を食べかすを払うために、ポケットに入れっぱなしにしていたハンカチを取り出す。
カチャリと音がして、ハンカチを掴んだ手と一緒に硬い物が飛び出した。
「大丈夫ですか?」
「……ワリ」
月島が拾ったそれを、できるだけ落ち着いて取り返す。
ああ、そうだ。あの時P5に遭遇したせいで、すっかり忘れてしまっていた。あの日、この出来損ないを捨てようと思って校舎裏に向かったんだった。
結果。出来損ないの時計を捨てることもできず、何ならわけのわからない奴らに絡まれる結果となった。
「なにそれ、見せてー」
「ダメだ」
「なんでー?」
月島から受け取ったそれを、P5の視線を遮るように握り込む。
「懐中時計ですか?」
まとわりついてくるP5を避けながら、ため息を吐く。
拾ったのは月島なのだし、まぁ、蓋があるとはいえサイズ的にもわからなくはない、か。
「……そうだよ。捨てようと思っていたやつだ」
「それは、どうして?」
「失敗作だから」
不思議そうな顔をした月島を前に、後頭部を掻く。
多分。話したところで、月島なら悪いようにはしないだろうが……。
「俺の家、時計屋なんだよ」
「時計、屋さん」
「言葉に出して言われたわけじゃないけど、一人息子だし、いずれ後を継ぐことになるからたまに作っているんだよ」
「そうだったんですね」
幼い頃からずっと、黙々と時計を作る父親の背中を見てきた。父のような時計職人になりたいと、思っていた。
俺にとって時計は、完璧でないといけない。憧れであり、理想そのもの。
だからこそ、俺の作った時計は失敗作だ。
カチカチと、秒針は絶えず動いているがその振れは不安定で、微かに異音もするような気がする。
作成の手順はあっている。パーツも、拵えも多分大丈夫。けれど何かが違う、何かが足りない。
「ふーん。……時計って何?」
「は?」
大人しくカップケーキを食べていたP5が、奇妙な物を見る目で口を開いた。
……いや、そうか。バイデントの世界と俺たちの世界では、社会常識も違うものか。時間の概念がないわけではないだろうが、それを計測する器具がない可能性はあるかもしれない。
この間の、あのバイデントが消えて行った謎の黒い空間の向こうが、P5の本来の世界なんだ。
何もかもが違う世界の存在なんだよなぁ。
「時間を測る計測器ですね。P5の世界にはないんですか?」
「知らなーい」
これどっちだ? 本当にP5の世界に無いのか? それともマジでP5が知らないだけか?
勝手に俺の手を捕まえてムリヤリ指を開けようとしているP5に、諦めて手のひらを開く。
カチカチと、異音を含んだ音を立てる時計がそこにあった。
「動いてる!」
人の手のひらを掴みながらP5がぴょんぴょんと跳ねる。おいこらやめろ。テンションが上がったのか、パチパチと火の粉が舞っていて危ないんだよ。
何が面白いのか、月島も俺とP5の様子を見てにこにこと笑っているし。
「すごいねぇ、おもしろいねぇ」
「えぇ、本当に。英時君が作ったんですよね? すごいです」
「ね! エージすごい!」
こんなものの、何がいいんだ。秒針の振れも歪で、すぐに正確な時間を示さなくなるのは目に見えている。
時計というのはもっと完璧な物でなければいけない。時間は誰にでも等しく過ぎて行くものだ。もっと正確でなければいけない。
にもかかわらず、こいつらは出来損ないの時計を見て笑うのか。
あー、嫌だ嫌だ。
こいつら変な奴だけど、妙に天然で純粋なんだよ。
だから、嫌でも言葉に裏がないのがわかってしまう。
この時計は、俺にとっては何度目かの失敗作なのに。
そんなにいい物じゃないのに。
どうしてこの二人の目に映っている時計は、価値のある物に見えてしまうのか。




