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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
【ブルー編】なべて茶店はこともなし
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39 切望の果てに

七海視点


 戦って、戦って戦って。切って、弾いて、突き進んで。

 そうして荒廃した土地を抜け、聳え立つ城へ。


 切っても切っても、バイデントたちの数は減らない。強くはないけど数が多いのが城への道のりを手間取らせる。

 彼らにはもう後がない。ほとんど叫び声や奇声といったものしか発していないけど、正直彼らの言葉がわからなくて、助かった。

 自分たちの世界を守るために捨て身で襲い掛かってくる彼らの声を聞いてしまったら、もっとためらってしまいそうだったから。


 走って、走って、走って。道順なんてわからないけど、とにかく走って。そうして転がり込むように一際大きな扉の中へと入る。

 バンっと開け放ったそこは、開けた空間になっていた。

 廊下と同じく青白い石の柱が何本か立っていて、特に明かりもなく薄暗い空間が広がっている。


「ここは……」

「広い部屋ですね。何かあるんでしょうか?」

「二人とも、あれ!」


 何かに気が付いたさくらに倣って、開けた空間の一番奥へと視線を向ける。

 薄暗い部屋の向こうに、その人はいた。玉座とでもいうんだろうか、大きさだけはある硬そうな石の椅子に深く腰掛けている。


 一歩、前へ踏み出した。

 静かな空間なのに、先ほどまで聞いていたバイデントたちの雄叫びが、今も耳の奥に残っている。彼の姿がはっきりと見える位置まで歩み寄る。

 石の玉座で陰鬱そうに眠っていた男が、クライドがこちらに視線を向けた。


「ようこそ、プリズムトリニティ。よくもやってくれたな」


 ゆらりと、クライドが立ち上がる。顔色の悪い、経っているのもやっとというような風体。

 彼がどういう手段で、この荒廃した世界を踏み留めさせているのかを私は知らない。けれど、彼の様子を見るに、気力も、体力も。それこそ生命エネルギーなんてものも使っているのかもしれない。


「あなたが、クライド?」

「いかにも」


 彼が、クライド。

 ヨルさんが愛した男。命を投げ出しても構わないと思わせた男。


「私たちは、プルートの消滅を願っているわけじゃない。もし、このまま引いてくれるのなら、プルートの再生をイノセントジュエルに願うことだってできるんです」

「何を言い出すかと思えば。それは持てる者の回答だ。故に我々に言葉は必要ない。どちらかが生きながらえ、どちらかが死ぬ。それだけのこと」


 さくらの問いに、彼が淡々と応える。

 私たちの目的は世界の分離。プルートと、私たちの世界を切り離して、バイデントたちによる被害を収束させること。そして叶うなら、プルートの再生も。


 きっと彼らにとっては、私たちの考えは傲慢でしかないんだろう。

 だから彼らは。


「そんな……」

「さくら。あの人たちは自分たちの世界のために命をかけられる人たちなの。だから私たちは、あの人たちに向き合うために、生きて世界を救わなくちゃならないの」


 そっとさくらの肩を叩き、前に出る。

 クライドの悲願は自分の命を懸けてでも、プルートの状況を好転させること。イノセントジュエルの力を使ってプルートを復興すること。

 本当にそんなこと可能なのかは彼らもわかってはいない。けれど不確定な話にも縋らないと、心がもたなかった。だからヨルさんも、他のバイデントたちもクライドと同じ夢を見た。


 だけど、そのために私たちの世界を犠牲になんてさせない。

 私たちにだって、守りたいものがあるのだから。


「行きましょう? さくらちゃん。私たちは私たちの信じる未来のために」

「……うん!」


 そこからは、考える時間も惜しかった。

 先ほどまでも立っているのもやっとという風体からは考え付かないほど力強くクライドが襲い掛かってくる。武器は、彼自身の体。けれどその一撃一撃が重くて、何度も間合いの外に吹き飛ばされる。


 何とか三人で連携を取って食らいついてはいるけれど、チュチュが言っていたイノセントジュエルの力を扱えるほどの体力が残っていないって何だったのかと言いたくなるほど強い。

 イノセントジュエルと言えば。チュチュはクライドなら使えるかもしれないとも言っていたわね。それだけ純粋に、プルートのことを思っているんでしょう。


「っく。結構、きついわね」

「どうにかして、立て直さないと」

「うん、でも……。私、負けたくない」


 あぁ、そうね。さくらの言う通り、私も、負けたくない。

 小さく息を吸って、吐き出す。


 うん、私は負けられない。

 だってヨルさんの願いを断ち切った。愛のために死んだあの人を否定したのだから、さくらにも言ったとおり、愛する人のために生きなきゃいけない。自分を奮い立たせるように、笑う膝に力を入れて立ち上がる。


 不意に、強い光が私たちに降り注いだ。


「待たせてしまってごめんネ。私も、覚悟が決まったワ。さぁ、イノセントジュエルの力を使って!」


 チュチュがイノセントジュエルを掲げる。

 不思議とどうすればいいのかわかる。ヨルさんを倒した時と同じ、三人の武器を合わせて光のイノセントジュエルの力を開放する。

 これは、浄化の力。イノセントジュエルのもう一つの方の使い方。


「無垢なる祈り」

「浄化の力」

「すべての命に祝福を」

『イノセントシャイン!』


 揃えた武器を、振り下ろす。

 クライドは強い。自分の命を懸けてでもプルートを守りたいと願った。

 そんな人に勝てるのかという迷いはある。でも向き合う覚悟はした。思いの強さだけは負けてはいけない。


 強い光の向こうに、願いが砕ける音を聞いた。



あと3話!

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