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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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42 暖かくも穏やかな日常


 空が青を取り戻してから、暫く経った。

 暦も変わり、世間は春らしい色合いの服を着た人々が窓の外でいつもの営みを繰り広げている。


 怪物だなんだと騒いでいた世間も落ち着きを取り戻し、壊されていた建物も少しずつ復興し始めているようだ。

 町で工事業者の人たちがトラックの誘導や更地になった場所の片付けをしているのを見ると、今まで全く街の被害が視界に入っていなかったのを思い知らされる。


 とはいえ、もうこの街がそういった被害に遭うことはない。

 怪物はいなくなって、七海ちゃんも魔法少女じゃなくなった。

 つまり普通の女の子になったわけだが、相変わらず七海ちゃんは紬に通い詰めているし、俺もそれを受け止めている。


 そう。怪物がいなくなっても、ヨルがいなくなっても。どれほど世界が変わろうと、日常は続いていくのだ。

 まぁ、俺自身の変化と言えば、ほんの少しだけ外に出る機会が増えたくらいなのだが。それでも以前とは比べものにならないくらい気分は晴れやかで。


 この前だって二人で出かけた。出かけたといっても、近所の緑地公園にだけど。

 祖父の残したカメラを持って、桜と梅の違いもわからないくせに緑地公園の花々を背景に七海ちゃんの写真を撮ったりなんかして。


「この前の写真、現像してきたよ」

「見たいです!」


 いつものように紬に来た七海ちゃんにコーヒーを振る舞いつつ、声をかける。

 ぱっと表情を明るくした七海ちゃんに笑いかけて、カウンターの上に現像してきた写真を広げた。


「写真、整理したりはしてないんですね」

「一緒に見た方が楽しいかなって」


 ブレたりピントが合っていない写真をおかしそうに見ながら七海ちゃんが笑う。

 最近のカメラとは違い、祖父のフィルム式のカメラでは現像するまでどんな写真が撮れているかわからず、それはそれで楽しいものだ。

 もっと綺麗に撮れたらとは思うが、こうして二人笑いあえるなら可笑しな写真でも構わないだろう。


 七海ちゃんの気に入った写真を持っていってもらって、残りは俺が持ち帰りの予定だ。

 こういう時、自分の店っていうのは良いな、好きなようにインテリアを飾れる。写真立ての増えたカウンターにちらりと視線を送って、口元が緩んでいるのを自覚する。


「静一さんが映っているのないね」

「俺が撮ってるからね」


 広げた写真は花の写真か、七海ちゃんが映っているものばかり。さすがにスマートフォンやコンパクトカメラならいざ知らず。今の時代に、古いフィルム式のカメラを人に渡して写真を撮ってもらうのは、渡された方の負担が大きい気もする。

 それにしても、結構撮ったな。ブレている写真もかなりあるが、これとかいい感じに撮れているんじゃなかろうか。


 そんなことを考えながらカウンターに広げた写真を物色していたら、パシャリと小気味いい音がした。

 顔を上げるとスマホを構える七海ちゃんがいて。


「撮っちゃった」

「七海ちゃん?」

「だってズルいじゃないですか、静一さんばっかり私の写真持っているの」


 いたずらが成功したみたいに笑い、七海ちゃんが言った。

 ズルい。ズルいのか? 確かに俺は七海ちゃんの写真ばかり撮っていたが、そういうものなんだろうか。よくわからない。


「参ったな、変な顔してない?」

「ちゃんとかっこいいですよ」


 くすくす笑う七海ちゃんに後頭部を掻く。照れ臭いけど、まぁ嫌じゃない。

 何やらスマートフォンを操作している七海ちゃんを見下ろす。店内にはコーヒーの香りと流しっぱなしのラジオの音声が漂っていた。


「次は、どこ行こうか」

「ふふ、この間の日曜日もデートしたばかりなのに気が早いですよ」

「ごめん、楽しくてつい」


 多分これが、俺が本当に欲しかったものだ。

 大切な人がいて、穏やかで、温かい。そんな平穏。俺は以前と変わらず紬にいるけれど、それだけじゃない日々。俺にとってのほんの少しの非日常が、七海ちゃんと共にあって。そんな日々が何よりも嬉しくて。


 変わらないけれど、大きく変わった平穏な日常がここにある。


「それにほらそろそろ春休みだろう? ちょっと遠出できたら、なんて。思ってます」

「もう。一緒に居たいのは、静一さんだけじゃないんですよ? そういうのは一緒に考えないと」

「ごめんね、七海ちゃん。どこか、行ってみたいところとかある?」


 七海ちゃんが楽しげに笑う世界がずっと続けばいい。彼女はもう、普通の女の子なのだから。泣いたり怒ったり、色々な表情をする七海ちゃんを見ていたい。……いや、やっぱり笑っていてくれるのが一番なのだが。

 とにかく。今度は俺が、彼女が素直に笑っていられる世界を守っていけたら、なんて大それたことを願っているのですよ。


 ヨルが逃げるなと退路を断ち、七海ちゃんが真っ直ぐぶつかってきてくれたおかげで、ほんの少し前向きになれた。

 だから、今度は俺が彼女の前に立って、手を引いていけたらなんて。そんな風に考えられるようになったわけですよ。


 穏やかな日常の中で、変わっていくことに、もう恐怖はない。

 失うことに恐怖して自分に籠るよりも、真っ直ぐに気持ちを伝える方が、ずっと大切だと教えてもらったから。


「ねぇ、静一さん。これからは、一緒に色んなところに行こうね」


 七海ちゃんが笑う。

 どうか、この幸せな時間がずっと続きますように。





 ここまで読んでいただきありがとうございます!

 これにて2部完結です。


 2部は、見ないふりが得意で逃げ腰のどうしようもない男が、真っ直ぐで逃がす気のない押せ押せな女の子に出会って世界をちゃんと見ようと決意する話になりました。


 とはいえ静一はあくまで一般人ですので、直面する壁も少ないので成長は控えめですね。

 1部の孝樹とは違い、内向的というか動きの少ないキャラなので前半は中々話が動かず結構苦労しました。

 最終的な対比としては、孝樹は最後までカロンの正体もどうなったのかも知らないままなのに対して、静一はヨルの正体もどうなったのかも知っている。という形になってます。


 さて。これで七海と静一の話は終わりましたが、魔法少女はもう一人いますね。

 3部目、続けさせていただきます。

 次はチュチュやイノセントジュエル周りの設定を書いていければなと思っていますので、もうちょっと見守っていただけると幸いです。


 改めまして、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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